仮面ライダーディフォース   作:24代目イエヤス

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ここからがハイライトだ!


エターナルの世界
『Aの侵略/ディテクト参上』


 

 朝、ソファで寝呆けていたリキは、何やら美味しそうな匂いに鼻を刺激され、反射的に目が覚めた。

 まともな食事など、ここ最近食べていないからか、もはや本能で動いているまである。焦げ焦げの卵焼きはもう勘弁であった。

 

「セントさん……? またお料理焦がしてませんか?」

「焦がしてない――というか、この前のあれは君が作ったんだろう」

 

 誤魔化しか真実か、どちらか定かではないが、とにかくこの前の焦げた卵焼きは最悪だったのである。

 

 リキは起き上がって、ダイニングテーブルの方へ足を運んだ。すると、そこに広がっていたのは、驚きの光景であった。

 

 テーブルに並べられた、豪華な食事。白米に、味噌汁、そして綺麗な色の卵焼きに焼き鮭。

 とてもセントが作ったとは思えないし、自分が無意識に作ったものとも考えられない。

 

「食べていいぞ」

 

 ふと聞こえた、セントにしては優しい声音。

 

 台所の方から、一人の青年が出てくる。

 

 短く整った茶髪に、美しい碧眼。青いエプロンを付けている事から、この料理は彼が作ったと見ていい――というか、一体全体、この男は何者なのだろうか、という疑問が押し上げてくる。

 

「あっ、あの……あなたは?」

「俺は恵風(けいぶ)マモルだ」

「いや……その、名前を聞いているのではなくて……」

 

 マモルはエプロンを外しながら、彼女を椅子へと座らせる。鼻へ入り込んでくるいい匂いが、リキの空腹を促進させた。

 

「まずは食べてからだ」

 

 渋々箸を持ったリキは、何が何だか分からなぬまま、卵焼きを一切れ摘んだ。

 

「い……いただきます」

 

 恐る恐る口へと運び、数回咀嚼する。

 

「……美味しい……」

 

 その卵焼きは、噛んだ瞬間、甘みが口いっぱいに広がり、ふわふわな食感でたまらぬ食べ心地であった。

 

「そうか。良かった。君も食べるといい」

「俺も? なら遠慮なく」

 

 セントもすっ飛んできて椅子に座り、卵焼きを頬張った。

 

「……そうだ。俺は誰かって話だったな」

 

 美味しく料理を食べる姿を見て、微笑んでいたマモルは、表情をキリッとさせて話を戻してくる。

 

「俺も仮面ライダーだ。世界を巡る、お前と同じような」

「……え?」

 

 リキの手が止まる。

 

「君はディフォースなんだろう? 少し……知ってる事を教えてほしいんだ」

 

 そう言い放つマモルの瞳は、恐ろしく冷ややかであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 紫のオーロラから一人の男が姿を現す。

 

 薄気味悪い地下駐車場は、不気味なまでの静けさで満たされている。

 

 喉に張り付く凍てついた空気が、吐き気を促す程に気持ち悪い。

 

「汚れた街だな……風都とやらは」

 

 真っ黒で小綺麗なスーツで身を包んだ男。その背中には『Ω』の文字が刻まれてある。

 

「俺が正してやる。まずはこれを使わせる奴を探すとするか」

 

 男――HCN(エシーヌ)は、懐から歪な風貌のUSBメモリを取り出す。

 

『アルカディア!』

 

 Aの文字が刻まれたメモリは、静けさに満ちたその空間で、しゃがれた声を響かせる。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「記憶が……ない?」

 

 外に出たリキ達は、巨大な風車がよく見える高台にある休憩所らしき場所にいた。

 何度も風が行ったり来たりして、リキの髪を激しく躍らせる。

 

「うん……ディフォースとか、そのマモルくんが言うオメガダイナミクスとか、何なのかいまいちよく分からなくて」

「……そうか。なら聞くのは無駄だな……」

 

 マモルは唇を噛み締めながらぼそりと呟く。

 

「君はさ、ディフォースと同じ力を持ってるわけ?」

 

 ベンチに寝転がるセントが、偉そうな態度で彼にそう聞いた。

 背中に背負った、翠の綺麗な円盤が嵌め込まれている巨大な盾をコンコン、と叩いてからマモルは言う。

 

「似たような物だが……ディフォースが“力を消去する”役割なのに対し、俺は“世界を保護する”役割だ」

「はぁ……」

 

 聞いた割には興味なさそうに、セントは起き上がってふらふらと車道へと出た。

 

「ああっ、あぶないですよセントさん!」

 

 彼女の声も虚しく、キキィーっと大きな音を立てて一台の車がセントを避け、大きく道を外れて建物へ激突した。

 

 リキは慌ててセントに駆け寄り、車の運転手の事を考えて混乱状態に陥る。

 

 ひとまず車の方へ向かい、扉を開けて中の様子を伺った。

 

「すいません!! 大丈夫――」

 

 ぬっ、と顔を出したのは、運転手ではなく――ゴキブリ。

 

「きゃぁぁぁっ!!」

 

 あまりに突然の出来事に、リキは今までにないような大声で絶叫し、尻もちをついた。

 

 車の中から、血まみれのゴキブリが飛び出してくる。

 人型のゴキブリ。キチキチと口を鳴らし、触角をぴくんぴくん震わせながら、辺りを見渡している。

 

「か、怪人……?」

 

 リキはすぐに立ち、ドライバーを装着しようとしたが、マモルが眼の前に立ち塞がったために手を止めた。

 

「君は休むんだ。ここは俺に任せろ」

「でも……」

 

 マモルは盾を地面に突き刺す。弾け飛ぶコンクリートの欠片が、ゴキブリ――コックローチドーパントに当たって相手を自然と挑発する。

 

 腰のケースから一枚のカードを取り出し、“ディテクトドライバー”の円盤へ翳す。

 

 

 『プロテクトパワー……!』

 

 

 彼女(ディフォース)のより高い声が響き、カードはドライバーの中へと装填された。

 

 上空の空間を裂いて出現した、巨大な球体のビジョンが彼の周りを縦横無尽に飛び回る。コックローチをも吹き飛ばしながら。

 

「変身」

 

 固く握りしめた拳で、ドライバーの円盤を力強く押し込む。

 

 

 『ディサイド!!』

 

 

 『プロテクション! ディテクト!』

 

 

 円盤から放出された翡翠色の稲妻が、バラバラになった球体の破片を彼の元へと呼び寄せ、それで身体を覆わせ、装甲を形成させていく。

 

 青緑の複眼がカッ、と輝き、変身完了の合図を知らせた。

 

 重厚感溢れる、緑がかった銀の装甲。その隙間から見え隠れする碧く光り輝く脈は、身体を巡るエネルギーの印。

 戦車を彷彿とさせるその見た目のライダーは――ディテクト。世界を保護し、保つ者。

 

「うばっしゃぁぁ!!」

 

 羽をブルルと言わせ飛びかかってくるドーパント。

 

 その胸部へ強烈な拳を浴びせ、墜落した所へ追撃として踵を落とす。

 

 上がってくる頭を蹴り飛ばし、攻撃する隙を与えなかった。

 

 コックローチが地面で蹲っている中、ケースから一枚のカードを取り出すディテクト。そのカードに刻まれている文字は『BADGUY』

 

「力試しといこう」

 

 

 『バッドガイパワー……!』

 

 

 パーカーのような金属の塊が幽霊のように辺りを飛び回り、コックローチを激しくふっとばす。

 

 

 『アイムバッド! ダークゴースト!』

 

 

 やがて稲妻によって引き寄せられ、金属のパーカーは装甲として彼の身体に纏わりついた。

 

 仮面ライダーディテクト ダークゴーストパワー。既に彼は、強化形態を取得していたのだ。

 

 向かってくる怪人の胸部を、盾の縁を忙しく回転する刃で斬り裂く。

 紫のエネルギーを纏わせ再度斬りつけ、足蹴を叩き込む。

 

 人差し指と中指を合わせてピン、と立て、念を込めるようにその手を前へ突きだす。

 

 ディテクトの背後から、空間を切り裂いて現れた金属の色とりどりのパーカー達がコックローチを翻弄し、大ダメージを与える。

 

「終わりにしよう」

 

 通常形態に戻り、必殺技の準備を開始する。

 

 

 『パワー……! チャージ……!』

 

 

 カードを翳すと、円盤から溢れんばかりのエネルギーが稲妻を迸らせながら、ディテクトの身体へと流れ込んでくる。

 

 次第にそのエネルギーは脚部へ集中し、輝かしい閃光が空気を切り裂いた。

 

 盾を敵へ投げつけると、翡翠色の稲妻で敵を拘束し、身動きをできない状態へと陥れる。

 

 

 『ファイナルアタック! ディ ディ ディ ディテクト!』

 

 

 雄々しき雄叫びと共に、ディテクトの強烈な回し飛び蹴りがコックローチの首筋へと直撃する。

 

 脚のエネルギーと、敵を拘束する稲妻の粒子が凄まじい反応を起こし、大爆発を引き起こして、コックローチを塵も残さないくらいに粉砕した。

 

 USBメモリが飛び出てきて、リキの手元へ飛んできて、彼女の掌の上ででパリン、と割れる。

 

「……ひっ、ひぃぃ! 許してくれ、仮面ライダー!!」

「……仮面ライダー?」

 

 盾を背中に背負い、変身を解除したマモルは、コックローチドーパントに変身していたであろう男に詰め寄った。

 

「知っている事を教えろ」

「ひぃぃぃ!! お、俺は拾っただけだ!! このメモリは拾っただけなんだよぉぉ!!」

「……そうか」

 

 男を突き放したマモルは、そうだけ言って去ろうとした。

 

 サイレンを鳴り響かせやってくる二台のパトカーに包囲された男は、絶望の顔を浮かばせた。

 

「お前がドーパントだな。現行犯逮捕だ」

「なぁ? 言ったろ照井。犯人は車を使って悪さをしてる……って」

 

 パトカーから降りてきた赤い男と帽子の男がドーパントを捕らえ、マモルとその隣に駆け寄ってきたリキを見つめた。

 

「あのおまわりさん。これ……」

「壊れたメモリ……まさか、あなた達が仮面ライダーですか?」

「はい……?」

 

 リキは首を傾げた。

 

「これは失敬。私は超常犯罪捜査課の照井竜です」

「私立探偵の左翔太郎です、綺麗なお嬢さん」

 

 翔太郎がリキに近づき、身体を触ろうとした時、彼の手首をマモルが掴んだ。

 

「って!!」

「……触るな」

「い、痛い痛い! 分かった、分かった!」

 

 解放された翔太郎は帽子を直しながら、恥ずかしそうにパトカーへと戻っていく。

 

「ガイアメモリがばら撒かれまして……こちらも往生しています。今後とも、ご協力の程を宜しくお願いします」

「あ、あの――」

 

 何かを聞こうとしたリキの口を、マモルが塞いだ。

 

「はい。こちらこそ」

 

 マモルはそう言ってから、竜を見送った。

 

 パトカーが去っていくのを見守りながら、リキはマモルに尋ねる。

 

「どうして止めたの?」

「……この街の仮面ライダーは、きっとアレの事を知った上で人助けをしてるんだろう。陰ながら戦う正義のヒーロー……そのイメージを、崩す訳にはいかないだろう?」

 

 彼の真意はいまいち分からない。ただ、その優しげな表情から、その言葉は嘘偽りないものなのだと確信できた。

 

 

 


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