転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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第六話『死神と魔王の耳かき』

 

「ええと、このままの距離で声をかけていればいいの?」

「うーん、ちょっとだけ距離を話してみましょうか。こんな風に」

 

 

 そういいながら、文乃さんは少しだけ距離を話す。

 そして、油断したところで、また距離を詰める。

 

 

「こうして、角度を変えるのもありだよ」

 

 

 しろさんが首を、体を動かすことで様々な角度から囁き声を送り込んでくる。

 外耳道のすぐそばや、耳たぶ、あるいは耳の上などから囁いてくる。

 右耳側はしろさん一人のはずなのに、たくさんの人が囁いてくるかのように感じられる。

 右耳がハーレム状態だよ。

 左はそうでもないんだけど。

 

 

「わ、本当だ。すご、みんなの眼には見えないかもしれないけど、すごい顔の角度とか変えてるじゃん」

 

 

 いつの間にか少しだけ距離を取ったマオ様がしろさんの観察をしながらほめたたえている。

 マオ様は、今日は教わりたいという企画なので一歩引いてしろさんが何をしているのかを見なくてはならない。

 

 

「じゃあ、次は耳ふーっ、やってみましょうか。こんなふうに、ふうーっ」

『んんんんんんンんん!』

 

 

 おっと、思わず声が出てしまった。

 視聴者も同じ感想なようで。

 

 

【気持ちいい】

【最高】

 

 

「じゃあ、マオ様もやってもらってもいいですか?」

「オッケー。じゃあやっていくわ」

 

 

 少し砕けた口調で、マオ様が耳元まで口を寄せる。

 

 

「すうっ」

 

 

 彼女が、息を吸い込む。

 そして、吐き出す。

 

 

「ぶふうっ!」

「ん?」

 

 

 あれっ?

 視聴者も、私も、ついでにしろさんも固まった。

 

 

【うん?】

【草】

【暴風雨やん】

【エイムあってないよ】

 

 

 まるで、違う。

 しろさんの耳ふーが春のそよ風とすれば、今マオ様がやってのけたのは冬に吹きすさぶ木枯らしや、あるいは夏に襲来する台風といったところか。

 風の吹く場所が、わずかに耳を外れているのが不幸中の幸いだ。

 もし直撃したら、災害になっていただろうから。

 

 

 しかし、改めて思ったが、ASMRというのは初心者がやると、そうなるんだな。

 初めてリハーサルをやってもらった時点で、しろさんはめちゃくちゃうまかったし、癒された。

 とはいえ、それは独学とはいえ半年もの間、文乃さんが練習をしてきたからにすぎない。

 

 

 半年、というのは言葉にしてしまえば短いが、時間で言えば長い。

 ブラック企業だと、結構な人が半年持たずに辞めたり潰れたりする。

 

 

 来る日も来る日も、きっと文乃さんは練習を重ねたはずだ。

 文乃さんから、私が来るまでも他のマイクで練習してきたと聞いている。

 さらに私と出会って、もう一年以上。

 彼女はほとんど毎日休むことなくASMRの練習を続けてきた。

 それゆえの、技巧。

 

 

 はじめてASMRをしたときは、しろさんもきっと今のマオ様みたいな感じだったんだろうね。

 そう思うと、なんだか感慨深いものがある。

 元々しろさんは、興味を持ったことに対しての吸収力は尋常じゃないからね。

 

 

「ちょっと待ってエイムがあってないって言われてるんだけど」

「マオ様、ゲームのエイムはうまいんですけどね。吹き込む感じじゃなくて、もっと弱くでいいと思いますよ」

「えっ、そうなんだ。やってみるわ、ふうぅー」

 

 

 今度は、うまくいった。

 やられている時は、気づかなかったけど。

 耳ふーって強く吹いているわけじゃないんだよね。

 むしろ、騒音にならないように極限まで力を加減している。

 あと、耳ふーって口を絞って圧縮するのではないみたいだね。

 耳は―に比べれば、かなり口が閉じているようだが、ある程度は開いている。

 イメージは人の心を凍てつかせる北風ではなく、熱の衣で人を包む太陽と言ったところか。

 

 

「じゃあ、お次は耳は―だね。これは、口を大きく開けて、口全体で耳を覆うくらいのイメージだよ」

 

 

 そういって、しろさんは、口をぱっくりと開き、本当に耳を包み込んだ。

 耳と口、感覚器官が直接触れ合っている今の状況は、どうしようもないほどに淫靡であると、私は思った。

 

 

「はあああーっ」

『「ふわあああああああああああああああ」』

 

 

 心をドロドロに溶かして融かすような熱のこもった吐息が、右耳を通して脳に流れ込んでくる。

 

 

「というわけで、マオ様もやってみてもらってもいいですか?」

「わ、わかった」

 

 

 マオ様は、小さな口を精いっぱい開いて、私の耳をぱっくりと包み込む。

 しろさんも、マオ様の様子を伺いつつ、右耳をくわえ込む。

 そして、同時に息を吐き出した。

 

 

「「はあああああーっ」」

『んんんんんんんんんんんんんん!』

 

 

 温風に、両耳が同時に侵食されて、つい声を出してしまった。

 しろさんが全く集中を切らせていないのが不幸中の幸いである。

 というかもう慣れっこなのかもしれない。

 マオ様が私の声聞こえなくて本当に良かったと思う。

 

 

【ああああああああああああああ! ¥8000】

【耳が溶けちゃう】

【まさかの両耳は―はヤバすぎる】

 

 

「マオ様、視聴者さんたち、すごく喜んでるよ」

「んえ?そ、そっかあ、頑張った甲斐があったなあ」

「マオ様めちゃくちゃうまいですね、センスの塊ですよ」

「そ、そう?まあ我、天才だからね」

 

 

 

 ふふん、と鼻を鳴らしながら、顔を真っ赤にして目を逸らすマオ様。

 しろさんは、そんな彼女にニコニコと、微笑ましいものを見る目を向けていた。

 

 

 

【照れてるマオ様かわいい】

【ASMRだけじゃなくててぇてぇも味わえるなんて、最高じゃないか】

 

 

 妹は本心から、姉の上達の早さを喜び。

 姉は、そんな妹と、視聴者からの評価が嬉しくて。

 結論。

 がるる家は、今日も温かいです。

 

 

 ◇

 

 

 しろさんは、足元に置いてあった耳かきを取り上げた。

 今日の配信は囁き、耳かき、そしてマッサージの三部構成となっている。

 時間的にも、習得度的にもそろそろ耳かきに移行していいと判断したようだ。

 

 

「次は耳かきをやっていこうかな、まずは私からお手本を見せていくね」

 

 

 しろさんが、竹の耳かきを私の右耳にいれる。

 

 

「かりかりかりかり、こうやって擬音、オノマトペをやりながら耳かきをするといいんですよ―」

「おおおおおおう」

『ふおおおおおお』

【草】

【マオ様も限界化してて草】

 

 

 余談だけど、今回はどのように聞こえているかを本人が理解するために、マオ様もイヤホンをしている。

 なので、耳を介して癒しの波動が流れ込んでくるわけで。

 それは声も出ようというものだ。

 仕方がないだろう。

 うん、どうしようもない。

 むしろ、ASMR配信中であることに配慮して大声を出さなかっただけ、素晴らしいと言えるのではないだろうか。

 というか声を抑えたせいで若干センシティブだったようなような気がする。

 いや、これ以上考えるのはよそうかな、しろさんが怖い。

 

 

「マオ様もやってみてください」

「う、うん。わかった。かりかりかり、かりかりかり」

 

 

 しろさんが、自分が使っているのとは別の耳かきを手渡す。

 マオ様は、おずおずと受け取って、耳かきをゆっくりと左耳の穴に差し込んでいく。

 左耳からも、オノマトペとともにかりかりという健康的な音が聞こえてくる。

 手つきにぎこちなさがみられるが、心地よさを楽しむのに問題はないだろう。

 

 

「耳かきをしている時は、くすぐったくないですか?とか逆に気持ちいいですか?みたいなコミュニケーションを取っていくのもおすすめだよ」

「あー、なるほど」

【こうして色々聞いていくと、普段いろいろ工夫してくれてるってことがよくわかる】

【実はしろちゃんのASMR聴くの今日が初めてだったんだけど、他のアーカイブも聞いてみようかな】

 

 

 コメントでも書かれているけど、作品を作っている人たちが裏でどんな工夫をしているのかっていうのは見過ごされがちだからね。

 なので、何もできない管理職がのさばって現場の人たちが損ばかりしたりするわけで。

 閑話休題。

 努力の跡を、見てくれる人がいるのはいいことだよね。

 

 

 

 しろさんは、耳かきを足元に置く。

 マオ様も、それに習う。

 

 

「じゃあ、お次はマッサージやりましょうか」

「よーし、やってやろうじゃないの」

 

 

 いよいよ、ASMR講座が佳境へと入ろうとしていた。

 





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