転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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第十八話『はじめての動画収録』

 その日は、朝からどたばたと忙しかった。

 初めての、動画撮影。

 しろさんは、いつもよりさらに早く起きていた。

 さらに、その日は珍しくメイドさんが三人まとめて来た。

 文乃さんが、メイドさんたちを入れることはほとんどない。

 食事などができても、部屋の中に入れず、手前に置いておかせるだけ。

 そんなレベルである。

 

 

 例外は、二つ。

 

 

 一つは、掃除。

 文乃さんの部屋は大きい。

 そこらの学校の教室と同じか、それより広いかもしれない。 

 そんなもの、文乃さん一人で掃除できるはずがない。

 まして、私を含めた精密機械も多数置かれている。

 必然的に、求められる掃除のレベルだって上がっているのだ。

 当然、メイドさんたちがやるしかない。

 因みに、メイドさんたちが掃除しに来ているあいだ、文乃さんはたいていお風呂に入っている。

 というか、彼女がお風呂に入る時間に来るよう、メイドさんたちに文乃さん自身が指示を出しているらしい。

 閑話休題。

 

 

 二つ目は、機械のトラブルの解決。

 どういうわけか、機械の調子が悪く、うまく配信ができないということが度々ある。

 あるいは、そもそも文乃さんが機械の扱いを間違えていることもある。

 そういう時、彼女にアドバイスをしたり、機械を直したりするのも、メイドさんの役割だそうだ。

 私は、現代日本のメイド事情に明るくないのでよくわからないが、最近はこういったことまで求められるのだろうか。

 かなり、少数派な気はするのだけれど。

 因みに、私を設置した時もそれに当たる。

 そういえば、メイドさんたち、あの時文乃さんが帰ってくるまでの間に作業を終わらせていたな。

 あれも、そうするように指示が出ていたのだろうか。

 よっぽど、顔を合わせたくないということだろうか。

 まあ、人づきあいが得意なタイプではないだろうしね。

 ともかく、今日に関してはその二つ目だ。

 

 

 何しろ、初めての動画収録だ。

 色々と準備することがあるらしい。

  

 

 

 まず、メイドさんたちが運んできたのは(こと)だった。

 ずいぶん大きい。

 人の背丈ほどもあるだろうか。

 とはいえ、世の中にはパイプオルガンとかいう文字通り家屋サイズの楽器もあるのであまり深く考えない方がいいかもしれない。

 

 

 初めて音楽の教科書で見た時は、何かの間違いじゃないかと思った記憶がある。

 琴を直接見るのは初めてだが、原理自体はそう珍しいものではない。

 弦楽器の一種であり、ぴんと張られた弦を、爪という装着具ではじくことによって音を出す。

 弦の太さや、長さなどによって音色を調節する。

 それだけ聞いていると、ギターに似ているなと思う。

 琴の特徴は、中央にあるブリッジと呼ばれるものではじく弦の長さを、ひいては音の高さを調節できることにあるらしい。

 ということを、文乃さんから聞かされて私は知った。

 流石に、幼少期からやってきたというだけのことはある。

 

 

 さて、なぜ私がこんな風に長々と考え事をしているのか。

 それは、端的に言えば、暇つぶしである。

 

 

「お嬢様、大変よくお似合いですよ」

「ありがとう。それじゃあ、また収録が終わったら呼ぶね」

「はい、何かあれば、いつでもお言いつけください」

 

 

 メイドさんたちが、全ての用事を終えて出ていった。

 先ほども言ったが、今回文乃さんがメイドさんたちを部屋に入れたのは動画を収録するための準備である。

 琴の運搬。

 機材の調整。

 そして、もう一つ。

 

 

「はい、もういいよ」

 

 

 そこまで考えたところで、私の思考は百八十度回転させられた視界ごと、現実に戻される。

 やったのは、文乃さんだ。

 そのはずだ。

 

 

『…………』

「どうかしたの?」

『いやあの、本当に文乃さんですか?』

「それはどういうことかなあ!」

 

 

 何か勘違いしているらしく、むっとしている文乃さんを目にしても私には弁明をしている余裕はなかった。

 赤を基調とした、花の文様があちこちに入った着物で、帯はクリーム色。

 足には、白い足袋を履いている。

 それが、彼女のつやのある黒髪と、透き通るように白い肌にはよく似合っている。

 髪は、ボブカットを一つ結びにして、かんざしを挿している。

 いわゆる、和風の美人のテンプレートがそこにあった。

 はっきり言って、めちゃくちゃかわいいし、綺麗だと思った。

 

 

『き』

「き?」

『着付け結構時間がかかったんですかね?』

「そうだね。まあでも、雷土さんが頑張ってくれたから、結構早く終わった方かな。私一人ではできないことだしね」

 

 

 そう、着替えをしてたから、顔の向き変えてもらってたんだよね。

 メイドさんたちは不思議そうな顔をしていたけど、彼女が「謎のこだわり」でごり押したらしい。

 私や文乃さんからすれば、「異性に着替えを見られたくない」という当然の心理だと分かるんだが、メイドさんにそれを言っても理解されるわけないしなあ。

 

 

「じゃあ、はじめるよ」

『了解です』

 

 

 しろさんは、機械のスイッチを押して、録音を開始した。

 

 

「こんにちながねむ。永眠しろです。今日は、琴を弾くASMRをやっていきますね。正直ちょっと自信がなかったので、今回は動画での収録となっています」

 

 

 そんな挨拶をして、琴に手をかける。

 因みに、今日の彼女はなぜか着物を着ている。

 桜色をベースとした、花柄をあしらった着物。

 彼女は、あまり動きづらい服は好んでいない。

 部屋では普段、ゆったりした服を着ていることが多い。

 昼までパジャマを着て、風呂に入った後はまた別のパジャマを着ているということも珍しくはない。

 なので、きっちりした服装というのは制服くらいだったのだ。

 だがしかし、今の彼女は。

着物を着て、琴の前に正座しているしろさんは、まるで一枚の絵画のように見えた。

 清楚で、気品があり、美しい。

 

 

「じゃあ、何曲か弾いていこうかな」

 

 

 彼女が弾いたのは、桜をテーマにした、曲だそうだ。

 少なくとも、事前に彼女からそう聞いていた。

 音としては、学校で弾かされたことのあるアコースティックギターに近いように思える。

 どちらも弦楽器だから、当たり前か。

 多分厳密には違うのだろうけど、少なくともそこまで繊細には聞き分けられない。

 はるか昔の、記憶だからね。

 けれど、はっきりとわかる。

 和の雰囲気をまとった彼女が、弾いている琴の音色は。

 私の弾いていたギターなどとは、比べ物にならない。

 川の流れるような音が、はらはらと散る桜を連想させるような曲調が。

 着物を着て、ただ一生懸命に弾いている彼女の真剣な顔つきが。

 ただただ、全てが美しかった。

 光を見た。

 恵まれた家に生まれ、同時に優れた強者であることを求められた。

 それ故に、磨き、磨かれた。

 彼女の強者としての修練の果てが、そこにはあった。

 ぽろん、ぽろんという琴の音はまさに和風そのものだ。

 

 

『…………』

「はい、これで一曲目終わりです。次の曲に行かせてもらうね」

 

 

 それから、彼女は一時間ほど弾いていた。

 曲名は、わからない。

 何をモチーフにしているのかもわからない。

 けれども、ぼんやりと思い浮かぶ。

 緑の木々に覆われた、里山が。

 はらはらと散る、紅葉が。

 あるいは、瓦屋根にしんしんと降り積もる雪が。

 そういうイメージが脳内にあふれてくる。

 

 

 何曲かひいて、収録は終わった。

 

 

 ◇

 

 

「どうだった?」

 

 

 しろさんは、着物を着たまま目を輝かせて感想を求めてくる。

 素直に答えることにした。

 

 

 

『とても、綺麗でしたよ。しろさん』

「ふえっ」

 

 

 ぽん、と顔を着物と同じ色に染めて、彼女は目を逸らした。

 あれ待って、何か誤解されてませんか?

 

 

「な、何を言ってるの!私の着物の話じゃなくて、演奏がどうだったかってことだよ?」

『ええ、ですから演奏が綺麗だったなと』

「ああ、うんそっかそっか」

『でも、それはそれとしてしろさんの着物姿も綺麗だったと思いますよ』

「だ、だから、そういうこと言うのがよくないんだって!絶対君前世ではプレイボーイだったでしょ!」

『いやそんなことはないですよ、本当のことを言ってるだけですし』

 

 

 そもそも、以前にも言ったような気がするのだが私には女性経験はない。

 というか、ぶっちゃけこれは私が手馴れているのではなく、彼女が慣れてないだけなんだと思う。

 免疫なさすぎじゃない?

 正直、女子校から女子大に行った女性よりも免疫が薄い気がする。

 将来が心配だよ、私は。

 

 




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