転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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第四十六話『感謝の半年記念』

 

 半年記念。

 それは、配信者にとって一つの節目である。

 一年の半分というわけではない。

 年という単位における最小だからだ。

 たとえば、三ヵ月記念と表現することはあっても、それを四分の一周年と表現することはまずありえない。

 生え代わりの激しいVtuber業界において、一年という超巨大イベント。

 その手前にある、半年記念。

 それは、一つの壁でもある。

 体調、メンタル、モチベーション、仕事の都合、生活環境の大幅な変化などで多くのVtuberが半年記念を祝われることなく去っていった。

 さて、半年記念直前に、活動を始めてから二、三日ほど、初めて配信を休んでいた永眠しろというVtuber。

 SNSにも動きがなかったため、ファンたちは半年記念が大丈夫なのかと、あるいはこのまま失踪してしまうのではないかと不安がっていたようだった。

 というのは、当日になってからSNSをいじり始めた文乃さんから聞いていた話である。

 

 

 が、半年記念当日に、「半年記念」というでかでかとした文字のサムネイルとアップになった永眠しろの顔が出ているという告知が出てからファンの不安は収まった。

 因みに、配信時間は10時。

 ふだん、しろさんがASMR配信を行う時間である。

 ASMR配信は彼女のメインコンテンツであり、もっとも彼女の視聴者が集まってくる時間帯に記念配信を実行するのは正しいと言える。

 

 

『というか、どうするんですか?具体的に何をするんですか?』

「もちろん、ASMRだよ」

『ああ、なるほどですね』

 

 

 確かに、彼女は、永眠しろは特にASMRというジャンルで伸びたVtuberである。

 半年という記念を飾るにはこれ以上ない存在である。

 ただ、事前に聞いていた振り返りや歌枠などといったリクエストには応えられなくなってしまう。

 

 

「いやいや、何を言っているんだい?全部やるよ?」

『……はい?』

 

 

 いや、振り返りならまだわかる。

 ダミーヘッドマイクを生かしたバイノーラル雑談という配信もあるし、そういう話題の中で振り返りをしてもいいだろう。

 だが、歌枠とかはどうやっても不可能ではあるまいか。

 そんなことを言うと、しろさんは可愛いドヤ顔で秘策があるといった。

 私は、秘策が何かわからなかったが、取り敢えず楽しみにすることにした。

 

 

 

 ◇

 

 

「こんばんはあ」

 

 

【こんばんは】

【きちゃ!】

【半年記念おめでとう!¥2000】

【うおおおおおおお!¥50000】

 

 

 

「今日は、半年記念配信です。私らしい記念配信をしたいので、全編ASMRでやっていくね。また、今回も例のごとくアーカイブで広告はつけないよ。あと、スーパーチャットもいつも通り別の雑談枠で読ませてもらうね」

 

 

 

【了解】

【毎度ASMRは広告抜きにしてくれるの助かる】

【申し訳ないので、視聴料とお友達代払っとくね¥5000】

 

 

 

「じゃあ、今回はどういったASMRをやっていくかなんですけど、とりあえず初配信の振り返りからしていきますね」

 

 

【はい?】

【今なんて?】

【ちょっと待ってくれ】

【世界よ、これが永眠しろだ】

【草】

 

 

「こうやって、ダミーヘッドマイクに囁きながら、振り返り配信を観つつ色々話していこうかなと思うよ」

 

 

【なるほど】

【バイノーラル雑談みたいな感じだね】

【音量どうなるんだろ?】

 

 

「ええと、音量の問題についてなんだけどみんなの耳に重大なダメージを与える可能性があるので、画面は共有しますが音声は載せないよ。音声含めて聞きたい人は自己責任でお願いするよ」

 

 

 

【了解】

【二窓するね】

【俺はもう心に刻んでるから大丈夫】

【本当に振り返りしてくれて有難う】

 

 

 

 コメント欄の反応を見て、理解してもらえたと判断して、しろさんは初配信のアーカイブを再生し始めた。

 

 

 

「うわあ、私こんながねむーとか言ってるよ。最近、あんまり使ってないんだよね」

 

 

【そう言えばあったな】

【何で使わなくなったんだっけ?】

 

 

 

「いやあのねえ、ASMR配信をするときにはこんばんはとかの方がいいのかなって思ったんだよね、雰囲気を壊したくなかったからさ」

 

 

 

 

 

【うんうん】

【そうね】

『一理ありますね』

 

 

「そしたら、それが通常の配信にも持ちこまれて、いつの間にかほとんど使われなくなってた」

 

 

【あっ(察し)】

【今月の配信、たぶん一回どっかで使ってた気がする】

【逆に言えば月三十回以上配信をして、一回しか専用の挨拶使ってないのか】

 

 

 

 そして、アーカイブの時間は進み、自己紹介に移っていった。

 

 

「ねえ、何かさあ、この永眠しろとかいうVtuber、棒読みじゃない?心がこもってなくない?」

 

 

 

【お前じゃい!】

【正直半年前でも十分なクオリティだと思うけど……でも、今と比べると確かにあれかもしれない】

【まあこの半年で成長できたってことだから】

 

 

 

 どうも、しろさんは配信の内容というより、話し方に不満があるようだ。

 棒読みだとか、滑舌が悪いとか、そういう伝え方の部分が許容できないらしい。

 私には、その初配信の音声は聞こえないのだが、確かにこの半年で彼女が大きく成長したのは、事実ではある。

 次第に、恥ずかしいのか、落ち着かないのか体がそわそわと動きだしていた。

 

 

 

【そわそわしているしろちゃんかわいい】

【これが見たかったんだよなあ】

 

 

 まあ、

 

 

 

 そして、初配信の画面はマシュマロ読みに切り替わっている。

 

 

 

 ふと、気になるコメントを見つけた。

 

 

【今も、自分の声は好きじゃないのかな?】

 

 

 しろさんも同じ気持ちだったようで。

 

 

「ええとねえ、この時は、活動を始めた当初は好きじゃなかったよ。自分の声、本当に」

 

 

 ただね、としろさんは付け加える。

 

 

「はじめて、人前で配信して、声を褒めてもらって。ASMR配信をしたら、私の声で癒されるとか眠れるって言ってくれる人がいて」

 

 

「こんな私を、好きだ(・・・)って、大好きだ(・・・・)って言ってくれる人がいる。私の声で救われてくれる人がインターネット上にはたくさんいる。それを知ったら、何よりもそう思ってくれている人たちを大事にしたいって思って、だから」

 

 

 ただ一人にしか真意が伝わらない言葉を交えつつも、純粋に自分を求めてくれる人たちへと感謝の言葉を贈る彼女。

 その顔をみて私は、画面に映っているしろさんも、画面を見つめている文乃さんも。

 どちらも力強くて、美しいと思った。

 

 

「今は、この声が好きだよ。まあ、みんなの方が好きだけどね」

 

 

【しろちゃんが自分自身を好きでいてくれてよかった。これからも応援してるね!】

【照れるじゃねえか¥600】

【大好き!一生推せる】

 

 

 この半年で、色々あった。

 それこそ、画面の向こうの視聴者が知らないような、リハーサルでの小さな失敗は何度もあったし、機材トラブルで配信時間が遅れることも多々あった。

 そしてつい先日、しろさんは危うくVtuberを引退してしまうところだった。

 けれど、しろさんは今ここにいる。

 そして、自分の歩みと現在を肯定できている。自分のことを、いじめられた原因でもある声のこと、好きだとはっきり言える。

 ならば、私が相棒として、視聴者として、友人として彼女を支えた意味はあったのだろうと思う。

 

 

「あのー」

 

 

【何?】

【どうかした?】

 

 

「ねえ、なんだか恥ずかしくなったからこれで終わってもいい?終わっちゃダメ?」

 

 

 どうやら、さっきのセリフが恥ずかしかったらしい。

 いやまあ、確かに聞いている私も少しむずがゆかったけど。

 

 

【だめだぞ】

【だめです】

【最後までやってもろて】

 

 

「わかったよ。最後までやりますよ、やればいいんでしょ?」

 

 

 

 それから三十分ほどかけて、しろさんは「恥ずかしいのにASMR配信中なので大声を出せない」という状況を何とか耐え抜くことになるのだった。

 

 

 

『そういえば、おつねむーとかも最近使ってませんね』

「…………」

 

 

 無言かつ、ジト目で睨まれた。

 はい、大変申し訳ございません

 




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