転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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第三十話『歌姫と癒し手』

「世界中で、海外でソロライブ?」

 

 

 しろさんは、彼女の発言を確認した。

 それほどまでに、スケールが大きいものだったから。

 何しろ、早音グループがしろさんのために全力を尽くしてもなお実現できるのかわからないレベルのことだからだ。

 

 

「といってもね、別にデビュー当初からこんな目標を持っていたわけじゃないんだよ元々は、いろんな人に聴いてほしいなっていう漠然としたものだったし、私には海外に出ていくことなんて考えは当時は微塵もなかったからね」

「そうだったんですね」

「最初は何というか、登録者数何万人とかが目標だったかな。あと、再生数百万回超えの動画を出したかった。でも、今は多くの人が観て、聞いてくださっているわけなのでもう叶っている目標なんだ」

「夢がかなった結果、その先に新たな目標ができたんですね」

「そういうこと」

 

 

 

 まあ確かに、成功者あるあるだと思う。

 皮肉でも何でもなく本心からの言葉だ。

 もともとの目標を達成した時、人はその先を見る。

 少なくとも、私の隣にいるVtuberさんは間違いなくそういう人だ。

 ASMR企画を次々と行い、怖いと思っていたコラボを乗り越え、新衣装を得てさらなる可能性を手に入れた。

 きっと、羽多さんもVtuberとして歩む過程で、色々なものを叶えて、手にしてきたのだろう。

 登録者数百万を超えている人なんだし。

 

 

「最初はさ、事務所の方針として海外に展開していくっていうことが決まったからだったんだ」

「ほうほう」

 

 

 羽多さんのいる事務所『Volcano』は、海外のファンも取り込んでいる。

 国内と比べても、その数は決して無視できるものではない。

 というか海外の方が多い。

 元々、Vtuberの文化が根付いた当初、海外のファンはそこまで多くなかった。

 そこに目をつけて海外展開でファンを増やしたのが『Volcano』であり、海外にVtuber文化を浸透させた功労者でもある。

 さらにいえば、同じ事務所内でも、歌を重視する彼女は特に海外からの人気が高い傾向にあるようだ、とがるる家のことを調べていたしろさんから聞いた。

 

 

「それでね、ファンがたくさん増えて、国を超えていろんな人が応援してくれるようになった」

「はい」

「その時、思ったんだ。これが私の理想なんだって。国とか、そういう境界全部飛び越えて(・・・・・)歌声を伝えたいなって」

 

 

 ある意味、天使らしい、そして歌姫らしい願い。

 どこまでも、自分の歌を届けたい。

 その在り様は、少しだけしろさんに似ている。

 

 

「だから、リアルイベントを世界中でやりたい。インターネットを通じてだけじゃなくて、直に私の歌声を届けたいんだ」

 

 

 彼女は、既に東京でのリアルイベントも複数回行っている。

 だから今度は、さらにその先を目指したいのだと彼女は言う。

 

 

「そのために必要なことは、まずもっとたくさんの人に知ってもらうこと。現状、東京はともかく、それ以外だと採算が取れそうになくてね」

「そうなんですね」

「そもそも海外だと色々難しかったりもするからね」

「確かに、権利関係とかどうなるんでしょう」

 

 

 しろさんは、むむむ、と考え込む。

 かわいい。

 羽多さんが、ここで話題を変えてきた。

 

 

「しろちゃんの夢は、より多くの人をASMRで救うこと、だったっけ?」

「ええ、そうです。一人でも多くの人を癒せたらいいなって」

「確かにしろちゃんのASMRはいつも癒されるものばかりだものね」

「ありがとうございます。そのためにも、色々とやりたいことがあって、シチュエーションボイスとかをショップで売ってみたいなって今は検討してます」

 

 

【ほう】

【ガタッ】

【何だって?】

 

 

「今の私を見ている人って、U-TUBEかSNSで知ってくれてると思うんですけど、そういう音声を販売しているショップで売ったら、もっと多くの方々が聞いてくれるんじゃないかって、いろんな人を癒せるんじゃないかって思うんですよ」

「た、確かに」

 

 

 彼女の考え方は、ある意味では羽多さんと似ている。

 U-TUBEという媒体の限界。

 そこから出て、さらに自分の声を届けていきたい。

 

 

「お互い、頑張っていこうね」

「はい!」

 

 

 互いが夢を語り合い、励まし合う。

 会話の雰囲気は、非常に和やかである。

 

 

【別にいいけど、もうマッチングできないんですか?】

 

 

 ゲーム画面を除いては。

 

 

「あっ」

「ああっ」

 

 

【草】

【あっ】

 

 

 話に夢中で、完全にゲームを進める手が止まっていた。

 マッチングがいつの間にかできなくなり、画面が待機状態でとどまっている。

 なんというか、しろさん達らしいね。

 

 

「と、いうわけでオチもついたところで、配信終わりましょうか」

「うん、そうだね。話してたらあっという間に二時間経ってたね」

【確かにあっという間だった】

【この二時間で二人は何回死んだんだ?】

【数えられないだろ】

【暴言で草】

【FPSとかやるとトークがつまらなくなりがちとか言うデメリットを、こんな方法でどうにかしてくるとは思わなかった】

【トークのためにプレイスキルを捨てる。配信者の鑑】

【ないものは捨てれない定期】

 

 

 うーむ、FPS界隈からも人が来ているのか、コメントがいつもより辛らつだ。

 とはいえこれは、悪意からではなくプロレスの範囲内だろう。

 楽しんでくださっているみたいだし、悪意は感じない。 

 だからこそ、メイドさん達もBANしていないみたいだし。

 ちなみに、コメントをBANできるモデレーター権限はコラボ相手である羽多さん達にも与えられているが、彼女は彼女で自分のチャンネルのコメントを見ているため、しろさんのチャンネルのコメントは見ていないだろうからあまり関係ない。

 まあ、向こうもこちらと似たようなコメントになっているのではないか。

 

 

「さて、ここで告知をします」

「みんな、何だと思うかな?予想してみて?」

 

 

 とりあえず、しろさんのチャンネルのコメントは。

 

 

【FPSの大会に出るとか?】

【プロと組んでも勝てなさそう】

【コラボASMR配信に違いない。俺は詳しいんだ】

【両耳舐めASMR!】

【ママシチュエーションボイス!】

【何か案件でもやるのかな?】

【ASMR講座をお願いします】

 

 

 様々な要素が飛び交っていた。

 大体ASMRなのが、このチャンネルの層をものがたっているよね。

 あと、一人予想じゃなくて願望書いている人いなかったかな?

 気持ちはわかるけど。

 

 

「「せーの」」

 

 

 そういって、しろさんと羽多さんは画像を展開する。

 そこには。

 

 

【うおおおおおおおおおおお!】

【綺麗すぎる!】

【待って、ヤバくね!】

 

 

 画面に表示されているのは、一枚のきれいなイラスト。

 鮮やかなロゴと背景、なおかつ可愛らしい二人の立ち絵。

 それは、ただのイラストではない。

 それは、サムネイルである。

 

 

「私達で、歌ってみたを出すことにしました!」

「な、なんだってー」

 

 

 羽多さん、棒読みすぎます。

 曲は、一時流行っていたラブコメアニメのオープニングだ。

 しろさんは当時見ていなかったが、最近になって見始めており、原作のライトノベルも全部読み終えている。

 このオープニングを歌っているのが二人組の女性歌手であることから、決まったらしい。

 サムネイルも、アニメに若干寄せている。

 ちなみに、動画制作やサムネイル発注などは羽多さんの伝手を使った。

 あるいは、彼女なりに妹にコネクションを作りたいと思ったのかもしれない。

 

 

「今回は、本当にお世話になりました」

「いいのいいの、妹に歌動画を出すきっかけを与えられたなら全然」

「その代わり、今度ASMR教えてよ」

「はい、是非とも!」

 

 

【てぇてぇ】

【ガタッ】

【最高過ぎる予告】

【確かにしろちゃんあんまり歌わないよな】

 

 

「この後、九時からプレミア公開されます。配信終わったら、私達も一視聴者として観るので、一緒に見てくださるとうれしいです」

「URLを貼ってあるので、もう飛んでも大丈夫だよ!」

 

 

【了解!今から行きます】

【楽しみです】

 

 

「「お疲れさまでした!」」

 

 

 八時五十九分に、配信は終わった。

 

 

 その後、しろさんのチャンネルでアップされた彼女たちの歌ってみた動画はかなりの再生数を記録したのだった。

 

 

 ◇

 

 

「いやー、お疲れ様でした」

『…………』

「どうしたの?」

『え、ああ、何でもありませんよ。お疲れさまでした』




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