転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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第三十四話『インタビュー』

 台本の製作が完了した翌日。

 朝に雑談配信を行った後に、またしても私と文乃さんは打ち合わせを行っていた。

 またしても、彼女はメイド服を着ている。

 ちなみにだが、メイド服は何着も同じものがあるらしい。

 

「じゃあ、一回この服を着たままリハーサルをしてみようか」

『そうですね』

 

 

 その後、文乃さんと、一時間ほどリハーサルを行った。

 

 

「さて、どうかな」

『最高でした』

「んっ、も、もうまたそういうことばかり」

 

 

 文乃さんは、またしても顔がリンゴのようになる。

 かわいい。

 好きですよ。

 そんな風に言いそうになって、あわててストップをかけた。 

 ともかく、文乃さんは概ね完成していると言える。

 

 

「メイドかあ」

「いや、常々思ったんだけどね、私から見たメイドと、普通の人から見たメイドって差異があるんじゃないかって気になってね」

『と、言いますと?』

「普通の人にとってはさ、メイドって実際に見ることはないわけじゃない。メイド喫茶とかいうお店に行けばみられるかもしれないけど、コスプレじゃなくて本当のメイドを見ることはまずない」

『ああ、なるほど』

 

 

 私には、彼女の言いたいことが分かった。

 文乃さんと私がいる早音家にはメイドさんをはじめとした使用人がいる。

 私は行ったことがないのだが、別荘を管理している者達を含めると、使用人の数は膨大になるらしい。

 ちなみに、文乃さんはほとんど使っていないそうだ。

 まあ家を出るのが嫌なんだよね。元々、私とでないと、あんまり出たがらないという。

 最近は、二か月に一度の登校くらいかな。 

 あと、オフで他のVtuberさんとご飯食べに行っている時くらい。

 閑話休題。

 

 

 ともかく、文乃さんにとって職業メイドというのはコンビニ店員並みに身近なものなのだ。

 だが、かつての私のような人間はどうか。

 メイドというものを、フィクションでしか知らないという人も多いだろう。

 少なくとも、巨大な屋敷で働いているメイドさんという構図を直で見る人はまずいないだろう。

 なので、文乃さんの中で一般的なイメージと、文乃さんの中の記憶をすり合わせる必要があったようだ。

 確かに、そういうのは大事だよね。

 自分の中のイメージと、世間一般のイメージが違った場合すり合わせる必要が出てくる。

 私で言えば、家族だろうね。

 親が学費を出している、というのがぴんと来なかった。

 お金を出してもらうどころか徴収されるような環境に育つと、そうなるんだよね。

 今になって思うと、義務教育以降の学費を払うのはともかく、バイト代を徴収するのは流石にダメだよなあと。

 私まだ未成年だったからね。

 またしても脱線してしまったな。

 

 

『それなら、色々訊いてみたらどうですか?』

「というと?」

『本職の方とか、本職じゃない方とかがいらっしゃるじゃありませんか』

「あっ」

 

 

 ◇

 

 

 文乃さんがメッセージで呼び出してから、わずか五分後、文乃さんの部屋には一人の女性が座っていた。

 セミロングほどに伸ばした髪を、後ろで二つくくっている。

 ツインテールというには長さが足りないが、個人的にはこういう髪型のほうが好きだ。

 

 

「なるほど!それで私が呼ばれたんですね!」

 

 

 火縄イアさん。

 文乃さん直属のメイドさんである。

 彼女はかわいいものが好きらしく、それに伴って当然文乃さんのことも好き。

 

 

 この部屋に入ってきたから鼻息が荒い気がする。

 あと、目が血走っているような気もする。

 この人、本当に大丈夫だよな?

 あと、なんでか知らないけど、この人私に対して敵意あるんだよね。

 そこまで強いものじゃないから、放置しても問題ないと思うんだけど。

 文乃さんを介してしか私を観測できないはずなのに。

 それだけ、文乃さんが彼女の中で優先度合いが高いということでもある。

 彼女の仕事は、文乃さんのメンタルケア。

 なので、イマジナリーフレンドにしか見えない私は治さなければならない(消さねばならない)存在でもあるからなあ。

 私が言うのもなんだけど、文乃さんってびっくりするくらい周りから愛されてるよね。

 

 

「改めて、今回は時間を取ってもらってありがとう」

「お任せください、お二人の分まで頑張りますよ」

 

 

 ちなみに、氷室さんと雷土さんはここにはいない。

 単純に、各々の仕事で忙しいのだろう。

 SNSのチェック、切り抜き動画やサムネイルの作成、スケジュールの調整など彼女達の仕事は多岐にわたる。

 こうして文乃さんから緊急な呼び出しがかかることも考えると、本当に三人で回せているのが不思議なくらいである。

 最近は給金の額も上がっているらしい。

 それもあって、まだ案件や広告収入のみで三人を雇うのは難しいようだ。

 ……まあ、機材周りの値段も高いし、さらにいえば永眠しろさんの配信って、半分くらいASMRなので広告収入はあんまり入らないんだよね。

 どちらかと言えば企業案件による収入と視聴者から送られるスーパーチャットなどが収入源であり、変動が激しいのもある。

 早音グループから企業案件をもらうことで安定しかけてはいるが、まだビジネスとしては永眠しろさんは発展途上なのである。

 ともあれ、今は質問というか、取材をするのが先だ。

 メイドの心構え、あるいは意識していることを文乃さんは火縄さんに尋ねた。

 

 

「うーん、メイドの心構え、ですか」

「ごめんなさいね、変なことを訊いてしまって」

「いやいや、それは別にいいんですけど、正直私の場合は普通のメイドとは違いますからね。お役に立てるかわからないです」

「まあ、パソコンでの作業が主だもんね、三人とも」

「そうなんですよ」

 

 

 確かに、メイドさんと言えば家事を手伝う、いわば家政婦としての役割が本来の姿だ。

 文乃さん直属のメイド三人は、いろんな意味で特殊な存在ではあるんだよね。

 だって、切り抜き動画やサムネイルなんてメイドさんがやる仕事ではないからなあ。

 ある意味、コスプレしながら仕事しているのに近い。

 

 

「でも一つ思うのは、雇用主に恵まれたなって思ってますよ」

「そうですか?」

「ええ、条件がいいのはもちろんですけど、お嬢様は優しいですし、何よりとってもかわいいので、本当にここで働けて良かったと思ってます。お嬢様が、雇用主でよかったと」

「……それだ」

「え?」

 

 

 どうやら、欠けていたものが完全に埋まったみたいだね。

 文乃さんの目が、普段と違う。

 ヘッドホンをつけた時、ゾーンに入っている時の目に近い。

 

 

「あの、力になれましたかね?」

「うん、ありがとう。そういえば、何かしてほしいことってあるのかな?」

「はい?」

 

 

 火縄さんは戸惑ったような顔をした。

 

 

「いや、いつも色々やってもらってるからね。何か、してほしいことがあるのなら

「じゃ、じゃあ、一緒にお風呂に入ってもよろしいですか?」

「そんなことでいいなら、別にいいけど」

「いいの?あ、いやいいんですか?」

 

 

 あれ、これ流れがよくないな。

 このままだと、何だか文乃さんがよくないことになる気がする。

 もちろん同性だから、特に問題があるわけでもないんだろうが。

 なんか、火縄さん目が血走っているような気がしているんだよね。

 

 

「じゃあ、今すぐお風呂に入りましょう、お嬢様!」

「うん、今すぐ?」

『文乃さん、ちょっとさすがにやめておいた方がいいですよ、身の危険を感じます』

「身の危険?」

 

 

 すでに、火縄さんはギリギリまで顔を近づけて、鼻息荒く迫っている。

 あと文乃さん、もう私との会話を隠す気なくなってませんか?

 まあ、そもそも前から盗聴器とかで会話を聞かれることは散々あったけどね。

 カラオケデートなんかは、文乃さんが私に話しかけている声、全部聞いているはずだし。

 

 

「何をしているのかと思えば、一体何を迫っているのですか?」

 

 

 氷のように、冷たい声が室内に響き渡る。

 がちゃり、とドアが開いて、すたすたと氷室さんが入ってきてがっちりと火縄さんの方を掴む。

 そのすぐあとから、雷土さんも入ってくる。

 

 

「いやあのですね」

「正座」

「あのー」

「「正座」」

「あっはい」

 

 

 先輩二人の圧に負けたのか、渋々といった様子で火縄さんは正座した。

 まあ、三人とも愛の深さゆえの行動だからね。

 ちょっと自重したほうがいい人もいそうだけど。

 

 

「うーん、別にみんな相手なら抵抗ないけどね、着付けとかもお願いしているわけだし」

 

 

 当然なのだが、私は人の心が読めると言っても、全てが見えるわけではない。

 むしろ、何を考えているのかを大まかに察しているにすぎないのだ。

 なにが言いたいかというと、着付けの際の映像記憶までは見れないわけで。

 もちろん見れたらダメなので、それでいいのだけれど。

 

 

「じゃあ、せっかくですし、ここにいる四人で一緒に入ることにしましょう。イアさんも、異論はありませんね?」

「うおー!楽しそうですね!」

「うえっ、いいんですかあ!みんなの裸体が見れるなんて、最高です」

「いいですね。四人の方が楽しそう」

 

 

 そういって、文乃さんたちは部屋を出ていった。

 文乃さんが普段使う浴槽は、数人が同時に入れるくらいのスペースはあるらしいと、文乃さんや成瀬さんから以前聞いた。

 私はマイクに転生したことに対して、嫌悪感や忌避感は一切抱いていない。

 むしろ、文乃さんのダミーヘッドマイクに転生することができて、本当に良かったと思っている。

 だがしかし、この瞬間だけは。

 

 

『私も……見たいっ』

 

 

 女性に転生できなかったことを、心から後悔した。

 いや別に、自分の意志で転生を決められるわけじゃなかったんだけども。

 

 

 まあ、それはともかくとして。

 あの三人が、文乃さんのメイドでよかったな、とは思うよね。

 




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