仮面ライダーディフォース   作:聖成 家康

5 / 10
『次の世界へと』

 

 バイルは撃破された。

 セント曰く、やはりあの悪魔は自分たちが探していた“力”の持ち主であったようだ。

 

 ディフォースの力で、完膚なきまでに撃破した。世界を跨ぐ危険は皆無となっただろう。

 

 ならば、もうリキ達が此処に留まる理由はない。

 

「セントさん、どうですうちの湯は」

「あぁ。熱すぎるくらいだ」

「へへ、それがウリですからね」

 

 のぼせそうなセントと全然平気そうな大二のいる、むさ苦しい男湯。

 ただ悠々と湯に浸かっている二人は、男にしかできない会話をしながら、時を過ごしていた。

 

 壁一枚跨げば、世界は一変する。

 

 お揃いのお団子ヘアにして、仲良く風呂を楽しむリキとさくら。その雰囲気、その景色、どれをとっても最高としか言い難い。

 

「リキさん、お肌綺麗ですね。羨ましい〜」

「そんな……さくらさんの方がまだ若いんだから……」

「ちょっと触ってみていいですか?」

「え、やっ! ちょ、ちょっと!」

 

 リキは胸元から肩に掛けてを、全力で両腕で死守しながらさくらから距離を取る。

 

「えーちょっとくらいいいじゃないですかー。私、触ればどんな秘訣があるのか一瞬でわかりますから」

「う、噓ですよそんなの! だ、だめぇっ! 触っちゃやだぁ!」

 

 水飛沫が散り、タオルに包まれた二人の身体が顕となる。狭い湯船の中で追いかけっこを始めた。大変危ない行為である。

 

 

「何か騒がしいですね。あ、セントさん、覗きは厳禁ですからね」

「君には俺がどう見えてるんだ」

 

 呆れるセントは立ち上がり、ふらふらになりながら脱衣所へと向かった。

 

「もう上がるんですか?」

「あぁ……少し……休んでるよ」

 

 顔を真っ赤にして、いつも以上に虚ろな目のセント。

 

 実に、湯に入ってから一時間は経過していた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎていき、夕暮れ時となった。

 リキとセントは、しあわせ湯の前で、大二に見送られていた。

 

「リキ。ありがとう。君がいなかったら、俺は、過去の因縁に決着はつけられなかったよ」

「私は……て、手助けをしただけですよ。決断をしたのは大二さんです」

 

 目を逸らしながら、小さな声でそう言うリキ。最後の最後に締まらないが、セントは何も言わなかった。

 

 二人は見つめ合い、互いに微笑んだ。

 

「行くぞ。早いとこ次の世界に行かないと」

 

 セントに襟元を摘まれ、引きずられるようにして連れて行かれるリキを、大二が呼び止めた。

 

「また……会えるか?」

「……えぇ。また何処かで会いましょう」

 

 リキは笑みを綻ばせ、セントの縛りを解き放ち、自分で歩みを始めた。

 

 今にも沈みそうな太陽は、輝かしい光を放ち続けている。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 久々に戻ってくると、何だか新鮮な気持ちだった。

 ソファへ寝転がったリキは、大きな溜息をついた。

 

「セントさん、次の世界に行くってどうやるんです?」

「ここでの役目は終えた。自動的に、次行くべき世界へ転送するのが、この家にある絡繰の仕組みらしい」

「絡繰?」

「余計な詮索は後だ。しばらく時間がかかるから、身体を休めておくことだね」

 

 そう言い残して、セントは二階へと上がっていった。

 

 色々な事が一気に起こった為か、こうやって事が収まったとき、今までの疲れがどっと降り掛かってくる。

 

 この世界には、悪魔(デッドマンズ)がいて、仮面ライダーがいて――。

 これから行く世界も、同じような世界なのだろうか。

 否恐らく、雰囲気は同じであれど、そこで生きる人々は全くの別物だろう。

 

 大二は、これからどんな物語を紡いでいくのだろうか。

 

 世界の平和を守りながら、さくらと一緒に、しあわせ湯を続けていくのか。

 どちらにせよ、もう彼は二度と過去の過ちを、自分を許せずに、正義を信じすぎて暴走する事は無いだろう。

 

 それにしても、この世界に来た頃の自分は酷かった、とリキは過去に思いを馳せる。

 見知らぬ人と会話を交わすのも危うかった彼女が、気づかぬうちに、大二やさくらと難なく、それでいて楽しく会話ができていたのだから驚きだ。

 

 こういうのを成長というのか。記憶のない自分にとっては、初めての体験であった。

 成長できたのは、大二のおかげでもある。大二を見て、自分を見つめ直し、彼と一緒に成長した。

 素晴らしい体験ではないだろうか。

 正直、世界を跨ぐ旅など、嫌なことだらけだと思っていた。

 けれど案外、悪い事なんて少ないのかもしれない。

 自分は空っぽだ。だからこそ、伸び代が沢山ある。“成長”していく旅と考えれば、嫌な事とは思えなくなる。

 

 考え込むうちに、次第に眠たくなってしまい、彼女はソファの上で、夢の世界へと行ってしまった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 随分長い間眠り呆けてしまったのか、真っ赤になっていた窓の外は、同じ世界かと疑う程に真っ黒に染まりきっていた。

 

「寝過ぎちゃった……」

 

 思わずそう呟いた彼女は、言葉を出し切ると同時に大きな欠伸をした。

 頭が上手く回っていない彼女は、自分に掛けられてあった、一枚のうさぎ柄の可愛らしい毛布に気づくのが遅れた。

 

(セントさんかな)

 

 彼の意外なセンスと優しさに、心を温められながら、彼女は立ち上がり、大きく背伸びをする。

 

 少し高い視点になった事で、ある異変に気づくことができた。

 

 ちょうど月光に晒されている、大きな額縁。

 

 羽が描かれた絵があった筈なのに、いつの間にか中身は全く別の物に変わっていた。

 

 全てを焼き尽くしてしまいそうな灼熱に囲まれた、一本の漆黒の(つるぎ)。ただそれだけの描かれた、何処か虚しい絵だった。

 

「新しい……世界」

 

 彼女の独り言が、虚しく、静寂に支配された虚空に何度も、何度も響いた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。