転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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第二十二話「父と母」

 案件配信が終わって、その翌日。

 またしても、私は父と食卓で顔を合わせていた。

 相変わらず緊張はするのだが、これでもだいぶましにはなっている。

 少なくとも、陸奥さんが作ってくれたおいしい料理を食べるのに支障が出ない程度には。

 

 

「昨日の案件配信は面白かったね」

「観ていたんですね」

「まあ、案件だからね。もちろん他の配信も観てはいるけど」

 

 

 表情を笑顔のまま話し続けている。

 正直、少しだけ怖い。

 

 

「ですが、あまり売り上げは伸びていないのでは?」

「別に伸びていないわけではないよ。というかパソコンは値段が張るからね、飴とは違って少し宣伝したからすぐ売れる、というようなものでもないんだよ。そもそも、一年に一台買えば多い方だからね」

「そういえばそうですね」

 

 

 確かに、私もデビューしてから同じパソコンを使い続けている。

 もう二年近くになるけど、まだ問題なく使える。

 とはいえ、もう少ししたら買い替えていいかもしれない。

 せっかく、活動を支援したいという意図でスーパーチャットなどをもらっているわけだし。

 

 

「サイトのアクセス数自体は、かなり伸びているし、SNSのトレンドにも載っただろう?それだけで十分なんだよ」

 

 

 SNSのトレンドには、『お寿司咀嚼タイピングASMR』という謎のワードが載っていた。

 どうやら、企画として面白かったということで、それなりにバズったようで。

 簡単に売り上げが増えたりはしないにしても、こういうのは知ってもらうだけでも意味がある。

 というか、知ってもらえないともうステージにすら上がれないからこそ、彼女たちは 

 

 

「それで、最近調子はどうかな?」

「大分、精神的にも改善されてきました」

「そうだったのか」

「お寿司、食べれたんですよ」

「……そうか。そうだね」

 

 

 あの時(・・・)以来、寿司を含めて生肉の類は全部だめだったからね。

 今でも覚えている。

 何かがつぶれて砕け散る、人生で最も不快な音。

 飛び散る肉だった何か。

 正直、それ以来生肉を見るのも苦痛だった。

 それが、今や少量なら食べられるくらいになった。 

 

 

 『彼』が死んだ時から、もう二年以上になる。

 でもたぶん、それが理由ではないと思う。

 ダミーヘッドマイクに転生してくれたから、生まれ変わってくれたから。

 この一年と七か月、私の隣に居てくれたから。

 少しずつ私は前に進めるようになってきた。

 いじめられていた記憶は濃密な日々の中で薄れ、人生で初めての駅で経験したトラウマは『彼』とのあわただしくも温かい日々が埋めてくれた。

 日々一歩ずつ、前へ前へと生きてきた。

 だから、今日はもう一歩進むと決めてきた。

 

 

「そのうえで、話がありますお父様」

「聞こうか」

 

 

 どうして、この人の表情が変わらないのかわかった。

 彼は、優れたビジネスマンだ。

 状況に合わせて表情を変えることなど朝飯前。

 彼がこうしてにこやかな笑顔でいるということは、彼なりに誠心誠意をもって向き合おうとしてくれていることの証左なのだろう。

 その在り方を、私は完全に理解することはできない。

 私は、母とは違うし、『彼』みたいに特別な力もないから。

 けれど、それでも私は彼の娘で、この人に相対しているから。

 

 

「私は、Vtuber活動を仕事としてやっていきたいと考えています」

 

 

 今迄のどの瞬間より硬い声と表情で、私は宣言した。

 

 

「どうして」

「はい?」

「どうして、Vtuber活動を続けたいのかな?」

 

 

 ビジネスとして考えるならば、訊く必要のないものだっただろう。

 取引先の相手に、「どうしてその仕事をしているんだ」なんて訊くはずがない。

 だから、きっとこれは父親としての問いだった。

 彼なりに、私を案じているのかもしれない。

 だから、私は素直に答えよう。

 本心からの言葉で。

 

 

「小さいころから、私にはやりたいことなんてありませんでした。早音家を継ぐなんて言われても、正直事業に携わりたいなんて思えなかった」

「…………」

「でも、Vtuberになって、はじめて楽しいことを見つけられた気がするんです」

「…………」

 

 

 彼は、口を挟まずに黙って聞いている。

 表情も変わらないので、何を考えているのかはわからない。

 けれど、私は止まらない。

 

 

「私の声で、企画で、喜んでくれる視聴者がいる。仕事で関わり始めた人たちの中にはいい人や、変な人がいて、そのかかわりがとても楽しいんです。これまでの人生で、そんな関係を誰かと築けたことがなかったから」

 

 

 

 伝わるか、わからない。

 頭がおかしいかもと思われるかもしれない。

 理解してもらえるなんて思っていない。

 それでも、全部言わなければと思った。

 

 

「何より、私の傍でずっと一緒にいてくれる誰よりも大事にしたくて、ずっと一緒にいたい()がいるんです。だから」

 

 

「このVtuber活動をずっと続けたい。ただ、一時的な精神的な療養のための趣味としてではなくて、生涯続けていける仕事として」

 

 

 どんなことがあっても、死ぬまで続けたいと思っているから。

 ならば、仕事として考えるのが最善だ。

 具体的には、Vtuberとしての収益のみでVtuberとして生活し、氷室さんたちを雇い続けられるようにする。

 

 

「文乃」

「君は、勘違いをしている。まず、君の療養は終わっていない」

「はい?」

 

 

「精神的なものは、自覚に乏しい場合も多いし、再発することだって多々ある。ゆえに、療養を続けるべきなのは変わらないし、当然それに趣味が必要なら続けて欲しい」

「う……」

 

 

 確かに、当人だからこそ反論できない。

 ましてや、私は使用人の方々からイマジナリーフレンドが発現したと思われているみたいだし。

 傍から見れば、まだまだ大丈夫と言える状態ではないだろう。

 

 

 

「それでも、もし。君が仕事としてVtuber活動を続けたいのなら、私は出来る限り手を貸そう。早音グループのトップとして」

「はい!」

「とりあえず、次の案件の話をしておこうか」

「そうですね」

 

 

 家族であることに、変わりはないから。

 だから、こういう向き合い方はきっと間違いではなくて。

 私が抱えている、もう一つの悩み(・・・・・・・)も、きっと悩んでいるということ自体は間違いではないのだろうと、そう信じた。

 

 

「あら、楽しそうな話をしているのね」

「お、お母様?」

 

 

 雪のように白い肌。

 そしてその肌と対になる、炭を連想させる黒い髪。

 正直、見た目だけで言えば二十代と言われても信じてしまいそうなレベルだ。

 いつの間にいたのか、気づけば背後を取られていた。

 足音もなく、彼女は父の傍まで移動した。

 

 

「本気で仕事にしたいというのなら、あなた自身がいろいろ回せるようになっておかないとね」

「そうだね、できる限り、私達が指導しよう」

「よろしくお願いいたします」

  

 

 私は、頭を下げた。

 私は、どうしてもまだこの人達が怖くて距離を取ってしまうがゆえに。

 そして両親は、仕事をベースとしているためビジネスとしての接し方がベースになっているゆえに、距離がある。

 でもこれでいい。

 家族の形に万人共通の正解など存在しない。

 

 

「それはそれとして、先程の話を全て聞いていたのだけれど」

「そうだったの?なら雪乃も席につけばよかったのに」

「うーん、何だか口をはさむのどうかと思ったのだけれど、ちょっと聞きたいことがあってね」

 

 

 何だろう。

 もしかして、例の件だろうか。

 それとも、Vtuber活動のビジネス化についてまだ何かがあるのだろうか。

 

 

「さっきの話だけど、好きな人がいるのね?」

「ふえっ」

「え、そうなの?」

 

 

 父の表情が崩れる。

 ちなみに、母の表情は変わらない。

 『彼』のことはわからないはずなのに、先程の言葉だけで見抜いたのか。

 

 

「うん、そうなんだ」

 

 

 はっきりと、素直に答えた。

 

 

「あら、それはいいことね。恋愛は、人生を変えるもの。ねえ、あなた?」

「娘が、結婚か……」

 

 

 父が感慨深げな顔になっている。

 あれ、ついさっきまで家族らしくなくてもいい、とか思っていたんだけどなあ。

 もしかして、恋バナをしていたら普通に打ち解けるのでは?

 

 

「あなた、そうとは限らないわよ?」

「うん?」

「いや、文乃の交友関係を洗えば、絞り込めるじゃない?」

「あっ」

 

 

 そうだ。

 基本的には、私の交友関係は女性しかいない。

 そして、今の会話で察したのだが、おそらく二人ともイマジナリーフレンド、『彼』の存在に気付いていない。

 つまり、私の「好きな人」は女性であると解釈されてしまうのは無理がない。

 かといって、訂正するのも面倒だし。

 

 

「大丈夫よ、文乃。私たちはいつでもあなたの味方だからね」

「そうだな」

「…………うん、ありがとうございます」

 

 

 とりあえず、誤解したままでいてもらうことにした。




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