転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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というわけで、閑話は早音家使用人の話です。

感想など、ありがとうございます。
励みになります。



閑話・使用人の話『Freeze』

 

 早音家メイド、氷室理沙の朝は、日によって違う。

 早いときは、七時に起きて、文乃を手伝う。

 機材の調整などが主だ。

 永眠しろとして一年前とは比較にならないほどの技量を有している文乃だが、機材の扱いだけは一向に上達する気配がない。

 遅いときは、十二時過ぎに起きる。

 なぜならば、エゴサなどをしていて深夜まで起きていることがあるから。

 今日は、前者。

 朝起きて、文乃の部屋に入り、異常がないかを確認。

 特に問題がなければ、メイド三人が使っている作業部屋へと向かう。

 問題があれば、アドバイスをしたり解決策を練り、実行する。

 これが、概ね午前中の業務である。

 

 

 氷室理沙の担当は、SNSなどを活かした広報である。

 ある程度機材の扱いなども心得ており、動画編集などもできる。

 また経理なども、そつなくこなせる。

 もっとも、機材に関しては雷土に及ばず、経理などの能力も火縄に劣る。

 なので、広報兼リーダーという立ち位置に落ち着いている。

 

 

 朝起きると、すぐに永眠しろ名義のすべてのアカウントにログイン。

 削除すべきものは削除し、そうでないものは残したうえで

 

 

 今の生活に、不満はない。

 給金などの待遇は比較的良い。

 元々友人もいないし、家族との仲もあまりよくなかった理沙にとっては住み込みで働くという条件も悪くない。

 パソコンを扱う仕事なので、スキルアップをしながら生活できるからここがダメになっても次に活かせる。

 理想に近い職場である。

 唯一嫌だったメイド服の着用も、一年以上すればもう慣れてしまった。

 最初は、会社員時代に着ていたスーツが恋しかったが、今はもう肌触りも忘れてしまった。

 

 

「さて、そろそろ作りますか」

 

 

 昼食を済ませて、パソコンの前で向かい合う。

 氷室理沙は、広報担当。

 SNSのチェックとは別に、最近もう一つ重要な仕事を請け負っている。

 パソコンを起動する。

 画面には、編集ソフトが立ち上がっており、そこには銀髪でオッドアイの美少女の画像が映っている。

 新しい仕事、それは永眠しろの切り抜き動画制作である。

 切り抜き動画とは、文字通り動画や配信の面白い部分などを切り抜いて、抽出した動画である。

 長時間の生配信が主体となっているVtuberは、見始めるハードルが高い。

 全く何も知らない状況で、二時間も三時間も観るのは苦行でしかない。

 

「まあ、こういうところだよね」

 

 

 切り抜き動画は、主に人が注目する、いわゆる撮れ高のみを切り取って動画にする。

 今回、理沙が作っているのは金野ナルキとの麻雀コラボの動画だった。

 先日の炎上と、それに対する反発をエンタメに落とし込んだ文乃のアイデアと、それをやりぬいた胆力は一年以上傍で見ていた理沙にとっても、意外なものだった。

 

 一年と少し前に、理沙は求人を見つけた。

 早音家でのメイドの募集。

 それも、家事のみならずなぜかパソコンなどの技術やSNSに精通していることが条件だという。

 給料も、破格の条件であり、冗談ではないのかと思えた。

 というか、冗談のつもりで応募した。

 

 

 その後面接をして、合格の通知をもらい、雇用主である文乃と初めて対面した。

 

 

 最初に思ったのは、壁を作られているな、というものだった。

 もちろん、雇用主と使用人の立場なのだから、壁があるのは至極当然ではある。

 だが、文乃が他者に対して作っている壁はそういうレベルのものではないのでは、と思った。

 

 

 文乃が両親と会話するのを見たことがある。

 貼り付けたにこやかな笑顔で、如才ない所作で、感情のこもらない声で。

 血のつながった家族に対して、まるで営業のように対応していた。

 背筋が凍った。

 あんな顔は、女子高生が会得できるものではない。

 社会の荒波にもまれて、ようやく身につくレベルのものだ。

 一体何を経験すれば、ああなるのか。

 

 

 自分のような他人だけではなく、身内にさえも態度を一切変えない。

 だから、文乃が誰かのために何かをするなどと、その時は想像できなかったのだ。

 

 

 そんな状況が変わったのは、半年ほどたってから。

 

 

「あの、お疲れさま」

「あ、ええ」

 

 

 いきなり、文乃の方から話しかけてきた。

 ちょうど、コラボを解禁したころだろうか。

 脱走したりと、メンタルが不安定になっていたが金野ナルキとのコラボがいい方向に作用したのかもしれない。

 その後も、時々話をした。

 といっても、別に深い話をしたわけではない。

 昔から屋敷で働いている内海や陸奥にも、彼女の詳細は訊いていない。

 ただ、彼女なりに、自分に心を開いてくれようとしているのが嬉しかった。

 戸惑うような声音も、おどおどと怯えるような表情も、視線を合わせようとしないのも、初めて会った時の鉄面皮に比べればずっと心地よい。

 

 

「うーん、永眠しろの金野ナルキに対するイジりを入れすぎるとバランスが悪い。ちょっと削ったほうがいいな」

 

 

 パソコンで、動画の編集を行いながら、考える。

 切り抜きというのは、ただ見どころをカットアンドペーストすればいいというものではない。

 

「金野ナルキのリクエスト台詞の読み上げは、入れたらダメだな。全部カットして、本編に誘導するような字幕を付ける」

 

 撮れ高を全て載せてしまうと、切り抜きだけで満足してしまう。

 本編も観てもらうために、少し欠けさせた、不完全なものでなくてはならない。

 まあ、再生数を稼ぐため、利益を得るための切り抜き動画ならそれを考えなくてもいいのだろうが、今回理沙が作るのはそうではなくて元の配信に誘導したり、あるいは永眠しろのチャンネル登録者数を増やすためのものなのだ。

 

 ナルキが、炎上した時は肝を冷やした。

 永眠しろが巻き込まれて炎上したこともそうだが、公私共に仲の良い友人がトラブルに巻き込まれているという状況がまずい。

 また、脱走してしまうのではないか。

 心を、完全に閉ざしてしまうのではないだろうか。

 それが、恐ろしかった。

 けれど、文乃は理沙が思っているよりずっと強く。

 

 

 あっさりと立ち直り、あまつさえ救い出すと言いだした。

 ようやく気付いた。

 もう、誰も信用せず、心を閉ざしていた早音文乃は、どこにもいない。

 ずっと強くなって、帰ってきた。

 

 

 

 そして救い出してしまった。

 自分で考えて、自分が泥をかぶるという方法で。

 

 

「永眠しろをあまりよく知らない人への導線という前提である以上、麻雀の解説もはさむべき?あたり牌についてはこのサイトから引用して、リンクも貼って」

 

 

 何が、彼女を変えたのかはわからない。

 多分、金野ナルキだけではないのだろう。

 根拠はないが、ただの勘だが、そんな気がする。

 

 大きく息を吐いて、理沙はゲーミングチェアにもたれかかる。

 あとは校正して、雷土咲綾によるダブルチェックを実行して、文乃に確認をしてもらって。

 それで特に修正箇所が見つからなければ、このまま永眠しろのチャンネルにアップロードされる予定だ。

 

 

「もう夜遅いですね、配信が始まる頃でしょうか」

 

 

 Vtuberという職業、そのサポートはまだまだ分からないことばかりで挑戦の連続だ。

 だが、今のところ不満はない。

 むしろ。

 

 

「楽しいですね」

 

 

 

 そう、一人呟いて、理沙はコーヒーを飲んだ。






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