転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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第十八話『オフコラボの申し出』

 しろさんが人生初のガチャに挑み、大爆死を喫したあの日から一週間が経過していた。

 文乃さんは、いつものようにゲーミングチェアに座っている。

 ただ、普段なら作業や課題をしている手は全く動いておらず、心ここにあらずという感じだった。

 声をかけてみるか。

 原因は大体わかってるし。

 

 

「うーん」

『悩んでるんですか?』

「うーん」

オフコラボ(・・・・・)のことですか』

「……うん」

 

 

 

 オフコラボは、通常のコラボとは異なる。

 通常のコラボ配信が通話アプリを通じて、遠いところにいる配信者やVtuberさんたちが遠距離にいながら傍でいるように配信するのとは真逆。

 実際に、同じ空間で一緒に配信をするということだ。

 通常のコラボ配信はオンラインでコラボするのに対して、オフコラボは通話などを使わずにすなわちオフラインでコラボを行う。これがオフコラボである。

 さて、Vtuber業界ではコラボ配信は頻繁に行われている。

 直接顔を合わせる必要がない、ただインターネット上の相手と通話しているだけのこと。

 だが、これがオフコラボになると、一気にハードルが上がる。つまりは、インターネット上の相手とリアルで会うことになる。

 言ってしまえば、SNSで関わっていた相手と、オフ会をするようなもの。

 オフコラボのハードルは、それぐらい高い。

 あるいは、専用のスタジオを所有している企業所属のVtuberならば別かもしれない。

 だが、しろさんは個人勢だ。

 普通に考えれば、オフコラボなどまずない。

 たった一つの、例外を除けば。

 

 

 ◇

 

 

 話は、先日、ガチャ配信での爆死直後にナルキさんとしろさんが通話をしたことに端を発する。

 彼女たちが通話をするのは珍しいことではない。

 仕事の話はもちろんのこと、プライベートの話をすることもあった。

 また、しろさんがナルキさんに相談や愚痴を言うこともあった。

 その日は、ひたすらしろさんが『天域麻雀』の確率について文句を言っていた。

 まあ、二百連回して虹が一体しか出なかったら、愚痴や文句の一つも言いたくなるだろう。

 しろさんの愚痴が一段落したところで、唐突にナルキさんが話を切り出した。 

 

 

 

「ねえねえしろちゃん、オフコラボをやらない?」

『…………え?』

「……え?な、何でですか?」

 

 

 

 明らかに動揺するしろさん。

 そんな彼女を見てやめた方がいいかなと思ったのか、ナルキさんは若干声のボリュームとテンションを落として理由を説明する。

 

 

「いやまあ、ASMRオフコラボができたらなあ、と思って」

「ああ、なるほど。ASMRですか……」

 

 

 ASMRは、立体音響だ。ゆえに、通話でコラボするのは不可能だ。

 ゆえに、ASMRコラボをやろうとすれば、オフコラボ以外にはない。

 つまり、一緒にASMRをするために、しろさんとナルキさんが直接会うということだ。

 

 

「少し、考える時間をいただいてもいいですか?」

「ああうん、全然急がなくていいからね?無理そうだなと思ったら断ってくれても構わないから」

「あ、ありがとうございます」

 

 

 それからしばらく何でもないことを二人が話して、通話は終わった。

 

 

 ◇

 

 

「どう思う……?」

『オフコラボのことですよね?私は、文乃さんの心情以外に問題はないと思っていますが』

「そうだよね。正直、今まで全くオフコラボの可能性を想定していなかったわけではないけど」

 

 

 コラボASMRというものをしろさんはやったことがないが、ナルキさんは様々な人と行っている。

 U-TUBEをあされば、彼女と他のVtuberによるASMRコラボ配信を観ることができる。

 彼女にしてみれば、何の意図も悪意もない、ただ単に自分の定番企画に誘ってみた。

 ただそれだけのこと。

 正直、前世で人と直接会って仕事をするのが当たり前だった私にしてみれば、なんてことのない普通の話にも思える。

 だが、しろさんの感情を勘で読み取ってみれば。

 

 

『不安、ですか?』

「そうだね、ネットの友達と通話するのと、リアルで会うのとではまた違うから」

 

 

 昨今、インターネットが発達し、情報という授業やインターネットマナーに関する講習などは何年も前に導入されている。

 インターネット上の友人と、リアルであってはいけない。

 それが、現代日本の教育方針である。

 なぜ、インターネット上の友人と会ってはならないのか。

 その中の一つに、現実の相手がどんな相手なのかわからないというのがある。

 これは、Vtuberにこそ当てはまる概念だろう。

 イラストを見ただけでは、画面の向こうから聞こえてくる声だけでは、結局どういう人物なのかを判断できない。

 顔も、本名も、年齢すらもわからない。

 Vtuberという仮初の名前と顔を持った存在だからこそ、時に不透明性が顕著になることがある。

 彼女が警戒してしまうのは無理もないことだし、むしろそれは日本の教育が行き届いている証左でもある。

 

 

 付け加えて、しろさんにはリアルのかつ、人間の友人がいない。

 リアルの友人である私は人間ではなく、人間であるナルキさんやほかのVtuberさんはリアルでのかかわりはない。

 そして今まで関わってきたリアルの同年代の人物には……まあ少なくともしろさんの方には碌な思い出がないわけで。

 そういった事情もあり、しろさんは人と直接会うことをためらっていた。

 

 

 バーチャルよりも、リアルの方がずっと傷つけられる経験が多かった。

 もちろん、現実で関わってきた全ての人がそうでないことはしろさんだって知っているはずだ。

 

 

『どうしたいですか?』

「え?」

『文乃さんには、しろさんには相談に乗れる私という相棒がいます。Vtuber業に関してなら相談できるメイドさんもいます。いざという時に、守ってくれるご両親やボディガードもいます』

「そうだね」

『ですが、それらはあくまで補助の役割を担っているにすぎません』

「あくまでも決めるのは私。そう言いたいんだね?」

 

 

 Vtuberは、タレントだ。そして個人事業主だ。ゆえに助言は出来ても最終的な決定は彼女が行わなくてはならない。文乃さん以外の誰かがかじ取りをしてしまえば、全くの別物になってしまう。

 人を癒し、救いたいという彼女の意思こそが、永眠しろの根幹なのだから。

 

 

「私はやるよ、オフコラボ」

『わかりました。じゃあ、ナルキさんに連絡して、それからメイドさん達にも相談しましょう』

「うん!」

 

 

 文乃さんは、パソコンを起動してメッセージを送り始めた。

 

 

 

 ◇

 

 

『それにしても意外でしたね』

「断ると思ってた?」

『あ、いえ、あっさり決めたなと思いまして。もっと悩むかと思っていたので』

「正直、怖いんだよね。現実であったら、いじめられるんじゃないかって」

『それは』

「わかってるよ、私がいじめられたのは、現実とかインターネットとか関係なく、あいつらがクズだったからだって」

 

 

 文乃さんは、ゆっくりと立ち上がって私のことをじっと見ている。

 

 

「ただ、気づいただけだよ。現実でも、手を伸ばしてくれた人がいたことに」

『ああ、メイドさん達とか運転手さんとかですね』

 

 

 勘だが、彼らは単に仕事というだけでなく、心から文乃さんを大事に思っている。

 そうでなくては、以前に文乃さんが脱走した時、もっと確保に時間がかかっていたはずだ。

 そういった直後私は、じっと文乃さんがこちらを見ているのに気付いた。

 その目は、なぜか呆れているように見えた。

 

 

「手を伸ばすって、比喩じゃなくて、言葉通りの意味だったんだけどな」

『…………?』

 

 

 その言葉の意味は、私の勘でも読み取れず。

 首を傾げようとして、それが不可能なことに気付いた。

 そして、もう一つ気づいていた。

 彼女にとって、自殺を考えるほど過酷だったいじめ。

 そのトラウマが、少しずつ改善されつつあることに。




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