やっぱ3週目ってナインズ君に背負って貰わないと駄目だなってつくづく思うので再投稿です。
視界に広がっていく、ハッキング空間。
目の前に映ってきたのは、奥へと続く一本道だった。
ここがユニットコアの内部。未知の空間と敵だ、どう戦うべきか考えるべく、遠目でしか見えない最奥の全容をいち早く掴もうと、通路を走って行く。
どうやら、長い通路の最奥は広間になっているようで、そこでは何かが、溢れ落ちそうな程に溜め込まれている。
その膨大な何か。とにかく隙間なく敷き詰められていて、さながら、奥の広間を包むドームのようだ。
「……。……えっ?」
……だが、近づいていくにつれて、そのドームの正体が、だんだんと鮮明に写ってきた。
「……これ、は……」
ドームの正体、その全容を掴むと、走っていた歩幅が、しきりに止まっていく。
溢れ返る程に溜め込まれていたソレら。それを見て、ようやく、ここがコアの内部では無い事に気付かされた。
敷き詰められたモノ。その正体は、……膨大な量に映し出されたモニターだった。
あまりにも多すぎて、遠目で見たらドームのようにしか見えなかった。
隙間なく敷き詰められた、有り余る程の一つ一つのモニター。
そして、それら全てに等しく映し出されているのは……。
……9Sの姿だ。
「これは……。私の記憶……?」
ここは、私の内部だ。ユニットのコアじゃない。
まさかと思い、肩元を見回す。
「……いない」
……やはり、ポッドの姿が無い、私一人だ。
……何故、私はここにいる? だって、この場所に来るには……。
そうやって景色を見渡していると、更に9Sの表情や姿が、モニターの一つ一つにありありと映し出されてきた。
この表情、この記憶。
……あぁ、今でも、……一人一人を鮮明に思い出せる。
君が機械生命体の顔になっても、また会えた時の記憶。
君の首を絞める時の記憶。
共にイヴと戦った時の記憶。
君を抱きかかえて、共に帰る時の記憶。
君を助けるために、アダムと戦った時の記憶。
共に超大型機械生命体と戦った時の記憶。
共にA2と戦った時の記憶。
共に遊園地の歌姫と戦った時の記憶。
君とバンカーで初めて会った時の記憶。
君と工場で初めて会った時の記憶。
君と草原で初めて会った時の記憶。
君と海岸で初めて会った時の記憶。
君と砂漠で初めて会った時の記憶。
君と森林で初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と初めて会った時の記憶。
君と、初めに会った時の__________
「……っ!」
ふと、呆然としていた尻目に、誰かの気配が現れたのを感じた。
敵だと思い、見渡していた視界を前方に戻すと、そこにあったのは、……あの姿。
「……ナインズ」
9Sの姿。だが、ソレはただそこに立ち尽くして、身動ぎの一つもしない。
あのお喋りな筈の口からも、一言の言葉も語りそうに無かった。
突然現れた、この9Sの正体はすぐに理解した。
これは記憶の生み出したホログラム。ただのデータのカタチが、ここに存在している。
膨大な量に膨れ上がった私の記憶が生み出した、回想と追憶。……私が細かに見てきた、私の9S。
「……ただの記憶……、だけど……。私は……」
フラリと、自然とその手が、カタチに向かって伸びていく。
その瞬間、周囲から異音が走り始めた。それはまるで、食い破るような軋んだ音。
記憶の数々に、黒いモヤのような何かが侵食を始めていた。
記憶は次々にモヤに覆われ取り込まれていって、9Sのカタチへと収束していく。
黒いモヤのような何か。ノイズのようなソレ。
また一つ、また一つへと記憶に侵食していく。
「……やめろ」
それを見て、ようやく思い出した。ここは私の内部。コアにハッキングを仕掛けた筈が、何故か自分の中にいたのだ。
これがその答えだ。このノイズ、逆にユニットから、ハッキングされてしまっていた。
ならば、この黒いモヤは、……機械生命体。
「やめろっ……」
どんどんと広がっていく、夥しい数のノイズ。
「やめろっ」
私の記憶の奥底に、私以外の誰かがいる。
私の記憶を覗き込む、誰かがいる。
私の奥底へ触れる、誰かが入り込んできている。
「やめろ、やめろ。私の中を見るなっ……!!」
不愉快さにも似た焦燥感が、ジワジワと体に蝕んでくる。
嫌に冷えた何かが、思考の中に垂れて伝っていく。
それに触るな。それを見るな。
それには、ここには。
誰にも見せられないモノがある。
黒いノイズは、カタチを覆い尽くすと同時に、歪に変形して、遂に巨大なノイズの怪物に変わる。
その瞬間より、刃を手に取って、この双脚はノイズへと駆け出していた。
最早、そこに声は無かった。叫ぶよりも先に、アレを殺そうと体が動いている。……まるで、何かに焦るかのように。
ノイズは膨れ上がった剛腕を、薙ぎ払うように振りかざす。そこから振り放たれる、ノイズの粒の一つ一つ。それがまるで、弾丸のようになって飛んでくる。
その弾丸の軌道は、見えていた筈だった。だが、この身体はノイズへ、ただ一直線に向かっていく。
だからノイズの弾丸は当然のように、体中を貫いて通り過ぎていく。
痛みのような歪みが身体中に走り、鮮血のようなデータの欠片が散る。けれど、それさえも気にしていられない。弾丸と入れ違うようにして、遂にノイズへと刃を突き立てていた。
突貫されたその勢いで、ノイズは仰向けに崩れ込む。そこへ、更に馬乗りになって、もう一度刃を突き立てて、地面に縫い付ける。
早くここから追い出す為に。二度と、立ち上がれないようにする為に。
「痛い……、痛い、よぉ……」
胸を貫く刃へ、まるで痛がるように、ノイズは軋む。泣き叫ぶように、恐怖に震えているかのように。そんな歪な音を立てている。
それでも構わず、刃を押し込み続ける。その音も不愉快だ。早く消えろ、消えろ。
ここから出ていけ。ここは他の誰かが居ていい場所じゃない。
「この記憶があったから……! 私は……!」
「こんな……っ、記憶があったから……っ!!」
見るな。私の記憶を見るな。
その記憶も、この記憶も、全部仕舞い込んだ物だ。
私の奥底へ、私だけが見られるように、そっと仕舞い込んだ場所だ。
誰にも見せられないから。
誰にも見せたくないから。
だから、この場所へ隠しこんだのに。
この記憶に触るな。この記憶を覗くな。
この場所には、暴かれたくない物がある。
この場所には、見られたくない物がある。
君にだけは、知られたくないモノが_______
ザクリ。
そう思った瞬間、ノイズに軋んだその歪な音が、よく聞き慣れた音に変わった気がした。
よく聞き慣れて、それがとても不快に感じる音。
柔らかい肌も、その奥に詰まった硬い金属も、全てを貫いて奪う、あの音が聞こえた気がした。
「え……」
……いや。気がした、では無かった。
黒いノイズになっていた筈のソレは、いつからか、もうとっくに9Sのカタチに戻っている。
そう、9Sの姿に。あのカタチに、勢い余って刃を突き立ててしまっていた。
「あっ……」
背筋に、悪寒が走る。
目の前の姿に、みるみると血の気が引いていく。あのノイズを狩るために整えていた呼吸が、不規則になって、ボロボロに崩れていく。
必死になって、刃を振るい上げて引き抜く。
すると、刃からは血が共に引き抜かれてきて、ゴボリと溢れ出てきた。
たった一滴、切っ先から滴り落ちた真っ赤な雫。その光景に、鼓動がビクリとして、膠着していく。
「なん、で……。これは……」
どうして、データの存在からあの感覚がする?
どうして、ただの記憶のカタチから、生き通った血が溢れ出ている?
膠着していた鼓動と吐息は、だんだんと、ふつふつとして早くなっていく。
違う。
違う、これが記憶だからだ。
その音も、この暗い色の瞳も。私が鮮明に記憶していたもの。何の寸分も違いない、私の記憶。
これが私の隠していたモノ。分かってる癖に。
あのノイズを殺して、もう追いやった筈の白日の下。そこに引きずり出されていたのは、……この記憶。
「あっ……」
暴かれていく感覚が、ゾワリと背筋に走る。
見上げたその顔が、見下ろすこの顔を覗き込んでいる。
「あぁっ……!」
この顔が、見られたくない姿が、ここに居る。
___私は2Bか、それとも否か?
ここに、いるのは____
「うああああっ!!」
遂に振るい上げた筈の刃は、また叩き落としていた。
理性が理解を拒む。……けれど、この手の方は勝手に、繰り返して、刃を突き立て続ける。
何度も、何度も、何度も、何度も。繰り返して、突き刺している。
見ないで。暴かないで。知られたくない。
焦るようにして、恐れるようにして、あのカタチに突き刺し続けている。
やめて。やめて、覗き込まないで。
私を暴かないで。私を見ないで。
刃が押し込まれ、血と共に引き抜かれ、どんどんと赤色は絶え間なく溢れていく。
真っ赤な水音と、軽快な鈍音。光のない瞳と、動かない表情。
ソレが私を見上げている。もう、とっくに死んでいる姿で。
やめて、やめてっ。こんな姿を見ないで。
少年のくすんだ瞳、それが見透かすようにして、空を眺め続けている。
そのカタチと、私。ただそれだけが、この空間にいる。
敵もポッドさえも、誰もいない空間。誰にも見られない場所。
また一つ、また一つと突き刺し続ける。
恐れて唸るような。……或いは、貪り喰らうような声色と共に。
それは正しく、記憶した通りの光景。記憶のままの、私達の姿。
丁寧に、大切に。そっと記憶の奥底へ保管していた姿が、ここにある。決して見たく無いけれど、いつでも見られるようにしていたもの。
まるで愛おしそうに大事にして、この奥底へ、私が抱き締めていてモノ。
誰にも見せないように隠しこんだ、タカラモノ_________
「…………っぁぁああ……!!」
叫び声と、ギンとしたガラスを突き刺したような音。それらが一際大きく、辺りに鳴り響く。
それと同時に、急に視界が明るくなった。自分の姿が、資源回収ユニットの屋上へと戻っていた。
そこにあったのは、刃に貫かれたガラス玉。ユニットのコアに刃を突き立てていて、そこから真っ黒いオイルが、滴る血のようにして溢れていた。
……そうだ。私が貫いていたのは、コレだ。
後ろではポッドが、アクセスキーを取得した事も報告している。……グッタリとした疲労感と、自分の荒い吐息のせいでよく聞こえなかったが。
コアへと突き刺した刀は引き抜く事ができず、スルリと力なく、柄から両手を離してしまう。
疲労感、そんな感覚の違和感を、体の内側から感じる。
柄から手を離しても、まだこの手に残っているあの感覚。
どうしようも無い喪失感と、形容し難い何かが、身の内を這いずり回っている。
「……っ」
やがて這いずり回るソレらは、頭部にまでこみ上げてきて、遂に涙になって瞳から_______
「……ふっ……」
「……ふふふっ」
……否。
こみ上げて溢れてきたのは、酷く乾いた、笑い声。
「フッフフフフ……フフフフ……」
「アッハハハ……」
どんどんと口から溢れていって、零れて落ちていく。
こんなのオカシイと、頭では思ったが、もう体の方は止めようが無かった。
誰も見ていない。……もう、誰にも見られない。
もう何も隠さなくていいんだ。この愛おしい記憶も、こんな不釣り合いな想いも。
だって暴かれたくなかった相手は、……どこにも居てくれないのだから。
小さな、黒い染みのようなモノ。内に這い回っていたソレを自覚した途端、ずっと空洞のようだった体が、途端に満たされていく。
満ち足りていく。ソレを一滴も零さないように、悦ぶ体を両腕で抱き締めて抑えこむ。
全てが私の中にある。君が、君でさえ知り得ない、君の全て。
……私が、私にさえ隠し続けて誤魔化したモノ。でも、もうそんな嘘はつかなくていい。全部、全部……。
「アッハハハハハハハ……!!」
清々しいような、虚しい解放感。思考の中にも、ドロリとして何かが垂れてきた気がした。
ポッドも何も言ってくれそうにない。だから誰の視線が無いのをいいことに、一人きりで快感に身動いでいた。