転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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二十九話、若干修正を入れていますので、もしよければもう一度見返していただけると嬉しいです。


第三十一話『勉強』

 コラボをしたり、歌動画を出してからしばらくたって。

 十一月に入り、秋がますます深まり実質冬なのではと思える状態になってきた。

 私は、熱い寒いというのはわからないが、外から見える景色でおおよそわかったりする。

 もう大分、木々は色づいている。

 なんなら、葉を落としているものもある。

 

 

 もう彼女は高校三年生だ。

 受験にせよ、就職にせよ、大きな転換期になる時期だ。

 多くの高校生は部活動などを引退して、受験勉強に本腰を入れるタイミングではないだろうか。

 学校の課題をやりつつも、さらなるASMRの企画を考えているのだろう。

 手が止まっているわけではないのだが、それとは別の問題がある。

 

 

『文乃さん、課題に集中しませんか?』

「え?」

『ノート、見てください』

 

 

 先ほどまで英単語などが書かれていたはずだが、いつの間にかASMR配信のアイデアが日本語で書かれている。

 文乃さん、勉強本当に苦手なんだよな。

 私も教えてはいるんだけど、如何せん全然上がらない。

 理由はわかっている。

 

 

 結局、勉強というのは大学受験程度なら反復による学習、つまり暗記で事足りる。

 逆に言おう。

 時間をかけて、手間をかけて、勉強しなくては学力は上がらず成績も当然伸びない。

 当たり前と言えば当たり前の話である。

 

 

 何か、何か文乃さんに勉強に対して興味を持ってもらうためにはどうすればいいだろうか。

 ぶっちゃけ、勉強する必要はない。

 何しろ、彼女の実家は巨木のように太い。

 彼女が進学しようが就職しようが、あるいは何もせずにニートになろうが。

 文乃さんがこれからの人生でお金に困ることは、恐らくない。

 何をしても何をしなくても、生きてはいける。

 

 

 けれど、生きていけることと生きていることは別なのだ。

 文乃さんが、裕福であってもかつて死を望んだように。

 あるいは、私が生物として生存していても、心は既に死んでいたように。

 そんな風に生きているとしたら、死んでいないをしているだけなら、きっと悲しいと思うから。

 私は、彼女に幸せであって欲しいし、幸せになって欲しい。

 モチベーションが燃え尽きないうちは、Vtuberとしての活動に邁進してほしい。

 成瀬さんや、がるる家の皆さんをはじめとして、いろんな人と仲良くしてほしい。

 家族と仲良くするか、それができなくても適切な距離を置いて接していてほしい。

 

 

 そして大学に行って、様々な世界を見てみて欲しい。

 もしかしたら、何か新しい仕事に興味を持つかもしれない。

 

 

 もしかしたら、もしか、したら。

 生涯を共にする、大切なパートナーに出会うかもしれない。

 もしかしたら、子供なんてできたりもして。

 私がいても、私が消えてしまったとしても。

 彼女の人生が、幸せなまま続いていてほしいのだ。

 いつまであるのかも、わからないから。

 まだこの世にいること自体が、不自然なことなのだから。

 

 

 そんなことを、私の個人的な感傷は全カットしつつ、大幅にぼかして私は伝えたのだが。

 

 

「これをやらないと世界が広がらないなら、私は狭いままでいいよ……」

 

 

 文乃さん、頬をぷくっと膨らませて拗ねてしまった。

 かわいい。

 うーん。

 無理に勉強させなくてもいいのだろうか。

 もちろん昔ほど多くはないが、高校を卒業してそのまま就職する人たちだってたくさんいる。

 Vtuber活動が軌道に乗っている以上、無理をさせない方がいいのだろうか。

 彼女は、一応仕事としてVtuberをやろうとしているらしい。

 大学で経営や経済を学ぶとかするのもいいのではないかと思うのだが。

 年齢差のせいか、文乃さんに対して保護者のような態度を取ってしまう時が多々ある。

 

 

「そもそも、勉強なんてしてても眠くなるだけじゃん」

『まあ、それは否定できませんけどね』

 

 

 確かに正論と言えば正論かもしれないけれども。

 それを受験生が言いだしたらもう終わりだと思うんだけど。

 いや、待てよ?

 

 

『文乃さん。ASMRをしましょう』

「ふえっ」

 

 

 文乃さんは、首をかしげて固まった。

 かわいい。

 戸惑うような声を上げて、文乃さんは口を開く。

 

 

「きょ、今日は雑談配信という予定だったんだけど。それじゃダメ?」

『いえ、今日はそれでいいです』

「あ、そうなんだ。企画系を思いついたってこと?」

『はい』

 

 

 解説系動画、というジャンルがある。

 学校の勉強、大学で学ぶような専門分野の勉強、雑学などなど解説する内容は動画やチャンネルによって違うが、体系だった知識を解説するという動画には需要がある。

 とはいえ、文乃さんにはそこまで解説できるほど詳しいものはない。

 私も同じだ。

 大学も出て、企業で働いていただけの一般人と、勉強が苦手な高校生ならそんなものである。

 もちろん、資料をまとめれば解説することはできるだろうが、それも教科書やインターネットの表層にある情報の域を出ないだろう。

 この娯楽のあふれたインターネットにおいては、簡単に埋もれてしまうはずだ。

 

 

 ただ、解説するだけならば。

 

 

 Vtuber永眠しろさんの最大コンテンツは、ASMRである。

 つまり、解説系ASMR動画をだせばいいのではないだろうかと、私は考えたのだ。

 

 

「ねえ、これって本当に私が資料をまとめないとだめなの?」

『だめです』

「本当に?」

 

 

 

『文乃さんが、しろさんが自分で資料を作成することにはいくつかメリットがあります』

「ほうほう」

『ひとつは、自分で作ったほうが手がなじむということです』

「あー、それはあるかもね」

 

 

 文乃さんが配信を行うとき、台本を作ることが多い。

 一から十まですべてを決めているというわけではないが、大まかな流れはその台本に記されている。

 そしてその台本はすべて文乃さん自身がすべて自分で作っている。

 なので、この説得は効いたようだ。

 

 

「ところで、いくつかって言ったよね、他にも理由とかがあるってこと?」

『ええ、ありますね』

 

『今回は、解説系動画です。しかし、文乃さんの感情や意思が乗っていないと、意味がありません』

 

 

 朗読というのは、ただ棒読みで終わってはいけない。

 心を込めて読むからこそ、人の心を震わせる。

 ゆえに、文乃さんが内容を完璧に理解し、把握しておく必要がある。

 また、ある程度理解していないと読み間違いをしたりする可能性もある。

 解説動画としてアップする以上、それは致命的である。

 

 

「なるほど」

「もしかして、私に勉強させるためにこの企画考えた?」

『それは違います。やらせる、なんてつもりは全くないです』

 

 

 慌てて否定する。

 私にとって、決めるのも選ぶもあくまで文乃さんであり、しろさんだ。

 彼女の思考を無理やり捻じ曲げたいとは思っていない。

 

 

『きっかけになれば、と思いまして。いろんなことに興味を持つ端緒になって欲しいんです』

 

 

 そもそも解説系動画って、たぶんそういう使い方をするのが一番正しいんだよね。

 テレビや動画、映像作品で得られる情報なんて、たかが知れている。

 大事なのは、そこから学ぶこと。

 あるいは、その動画の製作を通してそこに書かれていることの何倍も知識を深めていくこと。

 彼女の成長にきっかけになればいいと思った。

 

 

「まあいいか。私もいい企画だなって思っちゃったからね、それに」

『そ、れ、に?』

 

 

 言葉が、とっさに出てこなかった。

 

 

「どういうことであれ、君が私を思ってくれたしてくれたことならなんだって私は嬉しいよ」

『な、ら、良かったです』

 

 

 

 そういって、資料を作っている文乃さんを私はぼんやりと見守っていた。




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