転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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作品とは全く関係ないですが、今日は、筆者の誕生日だったりします。


第二十六話『愛してる愛してる愛してる』

 シチュエーションボイスの収録、といっても準備するものは箏動画の収録とあまり変わらない。

 むしろ、着物や箏が必要ない以上、準備は箏動画より楽かもしれない。

 着付けとか、本来メイドさんたちの仕事じゃないはずなんだけどな。

 たまたま、氷室さんと火縄さんがそのあたりのことを熟知していたらしい。

 閑話休題。

 

 

 シチュエーションボイスの収録準備は、いつもの動画収録同様、メイドさん三人によって行われた。

 端的に言えば私を机とは別の場所に移動させる。

 具体的には、今回はベッドの上に置かれている。

 文乃さんが普段寝ているベッドの上にいると考えるだけで、正直興奮してしまう。

 ……これだと、私がまるで変態みたいだな。

 いや、逆に健全なのか?

 いやでもアラサー男性が女子高生に耳かきや耳舐めをされて悶絶している状態が健全かと言われるとそんなことはないんだよね。

 深く考えるのはやめにしよう。そうしよう。

 

 

「お嬢様、これで大丈夫ですか?」

「はい、ありがとうございます」

 

 

 機材の設定も、いつも通り無事に終わったようだ。

 機材と言っても、私だけおけばいいというものではないからね。

 具体的に何をしているのかは、さっぱりわからないんだけど。

 

 

 ともあれ、シチュエーションボイスの収録がスタートした。

 

 

 ◇

 

 

「あ、起きた?おはよう、さわやかな朝だね」

 

 

 どうやら、時間としては朝らしい。

 撮影している時間はお昼なのだが、まあそこには触れないでおこう。

 というか、こういう時返事したほうがいいのだろうか。

 ナルキさんに確認してもらったのだが、私の声が電波を介して聞こえるのは通話や配信といったリアルタイムの時のみ。

 だから、話しても音声が乗る心配はない。

 

 

「はい、あーん。おいしい?」

『おいしいですね』

「ふふっ、よかった」

 

 

 私と会話できるからか、表情や声音がいつもより自然な気がする。

 これはこれで、お家デート感があっていいのではないだろうか。

 しろさんは、足を

 

「ねえ、あの女の料理とどっちがおいしい?」

 

 

 がさがさと、紙を取り出すような音。

 そして、私に見せてきた。

 ちなみに、紙には何も書かれていないし、印刷されていない。

 

 

「この写真さあ、君があの女の弁当を、あの女に食べさせてもらっているんだよね?」

 

 

 なるほど、どうやらしっかりと調査されているらしい。

 写真を見せつけてくるASMRをするなんて、恐れ入った。

 

 

「ふんふん、一緒にご飯を食べるのだけなら浮気じゃないって?そんな理屈が通じると思ってる?」

 声に含まれている温度が、さらに下がっている。

「どう、おいしかった?」

『おいしかったです』

 

 

 こくこくと、心の中でうなずく。

 なぜか敬語になる。

 

 

「おいしかったかあ、良かったね。食べれてえらいね、よしよし」

 

 

 そういって、しろさんは頭をなでてくる。

 くうーん、と鳴いてしまいそうになった。

 つけられているし、犬になってもいいような気がしてきた。

 シチュエーションとしては、あくまでも怖いのだが、それとは別にしろさんに飼われているというのは普通に嬉しいし。

 

 

「トイレ行きたい?ああいいよ、この首輪でベッドにつながれているから、動けないもんね」

 

 

 しろさんが、腕を動かすと、じゃらりという音がした。

 彼女が持っているのは、銀色の鎖だった。

 鎖は、私の頭のすぐ下、スタンドにまで伸びて、赤い首輪がついている。

 詳細は不明だけど、たぶん犬用の首輪なんじゃないかな。

 しろさんが触れると、指と革がこすれてきゅっという音が出る。

鎖を指で動かすと、ちゃらちゃら、ちゃらちゃらという音が鳴る。

 金属音へのトラウマが薄れていることに安堵しつつ、それ以上の恐怖と警戒で心が急速に満たされていく。

 

 

「逃げたら、わかっているよね?」

『は、はい、逃げません』

「うんうん、逃げない逃げない。大変よろしい」

 

 

 嬉しそうな表情と声音で、しろさんは告げる。

 演技力が、どんどん上がっている。

 色々と、ナルキさんに相談することも多いみたいだし、それ由来だろうか。

 あるいは、しろさんの現在の精神状態が今収録しているシチュエーションとシンクロしているだけかもしれない。

 どちらかは判別できない。

 プロの演技って、心にもないことを言っているわけじゃなくてむしろ感情を調整してるから、完璧に判断するのは難しい。

 

 

「うんうん、わかってくれたらいいんだよ?」

 

 

 しろさんは、満足気な表情と声を出した。

 そう思った刹那。

 

 

「もし逃げようとしたら、さ。どんなことされちゃうか、わかるよね?」

 

 

 しろさんは、右耳にかみついてきた。

 唇の感触が伝わるようなはむっとした甘噛みではない。

 歯形が残ってしまいそうなほど、強い噛み方だった。

 

 

「絶対、逃げちゃだめだよ?」

 

 

 背筋凍ってるよ。背筋ないけど。

 ……本当に演技だよね?

 逃げたくなってきた。

 足があったら逃げたい。穴があったら、避難したい。

 

 

 ◇

 

 

 それから少し時間がたった。

 メイドさんが入ってきて、しばらくすると体勢が変わっている。

 しろさんが私を押し倒して、馬乗りになったような状態になっている。

 いわゆる場面転換だ。

 

 

「どうして、逃げようとしたの?」

『あ、いや、あの』

 

 

 台本の大まかな流れは知っている。

 なので、主人公側が逃げようとしていることもわかっていたし、そのあとしろさんが私を捕らえて圧をかけることもわかっていた。

 だというのに、なぜ私は固まってしまったのか。

 しろさんの声が、あまりにも冷たく、その場から動けなくなるほどのプレッシャーを放っていたから。

 動けないというのは、脚があるかないかという問題ではない。

 あってもなくても、動けないだろうという話だ。

 

 

「君と、私。ずっと一緒だもん。どこにも行かないし、どこにも行かせないよ?」

 

 その言葉とともに、収録は終わった。

 それから二週間ほどたって、動画は投稿された。

 動画としては、やや長めで二十分ほど。

 安眠を目的ではなく、シチュエーションを楽しんでもらうことを主とした彼女の新たな試みは、かなり好評だった。

 

 

 ◇

 

 

『再生数も、高評価の数もいい感じですね』

「そうだね、これはシリーズ化してもいいかな」

『えっ?』

 

 

 こうして、しろさんは定期的にシチュエーションボイスを収録、投稿することになった。

 だいたい、シチュエーションとしてはヤンデレだったので、私と視聴者たちは二重の意味でドキドキすることになった。

 ともあれ、こうして彼女の活動方針が広がっていくことは喜ばしいことだ。

 より多くの人に救いの手を伸ばす。

 彼女の理想を叶えるためには、やることと出来ることは多い方がいいはずだ。

 

 

 それこそ歌、とかね。

 




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