or not to [BE]   作:ヤマグティ

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キリのいい所まで書けたから再投稿です。ちょっと遅かったんとちゃう?


内に潜めたモノ sideA
心音の行方


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「理由なく戦える者などいない。我々には命を捧げるに値する神が必要なのだ」

 

 

 

 

 

 

 

「自分で決めるんだな。これから、どうするか」

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 [おはようございます。A2]

 

 

 

 砂塵の中、ざらついた砂へ突っ伏していた身体を、グラついても無理やり押し上げる。

 

 

 [ヨルハ機体A2は5分42秒前に再起動された]

 

 [原因:大型機械生命体との戦闘による過負荷によるもの]

 

 

「……。 ふざけやがって……」

 

 最低な目覚めだった。

 

 

 嫌な夢を見た。

 

 それは9Sの記憶。今まで見たこともない、未知の悪夢だった。

 

 そこに映ったのは、あの気に入らない声と顔。

 

 

 私達を切り捨てた、あの女だ。

 

 私達には生きる価値が無いと、居場所はないと、……それすらも言わずに、私達を使い捨てにした。

 

 

 ……だが、どうやらアイツは機械生命体に出し抜かれて、ドジこいて死んだらしい。ざまあみろ、復讐しに行くまでも無かった。

 

 決して口には出さないが、内心ではそう吐き捨ててやる。

 

 

 ……だが、どれだけそう侮蔑してみせても、何故かすいた気持ちにはなれなかった。

 

 きっと、もう一つ記憶に映っていた物のせいだ。そうに違いない。

 

 それは知りたくもなかった真実。

 

 

 人類は、始めから居なかった。

 

 

 9Sは、……どうやらバンカーにハッキングを仕掛けていたらしい。

 

 ……サーバーにアクセスして置いて、そのままお咎め無しとは。……随分と、私とは扱いの落差が酷いな。

 

 だが、結果的にそれで済んだとはいえ、何とも危険な事をやったものだ。実体験があるから言えるが、あの組織は情報漏洩を何よりも恐れている。お前消されたいのか? 

 

 ……。……いや、とっくに9Sも死んだ。

 

 ヨルハ部隊も死んだ。人類偽装はむしろ完成。どれだけ思考を張り巡らせても、この話はそれで終わりだ。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「自分で決めるんだな。これから、どうするか」

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 そう振り払おうとしても、何度もあの声が、気に入らない響きを問いかけてくる。

 

 

 自分で決めろだと? 何を? 

 

 誰が誰に問いかけた言葉だ? もう九号S型も、アタッカー二号だってとっくにお前が殺して、死んだんだ。

 

 ここにいるのはあの私じゃない。私はA2。私も、皆も、全てを殺した機械共をブチ殺す為の復讐者。

 

 無意味だと知っていても、無価値だと知らされても、生き残った命の使い道はそれだけだ。

 

 この先に掴む物も、望む物も、私には何もない。ただ殺す為だけに作られた、所詮は兵器。

 

 その筈、なのに。

 

 

 ……疲れたように、肩を落とした。

 

 またアテもなく砂漠を歩き出す。トボトボとしたその足取りは、いつもより重い気がした。

 

 なんだか体がダルい。Bモードを持ち出したあの球体との戦闘後だとしても、あれから少しは経っている筈だ。やけに疲労感が酷い。

 

「クソっ……砂だらけで鬱陶しいな……」

 

 無駄に重い一歩一歩は、無駄に砂を散らしている。露骨に足へ纏わりついてきて鬱陶しい。

 

 [報告:燃料用ろ過フィルターが劣化。砂漠での戦闘時に、内部に微細な粒子が入り込んだ模様]

 

 やけに足が重い気がしたのはそういう事か。ただ単純に、体調不良と。

 

 [推奨:早急な当該部品の交換]

 

「交換しろって言われてもな……」

 

 このハコは私の支援と名乗る割に、基本的に無理難題しか言ってこない。

 

 生憎そんなものを作れる技術なんて私には無いし、作れる知り合いだって居ない。

 

 パーツの交換が必要な時は、……同じヨルハの追手から解体して奪うのが常だ。

 

 だが、ヨルハ部隊は壊滅した。それもできなくなっている。

 

 ……皮肉だな。追手が居たお陰で繋いでこれた命か。

 

 [レジスタンスキャンプで使用された記録を発見]

 

 レジスタンスキャンプ? ……そうだ、都合が良い。

 

 あの時見た9Sの記憶が正しければ、そこには()()がいるはずだ。

 

 どんな顔をして会えばいいか分からず、ずっと会いに行くのに迷っていたが、濾過フィルターを貰いに行く。ちょうどいい理由付けができた。

 

 既にハコが勝手にマークしていた地点を目指して、向かう方角を変える。これでようやく、砂漠から抜け出せそうにもなった。

 

 

 

 ようやっと砂塵を抜けて、奥に廃ビルやらが見えてきた。

 

 踏み散らした砂。纏わりついた砂嵐の砂塵。ザラザラとして、身体中のあちこちに張り付いている。

 

 砂漠に居るうちは常に砂塵を浴びていたからか分かりにくかったが、それが無くなったエリアだと、この砂まみれの体感はよく目立つ。なんて気持ち悪い。

 

 特に、肩周りの表皮パーツ同士の隙間。砂粒は見事にこの溝に入り込んでいる。

 

 指でなぞって砂を引っ掻くが、……爪もとっくに剥げていた。ツルリとした、黒い素体の手。どれだけ引っ掻いても、砂は全く取れそうにない。

 

 

「はぁ…………」

 

 

 

 

 

 

「風呂にでも入りたいな……」

 

 

 

 

 [否定:アンドロイドは風呂に入る必要はない]

 

 [定期的な部品洗浄メンテナンスさえあれば問題ない]

 

「……気分だ。気分」

 

 このハコも相変わらず鬱陶しい。この程度のボヤキにさえ、いちいち苛立たしく理屈を並べてくる。

 

 ……確かに、なんか()()()()()()()()()()なとは思った。

 

 風呂に入りたいなんて、そんなしょうもない事を言うようなタチじゃない。

 

 ……だが、フィルター劣化の疲労感に、纏わりついた砂。そして特にお前(ハコ)。色々と不快極まって、自然と呟いていた。

 

 ハコから視線を露骨に逸らす。適当に、あの天に突き出たパイプみたいな何かへ視点を当てた。

 

 

 ……そういえば、あの巨大なパイプ。一体何なんだろう。ある日突然、少し目を離して戻したらその瞬間に現れていた気がする。

 

 塔よりも前からあったが……、何だアレ。当時は全然気にして無かったが、考えてみれば塔よりもずっと妙だな。見た感じ塔よりは危なく無さそうだし、行ってみようか。

 

 方角は水没都市だろうか? 9Sの記憶だと、水没都市へは排水管から行けたな。

 

 歩く方角を、陥没地帯へ向ける。

 

 [……請:応……]

 

 

 ……? 今、何か声が聞こえた気がした。

 

 気になって、耳を済まして見る。

 

 

 ……『いらっしゃい』? 

 

 遠く聞こえてきた変なワードに、その発言の主を探そうと、キョロキョロと辺りを見渡す。

 

 

 ……見つけた。

 

 

 なんだ……? あの豪速でそこら辺を走り回っている奴は……。

 

 顔みたいなのが付いているし……、トラックの機械生命体か?

 

 ん、歌っているな……。……『安いよ』? 何がだ? 

 

 

 ラッパ音を吹きちらして、なんて自己主張の激しい奴だろう。先にあっちを追ってみるか。

 

 

 [_____要請:応答ッ]

 

「……ん、なんだ?」

 

 

 あの騒音トラックを早速追いかけ始めようとした所を、ハコは食い気味に呼び止めてきた。

 

 [現在のヨルハ機体A2の最優先目的は、燃料用濾過フィルターの確保である]

 

 [目的地はレジスタンスキャンプ]

 

 あぁ、私がいきなり方角を変えたから、咄嗟に止めたのか。

 

「別に後でもいいだろう」

 

 [……]

 

 [否定:濾過フィルターの劣化は今後の活動に支障をきたす]

 

 [警告:周囲に関心が逸れ、注意力が散漫になっている]

 

 

「……わかった、わかった」

 

 

 [……返事は一回で認識可能]

 

「わかったよ」

 

 全く、本当に鬱陶しいな。いつまで小言をうるさく言ってくるんだろう? というか、何でさっきから返事に少し間があるんだ。

 

 注意散漫だと? 

 

 黙れ。もうヨルハの追手に脅かされず、ある程度は自由に歩いて回れるようになったんだ。

 

 スキあらば壊してやろうかな。と、油断を狙うようにハコをチラリと見る。

 

 ……。

 

 ……止めだ。コイツに敵意は無いし、そもそもコレは私のじゃなかった。

 

 9Sが当人なりには色々考えて、最期に貸してくれた物。ただお節介極まりないのが本当に不愉快なだけで。

 

 このハコに9S。このお節介ぶりは持ち主によく似たのだろうか? 思い返してみれば、9Sにもそんなにいい思い出なんて無かった気がしてきた。

 

 

 あの生意気でおちょくるような物の言い草は、今思い出しても腹が立つ。ぶっ壊すぞ。……いや、ぶっ壊した。

 

 そうだ。それに9Sの記憶。アイツ私の見えない所で、自分はあの旧型とは違うとか言って私をなじってやがった。ふざけんな、殺すぞ。……いや、殺した。

 

 それで、最期はなんかいい感じに、たまたま居合わせた私に色々と押し付けて死んだ。死ね。……いや、死んでる。

 

 

 あぁ、何で9Sの武器なんて律儀に受け取ってやったんだろう? 考えてみれば考えてみるほど義理の義の字が思い付かなくなっていく。

 

 この武器捨てようかな……。と、受け取った色々を投げかけようとするが、それを阻むように9Sの記憶が食い気味に流れてきた。

 

 それは微笑む笑顔をした、あの私の顔。

 

 

 ……駄目だな、あの二号を引き合いに出されたら断れない。卑怯だぞ。

 

 この記憶を見ると、自然と彼女へ、何か不思議と保護意識のような物を掻き立てられてしまう。

 

 あぁ……、あの顔はまるで、昔の自分を見ているようだった。

 

 森の国で出会った時の彼女は……、ずっと、何かを諦めたような表情をしていた。

 

 そんな所まで私と同じ顔なのか。と、そう思っていた。……だが。

 

 まだ、あんな感情豊かに笑えたなんてな。

 

 あれは同じ二号だ。なんてずっと思っていたが、違ったみたいだ。9Sも、私と彼女を何かで区別していた。

 

 

 ……だが、頼まれたはいいが……。

 

 実際の所、私はあの二号に何をすればいいんだろう。

 

 あの時に一瞬視線があったと思うが、……アレ、結構最悪なタイミングだったんじゃ無いか? 

 

 2B宛への遺言を聞いているが……。むしろ、なるべく会わない方が良いような気さえしてきた。

 

 また、色々と投げようとする。

 

 

 ……だが、今度は、9Sの記憶は見えてこなかった。

 

 腹立たしい。アイツ、全部見透かしているのか? 

 

 駄目だ。2Bの事だけは投げられない。

 

 ……これだけは、きっと9Sから課せられた呪縛(約束)じゃない。私自身の意志だ。

 

 どうすればいいのか分からないが、どうにかしようという責任感だけはある。

 

 何故だろう、この放っておけないような感覚。

 

 これは……、あの二号は……。2Bは私にとって、一体何なんだ? 

 

 

 私達の違いは何か? そう思い、ふと毛先を弄ってみた。あの日、9Sへ手向けのつもりで切ってやった髪。どことなく、これも2Bのような短髪になっている。

 

 

 

 ……まぁ、髪を切るキッカケになったのは、あの日の唯一良かった点かも知れない。

 

 

 考えてみれば当然だが、短髪の方がよっぽど動きやすい。

 

 なんで伸ばしたままにしていたんだろう? ……何か理由があったような気がするが……、もう、思い出せない。

 

「……気分転換に、もっと切っても良いかもな……」

 

 髪にも砂は溜まってる。丁度いい。

 

 どうせ放っておけば勝手に生えてくる。伸ばしていた理由は、思い出したらまた伸ばせば良い。

 

 開けた平野。近くに敵が居ないのをハコに確認させて、そこに四角い鋼の刀身を突き立てた。

 

 コスコスと軽く手で磨き、顔を映せるような鏡にすると、そこに映る二号の顔をよく覗き込む。

 

 どれくらい切ってしまおうか? 結構バッサリいっても良いだろう。

 

 動きやすさを重視するなら……そうだ。

 

 アイツみたいに、耳が出るくらいまでは切ってしまっても_______

 

 

「____ハッ……!?」

 

 

 ドクンと、鼓動が不審に鳴り響いた。

 

 

 それと共に、鏡から後ずさる。……今、誰の髪型をイメージにした? 

 

 その姿。その見た目を今、鏡映しにした事で、……ようやく気付いた。

 

 

 受け継いだ記憶に、その時の思考や感情は無い。ただ、ありのまま見た映像だけを映している。

 

 だが、記憶。それは個人を個人たらしめる、人格を形成する物だ。例え映像だけだとしても、そこには全く違う体験、全く違う人生が内包されている。

 

 そして、その受け継いだ記憶は、武器を介して見ているのではなく、私の内部そのものにある。

 

 これは、まるで……。

 

 ……私はあの時。なんの気無しに記憶を受け取っていたが……。

 

 

 

 あの時、『全く別の人格』も取り込んでいたんじゃないのか? 

 

 

 

 ドクンと、鼓動は次第に大きく鳴り響いていく。

 

 どんどんと、散りばめられていたピースを、思考回路が勝手に集めて組み立てていく。

 

 

 なんで、風呂に入りたいなんてらしくない事を口走った? 

 

 なんで、周囲にやたらと関心を向けていた? 機械を殺す事だけが目的の筈なのに。

 

 なんで、さっきから私への返事に、ハコは一瞬間を置いていた? 

 

 ……似てたんじゃないのか? 前に支援していた奴と。

 

 

 

 

 というか、鈍い筈の私が、なんでこの可能性に気付けている? 

 

 

 

「……ッ!!」

 

 突き立てていた鏡を乱雑に引き抜いて、納刀した。

 

 振り払うように、一歩一歩を早足に出していく。

 

 これ以上、考え込むのが恐ろしかった。

 

 今、鏡に映し出されていた姿。

 

 

 

 あそこに居たのは、一体誰だ? 

 

 

 

「……私は」

 

「……私は、二号だ……」

 

 

 ハコか、それとも自分へか。言い聞かせるようにして、そう呟いていた。

 

 

 早足で、さっさとキャンプへと向かう。だが、入り口らしい所が見えてきた辺りで、機械共が集まっていた。誰かを襲っているようだ。

 

 きっとレジスタンスだろう。だってレジスタンスキャンプなんだから。

 

 丁度いい。私はA2。私は二号。

 

 二号らしく、アンドロイドの敵たるあの機械共をぶち殺そうと、大剣を手に取った。

 

 

 だからその集団の実態を見て、拍子抜けした。

 

「なんだ……アレ……」

 

 

 

「ひゃあぁぁ!」

 

 情けない声をあげて、ひたすら逃げ回っている機械。

 

 

 機械生命体が、機械生命体を襲っていた。

 

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