or not to [BE]   作:ヤマグティ

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あそこで特に何も考えずに髪を切ると、頭9Sが急進行してナインズ君が奇跡の乗っ取り復活を別に遂げたりはしないので再投稿です。


己たる所以

 

 

 

 

「……なぁ、二号。その哲学書、そろそろパスカルに持って行ってあげてくれ……」

 

 

 

 レジスタンスキャンプの広間。地面へ大剣を突き刺し、支えにして寄りかかり読書に耽っていた私へ、アネモネが声をかけてきた。

 

「……ん? ……あ」

 

 黙々と読んでいたこの哲学書。村の住民の一人から、パスカルへ贈りたいとして、アネモネから借りて持ってくるように頼まれていた品だった。

 

 忘れていた。少し気になって、軽く読んでいただけのつもりだったのだが……、アネモネが見かねて声を掛けてきた辺り、相当時間が経っていたらしい。

 

 哲学……、なんというか、難しいの一言に尽きる。伝えたい事は分からなくも無いが、それを答えや結論とは断定できない。

 

 アネモネが声をかけてくれたのは、この苦闘を切り上げるいい機会だった。危ない所だった。このままだと、何時間にも渡って活字との勝負を続けていただろう。

 

 パタンと、キリよく哲学書を閉じる。

 

「なんだか……、変わったな、二号」

 

 大剣を抜き取った辺りで、ふとアネモネは苦笑を溢して、そんな言葉を漏らした。

 

「あぁ……、あれから四年も経ったからな……」

 

 素体やら地肌やらが剥き出しになった体を眺めて見ると、思わず自分でも苦笑してしまう。

 

 こんな半壊全裸になって帰ってきたんだ、さぞ驚いたろう。

 

「……いや、それもそうなんだが……」

 

「……? どういう事だ?」

 

 

「その、なんというか、読書の趣味があったんだな……って」

 

 

「……え?」

 

 

「……どうした、二号。そんな顔して……」

 

 

 

「……。……なぁ、アネモネ」

 

「まだ、私は二号に見えるか……?」

 

 

「……どうしたんだ? 急に……。哲学に感化されたのか?」

 

 

 

「……いや、何でもない。早く行ってくるよ」

 

 

 ハコへ哲学書を仕舞わせると、逃げるように足取りを進めた。

 

 

 

 機械生命体の頼みを聞いて、機械生命体にモノを届けに行く。

 

 報酬、取引、交友。

 

 機械生命体相手に、随分と丸くなってしまった。

 

 あの日に受け取ったモノが、連鎖していくように何もかもを変えた。

 

 知り合いと再会して、その上知り合いがもう一人増えた。

 

 何も無かった日々に、頼る先が出来た。

 

 無理に命を削らずに済むようになった。無下に命を奪う必要が無くなった。

 

 ……だが、果たしてそれは、自分の思考で自分の意志なのだろうか? 

 

 ただ殺す事だけを考え、生き残る事だけで生き長らえてきた。その私は、まだここに居るのか? 

 

 

 ____私はA2か、それとも否か? 

 

 

 あの四年間(あの二号)は全部、無駄足だったのか……? 

 

 

『……聞こえますか!? A2さん!』

 

 余計な事を深刻に考え込みそうになってきた時、丁度良くパスカルから連絡がきて思考を切り上げられた。

 

「……あぁ。丁度よかった。頼まれていた素材が今……」

 

 哲学書のついでに、アネモネからパスカル宛への交換資材も頼まれていた。

 

 まったく……。誰からも良いようにお使いにされている。そこら辺を意味もなく歩き回っているような奴は、うってつけの運搬係なんだろう。

 

『A2さんっ! 村が……大変なんです!』

 

『村人たちが……ああっ……!!』

 

 呑気に内心で愚痴を吐いていたので、パスカルとの会話の温度差には酷く驚かされた。

 

「おい! パスカル! どうした!?」

 

 それからの返答は無かった。悲鳴と共に、通信は途中で切れてしまう。

 

「一体……何が……」

 

 [推測:貴重な情報源であるパスカルに問題が発生。]

 

 [推奨:パスカルの村の状況調査。]

 

「言われなくても……!」

 

 言葉に出すよりも先に、もう駆け出していた。

 

 初めて、このハコと同じ事を考えた気がした。

 

 

 

 村へ向かうと、森の入り口の時点で異常は出ていた。奥に見える火の手、煙はここまで立ち込み始めている。

 

 襲撃か? それとも事故? 

 

 そんな事を視野に入れながら向かい、村に到達すると、……それ以上の事態になっていた事を思い知らされた。

 

「ギャアアア!!」

 

「痛イ! イタい!!」

 

 村人にのしかかり、覆いかぶさる機械生命体。

 

 つんざく悲鳴と共に聞こえてくるのは、ボリボリと鉄を貪る音。

 

 機械生命体が、機械生命体を食べていた。

 

「なんだこれ……機械生命体同士が共食いしてる……!?」

 

 呆気に取られた状況、それを可能な限り理解しようと働いた観察眼は、余計に嫌な事に気づかせてしまった。

 

「……!? あの体の色……、まさか同じ村人が食ってるのか……!?」

 

 これは襲撃じゃない、内部崩壊だ。

 

「パスカルは……!?」

 

 戦闘を拒み、ましてや相手は同じ村人。突然に発生したこの状況で、不意をつかれて真っ先に死ぬのなら、それはパスカルだ。

 

 [通信不能の為、確認できず。]

 

「クソッ……」

 

 火の手もあがる惨状。危険なのは承知だが、村の中へ行くしかない。惨状の中を掻い進もうと、一歩踏み出す。

 

「ああっ! A2さん……!」

 

 あの流暢な言葉遣い、その声がしたのは背後からだった。振り向くと、パスカルはそこにいた。

 

「どうしたんだ!?」

 

「わかりません……いきなり一部の村人たちが暴走して……仲間を襲い始めたのです」

 

「子供達だけは別の場所に逃がしたのですが、他の村人は……」

 

 やはりアレらは、村人の成れの果てだったらしい。

 

 避難に優先順位があったとはいえ、あのパスカルの事だ。手遅れを鑑みても、戻って来ずにはいられなかったのだろう。

 

「このままだと、お前も喰われるぞ!」

 

 だが、果たしてパスカルがこの事態に、あの敵へ手を上げられるだろうか? あの暴走している相手は、パスカルにとってかつての仲間だ。

 

 アレらを手にかけられる奴が、この場にいるとすれば……。

 

「ここはなんとかするから、先に逃げろっ!」

 

 その言葉と共に大剣を構えて、態度でも示す。

 

「A2さんは!?」

 

 話が早くて助かった。パスカルも、……もう、アレらがどうしようも出来ない事は察している。

 

「こんな雑魚どもにやられる訳ないだろう! さっさと行け!!」

 

「は、はい!」

 

 互いに背を向けあって、走り出した。

 

 

 

 

 

 

「これで、全部か……」

 

 

 オイルに濡れた刃を振って拭い、大剣を納刀する。

 

 辺りを見渡すと、たたき斬って凹んだ機械生命体の遺骸と、切り粉のようになった鉄くずだけが転がっていた。

 

 暴走した村人は、これで全て片付けた筈だ。

 

「……生き残っている機械生命体は?」

 

 言ってから違和感を覚えた。私がこんな質問をするなんて思っても見なかった。

 

 まさか、機械生命体の生存を願うとは。

 

 [存在しない。全て機能停止している]

 

「そうか……」

 

 その返答には、随分と複雑な気分にさせられた。

 

 あの手にかけた村人たち、言葉を交わしたのが何人もいた。

 

 ……パスカルに通信する。酷だが、伝えなければならない。

 

「パスカル。聞こえるか?」

 

『ああっ……A2さん。村は……村の皆はどうなりましたか!?』

 

「すまない……。ダメだった……」

 

『そんな……』

 

「子供達は、大丈夫か?」

 

 まだ残っているモノ。失ったモノより、それを優先しないと。

 

『……廃工場跡地に避難させています』

 

「わかった。ひとまずそっちに行く」

 

 通信を切ると、早速駆け出そうとして、……一度、辺りを見回した。

 

 

 惨状に塗れ、ほんのひと時で廃墟になってしまったパスカルのコロニー。

 

 違和感が、ずっと引っ掛かり続けている。

 

 

 村人の暴走、何が起きた? 

 

 今まではずっと無事だった筈なのに、何故、突然こんな事態に? 

 

 私がコロニーと交流を始めた、丁度その時にこの事態は起きた。都合が良いくらいにタイミングが悪すぎる。

 

 予めそうようなるように、用意されていたような予定調和じみた展開。

 

 ……何かが、裏で手を引いている。

 

 何の理屈にも欠けた只の経験則だが、こういうやり口。そういう奴ら。私には覚えがある筈だ。

 

 ……『奴ら』、ずっと気付かなかっただけで、まだ何処かで此方を見ているんじゃないか? 

 

 立ち込める煙と、赤い炎。

 

 暫くその空虚を睨むが、やがて、その場を後にする。結局の所、時間が無いのだから。

 

 これがまた予定調和だとしても、そうせざる負えない。

 

 そういうやり口が、また一つ確信に変えた。

 

 

 

 

 

「大丈夫か!? パスカル!」

 

「ああっ……A2さん……」

 

 工場の扉を抜けると、その落ち着かない様子のパスカルの様子は、沈んで静かな倉庫故にすぐに目に止まった。

 

 それでも、先程よりは落ち着いている方だろう。子供達をなだめる役を果たさねばと、理性を引き留められている。

 

「一体何があったんだ……」

 

「わかりません……。いきなり一部の村人達が同じ仲間を食べ始めたのです……」

 

「A2さんが来て下さらなかったら……私達もきっと……。ありがとうございました」

 

 どれもこれも分からず仕舞い。仕方ない事ではあるが、これだと手の打ちようがない。

 

 せめて持ち合わせの情報だけで何か掴めないかと、ひとりでにグルグルと思考を回し始める。

 

 ウィルス汚染による集団感染・暴走なら、大抵は傷口があるはずだ。だが、あの村人達がまず傷なんて負うわけがなくて……

 

 [疑問:機械生命体は素材さえあれば再生できるのではないか]

 

 私が黙したのを現状分析を始めたと汲み取ったのか、ハコは情報収集を担当して、慣れたように作業の分担を始める。

 

「いえ……実は私達には『コア』と呼ばれるユニットがあります」

 

「このコアは自我データを形成する物なんですが、それを破壊されてしまうと元に戻ることは出来ません……」

 

「コアは普段は安全な場所に格納しておくのですが……今回犠牲なった村人達はコアごと破壊されてしまっているので……」

 

「……そうか」

 

 コア、自我データ。脳ユニットとは別に、自我や人格を形成する機関が機械生命体にはあったのか。……メモリーとは違うのに、どういう原理で自我を形成して……。

 

 ……いや。

 

「この工場は安全なのか?」

 

 思考が関係ない事に逸れかけた。口に出して、目の前の現状を今一度見つめ直す。

 

「以前、暴走した機械生命体が住んでいたのですが、2Bさんが撃退してくれて。今は安全なんです」

 

「ここしばらくは、私達が資材置き場として使っていました」

 

 2B。出てきたその名前に反射的に反応しかけるが、今は雑談をしている時間はない。

 

「わかった。……ここで籠城するにも、もう少し情報が必要だな……」

 

 [推奨:パスカル達の早急な安全確保]

 

「そんなに急がせるな……」

 

 何か焦るようにして、パスカルと私の隙間に割り込んできたハコを、シッシッと軽く振り払おうとする。

 

 だが、ハコは払う手を掻い潜り、突然眼の前にやってきた。凝視すると、深刻な事態だと告げるように伝えてくる。

 

 [各地のポッドネットワークから情報を入手]

 

「お前達に仲間がいるのか?」

 

 [肯定]

 

 ネットワーク。つまり、連携を取っている複数機が各地にいるという事。

 

 だが、ポッドネットワーク。今始めて聞いた言葉だ。所有者である私の知らない所で、ハコ同士で連絡を行っていたのか? 

 

 ……いや、所詮は9S代理で、ヨルハ部外者の私が知る必要が特に無いからと言えば、それはそうか。

 

 [本工場廃墟に、大型機械生命体が接近しているとの報告あり]

 

「は!? 何だって!?」

 

 一番肝心な事を淡々と告げてきた。反射的に扉の方へ振り返る。

 

「……クソッ!!」

 

 聴覚を逆立てると、確かに機械共の足音が、遠く聞こえてくるような気がした。

 

「……ここを攻撃される前に、叩き潰す……!」

 

 前にこの廃工場には潜入した事がある。この奥は密室だ、それでいて一本道。逃げ道に使うには得策じゃない。

 

 向かってくる奴らは、ここで迎え撃たなければならない。

 

 そして、それを出来る奴がこの場にいるとすれば、……私だけだ。

 

「わ、私も援護します!」

 

「あいつらを叩き潰してぶっ殺します!!」

 

 その私の予想に反して、パスカルも一歩前へ踏み出した。こんな物騒な事を言うとは、……どうやら本気らしい。

 

 人手が多いに越したことはない。と、共に扉を抜けていこうとして、……そこで足取りが止まった。

 

「A2さん?」

 

 

 

 

「……いや、駄目だ! お前はここに残れ、パスカル!」

 

 

 

「……え? どうしてですか!? 足手まといにはなりません!」

 

 

「村人がなんで暴走したのか分からないんだろう? 子供達だって、突然暴走するかも知れない」

 

「そうなった時、止められる奴が必要だっ!」

 

 その可能性に咄嗟に気付いた。ここに子供だけを放置しておくのは危険だ。何かあったとき、先導役がたり得ない。

 

「……私が残ってもいいが、暴走したその時は子供でも殺すぞ」

 

 パスカルが少し迷っているように見えた。村の部外者である私に、敵をたった一人で任せるのが村長として不義理だと思ったんだろう。

 

 だが、適任はお前だパスカル。卑怯だが、脅すようにしてそう牽制する。

 

 

「……!! 分かりました……、どうか、どうかご無事で……!」

 

 

 外からの轟音に怯えた子供達、励ましに戻る為に、パスカルは私に背を向ける。

 

 少し震えたような声だったのは、人格者としての責任感か、それとも指導者としての覚悟だろうか。

 

 ……死にはしないつもりだ。絶対に戻ってくるから、頼んだぞ。

 

 

 また背を任せ合うようにして、駆け出した。

 

 

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