転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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エピローグ『終わった恋と始まっていた恋』

 ナルキさんが炎上してから、一か月ほど経過していた。

 その間、ナルキさんはソロ配信メインで活動を行っていた。

 今、コラボをし過ぎると反発を招くという判断である。

 とはいえ、事情を説明し、精いっぱい活動していると行動で示してきた。

 これ以上、出来ることはないし、何より多くの人が戻ってきてくれていた。

 逆に、今回の炎上騒動でナルキさんのことを知り、彼女のファンになったという人もいた。

 

 

 最初の対応こそ悪かったが、その後の行動は完璧だったと言えるし、結果だけ見れば持ち直したと言えるだろう。

 

 

「ちょっと、トイレに行ってきますね」

『ああ、行ってらっしゃいませ』

 

 

 私は、部屋を出ていった文乃さんを見送った。

 

 

「先輩、少しお話しませんか」

『いいですよ』

 

 

 すると、成瀬さんが通話アプリ越しに話しかけてきた。

 もしかすると、二人になれるタイミングをうかがっていたのだろうか。

 

 

「すみません。今日は、文乃ちゃんにお願いして二人にしてもらったんです」

『そうだったんですか』

 

 

 よく許可したな、と思ったが、まあそれだけ文乃さんと成瀬さんが仲良くなったということだろう。

 私としては、嬉しい限りだ。

 いや、私の感情や感傷はどうでもいい。

 

 

『それで、何を話したいんです?』

「……先輩にとって、前世はどうでしたか?」

 

 

 単刀直入に、成瀬さんは質問を繰り出してきた。

 

 

 前世、というのはVtuber的な意味合いでは当然ない。

 文字通りの意味である。

 人として、生きていたころのことを振り返ってどう思っているのかと訊きたいのだろう。

 あるいは、そうでもないのかもしれない。

 私が、生前彼女をどう思っていたのか、彼女とのかかわりをどう捉えていたのかを訊きたいのかもしれないとも思った。

 根拠はない、ただの勘だが、勘違いではないと思う。

 以前の彼女の涙が、根拠として薄弱とは思えない。

 それでも、気づかないふりをするしかないけれど。

 

 

『正直に言えば、無意味だったと、地獄だったと思っていましたよ。死んでマイクに転生していることを自覚した時は、素直に喜んだくらいです』

 

 

 それは、成瀬さんに言うべきではないかもしれないとさえ思った、私の本音。

 彼女は私とのかかわりで救われていたのかもしれない。

 けれど、当時の私には、成瀬さんは救い足りえなかった。

 ちゃんと見ていなかった、ということでもあるのだろうけど。

 

 

「…………」

『けどね』

 

 

 と、成瀬さんの話を遮って続けた。

 話に割り込むような形になって大変申し訳ないが、まだ話の途中なのでね。

 

 

『文乃さんと一緒に過ごして、成瀬さんと再会して、気づいたことがあるんですよ』

「気づいたこと?」

『私は、一人じゃなかったってことです』

 

 

 幼少期は、家族が全員揃っていた。

 学生時代は、親密ではなかったかもしれないが、立ち話をするような友人や麻雀などの悪さを教えてくる先輩がいた。

 職場では友人はおらず、敵ばかりだと思っていたが、なんだかんだと私を見てくれていた後輩がいた。

 それに気づいていれば、少し違ったのかもしれない。

父に、暴力におびえて。勘に頼って、危険を察知し防ぐか躱すことばかり覚えて。

自分に好意、好感を向けてくれる人たちをないがしろにしていた。

 自分の人生に意味はないと見限って、生きていたくないと願って、轢きつぶされて終わって。

 死んで初めて、自分は一人ではないことに気づけた。

 それで何かが変わったわけではないかもしれない。

 けれど、少しだけ私は幸せに生きて、幸せに死ねたかもしれない。

 もう少し、思い出を残せたかもしれない。

 それは、確かに後悔として私の中にある。

 仮説が正しければかつての友人知人とは会えるはずだが、自分から動くことはできないし、文乃さんを連れまわすつもりもない。

 

 

『だから、まあ結論から言うと、成瀬さんと出会えて、ナルキさんと再会できて、嬉しかったですよ。私は』

「っ!きゅ、急に何を言ってるんですか!」

 

 

 成瀬さんが慌てて叫ぶが、そこに否定的な感情はない。

 照れているだけと思う、ただの勘だが。

 

 

「先輩」

『何ですか?』

「しろちゃんと付き合ってるんですか?」

『……いいえ?』

 

 

 そんな事実はない。

 そういえば、以前も似たようなことを訊いていたな。

 あり得るはずもないと思うけどね、私はもう人間じゃないし。

 手をつないだりとか、そんなことさえできない。

 一度説明したはずだが、なぜ同じことを二度訊くのだろうか。

 

 

「もういいですか?」

「あれ、文乃ちゃん?いつから?」

「ただいま戻りました」

 

 

 

 そこに、文乃さんが割り込んでくる。

 どうやらここまでのようだった。

 

 

 

「おっと、あんまり長々話していると怒られちゃいますね」

『そうですね』

「息ぴったりだね、二人とも」

「そんなことないけどねー」

『そんなことはありませんよ』

「……今微妙にハモってなかった?」

 

 

 うーん、まあそこそこの期間仕事を一緒にしてたからかな。

 それに、勘で息を合わせるのは得意だったりする。

 別に、文乃さんに勘繰られるような関係性は一切ないんだけど。

 

 

「しろちゃん、さっさとくっつかないと、私がとっちゃうよ?」

「ふえ?」

 

 

 しろさんが、口をぽかんと開けた。かわいい。

 瞬間、首をぐるりと回して、距離を詰め、息がかかる距離にまで顔を近づけてくる。

 近い。

 眼を見開いた状態で、顔を寄せられると心臓に良くない。

 いや別にもう心臓はないんだけど。

 

 

「君、どういうこと?」

『無実です』

 

 

 何もしてませんし、何もありません。

 

 

「あげません!私のですから!」

「あははははは!さーて、どうだろうね」

 

 

 とる、という言葉が何をさしているのかはよくわからないが、たぶん冗談だと思う。

 成瀬さんからは、少しの悲しみと後悔、そして決意が読み取れる。

 そこに、何かを奪おうとする悪意はない。

 

 

 むしろ、引きずっていた過去の思いが完全に振り切れて、成瀬さんの中で決着したかのように思える。

 私と再会して、文乃さんと関わったことで、そうなったのだと推測される。

 まあ、ただの勘なのだが。

 

 

 ひょっとしたら、文乃さんを煽り、焚きつけるために嘘をついているのかもしれないね。

 

 

 いや、わかっている。

 わかっていないふりをするのはやめておこう。

 

 

 後輩のことも、相棒のことも、どちらも理解している。

 後輩が、彼女なりにエール(・・・)を送ってくれた以上。

 今、私の隣に居る人の心が、定まっている以上。

 

 

 ……私なりに、色々と考えるべきなのかもしれない。

 文乃さんのことを、しろさんのことを。

 そしてついでに、自分の心についても。

 あらゆる感情を読み取れる私の勘でさえ、自分の心のすべてはわからない。

 けれど、きっと。

 決断の時は、もうすぐそこまで迫っている。

 




 と、いうわけで二章がこれにて完結でございます。


 この後、登場人物紹介といくつか閑話をはさんでから三章を開始させていただきたいと思います。
 本作を書き始めた時、三章を書くつもりはありませんでした。
 が、読んでくださる方、応援してくださる方のおかげでここまで書いてこれましたし、これからも頑張れます。
 ありがとうございます。


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