or not to [BE]   作:ヤマグティ

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受け継いだ記憶が実際どこまで影響をもたらすのか、具体的には分からないので再投稿です。


保護欲

 

 

 

 

「……なぁ、メンテナンスはもう終わったんだろ」

 

「もう十分だ。早く離せ」

 

 

「駄目よ。せっかくなんだから、綺麗にしていくといいわ」

 

 

「そんなの必要ない」

 

 

「砂だらけだし、所々汚いんだよ」

 

 

「うるさい、ほっとけ」

 

 もう終わった筈のメンテナンス。解けたはずの誤解。

 

 なのに、何故かまだ解放されずに介抱されている。

 

 メンテナンスで、気休め程度に体調が良くなったのは良かった。

 

 が、ついでにクリーニングしていくといい。二人は勝手にそう言って、勝手に決めて、勝手に体を弄られ放題になっていた。

 

 大人しそうなポポルという方はまだいい。クリーニングだけに専念してくれている。

 

 問題は、髪の毛から既に逆立っているデボルの方だ。クリーニングがてらに、私の体をまじまじと好き放題に見回している。

 

「……」

 

「……なぁ、なんでこんな体で堂々と生きてられるんだ……?」

 

 遂に思っている事をストレートに聞いてきやがった。

 

 分かってる。メンテンナンスが想定よりも早く終わった事。

 

 つまり、一体どうして見て分かるほどズタボロの体で、こんなに五体満足なのか聞きたいんだろう。

 

 だが、言い方が悪い。これだと、まるで私が好きで半壊全裸をやっている変質者みたいな聞き方だ。

 

 クソッ。砂漠でのBモードで、腹のキャミソールを吹っ飛ばしたのが多分良くなかった。考えてみればこんな有り様の体、ジロジロ見回されるに決まってる。

 

「……ん? この右腕、左腕より構造が新しい……」

 

「それに、この接合の跡……。これ……。まさか後継機のヨルハから移植したのか……?」

 

「……一体、どうやって手に入れたんだ?」

 

 

「……詳しく聞きたいか?」

 

 

「……。いや、遠慮しとくよ」

 

 そこはちょっと危険な領域(殺し合い)の話だ。勘が鋭すぎるな。

 

 ギロリと脅すように、敢えてこちらから質問して、自発的に黙らせる。

 

「あんまり聞いちゃ駄目よ……。誰にだって色んな事情があるわ……。そうでしょ、デボル?」

 

「……そうだな」

 

 色んな事情。それに二人は神妙そうな顔をすると、それからはせっせとクリーニングに集中した。

 

 黙々として、静かになっている。

 

 ……ただされるがままで動けないからか、黙らせて置きながら、今度はその静寂に退屈を感じてきた。なんとなく、二人の作業に目をやる。

 

 メンテナンスの時もそうだったが、何か光のような物を手からかざして作業を行っている。

 

 本当にこんなので上手くいっているのか? と思い、作業の終わった所へ目を凝らす。

 

 確かに、汚れや自然治癒で治りにくかった小さなキズが、目に見えて綺麗になっている。

 

 ……珍しい技術だ。それに、クリーニングなんてこれだけ充実した補助機能を持った機体は見たことが無い。何かの世話や管理を目的としたモデルなのだろうか。

 

 感嘆として、二人の顔を覗き込んだ。

 

 デボルとポポル。その二つ並んだ、全く同じ顔。髪型くらいにしか見た目に違いが無い。

 

 同型がコンビを組んでいる。考えてみれば、これも珍しい。

 

「……? どうかしたか、A2?」

 

 ずっと見つめていたから、やがてデボルと視線が合った。

 

「……あぁ、いや。本当に同じ顔だなと思って」

 

 

「あぁ、そうだろ? 今はもう運用されていない双子のモデルなんだ」

 

 

「……双子?」

 

 

「そう。セットで運用される、生まれた時から一緒の姉妹なの」

 

 

「へぇ、姉妹か……」

 

 てっきり、同型機がコンビを組んでいるだけだと思っていた。同じモデルの機体でも、性格や機能に別け隔てをつけたりする。ヨルハ部隊は特にそうだった。

 

 だが、この二人は最初から二人で一つで、お互いに個があって、その上で同じ顔らしい。

 

 互いに分けられた、同じ顔の姉妹。

 

 

 ……『姉妹』、か。

 

 

「……なぁ」

 

 

 

 

「どっちが妹なんだ?」

 

 

 

「「えっ?」」

 

 私からの突然の質問に、二人は二人して、ポカンとした顔になる。

 

 

 しまった、と思った。

 

 なんで、そんな事を聞こうと思ったんだ。何故こんなどうでも良いような事を、好奇心程度で口に出した? 

 

 やめろ、やめろ。私は()()()()()()()()じゃ無かった筈だ。

 

 だが、二人は勝手に悶々とし始めた私よりも気まずそうにして、お互いの顔を見つめ合い始める。

 

 その困惑と、動揺の顔をする二人。

 

「……どうしたんだ?」

 

 

「あら……? そういえば……」

 

「どっち、だったっけ……?」

 

 

「……は?」

 

 その二人の一言に、耳を疑った。

 

 分からない? 姉妹なのに? 

 

 二人は作業をピタリと止めて、深刻そうに考え込み始める。

 

「……ポポル……、これは……」

 

「……多分、そういうことね……」

 

 

「どういうことだ?」

 

 

「……私達は、過去に記憶を消去されているの」

 

 少し間を置くと、ポポルが静かに、一言だけそう話した。

 

「多分……、その時に間違えて、当たり前の情報も一緒に消されてしまったんだわ」

 

 

「……記憶を消去された? どうしてだ?」

 

 その質問をすると、二人は口籠った表情をする。後ろめたい何かがあるような、罪悪感に満ちた表情だった。

 

「……いや、いい。悪かった、嫌な事を思い出させて」

 

 記憶を消去される。それは今までの自分を無かった事にされ、実質的に殺されたような物だ。

 

 それだけの事をされるような、一体何を過去にしたのかは知らないが、デリカシーの無い質問だった。

 

「いえ、大丈夫よ。むしろ感謝してるわ」

 

 

「そうだよ。こんな肝心な事、聞かれるまで全く気づかなかったなんて」

 

「それに記憶が無くたって、私達にはどっちが妹かなんてすぐに分かるさ。な? ポポル」

 

 

「ふふ。そうね、デボル」

 

 

「「やっぱり……」」

 

 

 

 

     だな」

「「私が妹

     よね」

 

 

 

「ん?」 「え?」

 

 

「……」

 

 分かってないぞ。

 

 とツッコミかけて、咄嗟に引っ込めた。私は茶々を入れるような、そんなお喋りでは無いのだから。

 

「……ん? だって、ポポルは私よりも物知りだし、色々としっかりしてるから……。姉になるのはポポルだと思うんだが……」

 

「え……、それなら、私の方がいつもデボルに守ってもらって、頼りっぱなしだし……私の方が妹だと……」

 

 だが、喋らなかったせいで存在を忘れられたのか、二人は私を差し置いて、どちらが妹かの討論を始めてしまった。

 

 ……いや、それは討論というには何とも奇妙な、互いに譲り合うようなモノ。

 

 ……クリーニング、終わったのか? 二人は私をほっぽりだして、長々と討論を続けている。

 

「終わったのなら、そろそろ私は……」

 

 

「なぁ、A2にはどっちが妹に見える?」

 

 

「はぁ……?」

 

 帰りかけた所へ、デボルが開口一番に私にもその議題を吹っかけてきた。

 

 知るか。としか言いようが無い。私には姉妹というものが何なのか、そんなに詳しく無い。

 

 同じ母体になるものから先に生まれたのが姉。後に生まれたのが妹。それ以上の知識は無かった。

 

 ……だが、この質問をしたのは他でもない私だ。何かしらは答える義務がある。

 

 色々と思い返して見る。姉妹や兄弟といった物について、何か思い当たりは無かっただろうか。

 

 

 少し頭を回してみると、一つ記憶が浮かんできた。

 

 生憎、それは私の記憶じゃ無かったが、参考にはできるものだった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「いくら油を差しても、機械に家族なんかできませんよー」

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 それは9Sの、廃工場での記憶。

 

 壊れた中型の機械生命体へ、ニイチャンと呼ぶ小型を見つけ、暇潰しに観察していた。面白い挙動をする機械だと思ったからか、要記憶していたらしい。

 

 ニイチャン。既に機能を停止したその中型へ油を差す小型は、中型へ向かってそう呼んでいた。

 

 機械に家族なんかできない。

 

 けれども、あの小型はそう評されても、健気に兄を慕って、呼び起こそうとバケツで油を運び続けていた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「ねぇ……、にいちゃん……。ぼく、たたかう事は嫌いじゃないよ……」

 

 

「だけど、にいちゃんが傷つくのはイヤだよ……」

 

「にいちゃんが居なくなるのは、もっとイヤだ……」

 

 

「だから、ふたりで、どこか、静かな場所に」

 

 

 

「にいちゃ……」

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 ……兄を想い、慕う。

 

 

 その健気な儚さ。それを弟として、姉妹へ例えるのなら……。

 

 

 

「____ポポルの方が、妹に見える」

 

 

 

「……かも」

 

 

 そう言って、ポポルの顔を覗いて見る。

 

 ポポルは興味深そうにしてニコリと微笑むと、一言、なるほどね、と私へ言った。

 

 頃合いだと思って、立ち上がる。

 

 軽くメンテナンスとクリーニングを施された足取りは、気晴らし程度には軽くなっていた。

 

「……ありがとう」

 

 その礼に、デボルが恩着せがましそうにニヤニヤしてきたので、足取りを速くした。

 

 ふと振り返って、もう一度二人を見る。

 

 また討論に入っているようだ。楽しそうに言い合っている。

 

 

 デボルとポポル。どちらが妹だったのか。

 

 その質問に、もう答えは無い。どれだけ考えても、この話はそれで終わり。

 

 

 

 ……その筈なのに、『妹』という言葉が、ずっと私の頭に引っ掛かり続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パスカル村というのはあれだろうか。

 

 無理矢理メンテナンスされて、すっかり調子の良くなった体。あの二人に濾過フィルターも直して欲しかったが、やはり無いものは無いので直せない。

 

 マークされた場所へ渋々と向かっていくと、巨大な木を取り囲むように建設された、まさしくそれは住居群が見えてきた。

 

 村の少し手前までくると、そこで止まる。

 

 足がいきなり動かなくなった訳ではない。なんなら好調だ。

 

 ……機械生命体の村、そして機械生命体へ助けを乞う事。当然だが、抵抗があるようだ。

 

 [ヨルハ機体A2の、パスカル村訪問に対する抵抗感を関知]

 

 [報告:現在のヨルハ機体A2はクリーニングを施された、訪問に適した清潔な状態である]

 

「そういうことじゃない」

 

 このハコ、本当に失礼だな。

 

 ふと、クリーニングされた体を見る。

 

 さすがに塗装剥げやパーツ剥げまでは直せないが、汚れや自然治癒で治りにくかった小さな傷が、パッと見てわかるくらいにキレイになっている。あと、なんだかいい匂いもする。

 

 こんな清潔な気分を取り戻したのは、もう何年越しかも知れない。

 

 毎日毎日、軋む体を砂や埃まみれの地べたから叩き起こして、当てもなく機械共のいそうな所を目指して走り回って……。

 

 あぁ、そうだ、酷い時は瓦礫の中に隠れて数日くらいを過ごした時もあったな……。

 

 本当に、あの日々は誰にも頼れなかったな……。

 

 ……だが、あの日ヨルハが落ちた事。敵が一つ消え、アネモネと再開して、レジスタンスキャンプにも頼れるようになった。

 

 9Sには悪いが、思えばこれでようやく何かが変わってきたような……。いや、何かが始まってきた気がした。

 

 そう思い、少し開放されたような気分になって、顔を上げる。

 

 

 ……その視界には、当然またあの住宅群が目に映ってきた。それにまた、ムスッとした不服の顔になる。

 

 追手のヨルハで命を繋げなくなった事。その果てに、まさか機械生命体に助けを乞う事になるなんて……。

 

 だが、濾過フィルターを治さなければ戦闘は疎か日常生活にさえ支障が出る。

 

 実際、今は二人のメンテナンスのお陰で気になる程度で済んでいるが、体は強張って、ずっと頭痛がしている。

 

 機械共の力を借りなければ、もう機械共を殺しには行けない。

 

 どれだけ考えても、立ちはだかるのがこの現実。

 

 だが、機械共を殺す為に機械共に助けを貰うなんて、本末転倒じゃないか。

 

 

 焦れったく立ち尽くしていると、ハコが周囲をグルグルし始めた。 

 

 ……いい加減、村に入ろう。また嫌味ったらしくして急かされそうだ。

 

 村に入ると、機械生命体達が談笑したり、じゃれあっていたりするのが見えた。

 

 その機械共は、私を珍しそうな視線で見てきたりはするが、特に気にしているような意思は見えなかった。少し見つめてくると、やがてまた、談笑や遊びに戻る。

 

「機械生命体だらけ……」

 

 [ここは、パスカルの管理する平和的な機械生命体のコロニー。機械生命体が多数存在するのは予測の範囲内]

 

 [疑問:ヨルハ機体A2の予測能力]

 

「そのうち、ぶっ壊す……」

 

 さっきのもそうだったが、このハコ、真面目な情報分析に見せかけて、どことなく私を煽ってきていないか? 9Sと比べてそんなに私が嫌いか。

 

 敵意を感じない呑気な機械生命体達。その中に一際目立つ殺意をハコへ向ける。

 

 そんなギスギスした雰囲気で村の中を進んでいくと、あの機械生命体。パスカルがいた。

 

「ああ! あの時の!」

 

 私が話しかけようとすると、向こうが先に口を開いた。

 

「助けて頂き、本当にありがとうございました」

 

 あの時の礼をまた言われる。

 

「……」

 

 濾過フィルターが欲しいと言いたいが、機械生命体に物を頼むということへの抵抗感から、何も喋れない。

 

「……それで、何の御用でしょうか?」

 

「………………」

 

「あの……」

 

 何も喋らないのに、圧と共にただ眼前に突っ立ってくる半壊全裸。

 

 パスカルは目の前の奴の目的が全く分からないので、見て分かる程の困惑気味になっている。

 

 [説明:ヨルハ機体A2の燃料用濾過フィルターに不具合]

 

 [経過:レジスタンスキャンプリーダーのアネモネより情報を入手]

 

 [目的:当地区のフィルターを入手するために来訪]

 

 [要求:燃料用濾過フィルター]

 

 

「全部説明するな」

 

 [報告:A2の発言不足よるコミュニケーション不足によるもの]

 

「うるさい」

 

 これに至っては何も言い返せない。悔しい。

 

「あぁ、成る程。そういうことですか」

 

「でしたら、少し待ってて下さい。今から作ってきますので」

 

 パスカルは私とハコのやり取りを軽く流して、轟音を上げて何処かへ飛んでいく。

 

「飛んだ……」

 

 と思ったら、すぐに戻ってきた。

 

 [パスカルの帰還を確認]

 

 見ればわかる。

 

「ハイ、どうぞ」

 

 燃料用濾過フィルターを渡された。本当に作ってきたようで、見てわかる程に新品だ。

 

「………………」

 

 ……作るの早いな。

 

「……おや? まだ何か御用ですか?」

 

 ……余りにも呆気ない。もっとこう、何か機械生命体とアンドロイドとの因縁に一悶着があると思っていた。

 

 こんな気前よく施されて、それで終わり? 

 

 ふざけるな。コッチは殺意だけを持って、ずっと機械共を見てきたのに。

 

「……フィルターをタダで貰ったからな」

 

「借りを返さないと気が済まない」

 

 機械共に、こんな一方的な貸しは作らない。何かで帳消しにして、それでこの施しは無かった事にする。

 

「なんと、それは律儀な」

 

「そうですか。でしたら………………

 

 

 

 

 

 

 

 その後、広間に現れた暴れん坊の退治をしたり、村の子供達の遊具を作らされたりと、キッチリ働かされた。

 

 

 

 

 

「平和的な機械生命体か……」

 

 

 作らされた遊具、滑り台を滑りながら、そんな事をふと口にする。

 

 ここの村人は本当に争いが嫌いなようで、話し方は無機質な筈なのに、どこか物腰が柔らかく感じる。

 

 村の子供達(見た目同じなのに子供って何だよ)は無邪気な奴らで生意気だが、……遊具を作ってやると、とても喜んでいた。お礼に何かの植物の種を貰った。

 

 他の村人たちも、(頼み方に少々厚かましい所があるような気もするが)頼まれた分の報酬はキッチリと分けてくれる。

 

 ……だが。そのせいで、貸しの帳消しの無限ループに入ってしまい、村から離れられずにいた。おかしい。こんな筈じゃ無かったのに。

 

 

 ……此処は、本当に平和を望む機械達で構成されているらしい。

 

 

 [推測:パスカル達と友好関係を結ぶことで更なる資材入手が可能]

 

 [推奨:今後のパスカル村との交易]

 

 ハコはスキあらば、私にそう提言する。

 

 コイツは此処との交易することに、なんら抵抗がないらしい。

 

 このハコが利害とかを重視しそうな奴であるとはいえ、9Sが死ぬ理由になった機械共の肩を持つとは思えないが……。

 

 

 ……いや、待てよ。

 

 以前パスカルを助けたときに、パスカルがこのハコを見たことあるような反応をしていた気がする。

 

 あぁ、そうか。多分このハコは、以前9Sと共に、既に此処に来たことがあったんだろう。

 

 初めから知っていた訳だ。じゃあ早く言え。……いや、言っても聞かないが……。

 

 

 

 ……9Sの記憶が、もう少しそういうものを見せてくれれば便利なんだがな。

 

 

 人気の少ない村の隅へ行くと、ブランと両足を垂らして座る。

 

 静かな木々の景色を背景に、瞳を閉じて、9Sの記憶を一つ覗いてみた。

 

 

 9Sの記憶。アイツ要領が良いから、多分必要そうな情報は要点だけのメモ程度に纏めて、バックアップする時の記憶領域を節約していたんだろう。

 

 ……だが、その存分に確保した記憶領域の使い方が何とも下らない。

 

 たまに覗いてみるが、基本的に2Bとの記憶しかないのだ。

 

 

 ……それも、執拗な程に事細かに。

 

 2Bの様々な声色や、剣を振るう時の音に、足音。息遣いに、わずかに身動ぎしたときの布擦れの音。

 

 一挙一挙の挙動だの、発した言葉の一つ一つだのを、細かにリスト化して並べている。お前、もう少し他に覚えておく事があっただろ。

 

 あのアダムとかイヴとかいう人型機械生命体、もっと鮮明に覚えておけ。なんで少しボヤけてるんだ。凄い気になるのに。

 

 今まさに見えてきた記憶も、まぁしょうもない。2Bの指の軽い傷にやたらと心配性になって、必要以上のケアを施している。

 

 こんな傷、ほっとけばナノマシンで勝手に治るのに。ほら、2Bも少し困惑気味にしてるじゃないか。

 

 

「ハァ……」

 

 ……あの少年の、何とも恐ろしい2Bへの執念。呆れたような溜め息が出てきた。

 

 どれだけ見回してみても、あの私の顔しか映らない。他人の記憶なのに、まるで鏡面を覗いているみたいだ。

 

 ……。

 

 ……だが。

 

 

 あの同じ顔は、私よりはずっと感情豊かのようだった。

 

 

 事細かにリスト化されているほど、2Bは隙あらば感情豊かな節をたびたび9Sに見せていた。

 

 

 砂漠や遊園地での、共闘の記憶。白い街で、9Sを抱えて見下ろすあの優しい微笑み。

 

 

 ……その記憶の数々を見ると、私も自然と微笑みが溢れてきた。誰かと一緒に行動できる。私が失って、忘れかけていた物だ。

 

 

 ……どうやら、あの二号は一人ぼっちじゃ無かったらしい。

 

 

 お喋りで、少し不用心な所のある少年。そんな信頼できる大切な仲間が、あの二号には居た。

 

 お喋りな仲間。……どことなく四号を思い出すな。

 

 

 2Bとの微笑ましい記憶の数々を、今一度じっくりと眺める。

 

 

 「……」

 

 ……だが、今の彼女も一人だ。

 

 

「あの二号」のように、『あの二号』も一人生き残って、孤独になってしまった。

 

 

「……私が、何とかしないとな」

 

 9Sにも約束した。あの二号を想い、願う気持ちは、同じ二号である私が継ぐと。

 

 私の頭がどれくらい9Sになってきているのかは分からない。

 

 だが少なくとも、2Bへのこの想い。これだけは受け継ぐと決めた瞬間に、私が生み出した物の筈だ。

 

 

 

「オネ……ンー……」

 

 

「……ん?」

 

 

「オネエチャーン! 遊んでー!」

 

 

「見つかったか……」

 

 ふと聞こえてきた声の先、こちらに向かってくる村の子供達が見えた。

 

 困ったな、これから哲学書とやらのお使いに行かなきゃいけない(事にされてしまった)のに。

 

 そそくさと村から飛び降りて、森の中に逃げていく。

 

 全く、村のガキ共め。オネエチャンだなんて気安く呼んできて……。

 

 

 そんな事を考えながら森を歩いていくと、……ふと、ポツリと言葉が溢れ出てきた。

 

 

 『妹』『オネエチャン』

 

 

 

 

 

 

「そうか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんか……」

 

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