戦闘を終えると、辺りは異様な静けさに支配された。
よく周りを見渡してみれば、誰一人として人がいなかった。まだ昼下り。誰もが仕事に戻ったり、午後の活動に切り替えるために忙しくなる時期であるが。
「リキ。だ、大丈夫か?」
「へ……? え、えぇ……大丈夫です」
焦って降りてきたセントが、何と心配してきた。戦って追い込まれた時すら、そんな一言を掛けられた事も無かったのに。彼が神妙な顔でそんな事を言うなんて、少し見直したりもするが、何だか不吉な予感も感じる。
バハトは空を見上げて、鼻で笑った。
「汚い空になってきたな……」
蒼く染まっている筈の大空は、灰色の暗雲により覆われ始めており、陽の光は遮断され、ぐつぐつと蠢く暗雲の中では、この大地をあっという間に湿らせる粒が形成されているのだろう。
立つ鳥跡を濁さずという言葉があるが、あの女には似合わない。偶然かもしれないが。
「バハト……さん。貴方に、少し聞きたい事があって……」
「あぁ?」
若干怖気づくも、正気を保って彼に勇気を振り絞り尋ねた。
「貴方は……どうして戦うんですか?」
「んなもん聞いてどうする」
「いいですから。教えてください」
口角を引き攣らせ、無愛想な表情で口を開く。
「“世界を滅ぼす”ためさ」
その言葉を聞いて、リキは目を見開く。
まるで、怪人だ。ヒーローとは程遠い目的であった。
「なん……で?」
「この世から争いが消えないからさ。争いが消えず、“平和”なんざ訪れはしない。分かるか? お前」
憤りに満ち、それでいて哀しみも伝わってくる怒号が響き渡った。
ぽつり、ぽつりと、雨粒が道路に水玉模様を描いていく。
立ち尽くすリキ、胸元を掻き毟って、鼻息を荒くするバハト。狂気に満ちた顔、と思うところだったが、今の彼にその表現は相応しくないといえる。
「誰もが幸せになる方法を、見つけたと思った矢先――争いが起こった……! 家族は死んでいった……!」
「争いが無くならない世界を消そうとした……! なのに……誰一人として俺の味方をしない……!」
「いっちょ前に正義を語るソードオブロゴスとかいう組織も、剣士も根絶やしにした……! そして……俺は千年、死ねない身体で生きてきた!! それでも世界は変わろうとしない!!」
一斉に降り注いでくる、清らかな雨粒たち。次々と地面で弾けては、また降ってきて、冷たい飛沫を散らし続けた。
二人は濡れる事も気にせず、向かい合って佇んでいた。
彼女のロングヘアから、雫が滴ってゆく。
「……世界を滅ぼした後。何が残るんですか?」
「あァ……?」
雨に溶け込む声で、彼女は囁いた。女性とは、髪型一つ変わるだけでかなり雰囲気が変わる。
「あなたにも……家族がいたんですよね。そうしたらきっと……楽しい思い出の一つや二つ、あるんではないですか?」
「もう、とうの前に忘れたさ!! 封印されていたあのときから!! 俺は――」
「私には……そんな記憶、何もないです」
バハトの言葉は、リキの物により掻き消される。強まってくる雨音が、酷く、虚しく、鳴り響く。
「家族がいたかすらも分からない。自分がどうやってここまで育ったのかも……そんな状況で争いに見を投じているんです。私」
「あなたは……絶対忘れてなんかいないですよ。じゃないと、そんな憎しみ、生まれてこない」
両手同士を強く握りしめる。また、何をされるか分からない恐怖が、僅かながらにあった。
「……」
近づいてきたバハトが、渇望の眼差しで見つめて、手を伸ばしてくる。
「――」
そして、誰かの名前を呼んだ。
無銘剣を腰に挿して、彼女の横を通り過ぎていった。
大雨の中消えてゆく彼の背中は、何処となく小さく見えた。
◇
へくしょん、と彼女の小さなくしゃみが部屋中に木霊する。
大量の雨粒は、人の体温を瞬く間に奪う事など造作でもないのだ。
髪をうさぎのタオルで拭きながら、リキは鼻水を啜った。セントのコーヒーも、温かいというだけで飲めてしまう。
そこら中濡らすからと、セントに着替えるよう促されたため脱衣所に向かった。
廊下には次々染みができ、セントはため息を漏らしていた。
脱衣所に着くや否や、びしょ濡れの服を脱ぎ捨てて下着姿となる。下まで湿っており、先程の行いを酷く悔やんだ。
下着も着替え、服も少し遅いが心機一転してコーディネートを変えた。白い襟詰めシャツに、黒のパンツ。彼女のすらっとした風貌が際立つ服装だった。
ふ、と。鏡に目が行った。
そこには、髪を結んでいない自分がいる。
バハトは、自分を見て、名前を呼んだ。よく聞き取れなかったが、確かに誰かの名を呼んだ。
(……やっぱり、あの人は忘れてなんかいないんだ)
彼女の微笑みと同時に、残った雨粒が静かに頬を流れ落ちていく。
髪を結び直し、リキは再び旅に戻った。
◇
外に出てみれば、大雨の最中、街は地獄のような風景に変化していた。
「これ……は……」
至る所から悲鳴が上がり、爆炎や黒煙が色鮮やかな風景を覆い尽くしていた。
街を駆ける彼女は、絶句する。
道行く人々が、大量のメギドに襲われて、次々と命を落としていた。
生き残った者達は逃げ惑う。子連れも、老人も、若者も、誰もが逃げ惑った。
母親とはぐれた子供が、道端で転んだ。
それを見た母は、大声で、声が枯れ果てるまで助けを求めた。
されど、誰も子を助けようとはしない。
それどころか、道の真ん中に蹲る母親を蹴ったり押したり、我先に逃げようとする者ばかり。
争い、争い、争い――。メギド、人間問わず、街は“争い”で満ちていた。
「どうしてこんな事に……」
答えを知る暇もなく、彼女の目の前にサンショウウオに似たメギドが現れ、その場に押し倒される。
「ぐっ――あっ……!」
骨をも砕けそうな力で地面に押し付けられるも、力を振り絞ってドライバーを装着し、カードを装填する。
時空の歪みがメギドを後方へと吹き飛ばし、硝子の障壁を突き破って、建物内へとぶち込んだ。
「変……身」
『フォースデザイア! ディフォース!』
まだ相手は向かってくる気だった。
建物から出ようとするメギドの顔面に拳を叩き込み、内部へと押し戻す。
本棚から大量の本が崩れ落ちてゆき、メギドを襲う。
本に気を取られたのが仇となり、ディフォースのエネルギー纏う、強烈な打撃がサンショウウオに似た不気味な顔面を砕いた。
本の山に突っ込むメギド。起き上がらない隙を突き、必殺の体勢を整える。
『フィニッシュ……! レディ?』
ライドブッカーの刃へ、眩きマゼンタの輝きが宿り、巨大な剣のビジョンを作り出す。
『ファイナルアタック! ディ ディ ディ ディフォース!』
解き放たれたエネルギーは、斬撃の軌道を描いて突き進む。
メギドに激突する寸前で粒子化し、奴をドーム状に包み込んだ。
そして、音も、風圧も、塵すらも残さず、一瞬にして消滅させた。
「うっ……?!」
身体に衝撃が走り、変身解除と同時に膝をつく。
時折走るこれは、果たして何なのかは分からない。力の酷使は厳禁だという忠告なのだろうか。
「君……平気?」
優しそうな男の声がし、身体を起こすと、側に立っていたのは、黒いハットを被った長身の男性だった。
「え……えぇ」
彼の胸元をよく見ると、名前の書かれたプレートが下げられてある。
「……神山飛羽真……あの小説の……」
「あぁ。君も読者の人か……へへ、何だか嬉しいね」
飛羽真は照れ臭そうに笑って、鼻下を指で擦った。
「街は酷い状況だね……」
「あなたは、ここで何を……?」
リキは恐る恐る尋ねた。あのライダーの件があるからか、警戒心は強まっていた。
「サイン会だよ。『ロストメモリー』を読んだ人たちが、次々やってくるんだ」
「俺の物語を読んで、皆、楽しそうな顔をしていた。それが嬉しくてたまらないんだ。あぁ、俺はこのために物語を書いてるんだ、って感じられる」
彼の顔は、誇らしげだった。
「……好きですか。あなたは、この世界が」
「あぁ。たまに締め切りとかは嫌にはなるけど、この世界には探せば素晴らしい物で溢れてる。その多くを、人が持っているんだ」
「人が……?」
「そう。人の“想い”は、未来さえも変えてしまうんだよ」
小説家とは、やはり変人なのだろう。そこらの一般人が語る話とは規模が違う。
だけれど、理屈は間違っていないような気がした。
そう思えるのは、飛羽真がそこにいるからか。
硝子を突き破り、本屋に侵入してくるは、一風変わった、黒鎧を纏ったような怪人。
二対の剣を構えて、こちらに迫ってくる。
「神山さん、逃げてください。ここは私が」
「え……でもどうやって――」
『フォースエナジー……!』
「変身……!」
『フォースデザイア! ディフォース!』
眼の前に現れた白き戦士に、飛羽真は驚愕し、瞳孔を丸くした。
もっと下がるよう促し、ディフォースは迫りくる黒鎧に立ち向かった。
◇
黒鎧のメギドらしき怪人は、気づかぬうちに四体に増えて、ディフォースを取り囲んでいた。
炎や煙が立ち込める道路の真ん中で、四つの方角から繰り出される総攻撃に悶えていた。
(強い……! 他の怪人とは訳が違う……!)
明らかに、先程までの敵とは比べ物にならないくらいの戦闘能力を有している。一体だけでもそう感じるのに、それが四体もいる。いくら多様な力を使えるディフォースといえど、この戦況を優勢へと覆すのは不可能であった。
振り下ろされる鎌が肩を斬り裂き、頭上から迫る巨剣と戦斧が胸部を穿つ。――更に追撃、目にも留まらぬレイピアによる突撃が、白銀の装甲を幾多も貫いた。
『アタックフォース……! スラッシュムーブ!』
苦し紛れに放った斬撃破。
しかしそれは、黒鎧の双剣へと吸収されてゆき、真っ赤なエネルギーへと変換されて跳ね返される。
――直撃は免れず、一瞬にして変身を解除された。
道路に横たわれるリキ。口からは血が溢れ、肩や腹からの出血が多々見られた。もう、これ以上の戦闘は困難とも思える傷だ。
「素晴らしいですね……ファルシオンが滅ぼした四賢人の力……まさかディフォースの力までも把握しているとは……」
彼女の嘲笑うようにやってくる、黒服の男――ウォウス。リキはその名を知ることはないが、彼は構わず口を開く。
「あなたがディフォースですね……どうです? この素晴らしい世界は」
「……あなたが……こんな事を……」
「えぇ。“争い”に満ちた、至高の世界……私が長らく待ち望んだものです……」
ウォウスは血だらけの彼女を見やり、狂気の笑みを浮かべる。
黒いローブをばさっ、と翻せば、彼の腰辺りに巻かれたバックルが顕となる。
「あなたが倒れた今こそ、計画の最終段階に移行するに、相応しい」
『ネクロノミコン!!』
『When the forbidden book was born This world is full of supreme conflicts!!』
巨大な黒きライドブックが開かれる。
雨も、風も、木霊していた悲鳴ですらも消え失せて、異様な空気のみがその空間を支配した。
本が装填されると、奴の背後へ黒い靄が集中し、巨大な渦を作り出す。
そこから、禍々しい何かの腕が伸びてきて、指を不気味に曲げた。
「変身……」
バックルのボタンが押され、仮面の狂剣士の描かれたページが開かれる。
『Open the Necronomicon! Fight! Fight! Fight! Kamenrider! Wowus!』
渦から現れし異形の怪物達が、ウォウスの身体を覆い尽くし、やがて漆黒の装甲へと作り変えられていく。
戦いに狂い、自我を失った気高き騎士かのような仮面の怪人――仮面ライダーウォウスが、そこに誕生してしまった。
「……!」
何処からともなく降り立った不死鳥が、変身して間もないウォウスに対して斬撃を繰り出す。
炎から姿を現したファルシオン。
荒々しく剣使いで、黒鎧達であろうと難なく圧倒し、ウォウスへ手痛い一撃を叩き込んだ。
「む……いけませんね。これは一時撤退といきましょう」
黒い霧と共に姿を消すウォウスと黒鎧達。
変身を解除したファルシオンは、すぐに立ち去ろうとした。
――だが。
「ま、待って……!!」
全身が痛むも、何とか立ち上がったリキはバハトを呼び止めた。
目眩がして、足も震えてフラフラだったが、どうしても、彼の真意を聞きたかった。
「……あなたは……本当に世界を滅ぼしたいんですか?」
こちらを睨むバハト。殺されてもいい。彼の――仮面ライダーファルシオンの、心の内を見ないといけなかった。
「そんなこと、本当は思ってないんじゃないんですか……?」
「黙れ!! 俺の千年を……おまえ如きに理解されてたまるか!!」
リキはふらつく足取りで彼へと近づき、震える手をそっと握った。
「……あなたはきっと、怖いんですよ。人を信じる事が」
淡く光る彼女のマゼンタの瞳。不思議な力さえ感じられる、綺麗な宝石のよう。
「大切な人を奪われて、誰も信用できなくなって……何千年経っても変わらない世界に失望して……だから世界を滅ぼしたい、って」
瓦礫に埋もれた女性が叫ぶと、大勢の人が助けにやってきた。
一斉に瓦礫を持ち上げ、彼女を救出すると、女性は泣きながら人々へ感謝を述べている。
「でも、よく世界を見てみてください。あなたが思うような、醜い人間ばかりではないですよ」
バハトの手は冷たかった。それだからか、必死に想いを語る自分の手が、とても熱く感じられる。
「人の想いは強い。誰かを笑顔にもできるし、誰かを傷つける事もできる」
「それがある限りは……争いは無くならない」
彼の口角がぴくり、と動いた気がした。けれど、反撃してくる様子は見られなかった。
「でも、人の想いが、平和な未来を作る事だって有り得るかもしれない……まだ、世界を滅ぼすには早いですよ」
「信じて……みませんか。人の想いを。これからの未来を。
それを守る為に“闘う”のも、悪くないと思いませんか。それでも、あなたの望んだ世界では無かったら、滅ぼしてしまえばいいんです」
冷めた顔で彼女を見つめるバハトは、一体何を想っているのだろう。
一切口を開かない彼の返答を、リキはずっとずっと、待ち続けた。
◇
廃ビルの屋上で、ウォウスは高笑いを上げていた。
召喚した、別世界の四賢人達を従え、街中に解き放って暴れさせている。警察や自衛隊と争い、人々を蹂躙する姿を見て、笑いが堪えられないのだ。
「素晴らしい……! 素晴らしいです……! これこそ私の望んだ争いの世界……! あの女には最高の礼を送らねばなりませんね……!」
愉しんでいたウォウスは、背後に感じた気配に邪魔されて、機嫌を損ねた。
「またあなたですか……ディフォース。そんな身体では、ろくに戦えはしないのに」
満身創痍のリキ。彼女の歩いてきた場所には、おびただしい数の血痕が残されていた。
しかし、灼熱の不死鳥がそこへ降り立つ。
戦う体勢を整えたバハトとリキ。
ドライバーを装着し、各々の変身アイテムを構えた。
「無駄ですよ。あなた達といえど、この力には敵うことはない」
リキの瞳に淡い光が宿る、彼女の口から放たれる言葉は、ウォウスと召喚された四賢人達へ向けられたもの。
「貴方は私達には敵わない。例え空っぽでも、虚無なる存在であっても、人である限り、人の想いが眠ってる。その想いは、簡単に覆せるものではない。
人であることを捨て、争いだけを望んだ貴方に、打ち破る事はできない」
「な……何なのだ! お前は一体!」
そう聞かれ、リキはカードを前方に構えた。
「私はディフォース。全ての力を、我が物とする者」
『フォースエナジー……!』
『エターナルフェニックス!』
炎が燃え上がり、時空の歪みは熱気に煽られその勢力を増す。
『抜刀……!』
静まり返った空間に響く、決意の叫び。
「変身」
「変身……!」
『フォースデザイア! ディフォース!』
『エターナルフェニックス!』
眩い閃光が放たれ、焔の衝撃波がウォウスを襲った。
焔が晴れる頃、そこに立っていたのは、二人の戦士であった。
飛び出てきたカードを取ったディフォース。
『HIDDEN』と刻まれたカードに、色が戻ってゆく。
何も言わず、二人の怒号と共に、戦いの火蓋が切って落とされた。
四賢人達を斬り倒して、真っ先にウォウスの胸部へ斬撃を叩き込む二人。
しかし、放たれた衝撃波により吹き飛ばされ、四賢人達との戦いを強制される。
(身体が……まずい……)
取り出した新たなるカードを装填し、身体の痛みに悶えながらも、新たな力をその身に纏う。
充満する時空の歪みは、めらめらと炎のように揺れ始め、漆黒の装甲を形成していった。
『ヒドゥンエナジー……!』
『ピースホープ! ファルシオン!』
レバーを押し込めば、その装甲は白銀のボディへ溶け込むようにして装着され、灼熱の焔で彼女の身体を覆い尽くした。
焔が装甲へと吸い込まれ、朱く輝いた。
朱色を基調とした、西洋の鎧を彷彿とさせる装甲――『ファルシオンフォース』。
身体の痛みが無くなった。この姿になったのが原因かは定かではないが、装甲と同時期に形成された剣『エンプティフォーサー』とライドブッカーの二刀流で、荒々しい剣捌きを繰り出した。
ファルシオンの剣先が双剣使いの賢人によって回避されようと、すかさず、彼女の剣が奴の首筋を斬り裂き、足裏の衝撃が賢人を襲い、カウンターする隙すらも与えない。
『必殺黙読破……!』
『不死鳥無双斬り……!』
焔を纏った三つの円の軌跡が四賢人達を蹴散らし、暗黒の渦へと葬り去った。まだ完全に倒した訳ではないだろうが、ウォウスとやり合うならば今が最大のチャンスだった。
「何と小賢しい!」
『Necronomicon Reading!』
『War incarnation!』
ウォウスが本の力を拳に纏い、彼女らへ向けて指を鳴らせば、渦の中から無数の悍ましい存在が飛び出してきて、二人の戦士を襲う。
しかし、振るわれた無銘剣の火炎が、その存在を焼き払った。
塵となったそれを切り払いながら、ウォウスへと突進してゆく。
「ぐっ…!?」
『Necronomicon Reading!』
『Chatting with monsters!』
真っ黒な渦が展開され、その中から現れた数々のメギドたちが、二人に迫りくる。
ディフォースの握る無銘の剣に、鮮やかな焔が纏われる。剣を一振りするだけで、それに秘められた膨大なエネルギーと焔が反応を起こし、凄まじい爆発が巻き起こる。
メギドは塵と化し、三人は廃ビルの外へと投げ出された。
黒煙を間近に受けながら、ディフォースとファルシオン。二人の戦士は、顔を見合わせた。
「おのれ……おのれぇぇ!!」
瓦礫や硝子が降り注ぐ最中、ウォウスは最後の力を振り絞って、ネクロノミコンの真なる能力を発揮させる。
『Necronomicon Reading!』
『Contract with forbidden!』
黒い渦から現れた翼竜が、ウォウスの身体へと浸透していき、奴を化け物を体現するような姿へと変貌させる。
漆黒の翼を羽ばたかせ滑空するウォウス。掌の間で作り出した闇の気弾が解き放たれると、辺りのビルが一斉に崩れていき、凄まじい力である事が伺えた。
しかし、二人の戦士は怯まず、放たれた気弾を刃で受け止めて、その闇を掻き消した。
「なっ、何?!」
『必殺黙読破……!』
『フィニッシュ……! レディ?』
彼女らの突き出された脚に、灼熱の焔が、渦を成しながら集まって、各々の足裏を限界まで強化する。
逃げようとするウォウスの両翼を、二本の虚無なる剣が貫いて、崩壊させた。
瓦礫や砂埃を吹き飛ばす程のエネルギーが充満し、その時空が、歪んだ。
『不死鳥無双撃……!!』
『ファイナルアタック! ファ ファ ファ ファルシオン!!』
響き渡る二つの怒号。
焔を纏いし足裏と、溺れるように藻掻くウォウスの胸部が激突し、空気をも、時空をも焼き焦がす豪炎が衝撃波となって解き放たれる。
大地が揺るぐような凄まじい金属音が絶え間なく響きながら、二人の足蹴は、着々と奴の装甲を貫こうとしていた。
「ば、馬鹿な……! 私の……理想の世界が……そこにあるのに……!!」
「貴方の想いは、未来を作らない」
そうディフォースが言い放つ。
刹那――二つの人影が、一つの影を完全に貫いた。
爆発する寸前で、形成された時空の歪みがウォウスを包み込んで、跡形もなく消し去った。
戦士が着地すると、一斉に瓦礫の雨が降り注いだ。
同時に、晴れてゆく空から、煌々とした輝きが降り注ぐ瓦礫の隙間を潜り抜けて、地面を照らす。
この輝きを、誰もが待ち望んでいた事だろう。