or not to [BE]   作:ヤマグティ

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本当は二十一話目にこの話を持ってくる筈だったんだけど、見積もり間違えてたから再投稿です。




 

 

 最後の回収ユニットの位置は遊園地。ユニットを目指す遊園地内の道のりでは、珍しく機械達に襲われる事が無かった。

 

 遊園地に住みついていた機械達は以前もそうだった。ただパレードを模して、それに興じているだけの無害な個体の集まり。

 

 あの時は、襲ってこないのなら戦う理由もない。と、そう済ませて私達も相手にしなかった。

 

 ただ、今回無害だった理由は、その以前の理由とは大分違っていた。遊園地の変化には、一歩踏み入れた瞬間にすぐに気付いた。

 

 道楽に演じていた筈の機械達が、あの楽しそうな声の代わりに、濁色のオイルを吐き散らしていたのだ。

 

 規則的だった足並みのパレードは見る影もなく、あちこちでユラユラと、ピエロの機械達は苦しそうに悶えている。

 

 アンドロイドの論理ウィルス感染のような、そんな挙動と症状。

 

 時折私を見つけると、フラフラと襲いに歩いてはくるが、それはノロマとさえ評せない物だった。

 

 だから実質的には、無視すればそれで無害に相違なかった。

 

 彼らは汚濁された思考で何処を目指しているのか、狭い遊園地の中を永遠と彷徨い続けている。

 

 そんな惨状の有様と化した遊園地だったが、それはむしろ、ようやくここが元は廃墟であった事を思い出させてもいた。

 

 

 らしくなった。この場所も、この機械達も、コレが本来の姿だ。

 

 殺し合いの機械達に感情なんてなくて、あんな享楽の姿こそ歪だったんだ。

 

 

 ……今までがずっと変だったんだ。ただそれだけの事。

 

 

『こんにちは! 資源回収ユニットです。防衛体勢に入ります!』

 

 ユニットの入口は、もう何度目と同じ要領で開く。

 

「何度も……」

 

 防衛? 何の為に? 

 

 どうせ、みすみすと認証キーを渡すくせに。気づかないなんて思っているのだろうか。

 

 ……明らかに、キーを集めさせられている。

 

 何故、『塔』に入る為の鍵が、ユニットの最重要機関であるコアにわざわざ配備されていたのだろうか? 

 

 ……私なら確実にコアを破壊すると思っていたからだ。そこに置いておけば、キーは私の否応無しに、私の手に渡る。

 

 『塔』へ導くつもりだ。キーを集めさせて、最後に自然と、『塔』を目指す流れを敷いてきている。

 

 弄んでいるのか、他に意図があるのか。

 

 だが、何かの意図に利用されているのだけは確信だった。

 

 ……それでも、それが分かっていても、私の行動パターンもまた同じ。ユニットの入口へと目指していく。

 

 結局、どれだけ考え込んでも、『塔』を破壊する目的が私にはあった。そして『塔』に入る為には、この敷かれた道に乗せられる以外に出来る事がない。

 

 されるがままだと分かっていても、そうせざる負えない。

 

 またユニットへ向かう、そして、コアを壊す。それを、ただ繰り返し続けるだけ。

 

 ……ただ、繰り返し続ける。

 

 その感覚に、何か苛立ちを感じ始めていた。

 

 

 [神の箱。と記載]

 

 ポッドもまた律儀に、記載された天使文字を解析する。

 

 

 神。アンドロイドにとって言うならば、それは人類だろうか? 

 

 だが、ここに記されたのは人類の事ではないだろう。機械生命体にとっての神だ。

 

 一体それが何たるかは知らない。彼らの主だったエイリアンはもういないのだから。

 

 

 ……そういえば、確かあの廃工場を占拠していた集団は、同じ機械生命体の一人を称え祀っていた。

 

 あれを見るに、もはや崇拝という目的にさえ辿り着ければ、神など何でもいいのかも知れない。

 

 それこそ死体であろうが、空っぽの偶像だろうが。

 

 

「……どうでもいい」

 

 何であれ、これから殺しに行く機械共の拠り所なんてどうだっていい。

 

 例えあの機械達に神とやらがいるのならば、それも私が殺しに行く。

 

 ……殺し尽くせばいい。だって私は、そういう機械なんだから。

 

 

 ユニットの構造も、また見慣れた物だった。相変わらずの地形、誘導されるがままの一本道を進んでいく。

 

 また機械達だろうか、それともハッキングの箱か。……ハッキングのやり方には面倒な目に合わされた。どちらにせよと、刃を構える。

 

 答え合わせはというと、機械達だった。だが、前回よりも数を増やし、更に照明を落として奇襲をしかけてくるだのと、工夫を効かせてきていた。

 

 あっさりと最後のユニットにまで到達されたからか、ようやく本格的に殺しに来ている。

 

 あの二つのユニットに造作も無かったから、それで油断していると思われたのだろうか? だったら、それこそが油断だ。

 

 

 闇中の唯一の頼りであるポッドの照明を、敢えて落とした。この場の全ての姿が、暗闇の中に消える。

 

 

 だが、暗闇一つになった筈の空間。次々と、闇に輝いていた赤の双点は途絶えていく。

 

 暗闇の中で一人、また一人と光が消えていく。機械達は想定外だったろう。

 

 

 闇討ちで勝負したいのなら、私の方に分がある。

 

 

 コチラも殺し方に工夫をつけた。

 

 胸元辺りだろうか、そこに一刺しすると、一撃で機械達は絶命する。

 

 そう、機械生命体のコア。あの戦車戦によく学習させて貰った。要は、ブラックボックスと同じ要領。

 

 コアに当たる機関があって、それが最大の弱点なのはどの機械にも言える事らしい。

 

 ……ただ、そのコアが胸元辺りにあると踏んだのは、……何となく、これも()()()()ではないかと考えたからだった。

 

 ……兎に角。敵の最大の弱点、その位置を把握していた。

 

 そして、この暗闇。

 

 私の視界を奪う為に照明を落としたのだろうが、むしろ逆効果だ。

 

 機械達はまさか私が、自ら頼みのポッドライトを消すとは思わなかっただろう。

 

 奴らが知るわけがない。私は暗闇によく慣れているんだ。音と気配、そこから標的の位置を割り当てる、……造作もない。

 

 ポッドの照明まで落とされてしまえば、この暗転に視界を潰されたのは、むしろ奴らの方だ。

 

 暗闇に黒服を溶け込ませて、背後や頭上から、コアを貫いていく。

 

 反撃の手間さえ与えず殺して、手早く進めていくので、機械達は一瞬の内に制圧されきった。

 

 照明がようやく、遅れて帰ってくる。そこには、本来映るべき機械達の完勝の姿は無い。

 

 代わりに、あちこちには原型を綺麗に留めた遺骸の数々が照らし出され、静かに横たわっている。

 

 ただ一人、満身創痍に立っているのは、私だけだ。

 

 勝利を示すように納刀し、その遺骸を冷ややかに眺める。

 

 けれど、コレだけ手際よく終わらせられた事に、実の所は内心驚いていた。

 

 機械生命体相手に、このやり方を実践したのは初めてだった。コアの存在を知らないあの頃は、迂闊に接近するのが得策では無かったから。

 

 ……やっぱり、こういうやり方が向いてるんだろう。

 

 ……、早く次の階に行こう。もう、ここに用は無いのだから。

 

 

 次の階も、また次の階も。機械達は一つ覚えに暗転戦略を繰り返してきた、だから、同じように処理をした。

 

 大勢いた機械達の姿が暗闇に消え、明かりが点くと、私だけが何事も無かったように立っている。

 

 それは完勝そのものなのだが、……何故か優位に立った気にはなれなかった。むしろ、何か苛立ちのような感覚を覚えている。

 

 学習しないな。一向に何も変化しない。

 

 何度も似たような戦略を取ってくる。だから何度も、何度も同じ方法で殺し続ける。

 

 パターン化した、酷く簡単な作業。

 

 何度も、何度目も同じ事を繰り返し続けている。この殺し方で、何度も、何度も。

 

 それで手軽く処理できている筈なのに、何故か一つ殺せば殺す程、この手際の良さにはどんどんと苛立ちのような物が募っていく。

 

 何度も、何度も同じ事を繰り返したって、何も変わりはしないのに。

 

 やがて、募っていった苛立ちは遂に行動に出始めた。コアを貫いて、それで終わった筈の死体に、必要以上の追い打ちを叩き込んでしまっている。

 

 姿こそ映らなかったが、それでも暗闇の中には、凄惨な破壊音がハッキリと鳴り響き続けていた。

 

 

 つんざいていた音が止み、もう何度目か機械達を殺し尽くすと、それがタイミングだと言わんばかりに、明転する。

 

 追い打ちの執拗さ、ソレを見せつけてくるようにして、照らし出してくる。

 

 機械達の遺骸は、元の原型のない只の鉄屑になって、あちこちへボロボロの鉄板やパーツを転がしていた。

 

「……ハァ……ハァ……」

 

 私はというと、必要以上の無駄をしたせいで、いらない疲労に肩で息を切らしていた。

 

 [警告:過度な戦闘行為は危険を有する]

 

「……黙ってて」

 

 [……拒否:本支援ユニットはヨルハ機体2Bの随行支援機体]

 

 [対象ヨルハ機体の状態を危惧する権利を有する]

 

「……うるさいっ……」

 

 鬱陶しい、鬱陶しい。この照明も、この言い草も、まるで今の私を辱めてくるようだ。

 

 振り払おうと、足取りを進めていく。早くこのユニットも終わらせよう。

 

 コアを壊して、早く、早く終わらせる。面倒なこのユニット巡りも、あの塔も、……あの二号も、全部終わらせてしまうんだ。

 

 

 

 屋上にでると、ここだけは以前と構造が違っていた。

 

 コアらしい物が見当たらなかった。かといって、敵も居ない。

 

 一歩一歩、警戒しながら前に進んでいくと、やっと敵が立ちはだかってきた。

 

 目の前に飛び降りてきたのは、人影。

 

 そう、人影。

 

 ここで出会うのならば、それは汚染された機体だ。

 

 コレも殺すだけ。…と、既に結論は出せていたのに、ハッキリと見えてしまったあの顔。

 

 攻勢に構えた姿勢が、動揺に崩れる。人影の正体に、敵の狙い通りに意表をつかれてしまった。

 

 人影の正体。体は戦闘服に包んでおきながら、頭部のヘルメットだけは、見せつけるようにして外されている。

 

 口元を覆う黒い布、滑らかな金髪。そして、……赤く光る瞳。

 

 

「オペレーター、21O……!?」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「次の作戦から、B型部隊に異動する事になりました」

 

 

 

 

 大規模進行の数日前、オペレーターの筈の彼女が、珍しく廊下にいた。気になって声をかけてみたら、そう答えた。

 

「……急に戦闘モデルに転換して平気なの?」

 

 何故、B型に? とは聞かなかった。理由は何となく分かっている。

 

 彼女からは、度々地上での情報収集の依頼を受けていた。自分でも地上に降りたいと思ったのだろう。6Oも、よくその憧れを溢していた。

 

 ……ただ、戦場を知るD型やH型ならともかく、戦闘経験の無いオペレーターモデルが急に実戦配備に転換する。というのには、戦闘モデルの経験として懸念があった。

 

 大規模進行となれば、例え精鋭部隊でも過酷な戦いを強いられるだろう。

 

 転換による訓練は受けるだろうけど、実戦に通じるとは限らない。……その例を沢山知っている。

 

「……確かに危険は承知しています。ですが、やはり直接自分で地上に行って、情報収集がしたいのです」

 

「……あ。それと関係ありませんが、この事は9Sには黙っていて下さい。彼に知られると……、色々と面倒なので」

 

 ほら、9Sってそうでしょう? そう言わんばかりに、21Oはツンとした態度をとる。敢えて鬱陶しがる口振りをすることで、何か誤魔化そうとしていた。どうやら、知られたくない事らしい。

 

 ……知られたくない事。それは誰にでもあることだ。理由もないし、此方も深くは追求しない事にした。

 

「分かった。これから地上で会う事があったらよろしく、21O」

 

 

「えぇ。2B」

 

 次に会うときは、21Bと呼ぶんだろう。あまり彼女と会話をした事は無かったが、21Oという響きには大分馴染みがあったので、新しい呼び方には既に馴れなかった。

 

 ……21B。次に会うときは、9Sと一緒に居たほうがいいのだろうか。

 

 

 ……なんだか、モヤモヤするな。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ガァァァァァア!!」

 

 ノイズの混じった叫び声に、視界が前方に戻る。

 

 21Oが迫ってきていた。刃を受け止めると、蹴り戻す。

 

「そんな……21O!!」

 

 呼ぶ声が無駄である事は分かっていた。あの汚染レベルはもうとっくに末期も超えている。けれど、馴染みのある彼女には、呼ばずにはいられなかった。

 

「場所……座標データを……転送……」

 

「作戦……行動ニ関係ナイ発言……控えて下さい……」

 

「ハイは……一回で……イイデ……すっ……」

 

 当然返事はなく、それも私にではなく、彼へ語りかける言葉を繰り返し続けている。

 

 その視界に何が映っている? ただあの頃の彼女の記憶だけが、流れて溢れ続けている。

 

 何度も刃を受け止め、弾き返す。ハッキリ言って、21Oの攻撃は弱々しかった。元より戦闘の経験はなく、ただウィルスに無理矢理動かされているだけ。

 

 きっと少し力を入れて相手にすれば、私ならすぐに勝てるだろう。

 

「…………21O……ッ……」

 

 救う手立ては無くて、解放できるとすれば、それは死を与えること。

 

 ……けれど、21Oは9Sのオペレーターだった機体。……ただそれだけの理由で、攻撃できなかった。

 

「カ……家族……私も……ミンナと……」

 

「私…………本当ハ家族が欲しクテ……一人で寂シ……クて……」

 

「ヨルハ機体……9Sと……一緒ニ……イタクて……」

 

 

 

「オネ……殺シテ…………」

 

 

 最後に溢されたのは、残された彼女の自我と意志。

 

 

 殺して。

 

 

 解放されたい。それが彼女の望みだから。それは私にしか頼めないから。

 

 そう自分を納得させる事で、ようやく刃を振るうことができた。

 

 わかった、わかった21O。

 

「私が、今殺すから……!!」

 

 それからは、決着はアッサリとついた。決定的だったのは、経験と技量差。

 

 受け止めた刃を弾いて、両腕を切り飛ばす。痛みに悶え、狼狽えたその隙へ突進して、その胸を貫いた。

 

「あっ……ウ……」

 

 21Oは徐々に力を失い、前のめりに寄りかかってくる。

 

 

「…………トゥ、ビ……」

 

「オシ、エテ……。9Sは、無事、ナノ……?」

 

 

「……ッ……!!」

 

 最後に振り絞った、掠れ声が耳元に聞こえてくる。

 

 答えるべきか、否か。

 

「ナインズは……っ」

 

「……ッ!!」

 

 

 知らない方が良いと思ったのか、……それとも、知られたくなかったのか。

 

 

 刃を更に押し込んで、トドメを刺した。

 

 ゆっくりと刃を引き抜くと、21Oの亡骸はグッタリと造作もなく転がる。

 

 [ヨルハ機体21Bのブラックボックス信号停止]

 

 [21Bの死亡を確認]

 

 とっくに実感して分かりきっている事を、ポッドは淡々と伝えてくる。

 

「……ごめん、なさい」

 

 伝えなかった筈の言葉。もうとっくに聞こえないのに、今更呟いていた。

 

 

 ふと、背後から感傷の邪魔をするように、新たな気配が現れた。

 

 ヒールの音。また汚染機体か。

 

 早く終わらせよう。早く、解放してあげよう。

 

 その心持ちで振り向いたので、突然目に映ってきた……あの姿。

 

 

 ゴーグル越しの瞳にでもクッキリと映ってくる、あの顔。

 

 

 

 

「……A2」

 

 

 そこには、あの写鏡がいた。

 

 





次→またキリの良いところまで書き溜め終えられたら。早くしろー?
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