「ねぇオルテカー。あの女誰なの?」
「さぁ。分かりません」
「何か、妙でしたよね。バイスタンプも使わず変身なんて」
薄暗い地下室に、煌びやかな装飾が施された空間。
赤いカーペットが敷かれた先には、目玉の埋め込まれた繭のような物体が、不気味に佇んでいた。
その部屋に、一人の女性が入ってくる。
全身をきちっとしたスーツで包んでおり、整えられた茶髪のボブ。
不敵な笑みを浮かべながら、フリオとオルテカと向かい合うようにしてソファへ座る。
「おや、何も言わず入ってくるなんて」
「スタンプが欲しいのか?」
「ふふ、スタンプ? 実に興味深いですねぇ。でも、今日はあなた達にいい知らせを持ってきたのよ」
何処か狂気さえ感じられる女性は、大きめのケースを机に力強く叩きつける。
「あなた達、仮面ライダーに手を焼いてるんでしょう?」
「別に、お前の力を借りなくとも――」
「硬いコト言わないの。ほら、これあげる」
ケースは開かれ、中にある特殊な形状のバイスタンプが顕となる。
ローラーが付いた、大きいスタンプ。真紫に塗りたくられ、不穏な目の模様が刻まれている。
「“パープルバイルバイスタンプ”。中にすっごく強い悪魔が秘められてるのよ。過去に何百人も人を喰ってるから、思わず私も封印しちゃったの」
「……貴様、何者だ?」
オルテカとフリオの警戒心は最大レベルにまで高まり、スタンプを出して戦闘態勢に入るも、アギレラの声に制される。
「それ、どう使えばあいつら倒せる?」
「簡単よ。解き放てばいいだけ。しかも五十嵐家には因縁があるから、すぐに殺ってくれるわ」
アギレラはニヤリと笑い、バイスタンプの入ったケースを受け取った。
「あなたはだれ? 名前だけ教えてよ」
去ろうとする女性に、アギレラが笑顔で問いかける。
「……
1Oは投げキッスをして、部屋を出ていった。
その背中には、大きく『Ω』の文字が刻まれてあった。
◇
あれから半日後、二人は家へ戻り、これからの見通しを建てようとだけしていた。
「セントさん」
「んー?」
「他の世界も壊しかねない力、って言ってましたけど、具体的には?」
だいぶセントとも話慣れてきた頃、リキは彼にそんな事を聞いた。
「……正確には“世界を跨げる力”だな。ディフォースもその一種さ」
セントは空のフラスコを振りながらそう答える。
「世界を跨いで、いろいろな世界を無茶苦茶にしかねない力……それが何者かの手に渡る前に、君が制さなければいけない。それが君の使命だからね」
リキはコーヒーを啜りながら、彼の話に耳を傾けていた。コーヒーは飲めない程では無いが、ほんの少し不味かった。
「私の記憶、本当に戻るんでしょうか」
「……不安がる気持ちは分かる。俺も似たような感じだからね」
「セントさんも?」
不味いコーヒーを、彼女のカップに付け足す。セントは虚ろな目で何処かを見つめながら口を開いた。
「俺も自分が何でこんな事に付き合ってるのか、よくわからないんだ。気づけば世界を跨ぐ力を手に入れてて、君に付き添ってる」
「……」
そう言って、コーヒーを啜る。自分で淹れておきながら、顔を顰めた。
「暗い顔しないで、テレビでも見なよ」
セントがリモコンで液晶に映像を灯す。
すると、映し出されたニュース番組であり、取り扱われていたのは、唖然とするような内容であった。
『悪魔崇拝組織デッドマンズによる、フェニックス駐屯基地襲撃が行われた模様です。デッドマンズは、基地をジャックし、何かを企んでいるとの事です。近隣住民は直ちに避難――』
「おー。大変だね」
セントは軽々そう言ったが、リキにとっては凄く胸騒ぎがする内容であった。
◇
日本の上空を浮遊する巨大な飛行船。フェニックスベース。青空に浮かぶその純白の両翼ほど、頼もしいものは、今の日本に無い。
司令室に呼び出された大二は、総司令である赤石に敬礼を取っていた。
「いいんだ大二。そんな硬くしなくて」
赤石は親戚と接するかのような、柔らかい表情で大二の前に立つ。
大二は、ひたすらに真剣な顔つきであった。
「駐屯基地が、デッドマンズにジャックされた。目的は不明だ。何かを要求するつもりだろうが、君が行けば、きっと解決してくれるだろう?」
大二は任務を言い渡されると、すぐに司令室を出た。
さながら、任務遂行のためだけに作られた機械兵器のように。
「……困った子だ」
◇
「大二! 来てくれたか!」
血管が張り巡らされたかのような、黒いベルトを装着した男 門田ヒロミが大二の到着を喜んだ。
駐屯基地前には、沢山の隊員達が待機していたが、中にはそれ以上のギフジュニアが屯しているために、中々侵入できない状態であった。
「行くぞ、大二」
「えぇ」
『スパイダー!』
『ホーリーウィング!』
隊列の先頭に並んだ二人は、それぞれのスタンプを起動する。
『ディール……!』
『コンファームド!』
『ウィングアップ!』
地上に展開される液晶画面のビジョンと、天から舞い落ちる無数の白い羽根が、正義と正義の狂想曲を奏でる。
「変身!!」
「変身……」
『ディサイドアップ!』
『ホーリーアップ!』
ヒロミの身体へ蜘蛛の糸が巻き付き、大二を汚れなき純白の片翼が覆う。
『ディープ ドロップ デンジャー! カメンライダー……デモンズ!!』
『ホーリーライブ!!』
蜘蛛の巣を模した装甲が完成し、全身全霊を懸けて世界を守る仮面ライダーデモンズとホーリーライブが誕生する。
「我が全身全霊を懸けて……悪魔どもを倒す!!」
デモンズとホーリーライブが基地に入ると、後ろの隊列も次々に突撃した。
◇
「ほんとに行くのかい?」
「行かないといけないんです……何だか、胸騒ぎが止まらなくて」
駐屯基地の裏側。リキは胸騒ぎに耐えられなくなり、セントを連れてここまで駆けてきた。
「じゃあそうしよう。俺は疲れたからここで待っておくね」
「えぇ……?」
不満を垂らしながら、ドライバーを装着し、変身する。
「変身……!」
『フォースデザイア! ディフォース!』
ディフォースに変身した彼女は、一度立ち止まって大きく深呼吸する。
「頑張れ……私……」
記憶を取り戻す為、一人の戦士がまた、敵地へと足を踏み入れた。
◇
「んん? アギレラ様、例の奴が」
「あー。“ディフォース”っての? 適当にあしらっちゃえば?」
監視室を根城とするデッドマンズは、監視カメラに映る二人のライダーを見ていたが、突如現れたディフォースに驚きを隠せない様子だった。
「では、私が」
「頼んだわよー」
フリオが部屋を出ていき、アギレラは頬杖をついて、パープルバイルバイスタンプを嬉しそうに眺めた。
「楽しそう……」
◇
通路に蔓延るギフジュニアを薙ぎ倒していく、ホーリーライブとデモンズ。
そこに立ち塞がるは、長いつばを持つ帽子のシルエット。
「フリオ……」
「ハハハ、こりゃあいい。フェニックスの二大ライダーが勢ぞろいだ」
『ウルフ!!』
誕生したウルフデッドマンが遠吠えを上げると、左右の壁を突き破って、ライオンデッドマン、ブラキオデッドマンが姿を現す。
「大二! お前はフリオをやれ、残りは俺がやる!」
「分かりました」
デモンズは二体を引き連れ、穴の先へと消えてゆく。
全速力で向かってくるウルフの攻撃を受け止め、腹にひと蹴り。数発頭部に撃ち込む。
負けじとウルフも、鋭い爪を用いてホーリーライブの装甲を斬りつけるが、闘いは慈悲なき天使が有利となり、奥へ奥へと追い詰められ、エントランスへと逆戻りした。
「大二……さん?」
ギフジュニアと戦っていたディフォースが、彼の存在に気づいた。
ホーリーライブの光弾が、ウルフの装甲を貫通していく。
徐々に体力を消耗していくウルフに、疲労の様子が見えてくる。
けれども、ホーリーライブの攻撃の手は、収まることを知らなかった。
悪魔の姿をしていながら、中身は人間である彼を前にして。
「ぐぅっ……!!」
ホーリーライブの強烈な、慈悲なき足蹴が、ウルフデッドマンの腹部を貫く勢いで炸裂した。
すかさずエネルギー弾を追撃で撃ち込み、反撃する隙すらも与えない。
『ウィンドチャージ!』
『フライングアップ!』
聖なる銃器が眩い光に包み込まれ、それが銃口へと収縮する。
『ウィニング! ジャスティスフィナーレ!』
極太の光線が空気を焼きながら、デッドマンの腹部に突き刺さり、一瞬、閃光が走ると同時に突き破った。
ウルフデッドマンの絶叫が響き、大量の血を溢れさせながら、フリオが床に倒れる。
「っ!! 待って!!」
ホーリーライブは、藻掻き苦しむ彼に向け、再び銃口を突きつける。怖気づき、命乞いするも、慈悲なき引き金は今にも引かれる寸前にまで達していた。
『必殺承認!』
駆け出した白銀の戦士。その複眼に、眩い穢れなき閃光が反射する――。
『ホーリー! ジャスティスフィニッシュ!』
『ファイナルアタック! ディ ディ ディ ディフォース!』
二つの必殺技が交り合い、凄まじい衝撃波が辺りを襲う。純白の壁を粉砕してしまいそうな轟動。熱風混じりの暴風が有りとあらゆるものを吹き飛ばす。
ライブガンから放たれた光線は、ディフォースの拳により、歪められた時空の中へと吸収され消滅した。
フリオは情けない声で叫び散らし、覚束ない足取りで一目散に撤退していく。
「何故止める!? あいつはデッドマンズなんだぞ?!」
ホーリーライブから聞こえる、大二の怒声に、彼女は肩を震わせた。
敵陣のど真ん中にも関わらず、変身を解除。揺るぐ双眸で、天使を見据えた。
正義に満ち溢れているが、それは捉え方一つ変えればあまりに冷酷で、残酷で、“悪”とも捉えられるもの。
かつ、その天使は如何なる人間の正義も認めようとしない。悪は勿論、味方であろうとも――。
「まだ人間……じゃないですか」
「それがどうした?! 放っておけば、どんどん悪魔を生み出すんだぞ!!」
「そういう……問題じゃなくて……」
確かに、悪は滅ぼすべきかもしれない。
けれど、今はそういう事が問題なのではない。
もっと具体的で、彼自身に関わる――胸騒ぎに邪魔されて、うまく伝えられそうにない。
「やはりお前は排除しておくべきだったんだ……」
『ウィングチャージ!!』
怒りと後悔に震え向けられた、煌々と輝く光を充填する銃口。光の粒子が渦を巻きながら、攻撃準備に入っていた。
彼女は動けなかった。
ただ、それは単なる恐怖では無く、焦りや義務に近い何か。
“正義”によって理性さえも失い、軽々と命を奪うという人としての悪行にさえ手を染めようとしている彼を、自分が止めねばと、何故か思っていた。
取り出したカードに、強い一念を込めてバックルへと装填する。
『アタックフォース……!!』
刹那に輝く二色の閃光が、鮮やかにその時空を彩った。
『フライングアップ!』
『ホーリージャスティスフィナーレ!』
『ディメンションバースト!!』
二つの銃口から放たれた光弾が、中央で衝突し、凄まじい衝撃を轟かせながら、相殺し合う。
白銀の粒子砲は、マゼンタの光弾により歪められた時空の中へ呑み込まれ、その効力を無くし、やがて消失した。
「ぐっ――!! あァァッ!!」
胸部装甲が赤熱し、ディフォースの全身を焼き焦がすような痛みが襲った。
堪らず変身を解除し、その場に膝をつくリキ。唾液を垂らしながら、朦朧とする意識の中で荒々しく呼吸をしていた。
「大二……さん……よく……考えてみてください」
「……何をだ」
「あなたの……正義は――」
リキが己の気持ちを赤裸々にしようとした瞬間、エントランスの壁を突き破り、デモンズが派手に床へと転がる。
「ヒロミさん……?!」
驚くホーリーライブ。砂埃舞う方向へ視線を向けた途端、複眼越しにある瞳が大きく開いた。
リキもそこを見る。
砂埃が去る頃、姿を現したのは、まさに悪魔と形容するに相応しい風貌の怪人。
にやりと笑ったような頭部に、恐竜を彷彿とさせる黒紫の肉体。
両腕を広げながら闊歩せし存在は、愉しげに笑った。
「楽しいなぁ。久々の世界は。美味そうな人間でもいないものか……」
「“バイル”……!!」
ホーリーライブが、憎悪をたっぷり乗せた声色で言い放つ。
バイルと呼ばれたその悪魔の手には、パープルバイルバイスタンプが、ぎっちりと握られていた。
「おい緑の。こいつはどう使う?」
「起動すれば分かるさ」
バイルの傍らで、不敵な笑みを浮かべるオルテカ。
掲げられたスタンプは、トリガーを細々とした恐ろしい指に押されて、鈍く光り輝く。
『アンバイブ……!!』
掌の上で、スタンプのローラー部分が火花をちらして転がされれば、禍々しい漆黒の霧が、奴の周りを覆い尽くす。
充満する漆黒は、奴の身体に装甲を形成し始め、バイルの姿を瞬時に変身させた。
『パープルバイル……!!』
刺々しい真っ黒な装甲は、均等なる比を保っており、それを纏った姿はさながら、気高く、巧妙で残虐なる悪魔。
真紫の複眼が鈍い光を放ち、辺りに異様な空気が万栄する。
「バイル……“兄ちゃん”はあいつのせいで……!!」
ライブガンを握りしめる手が、小刻みに痙攣している。
変身したバイル――パープルバイルの笑い声が、彼女らの耳に木霊する。
ドライバーに埋め込まれた円盤が、短く点灯している。まるで、目の前の異形な存在に呼応するかのように。
「まさか……あれが……」
次回の仮面ライダーディフォースは……
「あいつは、兄ちゃんの“バディ”だったのに」
「悪魔はこの世にいらない!!」
「人こそこの世にはいらない!!」
「私は空っぽな人間ですから、一緒に苦しみましょう。一人で強がるのは、格好いいけど、辛い事ばかりです」
次回『響け思い、羽ばたけ未来に』