転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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エピローグ『転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?』

 先日の耳舐め配信は大盛況に終わった。

 というか、配信後に新規の視聴者が耳舐めめあてに押し寄せた。

 結果としてアーカイブがプチがつく程度にバズり、激増というほどでもないが登録者数は大幅に増えた。

 

 

 もちろん、いいことばかりではない。

 人気のあるコンテンツを開拓したということは、今後も常にそれを求められるということだ。

 

 

 実際、彼女の配信においてASMRはもちろんのこと、単なる雑談配信であったとしても耳舐めを要求するコメントが見られるようになった。

 それらは、彼女自身やモデレーターであるメイドさんたちによってブロックされているし、SNS上でも永眠しろさんが注意喚起を行っている。

 とはいえ、それだけで完全に解決することでもない。

 やはり、私のせいではないのかと思う。

 やっぱり何かしらの最もいい立ち回りがあったのではないかと思う。

 私が、彼女を助けようとして死んだ男であると知られていなかったら、三日間の休止はなかった。

 それを埋めるために耳舐めをしたことで、結果として治安は悪くなってしまった。

 そんなことをこぼすと。

 

 

「そんなこと気にしてたの?」

 

 

 と言われてしまった。

 まあ、彼女にしてみれば登録者数も増えたことだし、万々歳ということだろうか。

 

 

 

「まあ、それもあるけどね、そもそも活動休んだのはあくまで私の判断だよ。つまり、自己責任だよ」

『……それはまあ、そうですけどね』

 

 

 

 本来、ごく一部の例外はあるにせよVtuberというものは個人事業主だ。

 どのように活動していくのかを決めるのは本人であり、成果も責任も最終的には本人に帰着する。

 

 

 

「それに、遅かれ早かれ耳舐めはやってたよ。もともとやるつもりだったし」

『……癒しを与えるために、手段は選ばないんですもんね』

「その通りだよ」

『そうですか……それはよかった』

「……?」

 

 

 私は、リスナーがVtuberに与える影響は少ない方がいいと思っている。

 特に、私が与える影響はない方がいいだろう。

 そう思っている。

 

 

 

 だが違う。

 彼女は道を曲げることをしていない。

 はじめは、もしかしたら逃避だったのかもしれない。

 そのための口実で、借り物の大義だったのかもしれない。

 けれど、音で誰かを救う存在になりたいという願いは本物であり。

 彼女は自らの行動によって、それを成し遂げた。

 己が歩むべき道を、作り出したのだ。

 やはり、彼女は素晴らしい。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 記念配信から少したって、文乃さんが出かけないかと提案した。

 カラオケかなと思ったが、駅に行きたいのだという。

 何か理由でもあるのだろうか。 

 

 

「……覚えてないの?」

『何がですか?』

「……今日、一応君の命日なんだけど」

『あー』

 

 

 それはそれは。

 なるほど、彼女が呆れるのも道理ではある。

 むしろなんで覚えていないのだろうか。

 当の私が理解できないなど意味不明ではないか。

 いやまあ、正直自分が死んだ日って多分死んだ本人はわかっていないものなんだよね。

 

 

 内海さんの運転の下、私と文乃さんは駅までたどり着いた。

 まあ、私は壊れないようにという配慮からリムジンの外には出されないのだけれど。

 それでも、ちょうど私が落ちた場所が見えていた。

 ふと、駅構内に見知った人影を見た。

 金髪の女性。

 私が落ちたあたりに、花を置いて立ち去った。

 前の職場の後輩だった人だ。

 

 

「あの人……知り合い?」

『会社の、元後輩ですね』

「……仲良かったの?」

 

 

 文乃さんが少しだけ、不機嫌そうな口調になった。

 何か、気に障ることを言ってしまっただろうか。

 ここはスルーしておいた方がいい気がする。

 

 

『いえ、特に仲良くしていたつもりはなかったんですけど』

 

 

 少なくとも、会社以外で関わることはなかった。

 それこそ、ぶっちゃけ苗字しか覚えてないレベルだ。

 ダブってないと、下の名前って覚えられないんだよな。

 名簿作るときもコピペすればいいだけだし。

 その程度の、金でつながった薄い関係だと、切り捨てて記憶から切り離してきたのだが。

 

 

「なんだか、わかる気がするよ、私は」

『そうなんですか?』

 

 

 全然わからないのだが。

 

 

「だって、君は見ず知らずの人が自殺しようとしたら、迷わず助けてくれる人なんだよ?」

『…………』

 

 

 ただ、一つ確かなことがあるとすれば。

 あの時の行動を、悔いてはいないし、今後悔いることもないということだけだ。

 

 

「だからさ、たぶん私以外にも助けられた人はいるんじゃないかって」

『……そうですかね』

 

 

 無意味な人生だと、思っていた。

 ただ強者に踏みつけられて、みじめに何も為せずに終わったと。

 けれど、もしも文乃さんの言う通りなら。

 意味くらいはあったのかもしれない。

 

 

 こほん、という可愛らしい咳払いで意識が文乃さんの方へ戻された。

 みると、彼女の手元には包装された箱がある。 

 

 

「この間、買ったものなんだけどさ」

 

 

 おもむろに箱を開けた。

 中にあったのは、一本の鎖だった。

 金色の鎖には、鎌を模した飾りがついている。

 

 

「配信での収益で買ったんだ。色々と迷ったんだけど、はじめては、こういう風に使いたいなって」

 

 

 彼女は、ネックレスを私にそっとかけた。

 

 

「どうかな?」

『……微塵も似合ってないですね』

「あれえ?」

 

 

 それはそうだろう。

 人に着けることを想定したネックレスが、今の私に似合うはずがない。

 モアイ像だよ私。

 というか、似合うと思って買ったのかこの人。

 

 

『でも、本当にうれしいですよ。ありがとうございます』

「どういたしまして」

『これは、バレンタインのプレゼントですか?』

「いや、まあ二月なんだけどそういうことじゃなくて……」

 

 

 改めて、真剣な顔で私を見てくる。

 どうにも落ち着かない。

 

 

「君がもしも、私の相棒として第二の人生を歩むと決めてくれたのであれば」

『はい』

「今日を、君が生まれた日にしませんか?私と君が会った日を、ふたりだけの記念日にしたいんだ」

『…………』

 

 

 

 一年前の今日、電車にすり潰されて死んだ。

 そして、生まれ変わって半年間生きた。

 普通に考えれば、命日を祝うなんて不謹慎だろう。

 でも、それを彼女はやった。

 そのことが、嬉しかった。

 私のことを、理解してくれたと思えたから。

 

 

『ありがとうございます』

「じゃあ、これからはお祝いするということで。あ、内海さん!もう家に戻ってください!」

「承知しました」

 

 

 ーー転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったけど、質問ある?

 

 

 何でも答えようじゃないか。

 私は今、とても気分がいい。

 だって、最高の生まれ変わりができたんだから。




これにて一章終わりです。

が、まだまだ続きます。
よろしくお願いいたします。


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