転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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第七話『死神と魔王の愛撫』

 マッサージと言っても、ASMRのマッサージは多岐にわたる。

 限られた時間の中でそれを全て教えることはできないし、初心者であるマオ様に無理やり詰め込むこともきっと間違っている。

 だから、しろさんは今回タッピングと肩もみにとどめている。

 実際にはオイルマッサージやヘッドスパロールプレイなど、色々あるのだがちょっと複雑すぎるから、としろさんは言っていたしマオ様も同意している。

 

 

「じゃあ、まずはマオ様、私がやるところを見てもらってもいいですか?」

「うん、いいよー」

 

 

 少し離れて文乃さんを見ることができる位置に、つまり私の正面にマオ様は移動していた。

 そうして、しろさんも私の頭の後ろまで移動する。

 

 

「はーい、じゃあはじめますよ。とんとんとん、とんとんとん」

【あー、最高】

【癒されるわあ】

 

 

 いつも通り、癒しを与える彼女の指先が自在に動く。

 指ではじくだけの振動が、どうしてここまで心地よいのだろうか。

 

 

「じゃあ、マオ様もやってみてください」

「りょ、了解です」

「あちこちいろんな場所をとんとんって叩くのがコツです」

「オッケー、なるほどね」

 

 

 マオ様もまた、タッピングを始める。

 とんとん、とんとん、と両耳に振動が伝わる。

 しろさんほどの精度ではないが、それでも確かに癒される。

 

 

 リハーサルの時もうっすら思ってはいたが、やっぱり、マオ様今までやっていなかったけど才能があるんじゃないか?

 

 

「じゃあ、今度は肩叩いていきましょうか」

「お、今度も交代する感じ?」

「いいえ、まず私がお手本を見せましょう。その後に、一緒にやってもらってもいいですか?」

「わかったよ」

 

 

 しろさんは、私の首の下、肩の辺りに自分の左腕を横向きに突き出した。

 ちょうど、私の方があるはずの場所としろさんの左腕の位置が重なっている。

 

 

 ASMRとは、虚構でもある。

 耳舐めをしているからと言って、本当にマイクの耳を舐めているとは限らない。

 しろさんの直に舐める方式とは別に、音を立てるタイプの人もいる。

 むしろ、しろさんの方が少数派だ。

 だから、肩たたきと言っても本当に肩を叩くのではなく腕を肩に見立てて音を立てる。

 彼女の細い、しかして肉の程よくついた腕を右拳がとん、とん、とんと叩く。

 

 

「マオ様も、一緒にやりましょう」

「うん、わかった。とんとん、とんとん、とんとん」

「お、いいリズムですねとんとんとん、とんとんとん」

 

 

 マオ様も腕を突き出して叩き始めた。

 

 

【最高 ¥3939】

【おじいちゃんと孫みたいな気分になる】

【ほんわかしてきた】

 

 

 視聴者も静的なものとは別の意味で癒されたようだ。

 私も二人に肩たたきされるのは初めてで幸せな気分だよ。

 

 

 ◇

 

 

 

「お疲れさまでした、これで今日の講座は終わりですけど、どうでしたか、マオ様」

「いやー、慣れないことばかりで疲れた。もう今日は風呂入ってさっさと寝たい」

「じゃあ、せっかくですし、い、一緒に入ります?」

「いや顔真っ赤にして言われてもこっちは逆に冷めちゃうんだけど」

「何でですか?」

 

 

 そんな冗談を言いつつも、配信は終幕へと向かっていった。

 

「まあ、せっかく教わったことですし、メン限でASMRやりますか」

「お、いいですね。時間的にいい感じなので、ここで終わりにしましょうか」

「了解」

「じゃあ、皆さんもおやすみなさい」

「おやすみなさい」

 

 

【お休み】

【いい配信だった、また見たいな】

【メン限でやってくれるだけ感謝】

 

 

 

 ASMR講座という新企画は、こうして成功に終わった。

 

 

 ◇

 

 

「お疲れさまでした、桜花さん」

「ありがと、文乃ちゃん。いやもう、マジで疲れたよ、楽しかったけどさ」

 

 

 配信が終わった直後、文乃さんと桜花さんはへたりこんだ。

 何しろ、彼女はここまで一時間以上人生で初めての挑戦を行っていた。

 消耗するのは当然だ。

 また、文乃さんも人にものを教えるという慣れないことをしたせいで、かなり疲労している。

 二人とも、ふかふかの絨毯に座り込んでいる。

 

 

「そういえば、一つ訊いてもいいですか?」

「何?」

「あの、ASMRコラボをしてくれた理由です、もう一つ何か理由があったのでは?」

「あー、そのことかあ」

 

 

 コラボをする前に、マオ様が言いかけていた。

 ASMRに挑戦したかったこと。

 それも配信者として、あるいはエンターテイナーとして立派な理由だろう。

 ただ、それが全部ではないだろうと思う。

 多分、あの場で言わなかったことを考えると個人的なものだった気がする。

 まあ、ただの勘だが。

 

 

「笑わないでくれよ?」

「笑いません」

「しろちゃんに会ってみたかったから」

「…………ふえ?」

 

 

 しろさんの顔が、トマトになる。

 

 

「や、そういう反応されるのもそれはそれでやりづらいんですけど」

 

 

 横目でしろさんの顔色を窺いつつ、桜花さんも顔をゆっくりと赤らめていく。

 配信者の間での用語として、裏と表というのがある。

 配信に乗っている状況を表、そうでない時間を裏と定義している。

 裏でのやり取りが配信上でのちに明かされることもあるため完全オフというわけではないのだろうが、それにしても裏でもこういうやり取りをしてくるとは。

 ASMRとはまた違うドキドキがあるね。

 てぇてぇが過ぎませんか?

 

 

「別に、変な意味ではないのよ。がるる家で直接会ったことがないの、しろちゃんだけだったから、どんな子なんだろうって気になったってだけ」

「ああ、そうですよね」

 

 

 しろさんが、真顔に戻る。

 そういえば、しろさんがデビューする前にがるる家全員でオフコラボをするという配信があったんだよな。

 もしかすると、がるる家でまたオフコラボをやる予定があるのかもしれない。

 私が把握していない以上、やるとしてもまだ先の話だろうが。

 

 

「ちなみにですけど、今の印象ってどんな感じですか?」

「うーん、そうだねえ。結構まともかなって感じ。がるる家だと一番まともじゃないかな?」

「そうなんですか?」

「がるる先生は言わずもがなだし、ラーフェは下ネタしか言わないし、羽多さんも、プライベートは結構抜けてるからね」

「ご苦労様です」

「わかってくれて、嬉しいよ」

 

 

 これもしかして、結構な頻度で彼女がまとめ役のようなことをしていたんじゃないだろうか。

 まとめ役、というか折衝的なポジションって大変だよね。

 成果はないのに、責任だけ増えるし。

 

 

「まあ、あとは本当のお嬢様でびっくりしたよ」

「そんなにですけどね」

「いやすさまじいよ、このあたり一帯全部しろちゃんの家なんでしょ?」

 

 

 早音家は四方を数多の山に囲まれている。

 そしてその山脈全てが早音家の所有物である。

 山奥には、複数の工場もある。

 こんな感じで、早音家の資産は日本全国そこかしこにあるらしい。

 とんでもない話ではないだろうか。

 

 

「そういえば、がるる家の方とお会いしたのははじめてですね」

「そうなんだ、がるる先生とも会ったことないの?」

「いえ、そのうちどこかのタイミングでASMR講座配信をやるつもりですよ」

「あ、そうなんだね」

 

 

 がるる先生、大丈夫かな。

 配信を観ていると結構不器用なイメージがあるんだけど。

 うっかり私を壊したりしないでほしいね。

 

 

「大丈夫なのかね、がるる先生ちょっとイラスト以外は全然ダメなところあるから」

「確かに、リハーサルはあっちのマイクで試したほうがいいのかもしれませんね」

 

 

 ちらり、と文乃さんが自室にあったもう一台の(・・・・・)ダミーヘッドマイクにめをやる。

 そちらには、何もない。

 意識もなく、声を出すこともない、ごく普通のダミーヘッドマイク。

 練習用として、たまに文乃さんが使うこともあるマイク。

 確かに、抜けているところのあるがるる先生相手なら、リハーサルはこっちでいいのかもしれない。

 本番は、まあしろさんが私じゃないと気合入らないらしいので難しいけど。

 

 

「マオ様、もう一つ訊いてもいいですか?」

「何かな?」

「マオ様は、どうしてVtuberをされてるんですか?」

「ほう、結構深いことを訊いてくるね」

「あ、いえ、話したくなかったら申し訳ありません」

「いやいやそういうわけじゃないんだよ、ただしろちゃんみたいに深くて誇れるような理由があるわけじゃないからさ」

 

 

 文乃さんは、配信でもたびたび自身が活動を始めた理由を話している。

 流石に、私の話まではしていないが、元々孤立していたことや、配信、ASMRの力で人を癒したいと思って活動していることは雑談で幾度となく話している。

 それをどこかでマオ様は聞いていたのだろう。

 

 

「別に、活動理由に貴賤はないと思いますけど」

 

 

 文乃さんは真顔でマジレスした。

 まあ「金」と回答した人が二人位いるからね。

 そこまであけすけすぎる人がいる以上、どんなことを言われても不快にはならないだろう。

 

 

「そっか。まあ簡単に言うと、まともじゃなかったからかなあ」

「はい?」

「嫌なことを言ってしまうけどね、Vtuberになって、活動を続けて成功しちゃう人たちってのはどこか頭のねじが外れているんだ」

 

 

 マオ様は、そんなことを語り始めた。




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