【中編】蜘蛛屋敷~ボクとヤベぇ女の脱出夏休み戦争~   作:影薄燕

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8月1日(前編) ちょっとした好奇心

 

 1ヶ月。文字すればたったの3文字。

 たった1ヶ月、されど1ヶ月。小学生にとっては十分長い期間だ。

 

「それじゃ行ってくるぞ」

 

「何かあれば連絡するのよ? 繋がらないようならご近所さんや、ちょっと遠いけど交番に相談するようにね」

 

「分かったって」

 

 今日。8月1日から、8月30日まで父さんと母さんは試験採用ということで住み込みで働きに行く。

 せめてどこで何をするのかだけでも教えてほしかったけど、仕事先との約束で例え家族でも教えるわけにはいかないらしい。

 

 姿が見えなくなるまで両親の姿を見送ったボクは小さく息を吐く。

 

(保険は掛けていたみたいだけど……大丈夫だよね?)

 

 何日も前に父さんは法律事務所関係で、母さんは警察関係で、それぞれ期日までに帰って来れなかった場合の備えは一応してきたらしい。

 

 仕事先のことは怪しいことこのうえないけど、ちゃんと国に認められた企業だったようで、必用な資料として渡されたモノなども問題なかったらしい。

 

 帰ってくるのは8月31日。つまり夏休み最終日だ。

 

 もしもその日、夜になっても帰ってこないようなら交番に駆け込まなければならないなーなどと考えてみたり。

 

「さて……どうするかなー?」

 

 少し前までは共働きの両親のこともあって1人だけで過ごすことに何も思うことはなかったけど、夕方になっても戻ってこないなんてことはなかった。

 それが、これから1ヶ月も続くとなるとさすがに寂しくなる。

 

 だけど、これは重要なことだ。

 ボクの将来が掛かっているのだから。

 

 ボクだって両親と同じで何でもそつなくこなせるタイプではない。

 学校通って勉強しながらバイトとか正直言えばやりたくない。

 

 1ヶ月我慢すれば将来の心配事が大分減ると思えばポジティブになれる。

 

 夏休みの課題も、転校生とか関係なく普通に出されたので毎日少しずつやれば問題なく終わる。自由研究は――適当に何か植物でも育てれば良いだろう。

 

 

 そう。問題はそれ以外のことだ。

 

 

「な~んにもすることないな~」

 

 “何もすること・予定がない”!

 まさに、それにつきる。

 

 そもそもボクは夏休みの空いた時間は友達と遊んでばかりいた。

 

 たまに父さん、母さん、ボクと3人で海や遊園地に連れて行ってもらうこともあったけど、今年は望めない。

 

 そして、転校してきたばかりで友達と言えるような仲の同級生――0人。よく話すようになった子はいるけど、自分から遊びに誘う勇気はない。

 

 

(こんなことなら遊び道具の1つでもねだるんだったなー)

 

 

 おもちゃ?

 借金返済に奔走する両親を見て育ってねだれるか。

 

 ゲーム?

 借金返済に奔走する両親を見て(以下同文。

 

 マンガ?

 借金返済に(以下同文。

 

 

(これから買うか? いやいや、それは待った方が良い)

 

 買おうと思えば買える。

 両親と相談して決めておいた事前に使えるお金は、そういった娯楽品を買えるだけの余裕がある。

 

 だけど、なぁ?

 

(歯止めをかけることができるか……自信がないな)

 

 父さんや母さんがいれば何処かで止めてくれそうだけど、どっちもいないと「ついつい」で必要以上に買っちゃうかも。

 

 思い出せ。テレビで見た青いタヌキ型ロボットと一緒にいるメガネくんを。

 お金を貰ったらすぐにゲームやマンガにつぎ込んでいたじゃないか。

 で、何かあったら「ドラ〇もーん!」だ。ああはなりたくない。

 

 前の小学校でクラスメイトだった剣二くんを思い出せ。

 ゲームに嵌まって散財し、マンガの続きが読みたくて新刊を何度も買い、最終的に真っ白のボクサーみたいにになったあの後ろ姿を!

 両親が無事に帰ってきた時、息子が散財していたとか笑い話にもならない。

 

 

 そうなってくると、できそうなことは――

 

 

「やっぱり、周辺の探検かな?」

 

 簡単に言えば、自分の住んでいる町を見て回ろうってことだ。

 

 引っ越したばかりでできていなかったけど、前からやってみたいと思っていたんだ。もちろん、危なそうな裏路地とかは除外するけど。

 

「そうなると、そうだな……クラスでも噂になっていた屋敷か」

 

 この町には随分と古い大きな屋敷が存在するらしい。

 

 何でもお爺ちゃんお婆ちゃん世代――そのさらにお爺ちゃんお婆ちゃん世代からあるとされる屋敷で、人が住んでいるという話は聞かないのに人影を見たとか、土地の買取ができないかと複数の不動産屋が調べに行っては青白い顔で帰ってきたとか、そんな噂のある屋敷だ。

 

 それでいて、やけに警備が厳しいことでも有名という話。

 

 何年か前に肝試しの舞台として屋敷を探検しようとした連中がいたらしいけど、そもそも入るのが難しかった上に最新鋭の警報装置まであって、よく分からないけどヤバいかもと逃げ帰ってきた話が伝わっている。

 

「……話題作りにもいいし、試しに行ってみるか」

 

 夏休み明けに「あの屋敷に行ってみたんだ~」とか話のタネとしてあれば、そこから本格的な友達作りの切っ掛けになるかも知れない。

 ちょっと怖さもあるけど、今は好奇心の方が上だ。

 

 良し、決定。お昼食べたら早速行ってみよう。

 

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