転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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第十六話『モデラーと重大告知』

「そうなんだ。あんまり仲が良くないのかなー」

「悪いわけじゃないんですけど、単純にどう接したらいいのか距離を測りかねると言いますか」

「あー、まあそれはわかるよ」

 

 

 しろさんは、ぽつぽつと自身の事情を、空気が重くならない程度に話している。

 彼女は、いじめがあったことや、両親に厳しく育てられたことを明言していない。

 それは、エンターテインメント性を損なうから。

 しろさんは、視聴者に対して彼女の配信に触れることで幸せになって欲しいと思っている。

 だから、なるべく雰囲気を壊すようなことはなるべくしたくないと思っているのだ。

 ネガティブな発言は控えるようにしている。

 とはいえ、全く説明しないというのも難しいだろうとある程度のことはこうやって話しているのだが。

 

 

【しろちゃん実家が厳しいらしいしな、あんまり踏み込みづらいってことなのかも】

【なんかわかる気がする。思春期だとどう接したらいいかなんてわからんよな】

【昔、親に当たってたの今更申し訳なくなってきたな】

 

 

 視聴者も、各々の意見をコメントに書き込んでいる。

 彼らの意見は、正しいかどうかはわからないけれど、間違っていないものが多かった。

 きっとそれは、彼らがしろさんをしっかりと見て、彼女の言葉を聞いているからなのだろう。

 私は、この世界で誰よりもしろさんにとって身近な存在だと思っているし、そうであれたらいいなと思っているが、彼女に向けている愛情という意味では画面の向こうにいる視聴者たちにも私に比肩する人がいるかもしれない。

 けれど、彼らにも、私にも、正しい答えを出せる人はいない。

 しろさんと、彼女の父親は違うから。

 そして多分、親と子の関係性に正しい答えなどはないから。

 

 

 私にも、答えはわからない。

 私と父親の関係は、親子とは程遠いものだったから。

 私は、父が特別異常者だったとは思わない。

 むしろ母に金を理由に出ていかれ、ボロ雑巾のように捨てられた。

 そんな彼らにもはや憎しみなどはない。

 ただ、もう少しだけ別の可能性があったのではないのかと、そう思わずにはいられなかった。

 

 

「まあ、私も親子の関係はちゃんとわかってるわけじゃないけどね」

「そうなんですか?」

「本当に子ども育てたわけじゃないからね、Vtuberさんって結局個人事業主だから育てるっていうより育っていったって認識の方が強いし」

 

 

 まあ、実際の親子のように長い時間をかけて作り出される関係ではないからね。

 生み出すところまでが生みの親(クリエイター)の責任で、それ以降のVtuberを育てるのは、育ての親、つまりは中の人(・・・)の責任になってくる。

 

 

 

「というより、モデルを作ってから関わることってあんまりないんだよね」

「あー」

「モデルってのは、Vtuberの骨格で、イラストがVtuberの顔だと思っているんだけど」

「それはそうだと思います」

「骨格だけ見てもそれが誰なのかわからないように、Vtuberの体だけ見ても誰がモデラーなのかはわかりづらいし、特徴も出にくいんだ。だから、あんまり私に作られたという実感をファンの方も持ちにくい」

 

 

 

【確かに、イラストレーターとVtuberは一対一対応してるけど、モデラーは覚えてないかも】

【特徴とかはあったりするらしいんだけど、素人がわかるものじゃないしな】

 

 

 モデラーの目標は、よりリアルなモデルを作ること。

 関節が、挙動が、不自然でないように、より本物の人間に近くなるようにプログラムする。

 つまり、技術や過程に差があったとしても、全てのモデラーの目的はおおむね一致しているのだ。

 それでは、個性を出すことは難しい。

 少なくともイラストレーターのようにちらりと見ただけで絵柄で誰が作ったかはわかる、というようなことはないのだ。

 それゆえに、距離が遠い。

 パパとママ、という言葉を使うのであれば、Vtuberはすべて母親似なのだ。

 

 

「だからこそ、モデラー達はこうやって深くかかわることは普通ないんだ」

「確かにあまりコラボされていませんよね」

「うーん、あんまり私から申し出ることもないし、もちろん呼ばれることもそんなにないからね」

 

 

 ロリリズム先生は配信頻度が高くない、と考えると誘いづらいだろうしね。

 配信のアーカイブもほとんど作業配信だったからね。

 より一層忙しさが感じられるといいますか。

 むしろ逆に、しろさんが声をかけられている状況がレアなのかもしれない。

 

 

「私と良くコラボしてくださいましたね」

「あー、まあ実のところはがるるちゃんが言ってくれなかったら、私から誘うなんてとてもじゃないけどできないからね」

「そうなんですよね、先生が申し出てくれて、今回ただ乗りしたって感じです」

 

 

【ただ乗り?】

【サムネに書いてたやつかな?】

 

 

 今回のサムネイルは、重大告知あり、と書かれている。

 元々近日発表する予定だったものを、ここで出すということだ。

 

 

「先生は、寂しくはないですか?」

「全然?正直、別にいいんだよ」

「そうなのですか?」

「親子と言えるのかどうかさえ分からないけど、私がかかわってきたVtuber全員が、納得のいく終わり方ーーいや、生き方をしてくれていたらいいなって、私は思うんだ」

 

 

 多くの人の始まりを、活動を、そして終わりを見てきたから。

 いつか、しろさんにも来るであろう終わり。

 それを何度見てきたのだろうか。

 

 

「何かをしてほしいがために、作り出したわけじゃないんだ。ただ、生み出したくて、何かをしてあげたいと思ったから、私はモデラーをやっている」

「…………」

「あれ、何か変なことを言ったのかな?」

「ありがとうございます、先生」

 

 

 パソコンに向き合うしろさんの顔色が、先程より少し良くなっていた。

 きっと、彼女の言葉が響いたのだろう。

 

 

 ◇

 

 

 

 その後も、色々と話していた。

 急に決まった配信ゆえに、そこまで

 ふむ、もういい時間帯だね。

 パソコンの画面から時間を把握しているので、頃合いが私でも把握できる。

 

 

『しろさん、そろそろいいんじゃないですか?』

「あ、そうだね。ロリリズム先生、そろそろだと思うんですけど、いいですか?」

「大丈夫だよ」

【うん?】

【何だろう】

【一体、何が始まろうとしているんだ?】

【もしかして、アレか?】

 

 

「今日の配信において、永眠しろは重大発表がございます。改めて、その告知をさせていただきます」

【おっ】

【何だなんだ】

【もしかして?】

 しろさんは、そこで言葉を止めて、BGMを切り替える。

 ゆったりとした雑談配信用のフリーBGMから、いわゆるドラムロールと呼ばれるものへと変更する。

 そして、音量も引き上げる。

 緊張感を煽る演出に、視聴者たちは、何が起こるのだろうかと固唾をのんだ。

 そして、しろさんの操作によって、配信画面が切り替わる。

 そこには、告知内容が明記されていた。

 

「永眠しろ、新衣装お披露目をさせていただきます!」

 

 すなわち、新衣装お披露目、とでかでかと書かれていた。

 そしてその文字を見た瞬間。

 

 

【うおおおおおおおおおお!】

【やった、やった、ついに!】

【素晴らしいね! がるる・るる】

【がるる先生がいたのはそういうことか!】

【ありがとう、ありがとう ¥2000】

【もう出ないかと思ってた!】

【デビューしてから一年半、収益化してからでも一年以上】

【またせおってからに!おめでとう!】

【どんな衣装なんだ!】

【これは嵐の予感】

 

 

「ふえっ、コメントが、すごい!すごい!」

「しろちゃん、落ち着いて」

「あ、す、すみません」

 

 

 コメント欄が、今までにない程に加速した。

 無理もない。

 たった今しろさんが行ったのは、かつてないほどの重大イベントの告知だったのだから。

 新衣装。

 それは、Vtuberにとって一つのお祝い事である。

 例えるならば一国一城の主が、新たに作った城を人々に見せつける、レベルのことだ。

 Vtuberの中には、それを悲願にしている人もいるくらい、新衣装の存在は大きい。

 ナルキさんの件で大きくずれこんでしまったが、ようやく発表できるというわけだ。

 

 

「詳細はまだ言えませんが、モデラーはロリリズム先生、そしてイラストは言うまでもありません、がるる・るる先生でございます!」

「頑張ったよー」

「色々ありまして公開が遅れてしまいましたが、明日お披露目をさせていただきます。当日は、皆さん良かったら観に来てください!」

 

 

【絶対見に行く!】

【デビューしてから一年以上だもんな。本当に長かった】

 

 

 

 この日は、いつも以上にSNSでしろさんのファンは歓喜していたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

「お疲れさまでした」

「あのさ、しろちゃん。よかったらちょっとお話しできないかな?」

「ふえっ?いいですよ」

 

 

 その裏で、しろさんにとって重要な会話が交わされていることも知らずに。

 

 

 

「しろちゃんってさ、蒼樹いのちちゃんのファンなの?」

「はい?」

 




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