転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある? 作:折本装置
「ロールプレイを本腰入れてやりたい」
『ほう』
そんなことを、文乃さんが言いだした。
いや、理由はわかる。
以前ナルキさんやラーフェさんとのコラボで出た話が原因だろう。
彼女にしても、より多くの人を救いたいという理想に沿っているそのアイデアを生かさない手はないと考えているのだろう。
その考え方は、正しい。
永眠しろさんというキャラクターの枠組みすら超えて、さらに幅広い癒しを提供することができるようになるかもしれない。
『ロールプレイ、というのは具体的にどんなことをするんですか?』
「せっかく新衣装をもらったからね、メイドのロールプレイをやりたいと思っているんだ」
『それがいいですね』
せっかく、メイド服という新衣装を獲得したのだ。
ここで使わない手はないだろう。
つまり、死神女子高生永眠しろさんではなく、ただのメイドとして配信をするというつもりのようだ。
「ただ、せっかくだからしっかり準備をしておきたくてね。少しでもクオリティを上げるために、何をすればいいと思う?」
『そうですねえ』
彼女がこうして意見を訊くのは、今に始まったことではない。
新しい何かをするとき、彼女は私に対してこうやって尋ねてくる。
だがそれは、何も私への依存を意味しない。
自分で考えて、あるいは他の友人に意見を聞いたりもして。
何より、最終的に決めるのは彼女だ。
ずっと、文乃さんは、しろさんはそうしてきた。
ともあれ、メイドか。
ある意味、文乃さんとは真逆の存在だ。
文乃さん、文字通り奉仕される側の存在だからね。
メイドをいきなり演じるというのは難しいのかもしれない。
少しだけ、考えて、私は結論を出した。
『なり切ってみるというのはどうでしょうか』
「なりきる?」
『まず、形から入るのはどうかな、と』
「ふえ?」
私の提案に、文乃さんは首をかしげた。
◇
三十分ほどして、文乃さんは戻ってきた。
「ねえ、これって本当にASMRに必要なことだよね?」
『必要ではあると思いますよ』
「本当に?君の趣味ってことじゃないんだよね?」
文乃さんは、今現在メイド服を着ている。
永眠しろさんの新衣装のような、いわゆるメイド喫茶の露出の多いコスプレ衣装とは違う。
スカートの丈が足元まである、いわゆるクラシカルメイド服である。
黒い靴、白いソックス、フリルのついたロングスカートに、白いエプロン。
上半身は、黒い長袖にフリルがあしらわれ、胸元の黒いリボンと、頭部のカチューシャが文乃さんと組み合わさることによって絶妙なかわいらしさを醸し出している。
黒と白を基調をした、清楚で厳かな服が、文乃さんの白い肌と黒い髪によく映えている。
普段来ている制服は黒と白のみというわけでは決してない。
普段着ている服も、白と黒のみという組み合わせになることはまずない。
しかし、こうしてリアルに白と黒のみの服を着られると、永眠しろさんがリアルに出てきたようにも感じられてしまう。
『すごい、本当に綺麗です』
「ふえっ、あ、うん、そうなんだ。いや、べ、別におだてられたからって嬉しくないからね!」
顔を真っ赤にされながら言われても、あんまり説得力はない。
視線もあちこちに泳いでいる。
窓、予備のダミーヘッドマイク、ベッド、床、机、天井、などを一巡りして、私の方に目を向けるも、また照れてうつむいてしまう。
なんなんだ、このかわいい生き物。
「まあ、そこまで言ってくれるなら、わざわざ借りた甲斐はあったかな」
火縄さんにお願いして、借りたものだ。
サイズが比較的近かったため、問題なく着ることができるらしい。
ちなみに、着方がわからないので、別室で着せてもらったのだそうだ。
残念なような、ほっとしたような。
もう一年以上の付き合いになるが、彼女の着替えを見たことは一度もない。
ちなみに、どうにも火縄さんの鼻息が荒かったような気がするのだが、まあ文乃さんの態度を見る限り大丈夫だったということなのだろう。
メイドさんたち、文乃さんのこと大好きだからね。
「それで、こうやって服を着ることがメイドになりきる第一歩ってことでいいのかな?」
『はい』
何事も、形からという言葉がある。
嘘偽りをもって行動していたとしても、行動を続けていればそれがいつしか本心となる、というのはよくある話だ。
いや、仕事なんてしていない人を本当に無理やり働かせたら更生した、というパターンは意外とあるんだよね。
人として正常に直ったとみるか、元々の人格が壊れたとみるかは、解釈が分かれる問題ではあるのだろうけど。
もちろん、そうならないパターンもあるから、注意が必要だ。
閑話休題。
普段着ている服ではなく、ましてやたまにしか着ない女子高生の制服でもなく、メイド服という普通なら絶対に着ないような服を着せる。
これに意味がある。
新しい服を着ることで、心機一転。
気持ちも入るはずだ。
加えて、もう一つ意味がある。
このメイド服は、スカートの丈も長く、どうしても衣擦れの音が聞こえてしまう。
だが、この場合はそれでいい。
むしろあえて立てることで、本当にメイドに奉仕されているような感覚が得られるはずなのだ。
それこそ、コスプレASMRというジャンルも世の中には存在する。
コスプレをした状態で、自分の体を映してASMRを行うのだ。
実際に、架空のキャラクターが三次元空間に現れて癒してくれているような気分になれる。
ナルキさんとかは度々やっていたりもするね。
さて、ここまで言ったはいいが、本当に効果があるのかは半信半疑だったりする。
「台本はね、まだできてないんだよね。大枠は出来てるんだけど」
『ほうほう』
文乃さんは、スマートフォンを起動し、一つのマシュマロを見せてきた。
そこには【メイド衣装の方で視聴者をお坊ちゃまと仮定して、奉仕の合間合間に刺激的なアクション入れてくるおねショタ的なやつ】と書かれていた。
「先日、マシュマロにこういうリクエストが来ていてね。せっかくだし、採用してみようと思ったんだ」
なるほど、これは確かに普段の文乃さんとはかなり違うね。
もちろん、お姉さんみやママみを前面に押し出した、視聴者を甘やかすASMR配信などすることも度々あった。
今回、特に通常と違うのは、視聴者側に役が与えられているということだ。
これまで、視聴者は視聴者だった。
視聴者代わりのマスコットとして、ダミーヘッドマイクの画像が使用されていたりもしたが、体型も、表情もない無属性の存在だったはずだ。
だが、視聴者にお坊ちゃまという属性が与えられることによって、文乃さんの演技にも幅が出る。
結構いいお題だね、これは。
『せっかくですし、ナルキさんのASMR配信を参考にしてみましょうか』
「そうだね、あとそういう音声作品とか、U-TUBEに上がっている動画なんかも見てみることにしよう」
文乃さんはそう言って、U-TUBEをスマートフォンで開いてシチュエーションボイスなどを聞き始めた。
私も、ヘッドフォンをつけて聞かせてもらっている。
「うーん、ちょっといいかな。この表現とかめちゃくちゃ良くない?」
『確かに、お姉さんものとしては鉄板ですよね』
パソコンのメモ帳に、文乃さんは良いなと思った表現をカタカタと打ち込んでいる。
『このセリフなんですが、活用できそうじゃないですか?』
「いいねえ、でもそのまんま使うよりちょっとアレンジしたほうが――」
私達は、そうやって聴きながら、話をしながら、台本を作成していった。
気が付けば、一日で台本はおおよそできあがっていた。
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