転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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第四十五話『見えざる手』

 私の思いのたけをぶちまけられて、文乃さんはふらふらと椅子に腰かける。

 そして、改めて私の顔を見る。

 彼女の表情は、泣きたいような、呆れているような顔だった。

 

 

「……本当に、君にはかなわないなあ、初めて会った時からさ」

『それ、どっちの話してます?』

 

 

 私が人間としてであったときであろうか、それともバイノーラルマイクになったときであろうか。

 それには答えず、文乃さんは言葉を紡ぐ。

 

 

「私が手を引かれた時、ぼろぼろ泣いたの、覚えてる?」

『ええ、覚えてますよ』

 

 

 人だったころの最後の記憶。

 生前の記憶はほとんどないが、あの光景だけははっきりと覚えている。

 あんなに美しくて、もの悲しい光景を私は他に記憶していない。

 きっと、壊れるまで忘れられない。

 

 

「あの時、嬉しくて泣いたんだよ。手を引いて、生かそうとしてくれる人がいるんだって。生きて欲しいと望んでくれる人がいるんだって。そしたら、私、何をしてるんだろうって思えてそれで……」

『そうだったんですね』

 

 

 あの時彼女から、勘で虚しさの感情をくみ取っていた。

 けれど、その理由まではわからなかった。

 私の死など関係なく、彼女の心を救えていたというならそれはそれでよかったと思う。

 彼女に、そして生前の私に必要なのはきっと、味方だったんだと思う。

 辛いことがあった時に、なにも幸せなことがないと思った時に。

 手を握って、言葉をかけて、つなぎとめてくれる人が。

 隣に居てくれる人が、必要だったんだと、それを達成した今なら理解できる。

 

 

「けど、君が死んで、苦痛を負ったのは事実だから。それは言いたくなかったんだよ」

『うーん、ぶっちゃけそれについてはよく覚えてないんですよね。痛いとか苦しいとか、感じたのかもしれないですけど覚えてないです』

「あ、ああそうなんだ」

 

 

 一瞬のことだったしね。

 まあ、実際のところはわからない。

 もしかしたら、転生の影響で記憶が飛んでいるだけかもしれないし。

 本来、人が死ぬべきでないのは事実だ。

 

 

 彼女の話によれば、賠償金は立て替えてくれたようだが、結果としてそれだけ様々な人に迷惑をかけてしまったのである。

 ああいう賠償金は一億を超えるとも聞く。

 ともすれば、田舎にいた父親などに迷惑が掛かっていた可能性もある。

 そもそも、乗客や鉄道会社にそれだけの迷惑をかけていることも含めて度し難い。

 だが、正直彼女を助けようとしたことに後悔はない。

 

 

 結果論として金銭的な負荷は比較的穏当に収まったようだし、私が死んだこと自体は取るに足らない事象でしかない。

 彼女が死んでいれば死んでいたで、乗客や鉄道会社には同じだけ(・・・・)の迷惑が掛かっていたはず。

 だから、あの選択に間違いはないと断言できる。

 

 

 

『貴方が辛いと感じるなら、声をかけます。嫌なことがあったら、話を聞きます。寂しくなったら、愛してるって伝えます。全力で、できる限りのサポートはします』

「もういい」

 

 

 それは、言葉だけ聞けば拒絶の意志で。

 でも、声色と勘は、そうではないと告げている。

 

 

「……完敗だ。君がそこまで言ってくれるなら、Vtuberはやめないよ」

『それは、よかったです。危うく日々の糧を失うところでした』

「またそうやって……。適当なことばかり言っちゃってさ」

『いえ、本心から言ってますよ』

「ふえっ」

 

 

 

 とんでもない声を出して、再び立ち上がる文乃さん。かわいい。

 こほん、と咳ばらいをして真面目な顔になる。

 

 

「じゃあ、Vtuberとして活動をする上で、君に条件を一つ出したいんだけど、いい?」

『ええ、私に出来ることなら、何でも呑みますよ』

「即答だね。早くない?」

『迷う必要がないですから』

 

 

 社会人時代の癖か、あるいは文乃さんへの愛情ゆえか。

 ともかく、それで文乃さんが活動を続けてくれるのであれば私の方に断る理由はない。

 さて、どんな条件を突き付けてくるのか。

 百メートルを十秒台で走れ、みたいな無理難題じゃなければいいけど。

 私、足ないし。

 

 

 文乃さんは、迷っているかのように口をもごもごとさせる。

 顔も、先ほど私の告白を聞いた時よりもう一段赤くなる。

 が、意を決したのか私を見て口を開く。

 

 

「ま、毎日私に、好きとか愛してるって言ってほしい」

『……はい?』

 

 

 今なんて?

 

 

『何でですか?』

「君にそう言われると、頑張れる気がするというか……元気が出る気がするんだ」

『…………』

 

 

 文乃さん、頭がいい方だと思っていたが、もしかするとそんなことはないんじゃないだろうか。

 むしろ、ちょっと頭が足りないのではあるまいか。

 だって、その発言はもう。

 そういう意思表示に等しいよ。

 多分当人気づいてないけど。

 と、そんな私の戸惑いを拒絶と解釈したのか、文乃さんはおろおろし始める。

 

 

「あ、あの嫌なら無理にとは」

『いや全然いうのはいいですけど』

「そうなの?」

『まあ本当のことですし』

「そ、そっかあ。えへへ……」

 

 

 文乃さんは、顔をふにゃり、と緩めて笑う。

 本当にかわいいな、この人は。

 

 

 

『ちなみになんですけど、一つ訊いておきたいことがあるんですけど、よろしいですか?』

「え、まあこの際何でも好きなことを尋ねればいいとは思うけれど」

 

 

 文乃さんは、特に何も考えずに、了承した。

 どんな質問が来るのか、全く予想していないのだろう。

 まあ、もうお互いの過去について奥深くまで踏み込んだ身だ。

 隠すことなど、なにもありはしない。

 

 

 

『文乃さんは、私のこと、どう思ってるんですか?』

「ふえ?」

 

 

 文乃さんは、今度こそ完全なるトマトになった。

 湯気が頭から出そうになっている。

 大きくてきれいな目をいっぱいに見開いて明らかに動揺している。

 

 

「な、何でそんなことを訊くんだい?」

『いえ、私が文乃さんをどう思っているかは話しましたよね?だったら今度は文乃さんが私についてどう思っているのかを訊いておきたいなあって』

 

 

 無論、悪く思われているとは思っていない。

 プラスの感情を向けられているのはこれまでの言動や、勘でわかっている。

 だが、それはそれとして私が本心を口にした以上、彼女の気持ちも彼女の口から聞いておきたいのだ。

 そうじゃないと、不平等な気がするので。

 

 

「そ、それはそのだね」

 

 

 視線が、ドアの方を向く。

 

 

「きゅ、急用を思い出した!」

 

 

 そういって、文乃さんはドアを開けて部屋を出ていった。

 嘘だろうね。

 まあ、ただの勘だけど。

 ちょっとからかうぐらいのつもりだったんだけど、やりすぎてしまっただろうか。

 

 

 明後日、一応半年記念なんだけどなあ。

 まあ、大丈夫か。

 彼女は、活動を続けてくれると約束した。

 であれば、私はそれを信じるべきだろう。




次回は、半年記念配信です。


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