ヨコオ作品考察、B群ってなんだよアコール…ってなってるので再投稿です。
2つ目のユニットからも、アクセスキーを回収した。残るは一つ。……だが、すぐに向かえるような状態では無かった。
フラリと足を引きずりながら、レジスタンスキャンプに戻ると、すぐに不自然な動きの私を見つけたポポルからは悲鳴が聞こえてきた。
「2B……どうしたの!?」
状態を伝えようとしたが、前のめりに倒れ込みかけて、それを慌ててやってきたデボルに支えられる。
目的を伝えようとしたが、結局上手く喋れず、私に代わってポッドが要件だけを伝える。
[戦闘により負傷。NFCSが機能していない]
「よくそんな状態でここまで来られたな……。調整に少し時間がかかるから少し待ってくれ」
またあの医療用のベッドにまで連れて行かれると、二人は特殊な方法で治療を始める。
内部を直接開くのではなく、何か特殊な光のような物を手から患部へかざしていた。
どういう技術か分からないが、これでスキャンや治療そのものを行えるらしい。
「酷いわ……。運動野が虫食いになってる……。これじゃあ歩いてここまで来るのも大変だったでしょう……」
「……? ……これ、目立った傷はないのに、なんで内部だけがこんなに……」
実際に治療に当たるデボルには、すぐにその違和感に気づかれてしまった。
内部ダメージの広さの割に、それに見合った傷口が一つも無い。近接戦闘特化である機体が、どうやって外傷を負わずに内部だけを破壊されたのか。
「……逆ハッキングされた」
「逆ハッキング……? なんで戦闘モデルがハッキングなんかを……」
デボルが疑問そうに顔をしかめてくる。逆ハッキングをされるという理屈は、つまり先に此方がハッキングを仕掛けていないと成立しない。
戦闘モデルに向いてないハッキング。そんな不器用な事をやったせいで、まんまと罠にかけられた。
何故わざわざそんな事をしたのか、疑問に思うのは当然だろう。
「……必要な相手だったから」
そこは誰にも触れられたくない領域だった。そう一言誤魔化して、終わらせる。
それからデボルとポポルは黙々と治療に当たる。治療用の名の通り、すぐにだんだんと回復していった。
あとは微調整だけだろうか。そう聞こうとしたが、別に聞く必要も無いと思い、あちらの作業に任せ続ける。
……黙っておきながら、静かだな。と思った。
普段なら9Sがその二人の独特な治療技術等について、作業中なのに平気で聞いたりしている所だろう。
作業中だから、邪魔しない。と、私はそう注意しているんだろうな。……けれど、いざ無くなってみると、コレにさえ喪失感のような物に苛まれてしまう。
……もう複雑な作業では無いだろうし、少し、二人と話をしてみようか。
……でも、何を話そうかは思いつかない。
9Sなら、なんて話題を振るんだろう? やっぱりその機能についての事だろうか。
けれど、もう二人は最後の調整に入ったのか、さっきの光はもう使っていなかった。
聞くタイミングを逃してしまったな、あまりコミュニケーションを取ってこなかったのが仇になった。
そんな事を考えながら、黙々と集中してくれている二人の顔を覗き込む。
……本当に、同じ顔をしている。
髪型で区別をつけられるが、顔だけを見たらどちらがどちらかなんてきっと分からないだろう。
同じ顔、か……。
「どうしたの? 2B?」
ずっと見つめていたからか、ポポルに気づかれた。
「あ……。いや」
「本当に、同じ顔だなと思って」
「ふふ、珍しいでしょ? 双子のモデルはもう運用されてないから」
「髪を取っ替えたら誰も区別なんてつかないかもな! ははは!」
「……いや、その喋り方を聞けば分かる」
冗談で言っているのは分かっているが、そのデボルのいかにもデボルらしい分かりやすさに、自然とそう言っていた。
二人は同じ義体でもデボル、ポポルと自我には区別をされている。どれだけ外装を同じにしても、人格面を見ればきっと区別は容易につくだろう。
「……」
気の強そうなデボルと、物静かなポポル。
双子の、『姉妹』。
「……デボル、ポポル」
「ん? どうした?」
「どっちが姉なの?」
その質問に、深い意味は無かった。ただ、9Sなら多分そう言うんじゃないか。……と思っただけのこと。
「「えっ?」」
だからそう聞いた瞬間、デボルもポポルも二人して驚いた顔をして、互いを見つめ合ったのには逆に驚かされた。
……何か、不味い事を聞いてしまったのだろうか? そう思った矢先に、二人は今度は笑い出した。
「……どうしたの?」
「……ん、いや。少し前にも、それと同じ質問をしてきたヤツがいたんだ」
「やっぱり、『同じ事』を聞いてくるのねって。ふふ」
「……? ……そう」
取り敢えず、不味い事を聞いてしまった訳では無い事に胸を撫で下ろした。
ただ、他の誰かからも同じ質問をされた。それに何故そこまで面白そうにするのか、その全容はよく掴めなかった。
詳しく聞こうとしたが、次にデボルとポポルは真剣そうにして、何かを考え込み始めてしまう。
「どっちが姉かぁ……」
デボルは少し遠い目をして天を仰ぐと、ポポルの方を見る。
「それは私達にも、もう思い出せないの……」
「……思い出せない?」
何故? と、当然思った。姉妹なのにどちらが姉と妹かが分からないなんて妙だ。
『知らない』なら、製造された時のインプットミスで分かる。
だが、『思い出せない』という言い方は引っかかった。
その当然の疑問を向けられる事は当人らも承知のようで、デボルは私の表情を伺うと、少し長くなるけど。と前置いて話を始めた。
「……私達のタイプは、昔は大勢いたんだ」
「何でも、大規模システムの管理を任されていたらしい」
「……だが、私達と同じモデルが暴走し、そのシステム管理で事故を起こしたんだ」
「その危険性から同形機の殆どは、事故後に殆ど処理が決定された」
「その中で私達が処分されていないのは……」
「……再び暴走しないように、サンプルとして監視される為なの」
「でも、おかげで、こうやって仲間を助ける事ができる」
「それが、私達が犯した罪への償いだと思ってる」
償い。
デボルとポポル。なぜ現在は運用されていない双子型だったのか。そして、なぜレジスタンス達からの扱いが悪かったのか。
長らく疑問だったそれらに答えが出た。危険な個体として管理されていた。そういう事だったのか。
「……ただ、私達は処分こそされなかったが……」
「当時の記憶は……、削除されている」
そして最後の疑問にも、答えが提示された。
再犯の懸念から、当時の記憶を消す。
当事者と別個体とはいえ、妥当な判断ではあるが……、きっとその時のミスで重要な筈の基礎情報も削除してしまったんだろう。
記憶の削除。それは今まで居たはずの自分を無かった事にされること。実質的に、……死を経験したような物だ。
それも機械生命体との戦いではなく、仲間の筈のアンドロイド達の制裁から。……自分たちではない筈の、同型機の事故によるもので。
……記憶の、削除。
……二人には、暗い話をさせてしまったな。
「やっぱり、ポポルが姉さんなんじゃないか? 私よりも物知りだし、しっかりしてるからな!」
「あら? 私にはいつも明るくて元気な、デボルの方がいかにもお姉さんらしく見えるけど」
「そうか?」
……と、思っていたのだが。二人は勝手に考え込んでいた私を差し置いて、いつの間にか『どちらが姉らしいか』という議論を始めていた。
……お互いに譲りあうような、譲らないような。変な討論だった。
討論に熱中している二人は、すっかり作業の手を止めている。……黙っていた為に、私は忘れられてしまったのだろうか。
「ねぇ、2Bにはどう見える?」
「え?」
黙って聞き流していた程度の私へ、突然ポポルが私にもその議題を吹っかけてきた。
「私とデボル、2Bにはどっちがお姉さんに見える?」
……難しい質問だった。私は姉妹という関係性を詳しくは知らない。
ルーツが同じになる物から先に生まれたのが姉、その後に生まれた物が妹。それ以外の判断基準は持ち合わせていなかった。
……けれど、この質問をしたのは他でもない私だ。何かしらは答えなければならない。
姉妹。心当たりは無いか、色々と記憶を思い返して見る。
……そこでふと思い出したのは、パスカルの村で会った機械生命体の姉妹だった。
リボンが特徴的だった姉妹、行方知れずになった妹の捜索を依頼されて……。
……最終的に、9Sとお揃いのリボンを貰った。
姉は行方知らずの妹をとても気にかけて、酷く心配していた。
妹もそんな姉をとても頼りにしていて、砂漠で一人恐がって震えていた所に、姉の名前を出したらすぐに大人しくなった。
姉が妹にとって頼りになるような、そんな力強い存在とするならば……。
思い出すのは、スキャナーを求めて初めてこの二人を訪ねた時。
見慣れない訪問者であった私へ、ポポルを守るように警戒心を顕にしてきた____。
「___デボルの方が、姉に見える」
「……かも」
その答えに、二人はまた互いに見つめ合う。そして、これもやはり、また微笑んだ。
「やっぱり、同じ答えになるのね」
「同じなんだな、2Bも」
どこか感心したような二人の口調。どうやら、これも以前の誰かと同じ答えだったらしい。
以前の誰か。今度こそ詳細を聞いてみようと思ったが、二人はもう既に譲り合う討論を再開していた。
またタイミングを逃した。普段のコミュニケーション不足を痛感させられる。
二人の討論は、小耳程度に聞いていても長くなりそうなのが分かる。
……楽しそうに言い合っている。多分調整も終わったようだし、また質問攻めにされると面倒だから、ここは後にしようと立ち上がる。
「ありがとう。助かった」
ちゃんとお礼は言って、最後の回収ユニットを目指そうと歩き始める。
「……あ、2B」
最後にまた、ポポルが呼び止めてきた。
心配そうな瞳。何を言いたいのか、これは予想できた。
「……何」
「……お願い、一人で死のうとしないで」
「9Sも、それを望んじゃいないだろうしな」
「……分かってる」
……また、嘘をついた。
■ □
この世界の何処かの部屋に、明かりがつく。
ポッド153、042。互いに随行支援機体たる二号が活動をひと時停止した為、機会を見て情報の共有を始めていた。
[A2へ随行していて気づいたが、敵性機械生命体間で情報の共有がされはじめている]
[それは調査が必要だ]
[データを共有するので、そちら側でも注意してほしい]
[了解した。……別件だが、2Bについて報告がある]
[了解]
[こちらもデータを共有するが、心理状態の悪化が既に深刻な状態にある]
そう言うと、直ちに042は報告データを153へ送信する。この間近の距離で口頭説明を省いた辺り、相当急いでいるらしい。
[……2Bはそんな状態に]
一通り情報へ目を通した153。同時進行しているもう一人の二号へも、難色を示す。
先程、こちらの二号からも無茶苦茶な無茶に付き合わされたばかりだったのだが、それを議題に挙げている状況ではないようだ。
[2Bの精神状態はもう危険な状態に達しつつある。こちらも早急な対処が必要だ]
[同意]
[提案:データのオーバホール]
[否定:データオーバーホールは既に行ったが、改善の傾向は見受けられなかった。システム上の問題ではないと推測]
[……システム上の問題ではないのなら、我々随行支援機体の機能では対処不可能では?]
[……。……肯定]
[データオーバーホールには効果がなく、システムメンテナンスによって対処ができない]
[2Bは現在内部ダメージの治療を行っているが、それが終了次第、最後の資源回収ユニット、及び『塔』へ向かうだろう]
[……もう、どうすればいいのか分からない]
[…………]
[…………]
[……力になれず、すまない]
153は、己の無力を謝った。
ただ謝ることしか、できなかった。
■ □
「姉、か……」
最後の回収ユニット、遊園地へと座標をマークする。
それを終えた時、ふとそんな言葉を漏らしていた。
デボルとポポル。同じ顔をした同型機。
けれどあの二人には、二人を二人として分かつ物がある。
髪型は勿論そうだが、そんな外見的な物ではなく、口調や性格。そして、双子の姉妹であること。
姉妹。
姉と、妹。そんな家族のような関係性。
「同じ顔の、姉妹……」
その言葉に正しく浮かぶのは、この顔だ。
この顔。私と全く同じ顔。
A2。アタッカー二号。
私よりも先に製造された、旧ヨルハ部隊。廃盤されたA型モデルである事が、B型の私よりも先である事を証明している。
[A]と、その次に当たる[B]。
もし。同じ二号の私達が、姉妹機だと言えるのなら……。
……あの二号は、私の姉になる?
「……違う」
……振り払うように、首を横に振る。
違う。あれは私と同じ二号モデル。あれは、[2]号だ。
私が終わらせるべき、……もう一人の二号。
◇◇◇
「それが、私達が犯した罪への償いだと思ってる」
◇◇◇
私が、この手で。
◇◇◇
「……お願い、一人で死のうとしないで」
◇◇◇
またポポルからの、あの視線が浮かんできた。
人が変わったようだと、そういう風に私を見る目。
……、いいや。
私は変わったんじゃない。
次のユニットも壊して、塔も破壊する。
……そして、A2を殺す。
9Sを殺した、あの二号を裁く。
それがあの二号の贖うべき罪で。
……それが私の、最後の仕事だから。
私で、二号を終わらせる。