or not to [BE]   作:ヤマグティ

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正直こんなのNieRじゃないんですけど、これぐらいしないとここのA2パートは本当に本編と変化がないので再投稿です。




 

 

 迫っていた尖兵たちは、大型の戦車と雑魚が数体。

 

 だが、チームワークは無いらしい。どれもこれも暴走機体で、特に盛大に暴れ迫る大型戦車の猛進は、周囲の味方をことごとく轢き潰していた。

 

「クソっ……」

 

 敵が一気に一体にまで減ったのはいい、だがその残ったのは屈強な戦車機体。結局、苦戦しているのに大して変化はない。

 

 突進のすれ違いざまに何度か斬りつけてみるが、あの装甲、このテンポでは削りきれそうにない。

 

「Bモード……、いや、駄目だな……」

 

 チラリと、視線を奥の空にやる。

 

 輸送される後続の戦車達が、だんだんと迫ってきている。

 

 ここでBモードは悪手だ。今の戦車にはそれで勝てても、次の戦車には反動の疲労で負ける。

 

 ……いや、結局Bモードを使わなくても、コレを短時間で削り切るのは相当体力を消耗する。ハコに爆撃をさせてはいるが、あまり見込みはない。

 

 どうすればいい、何か弱点はないのか? 

 

「おい、ハコ! 何かいい考えは無いのか!」

 

 いつものお節介な口を寄越せ、今こそお前の仕事だろう。

 

 [……]

 

 ハコは爆撃をピタリと止めて少し静音すると、何か思い付いたのか、クルリとこちらに向き合う。

 

 

 [提案:ハッキングによるリモート操作]

 

 

「は……!?」

 

 予想外も予想外だった提案に、素っ頓狂な声が漏れた。

 

「私にハッキングができるのか?」

 

 予想外のおかしな提案を、さも当然のようにしてくる。

 

 9Sを基準にしてるのか? 私はアタッカーモデルだ、ハッキングなんてそんな機能は持ち合わせて無い。

 

 [肯定:ヨルハ機体A2へ、ポッド153のハッキングインターフェイスへのアクセス権限が付与可能]

 

「お前、ハッキングできたのか? だったらお前がやればいいだろう」

 

 [否定:ポッド153は過去に機械生命体に逆ハッキングされ、敵性化した事がある]

 

 [再発の危険性から、現在ポッドシステムは敵性体へのハッキングを禁止されている]

 

「……要は、私にやれって事だな?」

 

 [肯定]

 

「……ハッキングか……」

 

 ここで素直にやるべきなのは、頭では分かっていた。アレを内部から破壊、ましてや掌握できれば、あの外装を削る必要はない。

 

 9Sの記憶を見て、確かにずっと思っていた。ハッキングによる戦闘。随分と便利そうだ。

 

 だが、ハッキング。それは……、正しくあの少年の姿そのものじゃないか。

 

 あのどん底の四年間、私を私たらしめてきた物は何だ? 

 

 癒えない痛み。それに耐える執念。せめて吐き散らした血反吐。

 

 そして軋み鳴る、刃を振るうこの腕だ。

 

 次にハッキングに頼った瞬間、私は……今ここに居たはずの私を、その這いつくばって生きてきた全てを否定する事になるんじゃないか? 

 

「……っ…」

 

 躊躇う腕が、大剣の柄を離すまいと握りしめる。

 

 私は、どこまでが私なんだ? 

 

 思考か? 価値観か? 感性か? 

 

 渋る私を、ハコはただ黙って眺めている。こんな時にはあの鬱陶しさをくれないらしい。

 

「……おい、ハコ」

 

「……お前には、私が9Sみたいに見えるか?」

 

 答えろ。お前が一番、アイツを近くで見てきた筈だ。

 

 [質問の意図が不明]

 

 

 [……]

 

 

 [回答:不要な会話は、エネルギーの無駄]

 

 

 

「……」

 

「……そうか、無駄か」

 

 なるほどな。どうやったって、お前は私の思い通りに動く気は無いと。

 

 ハコめ、結構真剣に悩んでたんだがな。

 

 

 ……無駄。そんな一言で片付けるのか。

 

 

「……ハッ」

 

 

 

「そうだよな」

 

 

 それだよ。私が欲しかった答えはそれだ。

 

 清々しく、潔く大剣を納刀する。

 

「……ん」

 

 さっさと寄越せと、ハコに手を差し出す。

 

 アイデンティティの喪失? 執念の否定? 自己の位置? 

 

 私はA2か? それとも否かだって? 

 

 

 

 下らない。二号はそんな事考えないだろ。

 

 

 迫りくる戦車と、後方の扉を見つめる。

 

 あの中にいるのは、守ると約束した物。

 

 今、私には守るものがあって、目の前には敵がいて、ここには守れるかも知れない力がある。

 

 だったらどうする? 迷う必要なんか無いだろう。

 

 約束も、その相手も機械生命体だが、……もう約束してしまった。それで十分だ。

 

 [ヨルハ機体A2へアクセス権限を付与完了]

 

 眼前にやってきていた戦車の、砲口の鼻先。触れる間近に手をかざした。

 

 戦車は突撃スレスレで硬直すると、小刻みに震え始める。

 

 

 やり方は分かってる。結局、使えたらいいななんて、頭の中では散々予習してみたんだ。

 

 ここを破壊して、それからここのシステムを掌握する。

 

 少しギュッとして、……完了だ。

 

 

 戦車は小刻みをスッと止めて、その砲口を項垂れる。……やがて服従したような息の無い瞳で、顔を上げた。

 

 輸送されてきている機械共、それに向かって戦車を振り向かせると、薙ぎ払うようにビームを放たせる。

 

 狙いは運ばれている戦車ではなく、運んでいる浮遊型。

 

 理屈は単純。戦車は飛べない。だから運び屋を潰されれば、戦車は無傷だろうが否応なしに海の藻屑行きだ。

 

 遠い海原で、点々と上がる水飛沫を眺めると、かざしていた手の平を見つめる。

 

 まぁ、まだ二号だろう。多分。

 

 

 小雨が止み終わると、一仕事やり終えたように、肩を落とそうとする。

 

 ……が、そこで次には、更に盛大な水飛沫が遠方で上がっていた。

 

 ……どうやら、あの戦車群も前座の尖兵に過ぎなかったらしい。

 

 赤い体の巨大な機械生命体が、遠く奥から水面を歩いてきている。

 

「……あれはハッキングできるのか?」

 

 [否定:過去に試行されたが、失敗に終わっている]

 

「だろうな」

 

 失望に肩を落とすと、大剣を再び手に取った。

 

 [推奨:工場内部への撤退]

 

「どうせ追い詰められて終わりだ。ここで倒す」

 

 

「やっぱり、この手に限る」

 

 

 [……9Sはこのような論理性に欠ける判断はしなかった]

 

「ハッ、残念だったな」

 

 既に眼前にそびえ立った赤色の巨体。

 

 振り上げられたノコギリの剛腕を、睨み上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な回転ノコギリが、すぐ真横に叩き落とされる。

 

 直撃こそせずとも、弾丸のような塵が体を叩きつけてくる。

 

 何度もノコギリを叩きつけられて、ズタズタでささくれた鉄の地面。風圧に吹き飛ばされて、転がっていく。

 

「クソッ……」

 

 鋭利な砂利に手のひらを叩きつけ、体を押し上げる。

 

 重く空を切る音と、濃くなっている巨影。もう次の剛腕が振り下げられている。

 

 ようやく立ち上がり見上げた頃には、また横へ吹き飛ばされていた。

 

 何度も、何度も転がり続ける。

 

 さっきから、ずっとコレの繰り返しだ。

 

 分かってはいたが、分が悪いなんてもんじゃない。

 

 あの巨大機械生命体。さっきからハコに射撃をさせているが、大きすぎる的だ。恐らく効いていない。

 

 長い腕のリーチを生かして距離を取ってきているから、一部は当たってすらいないだろう。

 

 従属させていた戦車は、デカいしトロいしで格好の的だったから真っ先に叩き潰されてしまった。

 

 ハッキングで破壊する方法も、ハコ曰く前例が失敗に終わったと。精々、少しの間硬直させるのが限界だろうか。

 

 唯一の救いは、奴にとって私が小さすぎる的である事、ただそれだけ。これの為だけにまだ生きていられる。

 

 そんな感じで、お互いに決定打を打つ事ができず、同じことばかりを繰り返していた。

 

 だが、それでも優勢なのは間違いなくアチラの方だ。やがて私はへばって、叩き潰されて、それで終わり。

 

 顔を上げると、巨体もそれを分かってか煽るように攻撃を止めて、あの赤い瞳の閃光で私を見下してきた。

 

 屈強で、巨大。普段なら、流石に逃げるような相手だ。

 

 

 ……だが、あの先には約束してしまった物がある。

 

 絶対に倒す。倒せるか倒せないかじゃない。倒すか倒さないのか、問題はそれだ。

 

 見下ろしてくる真紅の閃光に、濁った青色で睨み返してやる。

 

 どうせ、そろそろヘバッた頃合いだとでも思ったんだろう。巨体をかまして長期戦にでも持ち込めば、余裕綽々に勝てると踏んだな? 

 

「……ハコ。私が合図したらアレにハッキングしろ」

 

 だが、長引かせ過ぎたな。お陰様で、散々頭を回させて貰ったよ。

 

 [ポッド単機による敵機体へのアクセスは原則禁止され]

 

「やれ」

 

 [具体的な作戦内容の提示]

 

「文句言うな。少し動きを止めるだけでいいから」

 

 

「……頼む、ポッド」

 

 

 [……了解]

 

 ハコを野放しにしてやって奴の頭部へ飛ばすと、私は直立不動に立ち尽くす。

 

 見上げてみると、ノコギリが無防備と無抵抗になったマトに向かって、今まさに振り下ろされていた。

 

 まだ。

 

 空を裂く轟音が、振動となって降り注いでくる。

 

 ……まだ。

 

 振動はビリビリと体中に響いてきて、まるで張り詰めた私の神経を代弁しているようだ。

 

 ……まだだ。

 

 髪先が、風圧にフワリと揺れる一瞬。

 

 

 今だ。

 

 

「ポッド!!」

 

 [了解]

 

 

 巨大ノコギリは鼻先を抉るスレスレで、電撃走って硬直した。

 

 それを私も合図として、その剛腕へ登る為に飛び上がる。

 

 ギリギリの高さに何とか上体を乗せると、よじ登って、休む間もなく胴体目掛けて腕を駆け上がっていく。

 

「……っギ……コロ……ス……!!」

 

 [報告:ハッキングの強制解除]

 

 巨体が電流を弾き飛ばして、再始動を始める。

 

 此方を振り落とすつもりのようだが、その腕のリーチが逆に仇になった。初速はスピードがつかない。

 

「……ッ!!」

 

 顔をバカリと開くと、弾幕を放ち散らしてきた。このままだと、先に胴体に到達されると悟ったのだろう。

 

 だが、それも折り込み済みだ。

 

「ポッド、打ち消せ!!」

 

 [了解]

 

 戻ってきたポッド。絶え間ない連射音が、トロい弾幕を相殺していく。

 

 打ち消せない弾幕もあるにはあるが、あとはもう賭けだ。胴体上陸を目指して、お得意の射撃支援を信じて駆け続ける。

 

 後ろの髪に、少し弾幕が掠ってきたが、無問題だ。遂に腕の付け根辺りにまでは達した。

 

 飛び上がり、奴が工場擬態の為に巨体に巻きつけていた通路の柵に、辛うじてぶら下がる。

 

 通路に乗り上がると、また休む間もなく甲板目掛けて、階段を走って上がっていく。

 

 

「……クソッ、早いな……!」

 

 甲板には、もう私を迎え撃つ為の兵士が配備されていた。

 

 すばしっこい小型が何体かだが、これでさえも相手にしている暇はない。

 

「私はアイツの頭に向かう! コレを食い止めてろ!」

 

 [了解]

 

 機械共はポッドに相手をさせると、大剣を構えて、奴の頭部にあたる部分を憶測して、折角登ってきた甲板から飛び上がる。

 

 目下に視線をやると、見上げてきたデカ頭と視線が合った。

 

「……ギッッ!! オオオ、アアアア!!」

 

 私の両手にそれぞれ構えられた、大剣と太刀。

 

 私が何をする気なのか、デカブツはようやく察したらしい。顔をバカリと開き、空を切り裂くような咆哮を上げた。

 

 威嚇のつもりだろうか? いいや、戦慄だろう。

 

 こんな強引なやり方で押し通そうとする奴なんて、他にはそう居ない。

 

 

 巨体は咄嗟に、剛腕を振り上げようとする。だが、長く重すぎるリーチはまだ遠く先。私へは到底届かない。

 

 ミサイルも必死の抵抗に放ったようだが、射出の位置的に当たりそうにもない。

 

 せめてビームで撃ち落とそうとしてか、バカリと開かれる顔面。だが、もう十分な間合いに入った。

 

 

 しぶといな。遅すぎる。

 

 

「_____いい加減、壊れろっ!」

 

 

 直下する勢いへ、更にダメ押しに、Bモードも叩き起こしてやる。

 

 大剣の双剣を、巨体の首根っこ目掛けて叩き付けた。

 

 鉄骨とも思えるような、巨体の首の硬い質感に、みるみるとヒビが入って火花を散らしていく。

 

 

「っっっらぁぁぁああああああああああ!!」

 

 

 双剣を振るいきると、遂に巨体の首から、刃の閃光が貫通した。

 

 同時に、四角い刀身の大剣も、砕けて折れる。酷く無茶な使い方をしたからな、当然だろう。

 

 だが、それよりも真っ先に、あの巨頭の方へと顔を向ける。

 

 巨頭の首は軽快にハネ刎ね飛んだのと同時に、瞳の光をプツンと失って、クルクルと海に向かって落ちていく。

 

 つまり、倒した。あのデカいのを倒してやった。

 

 やがて背後からはズシンとした、頭を失った巨体の座り込む音も聞こえてきた。

 

 盛大な達成感と、スッとした安堵感。ずっと張り詰めていた神経は、ようやっと緩んでいく。

 

「フゥーーっ……」

 

 そして、潮風を掻き分け落下していく今の状態へも、冷静になる。

 

 

 ……。

 

 

 あ。私、跳ね飛ばした頭と仲良く落ちているじゃないか。

 

 

 しまった。倒すことばかりに注視して、その後は考えていなかった。

 

 だが、これにはもう手の打ちようが無い。眼前に迫りくる海面に、思わず目を瞑る。

 

 すぐに、隣から盛大な水飛沫が聞こえてきた。あの頭が沈みいった、絶命の音……。

 

 

 ……? なんで、海中の筈なのに音が聞こえた? 

 

 思えば海面に叩きつけれられた衝撃も、身を包む水の質感も感じない。

 

 

 恐る恐る瞳を開けると、海面は目の前スレスレで止まっていた。

 

 そして足先から感じるグイグイとした、上へ引っ張られるような感覚。

 

 

「……ポッド!」

 

 

 視線を上にやると、ポッドが左足を掴んで、私をぶら下げていた。

 

 

 [推奨:感謝の___]

 

 

「ありがとう。ポッド」

 

 

 [……]

 

 

 なんだ、急に黙り込んで。私だって礼の一つくらいは言えるぞ。全く……。

 

 

 脱力姿勢でぶら下げられ、ブラブラと輸送されていくと、工場から出てきたパスカル達が見えてきた。

 

 遠目だが、どうやら私に向かって手を振ってきているみたいだ。

 

 

 勝者にしては酷く情けない姿だったからだろうか。なんだか、……照れ臭い気分だった。

 

 随分と不格好な帰還だが、まぁいいか。

 

 

「A2さん、よくご無事で……って、あぁ! A2さん!?」

 

 ポッドが輸送を離すと、そのままべシャリと突っ伏したままになったので、パスカルはオロオロと走ってくる。

 

「……Bモードの反動で疲れただけだ。少し眠るから、奥まで運んでくれ……」

 

「ハイっ!」

 

 モヤのように霞んできた眠気の中に、ふと一瞬浮遊感がした。

 

 どうやら子供達に胴上げされて、せっせと運び込まれているらしい。

 

 

 機械生命体に、無防備に体の行く末を任せている。

 

 だが、そこには何の嫌疑心も、憎たらしさも、もう存在しなかった。

 

 信頼の中、眠気へと身を任せていく。

 

 

 

 

 ……あぁ、でも。また眠ったら、次はどの悪夢を見るだろう? 

 

 

 

 眠り落ちる寸前、一つ気がかりな点はそこだったが、もう瞳も音も、固く閉ざされてしまった。

 

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