アタッカー二号って作中では、唯一九号モデルとは特に親睦が無かった二号なんですよね。
なにか意味があると思いたいので再投稿です。
「機械生命体同士の争い……?」
何とも奇妙な光景が、そこにはあった。
見慣れない型をした、おおよそ中型の機械生命体。
それがよく見知った量産型の小型に、一方的に攻撃され、オロオロと逃げまどっていた。
変な絵面に、ポカンと見入ってしまう。
機械生命体が、機械生命体を襲っている?
それに、あの逃げ惑う中型。あんな小型相手に逃げ回るような機体には見えない。
あの数の挟み撃ちを、それだけ器用に逃げ回って動けるのなら、反撃ぐらいは可能な筈だ。
ふと、謎の中型の視線が、私を見つけた。
「ひいいい! 助けて下さい!」
目が合ったと思ったが否や、敵の筈のアンドロイドたる私に、ソイツは迷わず走ってきた。
「は!?」
そして私を盾にするようにして、機敏な動きで背後に回ってくる。……その身体は、盾の筈の私から殆どハミ出ているが。
ポカンとしていた為に背後を取られてしまった。とっさに反撃しようと、せめて素手でも格闘の姿勢を構える。
が、目の前からは中型を追っていた小型たちが迫ってきていた。
だから反射的に、その拳と蹴りは小型達へ向けられる事になった。
小型との決着は、多分その一手か二手で終わった。
少し蹴ったらそれで死んだ。……弱すぎる。こんなのを相手に逃げていたのか?
「大変ありがとうございました」
振り返ると、ペコリとその中型は律儀にお辞儀をしていた。
「貴様も機械生命体だろう……」
結果的とはいえ、機械生命体を助けてしまった。
何とも流暢な言葉を扱っているが、これは機械生命体。これは私が憎むべき敵。私の私たる由縁。因縁と信念。
私は、二号だ。
大剣の柄へ手をかける。
「いいえ! 私は貴方と戦うつもりはありません。私の名前はパスカル。戦いを嫌う機械生命体です」
戦いを嫌う? そんな機械がいるのか?
きっと騙し討ちを狙って……。
……いや、まて。
確かにその割には、さっきまで背後を取っていたのに何もしてこなかった。
あんな雑魚に逃げ惑っていたのも、戦うのが嫌だったからか?
戦いを、嫌う。
……その言葉に、噓はないように見えてしまった。
思考を振り払う。やめろ、やめろ。二号はそんな事を考えない。
「……だから何だ。機械生命体に魂なんかない。ただの殺戮機械だ」
「私の仲間を何人も殺した罪を……償ってもらおう……」
仲間達の命を奪った機械共を殺す。その執念だけで生きてきた。その筈だ。
大剣を、遂に構える。
「……そうですか。仕方ありませんね」
「それで貴方が……救われるのなら」
そう言うと、……ソイツは抵抗も、逃げもしなかった。
先程までとは打って変わって、ただ一方的に、私に攻撃されるのを待っている。
「……。…………」
「……殺さないのですか?」
いつまで経っても、剣を構えたままの私。疑問そうに、ソイツは首を傾ける。
……殺そうとしてこない、無抵抗な機械生命体。
そして、殺そうとできない自分自身。
「……ハァ」
……失望したような溜息が出てきた。
得体の知れない機械だが、戦いを嫌うという事実だけは証明された。それに振り上げた拳は……、振るえなかった。
それも、無抵抗な様が哀れだと思ったからじゃない。
初めて見た。戦わない機械生命体なんて。
無抵抗な奴がいたとしても、それは大体追い詰められたのが原因だ。
平常から戦おうとしない奴なんて、私は知らない。
……つまり、あろうことか。
コイツに
「……もういい。気が変わらない内にどっかいけ……」
落胆した声で追い払う。せめて何処かに消えてくれ。
「……おや? その後ろに連れてるポッドは……」
「いえ、何でもありません。ありがとうございました」
最後にまたソイツは礼を言うと、ブースターの轟音を上げて上空に飛んでいった。
なんだ、あの機械生命体は? 流暢に喋り、律儀に話をし、戦いを嫌う?
自分にパスカルなんて名前まで付けて、何なんだ一体。機械のくせに……。
いや待て。飛べるのなら、最初からそれで逃げれば良かったんじゃないのか……?
一悶着あって、ようやくレジスタンスキャンプについた。
あの機械のせいで、どうやってレジスタンスに話かけようか考えるのを忘れた。
クソッ……。はっきり言って私はコミュニケーションが得意じゃない。他のアンドロイドとは、ヨルハの連中に足が付くしで関わってこなかった。会話ってどうやればいいんだっけ?
「あれって……」
「あの人、さっき出てったばっかりだよね……? もうあんなになって……」
「そういえば、ヨルハの機体には自爆機能があるなんて……。…………ッ、よほど相棒を失ったのが堪えたか……」
見慣れない奴だからか、レジスタンスたちは奇異な目をして、露骨に私の事を見回してくる。
……一人だけ話せる相手が、ここにいるはずなんだが。
濾過フィルターもそうだが、それ以外にも私個人としてここに来たい理由が一応はあった。
きっとここに彼女がいるはずだ。9Sの記憶を受け継いだ時に……、確かに一瞬、あの姿を見たんだ。
「君は、二号……?」
彼女は私の姿を見ると、随分と目を丸くする。
ここに本当に、二号が生きているなんて。と言った表情で。
「あぁ。……多分、二号だよ」
いや、私が色々と変わりすぎたせいかも知れない。別人に見えていてもおかしくないだろう。
「……久しぶりだな。アネモネ」
アネモネ。かつて共に戦った、仲間達の一人。
「そうか、生きてたか。良かった」
アネモネは、顔こそは平然としているが、……声色は少し涙ぐんでいるように聞こえた。
「…………あの時、一緒に戦ったやつらは皆死んだよ」
「……二十一号は、私がこの手で……」
「…………」
「……すまなかったな……」
……二十一号の事は、私も分かっている。
だが、それでも、最後まで二十一号と共にいたアネモネの口から聞いて、……ようやく実感させられた気がした。
……互いに死んでいたと思っていた者同士の再会なのに、暗くなってしまったな。
それでも、これは話さなければならない事。私達だけはあの日の戦いを、決して無い物として扱う訳にはいかないのだから。
「いや……そうだ! 二号。君にそっくりな2Bってヨルハが居たんだよ」
「彼女は本当に君にそっくりそのものなんだ。初めてここに来たときは、うっかり君と勘違いしてしまってね」
「どうだ? たまに2Bはこのキャンプに来るから、一緒に話でも……」
アネモネは少し空気を明るくしようと、一つ話題を出してくれる。……だが。
「……いい」
「……? どうしてだ?」
「2Bと一緒に、9Sって少年のヨルハが居ただろ」
「あぁ、そうだが。 ……? それがどうし」
「ソイツは私が殺した」
「え?」
「論理ウィルスに汚染されていたんだ」
「…………そうか……」
私が2Bに会わない。いや、会えない理由を大体察したようで、また暗くさせてしまう。
「このキャンプは自由に使ってくれ。施設の説明は……」
「必要ない。9Sの記憶は……この刀に残っている」
そういって背中に携えている、太刀の大剣の方をチラリと見る。
このレジスタンスキャンプに来てから感じていたが、なんとなくここの風景を知っている気がした。多分、それも9Sの記憶なんだろう。
「……わかった。うちの施設は自由に使ってくれ」
「私がここのリーダーをやっているんだ。皆にはあらかじめ君の事を説明しとく」
アネモネがここのリーダー。……なんとなく雰囲気から感じていたが、私と同じように、アネモネも変わったようだ。
……お互い、色々と変わってしまったな。あれから四年も経ったし、そんなモノかも知れない。
……でも、こんなになった私を見て、アネモネはどう思っただろう?
あの二号は、あの日死んだ。少なくとも私にとってはそうだ。
だが、ここにいる私は、アネモネにはまだ二号として映っているのだろうか。
……。やめだ。こんな事を考える為に、アネモネに会いに来たんじゃない。
「あぁ、そうだ。アネモネ。聞きたいことがあるんだが。濾過フィルターを分けてくれないか? 燃料用のやつだ」
ようやく本題を切り出す。忘れる所だった。
「燃料用濾過フィルター……最近在庫を切らしているんだ」
「パスカルが生産してるから、よかったら直接取りに行ってくれ」
「って、あぁそうだ。パスカルっていうのは」
「パスカルって……」
パスカル。その名前は、まだ記憶に新しすぎた。
「あぁ。知ってるのか?」
「機械生命体と取り引きしてるのか? 敵じゃないか!?」
アネモネも変わったとはいえ、機械生命体と取り引きをしてるとまでは考えられなかった。
だって私達の仲間は、皆あの機械共が殺したんだ。
「アイツの村は特別だ。我々に危害は加えない」
「そんな……でも……」
アネモネだって、機械共の事は憎い筈だろう。
そう視線で訴える。……けれど、アネモネはその瞳をよく見た上で、変わらず私に話を続ける。
「我々は同盟を結び、必要に応じて資材の交換を行っているんだ」
「目的の為なら、手段を選んでる場合じゃない。それに……」
「白旗を上げている奴らを殺す程、私達は終わってない」
大人びた口調が、ただ静かに、そう言った。
「……ッ」
それに納得はできなかった。だが、何かを真っ向から言い返す事もできず、……黙り込んでしまう。
そのアネモネの淡々とした表情は、既に沢山の物を押し込めて、それを乗り越えてきた、錆で研磨されたモノ。
アネモネは、……私なんかよりもずっと変わっていたらしい。
◆◆◆
「白旗を上げている奴らを殺す程、私達は終わってない」
◆◆◆
閉ざされた個室、自由に使って良いと言われ、室内にあったソファにでも座り込む。
「……私は」
復讐心も、憎しみも、持っていて当然の物だと思っていた。
いつか壊され朽ち果てるまで、終わりの無い物だと、そう信じていた。
◆◆◆
「自分で決めるんだな。これから____」
◆◆◆
ガンと、壁を殴って遮る。
『その先』なんて、考えたくない。
「……クソッ」
[警告:濾過フィルターが破損すると燃料供給に深刻な問題が発生]
[推奨:燃料用濾過フィルターの早期交換]
アネモネ、パスカル。それらに悶々としていた私へ、ハコが急かすように周囲をクルクルと回り始める。
「……わかってるよ」
このハコに急かされるのもいい気分じゃない。けれど、それ以上に、物理的な体調の方が悪くなってきているのは事実だった。
釘か何かを刺されたかのように、ズキズキと頭痛がしてきている。濾過フィルター劣化の影響が、そろそろ顕著に出てき始めていた。
[機械生命体パスカルを中心とするコロニーの座標を確認。マップにマーク完了した]
早くいけ、と。
機械生命体に、モノを頼みに行く。
気は進まないが、そうしなければ是非も無い。
アネモネも言っていたし……、それに免じて、例外的措置として……。
そんな誰への言い訳かを考えながら、個室を出てくる。
その瞬間、何かが落ちた音と、甲高い悲鳴が聞こえてきた。
なんだ? と、顔を上げると、そこには赤い髪が特徴的なアンドロイドがいた。どうやら、運んでいた荷物を落としてしまったらしい。
口元を両手で抑えて、絶望したような瞳で此方を見ている。
「……おい、お前大丈夫か? 一体どうし」
「その体はどうしたのッ!? 2B!?」
「え?」
「デボルッ!! 大変、2Bが……っ!!」
「なんだ、どうしたポポル!? 一体何事__ 」
「うわぁッ!?」
「お前2Bか!? その体は……、えっ。さっき出てったばっかりだろ!?」
「は……? ま、待て。私は……」
「……いや、話は後で聞く! ホラこっちこい!!」
後から呼ばれてやってきた、もう一人の赤髪。右手を掴まれて、引っ張られる。
「オイ、離せ!! なんだお前達ッ……!?」
「無理しないでって言ったのに……!!」
抵抗しようと振りほどこうとした左腕も、残りの赤髪に抑えられる。
「お前まで死んだら9Sがどう思うか考えろ、2B!!」
「ち、違う!! 私は……!!」
「そうだっ。おい、ハコ! 説明してやれ!」
[……]
「このクソハコォォ!!」
結局、誤解が解けたのは、ひとしきりメンテナンスを喰らった後だった。