転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある? 作:折本装置
「お疲れさまでした」
「おつかれー。いやあ、あんなに恥ずかしいとは思ってなかったよ」
「確かに言い淀んでましたもんね。まさかあそこまで動揺するとは」
「いや、あの、ホントに勘弁してください」
配信上の下品な態度は裏腹に、ラーフェさんの態度は落ち着いている。
もともと社会人だったと、どこかの配信で言っていたから社会で磨かれるとみんなある程度温厚になるのかもしれない。
いや、そうとは限らないか。
私の元上司とか酷かったし、何なら父もひどかった。
多分、社会がどうとかというよりそういう気質なのだろう。
「ラーフェさんは表と裏で違いますもんね、態度が全然」
「そりゃリアルでこんなに下ネタバンバン言えるわけないじゃん。セーブしてるっての」
「ああ、じゃああっちの方が素なんですね」
「そうそう、元々ガチ恋向けにやっていく選択肢もあったんだけど、先輩方の配信とか観ててたぶん私はそう言うやり方は無理だなって思ってさ。結果として、どんどんVtuber界隈がコラボとかに寛容になっていったからだいぶましになっていったわけ」
まあ、配信者というものは誰しも配信において自分の殻を破り、己の本質や素をさらけ出すことがある。
例えば、しろさんはASMRをしている時度々ドSになる。
私や視聴者の反応を見るのが楽しい、という状態になるのだ。
そうなると、元々の技巧にさらに磨きがかかってしまう。
私たちはなすすべなくしろさんの囁きや吐息に悶絶させられる他なかったりする。
「ナルキちゃんは、あんまり表と裏で差がないよね」
「まあ、元々ロールプレイとかやっていましたけど、最近はほとんど機能してませんからね」
「あー、それは私もだわ。全然サキュバスっぽい言動とかやってないもん」
まあ、Vtuberというのは様々なキャラクターを演じているが、別に本当にそのキャラクターになるわけでもない。
たいていは、架空のキャラクターと自身の素を各々の塩梅で両立させていく場合がほとんどである。
ナルキさんとかは挨拶とASMR以外でメイド要素はあんまりないし、ラーフェさんに至っては本当にサキュバス要素が見た目以外ない。
下ネタを言っているのはサキュバスと言えばそうなんだけど、ネタに走りすぎているのでエロというよりギャグなんだよな。
こちらも、ASMR配信の時はセンシティブなんだよね。
まあ、しろさんが怒るので口に出すことはないのだけど。
「ま、私は企業所属なのにもかかわらず、結構自由にやらせてもらってますからね」
ラーフェさんは『ア・ライブ』という事務所に所属している。
羽多さんやマオ様が所属している事務所とは違い、男女混合であることと、活動内容に対する縛りがほとんどないことが特徴だ。
少なくとも、事務所のルールやブランディングの問題から、問題なく男女コラボができるのは、がるる家の中ではがるる先生と彼女だけである。
がるる先生はどちらかというと男女問わずイラストレーターや漫画家とコラボする機会が多いらしいので自由に誰とでもコラボするラーフェさんとはまたちょっと違うのかもしれないが。
最近は、麻雀プロやプロゲーマーとコラボしたりと、本当に自由に活動している印象がある。
「しろちゃんは、結構がちがちにロールプレイしているイメージあるけどね」
確かに、しろさんは冥界に住まう女子高生、というキャラクターを崩すことは絶対にない。
シチュエーションボイスを投稿するときでさえも、女子高生であることと矛盾しないような台本を組んでボイスを出す。
他のVtuberさんでいうと、例えばナルキさんがだすシチュエーションボイスは八割がたメイドであることを無視した作品だったりする。
「私の場合、そもそも本当に高校生なので、演じているという感覚は薄いんですよね」
「え、そうなんだ。今何年生?」
そうか、ラーフェさんは知らなかったのか。
がるる先生たちは知っているはずだが、わざわざ言わなかったということだろうか。
「もう三年生です。もうすぐ卒業ですね」
「おー、そっか。じゃあ、もうすぐ自称高校生になっちゃうわけだ」
「うっ」
「なんだか、Vtuberになってから、どんどん時間が早くなっている気がするんですよ」
「ああ、なんかわかるよ」
Vtuber業界、流行の移り変わりも激しいからね。
ゲームをはじめとしたVtuberがやるようなコンテンツはどんどん移り変わっている。
それこそ『天域麻雀』をやっている人も半年前まではかなりいたが、最近はそんなにいない。
それこそ、しろさんは配信上では、もう半年以上前から全然麻雀配信をしていないらしい。
「あ、ロンです」
「あれ?ねえええええええええええ!」
しろさんの当たり牌を出したラーフェさんが、飛んでしまった。
ラーフェさんの絶叫が、スピーカーを通じて私達の脳内に響き渡った。
◇
通話とついでに麻雀も終わって。
私と文乃さんは、配信の振り返りをしながら雑談をしていた。
「さっきの話、どう思った?」
『3Dのことですか?』
「そうそれ。私にもできるかなあ」
『とりあえず、体はある程度鍛えておかないとダメかもしれませんね』
「もーまたそういうこと言うんだから」
そんなことを言いながら、文乃さんは腕を回してくる。
最近は、前にもまして文乃さんの距離が近い気がしている。
それこそ、気持ちが昂ったときにキスされることすらある。
ちなみに今も頬ずりされている。
しろさんの柔らかい頬が私の頬に押し当てられている。
感触も、熱も、直接感じ取ることはできないのに、どうしようもなくドキドキする。
「確かに、結局のところ運動はできないとな、とは思うんだよね。3Dライブとか見ても、なんというかみんな一時間動き回っててすごいなと思う」
『確かに』
しかも、3Dってなんかぴっちりとした服を着てごてごてした機械をつけているらしい。
動きやすい服でも少し動いただけでふらふらになっているので、このままでは3Dをできないだろう。
「楽しみだなあ」
「3Dがですか?」
「それもあるんだけど、未来がだよ」
「…………なるほど」
「昔ならきっとこんな風に考えることなんてなかった」
元々、しろさんは一人で生きてきた。
誰にも心を開くことができず、未来に絶望していたはずだ。
けれど、今は明確に違う。
やりたいことがある。
それを成し遂げるための手段がある。
輝かしい、たどり着きたい未来がある。
ならば、私はそれについていこう。
いつまでこうしていられるかはわからないけど。
出来る限り、傍で彼女を支え続けよう。
「こういう風に考えたのは、やっぱり君のおかげだと思うんだ」
「ねえ、ずっと一緒にいてくれる?」
『はい、ずっと一緒にいますよ』
「そっか、じゃあ今日は一緒に寝てもらおうかな?」
『えっ』
その後、数時間の間しろさんの寝息をすぐ傍で聞きながら一夜を明かしたのだった。
機械ゆえに睡眠をとることはないが、人の体であっても寝られなかったと思う。
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