仮面ライダーディフォース   作:聖成 家康

6 / 10
ファルシオンの世界
『不死鳥、孤高となりて』


 

 あれから数時間後、朝、起きてきたセントに連れられて、新たなこの世界の情報収集に向かうことになった。

 

 家を出ると、そこに広がっているのは、ホーリーライブの世界と何ら変わらない普通の景色。空に飛行船が飛んでいる事もないし、悪魔がいる雰囲気もない。

 

 けれど、ディフォースがこの世界に来たということは、何かしらの怪人がいて仮面ライダーがいる、のは確定であるとセントが言っていた。

 

 仮面ライダー。あのとき、吹雪の中で自分の事を襲ってきた存在もそうなのだろうかと、リキは考え込む。

 怖かった。自分がそれに変身するのも。だが、五十嵐大二や門田ヒロミを見て、仮面ライダーという存在に少しばかり良いイメージができた。何かの為に戦う、正義のヒーロー……。

 

 では、自分はどうなのか。

 変身者は空っぽな女。同じ世界に留まらず、各々の世界で決められた役割を熟すだけの仮面ライダー。

 何だか、大二やヒロミのように、悪魔から人々を守る為だけに戦うライダーに比べれば、とても味気ないというか、無理矢理感があるというか――。

 

 ネガティブな事ばかり考えていても仕方がない、とリキは心を改めて、気合を入れ街を歩く。

 

 しばらく豊かな街並みを歩いていると、セントが突然足を止めて、何かを覗き込むように背伸びをする。

 

「セントさん……?」

 

 彼が見ていたのは、何かの店に群がる大蛇のような列。皆そわそわしており、自分の番を今か今かと待ち望んでいるようだ。

 

「おぉ、ああいう行列は気になるんだ。よし、行ってみよう」

「行ってみよう……って――ちょ、ちょっと!」

 

 セントは吸い込まれるように、その大行列へと歩いていき、最後尾に並んでしまった。

 人が出ていくペースと長さから考えるに、数時間は余裕で掛かりそうであった。

 

「と、止めても引かないんだろうなぁ……」

 

 リキは、その場で呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 長時間並んで手に入れたのは、たった一冊の小説だった。

 これでこの世界でするべき事の手かがりでも……なんて美味しい話は無かった。

 

 しかし、余程その本が面白いのか、買ってからセントは歩きながらでも次々に読み進めていた。

 身体を屈めて本の表紙を見てみると、大きく描かれていた題名は『ロストメモリー』。見出し帯では『ファンタジー界に革命を起こす一冊』とある。

 

「そ、そんなに面白いんですか?」

「苦労して買った甲斐があった。最っ高に面白いよ」

 

 声のトーンはさほどだったが、言葉選びからして本当にそう思っているのだろう。

 

 あまり寄り道をしている暇は無いが、楽しそうだから、無駄ではなかったのかもしれない。

 

「ファンタジーの世界……こういうのも悪くない……」

 

 セントはこう見えて、頭は良いらしいから、読書の質も相当な物だろう。頭が良いというのは、何であってもメリットになりうる。

 記憶が無いからか、自分はそうであるか否かすらも分からない。――早く記憶が欲しい。

 彼女の中に、僅かながらでも常に存在する気持ちは、たったそれだけであった。

 

 リキの表情は、少し哀しげになる。

 

 自分はやはり、中身のない、空っぽな人間なんだと実感すると、やはり虚しく、哀しくなる。

 

「暗い顔をするんじゃない。こっちは楽しんでるんだ」

「はぁ……そんな自分勝手な事言わないでください」

「勝手なのはそっちだろう。擦り付けるな」

「私は――……早く、記憶を取り戻したいんですよ」

 

 語気を強めて、リキは立ち止まってからそう言い放つ。

 

「やはり君は身勝手なんだ。そういう考えが」

「そういう考えで何がいけないんですか……!?」

 

 今にも町中で喧嘩に発展しそうになっていたその時、遠くで異様な音と共に、人々の悲鳴が聞こえてくる。

 

「おっと、怪人でも現れたかな」

 

 リキはセントを睨んでから、ドライバーを手にとって、悲鳴の方へと走っていった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 鮮血飛び散る、ショッピングモールの広場の歪んだ景色をその身に投影し、空で舞い踊る無数のしゃぼん玉。

 そこだけ、明らかに“異様な雰囲気”が漂っていた。彼女らが思うのもおかしな話ではあるが、まるで別の世界かのようであった。

 

 広場を憩いの場としていた多くの人々は、ある存在に、次々と根絶やしにされていた。

 

 昆虫に似た外骨格を身に纏う、二足歩行の怪人――キリギリスメギド。

 人間の腹を拳で貫き、腸を捻り潰せば、すぐさま歓喜に震えるように飛び跳ねて、次なる獲物へと向かう。

 

 腹を貫かれた者の手元から飛んでくる、血に塗れた一冊の本。

 その本はセントも読んでいた『ロストメモリー』であり、道端に落ちたそれを見た彼は、キリギリスメギドに憤怒に満ちた一瞥を送りつけ、ドライバーを装着する。

 

「行くぞリキ」

「お、怒ってるんですか?」

「当たり前だ。許せないね」

 

 意外な一面を見せる彼に驚きながらも、リキは戦闘態勢に入った。

 

 

 『スーパーベストマッチ!』

 『アーユーレディー?』

 

 『フォースエナジー……!』

 

 棒立ちの肉塊を見て飛びついてきた怪人の外骨格を、漆黒に染まったプレス機が穿つ。更に時空の歪みが放つ衝撃波は奴に降り掛かり、天高くに飛ばされてから、重力に引き戻され、大地に叩きつけられた。

 

 

 「変身!」

 

 

 『アンコントロールスイッチ! ブラックハザード! ヤベーイ!』

 

 『フォースデザイア! ディフォース!』

 

 

 参上した黒と白の戦士は、鮮血で塗りたくられた醜き惨状の大地を踏みしめて、キリギリスメギドへ強烈な足蹴を送る。

 足裏に伝わる衝撃と、奴を襲う凄まじい圧力は後者の方が圧倒的に勝りキリギリスメギドは簡単に宙へ投げ出された。

 

 浮いたままの敵を、ディフォースの足先が蹴り上げて、地面へ大きな影を作り出す。

 銃口を展開したライドブッカーを空へ掲げ、トリガーを力強く押し込む。

 放たれた白銀の光線が爆ぜ、無数に分裂し、各々が白い軌跡を生み出しながら、キリギリスメギドの腹部を一斉に貫いた。さながら、天を舞うシロカラスの群れのよう。

 

 『マックスハザードオン!』

 『オーバーフロー!』

 

 ハザードトリガーから供給された、狂気のエネルギーをその身に纏うビルド。

 力を噛み締めながら一歩、一歩とゆっくり前進し、敵の墜落予想地点に立った。

 

 『レディ? ゴー!』

 

 『ハザードフィニッシュ!!』

 

 重力に引き戻され、今にも墜落寸前のキリギリスメギドへ、さらなる絶望が降りかかる。

 ビルドの禍々しい軌道が、キリギリスメギドの首筋を大きく斬り裂き――跳ねた。

 

 曲線を描きつつ飛翔する、キリギリスの頭部が、塵に還ると共に、身体の方も崩壊していく。

 

 ビルドは肩を回し、一仕事を終えて一息ついた。

 

「はぁー疲れた」

「セントさんもいつも戦ってくれればいいのに……」

「俺は疲れる事はキライなの」

「ほら! そういう所が自分勝手なんですってば!」

「えぇ? 耳が遠いなー」

「ふざけないでください!!」

 

 二人のライダーが争う最中で、空で優雅に舞い踊っていたしゃぼん玉達が、一斉に弾け、蒸発する。

 

 争う手を止め空を見上げた瞬間、猛烈な熱気が全身を覆い尽くした。

 

 ――火の鳥。

 大きな翼を持つ炎が、鳥のように空を舞って、大地へと降り立つ。

 

 燃え盛る灼熱が消え去り、中から一人の男が姿を現した。

 

 乱雑な黒髪と髭、殺気に満ちた橙の眼。

 黒のズボンに、上半身裸のまま黒い上着を羽織っただけの服装。炎に包まれているにも関わらず、一切の損傷を見せない。

 

「お前ら……“剣士”か?」

「……はい?」

 

 殺意、恐怖。そういった単語しか出てこない、歪な笑みを浮かべ、前のめりになりながら、男は彼女にそう尋ねた。

 

「ハハ……いいや、聞くまでもないな」

 

 男は腰に挿した黒き剣を、腰に装着したドライバーらしきバックルへと、勢いよく突き刺した。

 

「ちょ、ちょっと待って……! あ、あなた、仮面ライダーですか?」

 

 リキの話も聞かず、男は瞬く間に戦闘態勢へ移行してしまったようだ。

 

 彼の手に持たれた一冊の本が、開かれた。

 

 

 『エターナルフェニックス!』

 

 

 『かつてから伝わる不死鳥の伝説が いま現実となる』

 

 

 一句一句が読まれる度に、全身を走る悪寒。あの本に込められた力は、並知れた物では無い。少なくとも、さっきの怪人より、何倍も――。

 

 その本――ライドブックを、バックルへと装填し、納められた漆黒の剣“無銘剣虚無”を引き抜いた。

 

 

 『抜刀……!』

 

 

 しーっ、と人差し指を立てれば、辺りから音が消え去り、焔が燃ゆる音だけが静かに鳴り響く。

 

 

「変身」

 

 

 力強く振られた刀身は燃え盛り、不死鳥の幻影を二人に向けて放つ。

 やがて不死鳥は、彼の身体を覆い尽くし、強大な力を与えた。

 

 

 『エターナルフェニックス!』

 

 『虚無! 漆黒の剣が、無に帰す!』

 

 

 焔は装甲へと変わり、黒と橙と基調とした、まさに“不死鳥”と体現するに相応しい戦士――仮面ライダー『ファルシオン』が誕生した。

 

「ま、待って! 話を聞いて!」

「聞く話なんかねェッ!!」

 

 ファルシオンが剣を振るえば、火焔の斬撃波が空気を焼き尽くし、ディフォースの白銀の装甲をも焦がした。

 

 再度振るわれた刃は頬を掠め、次に振り下ろされた時には、胸部を斬り裂いていた。

 遅く、この目で捉えられるにも関わらず、避けられない攻撃。それは技量不足がどうとかではなく、彼には、凄まじい“殺気”があった。

 その殺気で脚が竦み、回避が僅かに遅れてしまうのだ。

 

(頑張れ私……!)

 

 ライドブッカーの刃で応戦し、何とか押され気味であった劣勢を覆した。

 灼熱の装甲へ三つの切り傷を刻み込んでから素早く後退し、彼には無い銃を使い、光の弾丸で撃ち抜いていく。

 

 

 『必殺黙読……!』

 

 『抜刀……!』

 

 

 一気に劣勢に追い込まれたと思われたファルシオンだったが、剣を納め、力強く引き抜くと、背中へ焔が集中し、焔の翼を形成した。

 飛翔し、天空から急降下して、幾多もの斬撃を喰らわせた。

 

 狙いを定め射撃しようとも、身に纏った火炎により、光弾は無効化されてしまう。

 

 空を焼き払う不死鳥に、手も足も出ないディフォースであったが。

 

「これなら……!」

 

 

 『デュアリティエナジー……!』

 

 『ノーメルシィ! ホーリーライブ!』

 

 

 ホーリーライブフォースをその身に纏い、対となる白黒の翼で空高く舞い上がる。

 

 不死鳥と同等の高度までに到達し、そこで激しい衝突が巻き起こる。

 

 刃で、斬っては斬られ、斬られは斬っての斬撃合戦。

 何人足りとも、その間に入る事を許されない激しい戦いを、両者は譲らず、数多もの炎や光の軌跡が空で閃いた。

 

「おかしな聖剣だな……! へし折ってやる! 剣士は全て、滅ぼす!!」

「訳が分からない……! 話を聞いてくださいってば!」

「聞く話なんかないって、言ってるだろうがよォッ!!」

 

 無銘剣虚無の刃が、赫く煮え滾り、空間をも歪ませる膨大なる熱を蓄える。

 

 カードを装填したディフォースの周りを、歪んだ時空より放出されたエネルギーが、細々とした刃に聖なる力を与える。

 

 

 『不死鳥無双斬り……!』

 

 

 『ファイナルアタック! ホ ホ ホ ホーリーライブ!』

 

 

 ぶつかり合う、刃と刃、灼熱と力。

 

 焔が紅々と爆ぜ、力が時空を歪ませ、碧く澄み渡った空を、二つの色彩が無茶苦茶に破壊した。

 

 大爆発の末、二人は地上へと落下し、相打ちという形で終わった。

 

「私は……!! 聖剣とか、剣士だとか! そんなのとは全く関係ありません! べ、別の世界から来た仮面ライダーです!」

 

 変身を解除し、我が身滅びる覚悟で、ファルシオンへ必死に訴えたリキ。

 不気味がっているのか、喉を唸らせ、首を傾げるファルシオン。しかし、僅かに沈黙を貫いた後、ライドブックを引き抜いた。

 

 装甲は本へ変わり、虚空へと消えていった。変身者の男は、呆れた様子で去ろうとした。

 

「ま、待って! まだ話したいことが……!」

「うるせぇ。剣士じゃなけりゃ、ここまでだ。とっとと失せろ」

 

 男は頭を掻き毟り、喉を唸らせて背中を向けた。

 

「わ、私、圭峯リキって言います! 同じ仮面ライダー同士、仲良く平和に――」

 

 その言葉を聞いた瞬間、男の冷めた面は狂気に満ちた物に早変わりし、彼女へ恐ろしい勢いで詰め寄ってきた。

 

「そうか! 俺はバハト! お前みたいな、“平和”を謳う奴が、虫酸が走るくらい大嫌いな男だ」

 

 男、バハトは目一杯に顔を近づけて、至近距離にも関わらず大声でそう言い放つ。

 その気迫と声に、威勢が少し良かったリキは、あっという間に沈没してしまった。

 

「失せろ。このアマ」

 

 人差し指の関節で、額辺りを軽く小突かれただけなのに、脳を激痛が襲った。

 

「くぅっ〜〜〜」

 

 リキは涙を溢しながら蹲って、バハトにひれ伏した。

 悠々と去っていくバハトを、セントは嘲笑うように見つめていた。

 

「あーあ。俺あぁいうやつ嫌いなんだよ。頑張ってね、今度はアレと仲良くしないといけないよ」

「わ、私には無理ですってぇ……」

 

 彼女の悲痛な叫びが、虚しく響き渡った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 薄暗い部屋。窓から差し込む僅かな日光しか受け付けない、本棚で覆い尽くされただけの不気味な部屋。

 その一角に置かれた、机にある水晶玉を優しく撫でて、不敵な笑みを浮かべる男。その玉に写るのは、摩訶不思議な能力を扱う戦士であった。

 

「ほほう……面白いですね」

 

 黒の装束を身に纏い、まるで過去からタイムスリップしたかのような雰囲気の男は、独りでそう呟いた。

 

 

「面白いでしょ。そいつはディフォースっていうんだ」

 

 

 見知らぬ声が聞こえ、すかさず踵を返す男。

 

 その背後には、居るはずのないパンツスーツ姿の女性が笑みを浮かべ、こちらに手を降りながら、さも当然かのように佇んでいたのだ。

 

「何者です?」

「私は1O(ワンオー)。貴方はウォウス、でしょう? メギドを使って、ファルシオンをおびき寄せようとしている、狡猾だけど素敵なお方」

 

 ウォウスと呼ばれた男は、1Oへの警戒心を最大限にまで高めた。何を仕出かすか分からないこの女を、生かしてはおけないのだ。

 

「おっと、戦うつもりはないの。貴方に、いい提案をしに来ただけ」

 

 1Oは人差し指を立てて、満面の笑みでこう言い放つ。

 

「貴方の持っている“破滅の書”。それを使って、この世界を貴方が望みように作り変えない?」

 

 ウォウスは一歩退きながらも、反論を返した。

 

「何を言うか。破滅の書は世界を滅ぼすしか能がない本です。所詮、奴をおびき出す餌に過ぎません」

 

 近づいてくる彼女の、黒い手袋に包まれた、細い指が、彼の首筋をすっ、と撫でた。

 

「私なら……貴方の望み、叶えられるんだけどな」

 

 舌をちらつかせ、上目遣いになりながらそういう彼女。

 

 何者か知らぬが、この余裕。そして、何をされても構わないという覚悟と座った肝。

 

 ――気に入った。

 

「いいでしょう。話は聞きます……ですが、何者かだけ教えてもらいましょう」

 

 1Oは無邪気な、子供らしい笑みを浮かべ喜びを見せ、くるくると回りながら後ろへ下がり、胸に手を当ててこう言った。

 

「我々は〈オメガダイナミクス〉。数多の世界を意のままに作り変える……をモットーに活動する、素晴らしき組織です」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。