転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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第二十六話『コラボするのかしないのか』

【そう言えば、誰かとコラボする予定はあるの?】

 

 

 ある日、しろさんがいつものように雑談配信をしていると、こんなコメントが流れてきた。

 こういうコメントは初めてではない。

 時折、目に入ってくる。

 

 

 コラボ、正確な名称をコラボ配信という。

 それはVtuberという職業において、一般的に他のVtuberさんと一緒に配信を行うことを指す。

 

 

 基本的には、通話アプリで通話しながら配信を行うのがスタンダードとなっている。

 つまり、web会議を配信に乗せるようなものだ。

 ちなみに、直接会って一か所のスタジオからコラボをするオフコラボという手段もあるが、それはひとまず置いておく。

 

 

 コラボ配信には、メリットとデメリットがある。

 まずはメリットだが、単純に新たな視聴者層の獲得である。

 似たような活動をしていても、全く視聴者が百パーセント被っているということは基本的にあり得ない。

 それゆえに、お互いのファンが知らなかったVtuberを知り、それをきっかけにファンになる可能性がある。

 そういう、数字的な意味合いが強い。

 もう一つは、出来ることの幅が広がる。

 例えば、ゲーム実況配信で言えば、ソロだとソロプレイしかできない。

 だが、Vtuber同士でコラボすれば、複数の人間による対戦や協力プレイなどをすることができる。

 また、雑談コラボも、視聴者と配信者で向かい合うという状態から、配信者と配信者の会話を視聴者が楽しむというコンテンツへと変化する。

 つまり、ソロ配信では実現できないことを実現できるのが、第二のメリットでもある。

 

 

 もちろん、デメリットもある。

 それは、配信が視聴者との会話ではなくコラボ相手との会話になってしまうということ。

 メリットでもあるが、視聴者と配信者のやり取りを望む視聴者からすれば、寂しい気持ちもある。

 それに加えて、コラボするということは相手や相手の視聴者との間に何かしらのトラブルが起きる可能性もある。

 中には、配信者同士は特に問題がないのに、その視聴者同士でトラブルを起こしてしまうということまである。

 私もあまりよく知らないのだが、そういう人たちを厄介ファンなどというそうだ。

 結論を言えば、コラボ配信とは通常の配信とは全く別のコンテンツであり、メリットとデメリットが混在している。

 ゆえに、コラボをするならメリットとデメリットを天秤にかけて、実行するかを各人で判断しなくてはならない。

 

 

「うーん」

 

 

 

 永眠しろさんが、Vtuberとしてデビューしてから三か月ほどが経った。

 そんな三ヵ月で行ってきた配信の中には、コラボ配信は一度もない。

 私の知る限り、彼女がコラボをする予定を立てているという話は聞かない。

 

 

 彼女はあるていど、私に今後の配信の計画を話してくれている。

 といっても、あくまでも今後どのようなASMRをやっていくかという話し合いや、雑談のネタだし程度だ。

 まあネタといっても、大抵は一緒にアニメを見るくらいなのだけれどね。

 一日の大半が、そういうネタ探しを兼ねた娯楽の享受だからね。

 

 

「いやあ、コラボのお誘い自体がこないんだよねえ」

 

 

【ああ、まあそういうこともある】

【そもそも企業に所属してない個人勢は積極的にいかないとコラボない気がする】

 

 

「うっ、それは、まあそうなんだけどね。ちゃんと、自分からコラボを申し込まない理由はちゃんとあるんだよ」

 

 

【ほう】

【聞きましょう】

【そういう裏事情的なこと、普段聞けないから助かる】

 

 

 そういえば、私もコラボ云々については、聞いたことがなかった。

 彼女が、コラボ配信を話題に出したことはなかった。

 なので、私もコラボについて触れることはしなかった。

 が、せっかくコラボの話題になった以上、コラボ配信に消極的な理由は聞いておきたい。

 

 

「うん、まあ結論から言うと、コラボって何話せばいいのかわからないんだよね」

『…………』

 

 

 うん、まあそんなことだろうとは思ったよ。

 しろさん、人とのコミュニケーションが得意な方じゃないからな。

 自分から、誰かに話しかけに行くようなタイプではないはずだ。

 

 

【あっ(察し)】

【これがコミュ障ってやつか……】

【おいよせ】

【陰キャのことしろちゃんっていうのやめろよな!】

 

 

 視聴者のコメントもおおむね似たようなもの。

 雑談配信では、彼女は概ね素でしゃべっている。

 だから、彼女がコミュニケーションが苦手であることも、人間関係に乏しいこともみんな察しているのだ。

 それが悲しいことなのか、あるいは正しいのことなのか。

 

 

「おいおいおい、君達は私がコミュ障陰キャだからコラボができないとでも?まあそれは間違いないけどね」

 

 

【草】

【あのさあ】

 

 

 えへん、と彼女が咳払いをして流れを変えた。

 かわいい。

 

 

「まあでも、それだけではないんだよ。なんというか、私は普段リスナーと一対一で向き合う配信ばかりしているからね。コラボをするのが需要に沿っているとは思えないんだよね」

 

 

【あー】

【確かにコラボばっかりになったらあんまり聞きに行く意味はないかも】

【雑談とかも面白いけど、ASMRがしろタソのメインコンテンツだもんね】

【ASMR主体の人はコラボと相性悪いんかもしれんね】

【ASMRコラボとかいいかも?】

 

 

 まあ、間違いないな。

 永眠しろというVtuberはその根本的な活動理念からして、耳を癒してあげたいという思いゆえに、活動はASMRを軸としている。

 彼女のASMR配信は基本的には視聴者を音でいやすことが目的として規定されており、視聴者に語りかけるようなものが多い。

 そういう距離間の近さこそが強みである。

彼女がコラボ配信をすると、その強みを殺しかねないのだ。

 

 

「まあ、そんなわけで今のところコラボする予定とかは特にないです。ただ、今後コラボする可能性も全然あるからコラボNGとかではないですよ、とだけ」

 

 

【了解】

【真面目な話になると敬語になるの助かる】

【まあ、結局はしろちゃんの好きなようにするのが正解だからね】

 

 

「まあ、一人で活動しているさびしさがないわけじゃあないけどね、一人にはもともと慣れてるから」

『…………』

 

 

 私は、彼女の交友関係を知らない。

 この部屋以外で彼女がどのような生活を送っているのか知らない。

 彼女がVtuberになる以前に、どのような生活を送っていたのかも知らない。

 けれど、一つ確かなこともある。

 高校生であり、金持ちの家に生まれながら自殺しようとしたこと。

 そして、あっさりと通信制の高校に転校し、それを何とも思っていないこと。

 少なくとも、彼女の心の支えになる友人や恩師はいなかったのだろう。

 付け加えれば、彼女は使用人たちとも距離をとっている気がする。

 ここ三か月、文乃さんは滅多にメイドさん達をこの部屋に入れていない。

 せいぜいで、機材トラブルが起きた時だけだ。

 

 

 さらに言えば、彼女は家族との仲もいいとは思えない。

 彼女と関わり始めて、もう二か月になるが、彼女が家族と会っていたことを見たことがない。

 別に、両親が海外を飛び回っているとかではないらしい。普通に同じ家に住んでいる。

 だというのに、彼女は会おうともしないし連絡を取ろうともしていない。

 なんなら、一度メイドさんにも苦言を呈されていたのを見たことがあるが、彼女は取り合わなかった。

 

 

 結論を述べれば、彼女には心の支えになりえる人物がない。

 あるいは、私が少しでもその一助になれればいいのだが、そういうわけにもいくまい。

 そもそも、私で事足りるのであれば、リスナーのみでもいいはずである。

 

 

 一番、友人になりえる可能性があるのは他のVtuberさんである。

 同じ業種というだけあって、話題も尽きないだろうし。

 やはり、コラボなどを行って、他のVtuberさんなどとお友達になることが重要ではあるまいか。

 一度、私からも提案してみるかと思い立った。




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