「うぅ……痛いぃ……」
「そんな怪我してるのに無理するからでしょうが」
頭や腕を包帯でぐるぐる巻きにされ、お腹にもかなりの面積のガーゼを貼られているリキ。
ファルシオンフォースは、あくまで怪我の痛みを緩和するだけで、怪我が治る力は全くもってないらしい。力を過信しすぎるのは良くないと、早めに気がつけて良かった。
セントの手が傷口に触れると、ソファに散らばる彼女の解けた髪が、より一層散らばった。
「というかさ、あの人とどうやって和解したの?」
「え……? バハトさんとですか?」
リキはしばらく考え込むと、苦い笑いを浮かべる。
戦いが終わった後、バハトは何も言わず立ち去ろうとした。
けれど、戦いの反動で髪が解けて、倒れそうになったリキを、不思議な事に抱きかかえて受け止めた。
髪の解けた彼女を、何とも言えない表情で散々見つめた後、無言のまま立ち去っていた。
立ち去るとき、少し笑っていた気がしたが、意識が朦朧としていた為に、勘違いかもしれない。
「あのー……私、大二さんの時もそうだったんですけど、どうやったのか覚えてなくて……」
「でも、あの人はただ人が信用できなくなっていただけだったと思います! 根は悪い人ではないんです!」
「ふーん。あっそう」
興味なさげなセントは、彼女の手当てした傷口を軽く叩く。情けない声が漏れ、嘲笑うようにして捲れた服を元に戻した。
「ひどい……」
「君が面白いのがいけないんだ」
リキはゆっくりと起き上がり、ソファに思い切りもたれかかった。
「……セントさん」
「ん?」
少し俯いて、儚い声でそう呟いた。聞こえないように言ったつもりだが、思ったよりも地獄耳だった。
「その……今日、色々と言い争いましたよね」
「……あぁ。そんな気がする」
リキはセントの方を向いて、頭を下げた。
突然の出来事に、彼も驚きを隠せない様子であった。
「ごめんなさい。私、少し焦ってて。セントさんの事、何も考えてませんでした」
そう言い切ってから顔を上げると、リキはぎこちない笑顔を浮かべた。セントはそれが面白かったのか、吹き出す。
「あー! 私の顔見て笑いましたね!」
「ふふっ、いやいや」
「少し可愛くって」
セントが、何気ない顔でそんな事を口走った。
彼女の頬が、ほんのりと赤くなって、咄嗟にソファの背もたれへと顔を埋めた。
その瞬間、額縁がカチッ、と音を鳴らして、中身の絵を変えた。
青空を背景とした、無数のカラフルなUSBメモリらしきデバイスがばら撒かれた絵。
その中央には、まるで、メモリの王たらん存在とでも言わんばかりに、真っ白な『E』メモリが描かれてあった。
窓から入ってきた風が、異常なまでに冷たく、地獄のような悪寒が全身に走った。
◇
ざざぁん、と堤防を強く打ち付ける波の音が響いている、人里離れた古い波止場。
そこに座り込む青年がいた。
潮風で靡く、短く揃えられた茶髪。まん丸い夕日を写している、翠の綺麗な瞳。黒いパーカーを羽織り、チェック柄の襟詰めシャツに黒のパンツというコーディネート。
彼の背中にはどんな嵐をも凌げそうな、鋼鉄の巨大な“盾”が下げられている。その中心には、翡翠色に輝く円盤が埋め込まれていた。
「……行くか」
手元で弄んでいたカードを、ぎゅっ、と握る。
そのカードには『DETECT』と記されてあった。