転生したら、Vtuberのダミーヘッドマイクだったんだけど質問ある?   作:折本装置

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第三十七話『最初の凸者』

 凸待ちを初めて、早十五分。

 その間、しろさんはコメントを読みつつ、適度にトークを織り交ぜていた。

 

 

 トークテーマは一年の振り返りである。

 デビュー当日、本当に緊張していたこと。

 初めてASMR配信をするときにも、緊張していたこと。

 いやいややらされていた箏を動画にしたところ好評で、初めてやってよかったと思ったこと。

 コラボ配信をはじめてやっていた時、普段人と話さな過ぎて何を話せばいいかわからなかったこと。

 それをきっかけに、彼女は家族などとも積極的に関わりはじめたこと。

 シチュエーションボイスや、オフコラボASMRなど色々と挑戦していくのが楽しかったこと。

 私も知らなかったことを、時に真剣な声音で、時に楽しそうに話してくれた。

 

 

 視聴者も、ある者は懐かしいなと昔のことを思い出しながら、またある者はそんなことが過去にあったのだなと驚きながら。

 しろさんの囁きに耳を傾けつつ、思い思いにコメントを打ち込んでいった。

 

 

 その流れは、しろさんがパソコンを操作し始めたことで中断される。

 だが、そこに不満を持つものは一人もいない。

 なぜなら、ここからが本番だから。

 

 

「おっと、一人いらっしゃいましたね」

 

 

【おっ】

【最初は誰だろ、ナルキさんかな】

【大穴でマオ様】

【ラーフェだったら笑う】

 

 

 通話アプリのしろさんしかいなかったサーバーに、一人来客が訪れる。

 

 

「どうも、イラストレーター兼Vtuberのがるる・るるです」

「はい、というわけでがるる先生がいらっしゃいましたー」

 

 

 入ってきたのは、しろさんよりさらに幼く聞こえるロリボイス。

 超人気神絵師、がるる先生である。

 もうしろさんのチャンネルではおなじみだね。

 一番コラボしているんじゃないか?

 

 

【きちゃ!】

【うおおおおおおおお!】

【いきなりがるる先生!】

【初手からとんでもない人が来たな】

【ちょっと声抑えてるのいいな】

 

 

 がるる先生少し、テンションが低い。

 多分、企画に対する配慮をしているのだろうな。

 大声を出せば企画が台無しになってしまう。

 そのことへの配慮なのだろう。

 

 

「来てくださってありがとうございます」

「そりゃあ来るよ。なんたって、愛娘の一周年記念だよ?」

「ありがとうございます」

 

 

 しかし、この状況はかなりいいのではないだろうか。

 二人の囁き声が、視聴者の耳に同時に入ってくるわけで。

 二人の間にある空気になったような感覚のはずだ。

 まあ、私はがるる先生の声は聞こえないんだけどね。

 ヘッドホンをつけているしろさんと、視聴者さんにしか聞こえない。

 ……あとで、しろさんにお願いしてアーカイブを見せてもらおうかな。

 

 

「最近、また投資に失敗したと伺いましたが」

「うっ、いやあのね。前回のやつは絶対いけるはずだったんだって」

「投資に絶対、なんてあるはずないですよね?高校生でもわかりますよ。せめて、ちゃんと生活に使う分のお金は残しておくべきでしょう?」

「そ、そうなんだよ、しろちゃんの件での失敗から学んでさ、生活に使う分は残してたんだ」

「はい」

「そ、そしたら負けちゃってさ。だから取り返そうとしてぶっこんだら全部なくなっテ……」

「じゃあ、がるる先生が悪いんじゃないんですね。もう投資はしない方がいいと思いますけど」

 

 

 しろさんが声を落としたまま話していることと、呆れていることもあって説教しているようにも聞こえる。

 

 

「それは無理だよー。私の夢は大金持ち、億万長者になることだもん」

「今でも十分お稼ぎになられているのでは?」

 

 

 確かに。

 そもそも、早音家が支払った金額だけでもおそらく相当なはずなのだが。

 普通に二、三年くらいは生きていける金額だと思うよ。

 

 

「そうじゃなくてさ、働かなくても銀行の金利とかだけで悠々自適に暮らしていけるような大富豪になって一生遊んで暮らしたいのだヨ」

「……そんないいものでもないですけどね」

「え?」

「え?」

 

 

 おっと大丈夫かしろさん。

 身バレしちゃうんじゃないでしょうか。

 が、それは杞憂だったようで。

 

 

「いや、実際儲けようとして一文無しになってるじゃないですか。そんなうまい話なんてないんですよっていう話です。儲けた人のことはわからないですけど」

「やはは、そうだよナ」

 

 

 しろさん、トークうまくなってない?

 

 

「投資はね、もうしないよ、ていうかここ二か月くらいは、実はしてない。実際、お金にだらしないせいでしろちゃんにも迷惑かけちゃってたシ」

「迷惑なんてかけられたこと一度もないですよ?」

 

 

 確かに。

 今のしろさんがあるのは、がるる先生のおかげと言っても過言ではない。

 超人気の神絵師がイラストを担当したからこそ、今の人気がある。

 もちろんそれだけではないが。

 

 

「正直ね、ずっと不安だったんダ」

 

 

 音量を落としているからか、あるいはネガティブな話をしているからか。

 彼女の声は、低くかすれていた。

 いや、先ほどよりさらに一段階ボリュームが落ちている。

 

 

「私は、些か名が売れている」

「些かどころではないと思いますけど」

 

 

 複数の有名Vtuberのデザインを手掛けているがるる先生だが、彼女の仕事はそれだけではない。

 ゲームキャラクターのデザイン、グッズなどのイラスト、アニメ化した大人気ライトノベルのイラストなど、彼女の仕事は多岐にわたる。

 それこそ、投資と浪費以外が趣味になりえない程度には。

 本当に、むしろなんでわざわざ投資なんてしているのか。

 

 

「そんな私が、全くの無名で、事務所などの後ろ盾もないVtuberを生み出してしまった。正直、ずっと心配だったよ。君がVtuber界隈に受け入れてもらえるのかも、君が幸せに活動できるのかどうかも、確信が持てなかった。いや、ほぼ不可能だとさえ思っていた」

 

 

 しろさん側は、大金を積んだ。

 がるる・るる先生は相場を超える金額に納得した。

 両者合意の取引だったが、がるる先生の内心には後悔があったのかもしれない。

 ある種、金に目がくらんだ形の取引だったから。

 そして、どれだけの災禍が降りかかるのか予測もつかなかったから。

 見守っていたというのは本当だろう。

 だが、がるる先生がしろさんにコメントしていたことは一度もない。

 それはなぜか。

 関わることで、がるる家ファンからのバッシングがしろさんに来ることを恐れたのではないか。

 大きくなるまでは、あるいは活動が安定するまでは待つことにしたのではないか。

 

 

「でも、君はそれを全部覆した。どんどん登録者数も伸びてるし、こうやって大きな企画もできるほどになった」

「私の力だけじゃないです、先生とか、がるる家の皆さんとか、ナルキさんとか、支えてくれる人たちのおかげです」

「ありがとう。そしてそれ以上に、楽しんでくれていることが嬉しいんだ、他の娘もそうだけど、私がきみたちの幸せになってくれて、はじめてお金以外の幸せを得られた気がするんだ」

 

 

 声が、少しだけ震えているのは気のせいではないだろう。

 

 

「だから、君に言いたいんだ。Vtuberになってくれてありがとう、今日まで活動を続けてくれてありがとう、それから」

「……?」

「生まれてくれて、今日まで生きてくれてありがとう」

「あ……」

 

 

 彼女は、自分が生まれたことさえ呪ったのかもしれない。

 それほどまでに、彼女を取り巻く環境は最悪だった。

 けれど、がるる・るる先生はこういったのだ。

 彼女が存在してくれていることが嬉しいと。

 

 

「う、ううううううう、ひっく」

 

 

 まさかの、ボロ泣きである。目から涙をボロボロとこぼし、服で拭いている。

 ああ、ダメだよしろさん!

 跡が残っちゃうから強くこすらない!

 

 

「私、私も、がるる先生に、作ってもらえて幸せです、本当に、先生が、ママでよかったって……」

「うんうん、そうだね」

 

 

 ボロボロ泣きながら言っているせいで、完全には聞き取れない。

 はっきり言って、放送事故だ。

 けれど、私はよかったと思う。

 

 

 

「じゃあ、「ママ―大好き!」って言ってチューしてください」

「…………は?」

 

 

 しろさん、真顔である。

 先程まであふれていたはずの、涙が引っ込んでいる。

 おいおい、放送事故だろこれ。

 エモい空気が台無しなんだが?

 コメント欄も、【は?】と【草】で埋まっている。

 凍り付いた空気に対して、しろさんは何と返すのか。

 

 

『しろさん、何かしゃべってください!』

「はっ!あの、がるる先生どういう意味ですか?」

 

 

 確かに何の脈絡もなかったので、しろさんが驚くのも無理はない。

 

 

「単純に、娘からの愛情表現が欲しいんだよね」

「……ままーだいすきー」

「あれ、棒読みじゃない?」

 

 

 演技力SSSのしろさん、配信上で初めて棒読みになった。

 ある意味、永眠しろさんの歴史に残るセリフではあるかもしれない。

 

 

「じゃあ、お疲れさまでした、がるる・るる先生」

「あれっ」

「先生もお忙しいと思うので、今日はここまでにしておきましょうお疲れさまでした!」

「え、あの、キス音は?いや違うちょっと待って待って単なる悪ふざけっていうか冗談だから、愛情表現だから許し」

 

 

 そこで通話が切れた。

 というか、しろさんが切った。

 画面上の永眠しろさんの顔も、パソコンを操作している早音文乃さんの顔も真顔である。

 

 

【切られてて草】

【親子の縁も切れてるぞ】

【なんでえ! がるる・るる】

 

 

 

 コメントは大盛り上がりになっている。

 

 

「おっと、次の凸者の方が来られたようですねー」

 

 

 まあ、湿っぽい空気を笑いに変えるためなんだろう。

 多分、きっと、おそらく。




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