転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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やっと。
やっと。
やっっっとASMRのシーンを出せました。

感想、評価など良かったらよろしくお願いします。

本日二話目なので、まだの方前話もよろしくお願いします。


第八話『ASMRのリハーサル』

 突然のハグが終わった後、文乃さんは頭を下げてきた。

 

 

 

「本当に、申し訳ない」

『いやいや、必要なことだったと理解してますよ。それで、克服はできそうですか?』

「なんとかなるよ、というかもはやハグまでしたんだから、どうってことはないさ。はっはっはっ」

 

 

 まあそれはそうか。

 確かに顔はまだ赤いが、吹っ切れたような顔をしている。

 これなら、配信に支障はないのではないだろうか。

 まあ、ただの勘だが。

 

 

「とりあえず、頭を傾けることにしようかな」

『そうするの?』

「うん、今回は耳かきも試すつもりだから」

 

 

 彼女は、机の引き出しを開けると中から細長い木箱を取り出した。

 木箱をぱかりと開けて、中から一本の棒を取り出す。

 茶色の木製の、細長い耳の穴に入る程度の棒きれ。

 一方の端は、さじのような何かを掬える、掻き出せる形をしていた。

 もう一方の端には、白いたんぽぽの綿毛のようなものがついている。

 それは、梵天と言われる最もメジャーな耳かきである。

 

 

「元々、自分で聞いて確認するつもりだったんだけど、良ければ君にもチェックしてほしい」

『わかりましたよ。任せてください』

 

 

 ダミーヘッドマイクに転生した私ではあったが、聴覚は生前同様に残っている。

 ASMR配信の際のおおまかな原理は、私の中に内蔵されているマイクを通してケーブル、インターネット回線を通じて多くの方々の耳に入る(・・・・)というものである。

 つまりは、私が聞いた音がほとんどそのまま視聴者に伝わるということである。

 だから私がどう聞こえたかが、視聴者には伝わる。

 

 

「ありがとう」

 

 

 それを聞いて、彼女は、機械の設定を初めた。

 私には、何をしているのかはよくわからないが、取り敢えず何のためにやっているのかは分かった。

 限定公開で、再び試運転をしようとしているのだろう。

 それからしばらくして、設定が終わったのか、彼女が戻ってくる。

 ヘッドホンをつけた彼女は既に、真剣な顔とオーラを身に着けていた。

 しろさんとしての顔になっている。

 彼女は、膝に私を乗せる。

 膝枕という奴だ。

 重くないのだろうか。

 というか、緊張感がすごい。

 すっと、しろさんの綺麗で真剣な顔が近づいてくる。

 耳元に、彼女の口元が届いて。

 

 

「こんばんは、みんなあ」

『――』

 

 

 囁き声が耳を伝わって、私の耳に入ってきた。

 そしてもはや存在しないはずの、背筋が凍った。

 すでに触覚を失っているはずなのに。

 頭部以外は何も残っていないはずなのに。

 私は、彼女の声をこの部屋で先程聞いた時、既視感を覚えていた。

 私が駅前で死ぬ直前に聞いていたということではない。

 

 

 今まで聞いてきた人の中の、誰かの声に似ていると思ったのだ。

 そして、今気づいた。

 ASMRをしていた、Vtuberさんに似ていたのである。

 つまり、彼女は今まで私が聞いてきた有名Vtuberや配信者に声の質がよく似ているということだ。

 

 

 彼女の声は、とても綺麗だ。

 透き通っていて、それでいて人を落ち着けるような声質をしている。

 肉体を失ったことで、睡眠欲はもはやないがそれはそれとして意識が持っていかれるような気がする。

 機械の体で、人を半ばやめている存在ではあるというのに、心が震えている。

 あるいは人を

捨てているからこそ、こういう時だけ人に戻れているのだろうか。

 

「今日は、ASMRリハーサルをやってみたいと思います。ぐっすり眠れるように頑張りますね」

 

 

 彼女はどうやら、彼女なりにASMR配信者をやろうとするつもりらしい。

 リハーサルではあるが、誠心誠意やろうとするその姿勢は尊敬に値する。

 

 

「どうですか、いい感じですか?」

『ああ、あふっ、あの、うんすごくいいですよ』

「フフッ、それはよかった」

 

 

 どうしよう、気持ち悪い声が出てしまった気がする。

 いやあの、ASMR配信のコメントとかもそうなんだけど、ASMRを聞いている側の声を載せてしまったら、もはやホラーなんですよ。

 もしくはシュールギャグか。

 彼女のささやきは、なおも続いている。

 癒される声で、オノマトペを使ったり、癒されるような言葉遣いで甘えさせてくる。

 

 

「はい、じゃあ耳かきしていきますねー。失礼いたします」

 

 

 囁き声のまま、彼女はそっと梵天を耳の穴の部分に入れていく。

 そのまま、優しい慈愛のこもった手つきで正確にゆっくりと手を動かしていく。

 しょり、しょり、しょりと耳かきがマイクの耳の部分をこする音が響く。

 自分で耳かきをしている時は、何も思わなかった。

 誰かに耳かきをしてもらった記憶はあまりない。

 子供のころに、親にやってもらった記憶はあるけど、嫌がってた私を力づくで押さえつけての耳かきは普通にただ痛いだけで、リラックスなどとは程遠いものだった。

 それに、一人で耳かきをするときにもリラックスという概念は生じない。

 だが、生まれて初めて耳かきを直にしてもらっている

 

 

『――』

 

 

 機械の体ゆえに、触覚はない。

 だが、機械――マイクとしての機能ゆえかあるいは人であったことの名残ゆえか聴覚は存在する。

 カリカリと、あるいはかさかさと耳かきがこすれる音が耳に心地よい。

 

 

「気持ちいいかな?」

『うん、いいですよ。すごくいい』

「そうなんだ、それはよかったなあ」

 

 

 彼女の声には、優しさがにじんでいる。

 梵天のかさかさとした音と、彼女の柔らかい声によって本当に、耳かきをされているような感覚だ。

 人に耳かきをしてもらったのはいつ以来だろうか。

 小学生の時はまだ親にやってもらっていたような気がする。

 あの時は父がかなり雑にやっていた気がする。

 父は悪人ではない。

 むしろ、基本的にはいい父親だったと思う。

 ただ少々、世話焼きであり、それに加えて少しいろんなところが雑だっただけだ。

 それはそうと、父の行動が原因で、正直人にされる耳かきにはトラウマがあった。

 

 しかし、いま彼女にしてもらっている耳かきは本当に気持ちがよい。

 先ほどまで外所の部分をこすっていたが、今は耳の穴をカリカリとこすっている。

 痛みがないからだろう。

 ただ、穏やかで軽やかな音の刺激が、とても心地よい。

 ふと、カリカリという音が止まった。

 時間を測っているわけではないが、もう終わったのだろうか。

 そう、一瞬油断した時、「それ」は来た。

 

 

「ふーっ」

『~~~~』

 

 

 耳に、吐息を吹きかける。

 音が、彼女の吐く息に含まれる熱気が、伝わってくる。

 所謂、「耳ふー」である。

 

 

「大好きだよ」

『おふっ』

 

 

 まずい、変な声が出てしまった。

 私は、ASMRを過小評価していた。

 ASMRを、私は今まで作業BGMとして聞いていた。

 それはつまり、ほとんどまともに聞いていなかったということでもある。

 さらに言えば、作業の邪魔にならないように音量を絞っていた。

 それでまともに聞こえるわけがない。

 

 

 私はマルチタスクはあまりできるタイプでもないからね。

 だが、今は耳かきをされている時と同じで、それ以外のことが何もできない。

 実際に寝かされて耳かきをされているから没入感が半端ない。

 というか、聴覚と視覚しかないとはいえ、彼女の太腿とか顔とか、白くて細い指とか、綺麗な顔とかが目に入ってくるわけでして。

さらにいえば、耳かきされるだけではなく、囁かれたり、実際に息を吹きかけられたわけでして。

 ないはずの心臓が破裂しそうだ。

 

 

 永眠しろさんは、そのまま梵天を持ち替える。

 耳かきのヘラの部分とは真逆、ふわふわした綿のほうで耳をポンポンと叩き始めた。

 ふわふわしたもので、外耳を表と裏、両方マッサージされる。

 心地よくて、今にも眠ってしまいそうだ。

 機械の体ゆえ、睡眠欲などは存在しないはずなのに。

 

 

 

「くすぐったくない?大丈夫?気持ちいいかな?」

『あ、あ、はい。すごいです』

「それはよかった。はーっ」

『んっ』

 

 

 吹きかけるのではなく、はきかけるタイプの吐息が耳全体にかかる。

 振動ゆえに、熱もまた伝わる。

 まるで一瞬お湯のつけたタオルで包まれたかのように、安堵していた。

 

 

「今日は来てくれてありがとう。おやすみなさい」

 

 

 そうして、彼女のASMR配信リハーサルは幕を閉じた。

 

 

「どうでした?」

『……しょ』

「しょ?」

 

 

 文乃さんは、指を頬にあてて、小首をかしげる。

 それを見ながら、やっとの思いで言葉を吐き出す。 

 

 

『昇天しました』

「どういうこと?」

 

 

 最高だった。

 そんな感想を伝えることができたのは、それから一時間が経過した後だった。

 因みに、感想を伝えると、普通に文乃さんは白い顔を真っ赤にして照れていた。

 可愛かった。

 とにもかくにも、リハーサルは完了。

 後は、明日のデビューに備えるのみである。




お読みいただきありがとうございます。

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