殺シ合イノ獣、二号戦は詳細描かなかったのヨコオって案外優しい所あるんじゃんって思ったから再投稿です。
じゃあ僕が勝手に書くね……(邪悪)
逃亡生活一年目ぐらいのアタッカー二号ちゃんには精神かなり荒れていて、性格の悪い事をやっていて欲しいなぁ……って短編。
2BイジメとA2イジメがどっちも見れるお得回。筆が乗りすぎて一万字超えになっちゃった。うわ草。
本当に書きたいように書いた身勝手な短編なので、閲覧は自己責任でお願いします。
これはあの二号にまだハコも少年もいない頃の、決して思い出される事の無い記憶。
これはあの二号がまだ服を着ていた頃の、決して思い出す気の無い記憶。
「……ん」
セットしていたタイマーより、早く目覚めてしまった。
一番に、嗅覚へ潮風の香りが吹きあたってきた。聴覚には遠く、波の音も聞こえてくる。そして、うっすらと開かれていく視界。
だんだんと目下に見えてきたのは、……ボロボロでグズグズの、黒い服装を着た胸元。
……あぁ、
これは、とある記憶の再生。……あの頃の、一つの記憶。
記憶の夢。即ち、それは過去の映像。体は勝手に動いて、頭は勝手に思考を始める。
昔の出来事を夢に見ること。この手合いには、どれだけやっても抵抗できない。大人しく、諦めてあの頃に戻ろう。
あの日は、とある港町に訪れていた。
街の外れにあった灯台の、最上階の部屋。機械生命体の気配が無かったから、そこで休眠を取っていた。
奥の壁によりかかって、暫く眠っていたのだが……。
……タイマー、いつもの体内時計よりも遥かに早く起きてしまった理由。
それは不具合ではなく、むしろ快調。他ならぬ自分の意思だった。
こういうときに、反射的に目覚めるように体が覚えている。
さっさと早足で扉の前まで行く。……だが、一度そこで立ち止まった。
眼前の扉。もうドアノブにまで手をかけていたが、一度思い止まって、耳を澄ましてみる。
「……。はぁ……」
溜息をつくと、大きく蹴伸びをした。
「……」
「さっさと来いよ」
扉の先の来客へ、そう語りかける。
______次の瞬間、刃が扉を貫通してきた。
それを横にサッと避けると、刃の峰に肘を叩き落として、扉に食い込ませる。
扉先の何者かはグン、グンと。めり込んだ刃を上手く引き抜けず、苦闘している。
数秒の時間稼ぎにしかならないが、それだけあれば十分だ。
踵を返して、灯台の屋上へ昇り、そこから飛び降りて逃げ出す。
降り立った岩山を駆け抜けて、更に港町の屋上に飛んで、それらを飛び飛びに駆け抜けていく。
それから裏路地の中に紛れると、道なりに走り、途中で適当に曲がり道に入ったりする。
……これぐらいなら撒けただろう。
暫くして、裏路地から抜け出す。
ここを右に曲がっていけば、港町の外に出れる。
あの広くて深い森に出れば、もう見失って追ってはこれないだろう。
____そう思った瞬間、フッと何処からか真上に飛び上がってきた、人影。
その気配、咄嗟に太刀を構えて、上空に向かって振る。
甲高い金属音が鳴り響き、弾き飛ばされた人影が、また真上に放り飛んでいく。
クルクルと放物線を描き、地面へと足抜きに転がって、着地する。
……やがて、その顔を上げて、人影は立ち上がる。
黒いスカートについた砂ホコリを払って、……ゆっくりと、視線をこちらに向けてきた。
人影の、正体。
それは、……私と瓜二つの顔。
まるで鏡合わせのように向かい合った、私達二人の姿。
……大きく違いがあるとするならば、彼女の方はあの目隠しをつけている。といったぐらいか。
「ヨルハ試作機、アタッカー二号……A2だな?」
均衡の静寂を破って、その口から冷めた声色が聞こえてくる。
「私は、2__」
「その質問」
彼女の言葉に、これも同じ声色をして、返事を食い入らせる。
「……何?」
「その質問、人違いなんだって答えたらそれで見逃してくれるのか?」
「……、そんな下らない問答に付き合う気は無い」
「……なら、真面目な質問だ」
「なんで先回りできた?」
「それに答える必要も、ない」
上手く撒いたつもりだったんだが。
と、言い切る前に言い切られてしまった。……仕方なく、自分で考える事にする。
私の処遇がどうだのを彼女がご丁寧に言い直している合間、色々とその姿を見回してみる。そして、右腕に付いた見慣れない装置に気付いた。
……成程、何か通信端末でも作った訳か。
もう逃走してから一年ぐらいは経った。ヨルハで、新しくサポート機能を持った端末か何かが開発されたのだろう。
今後のヨルハは、スキャナー以外でも敵をマークする機能を標準している。という訳か。
「……よって、A2。貴方には月面の人類会議から処刑命令が出ている」
「ここで大人しく義体制御の権限を渡さなければ」
「渡さない」
迷いなく即答する。知りたかった事は分かった。もう会話は十分だ。
「なら、この場で____」
「さっさとしろ」
くどいな、と冷たい声で言い切る。もう太刀の柄に、私は手をかけているのだから。
それを見据えると、目の前の彼女は。……いや。
▶◁
鬱蒼とした森の中。真っ黒のボロ布を来た女が、一人駆け回っている。
走りながらにキョロキョロと、木の隙間を念入りに、濁り色の青い瞳で一つ一つ覗きこむ。
ふと、通り過ぎざまの木陰から、切っ先が飛び出してきた。
体を無理に捻ってまでしてギリギリに交わすと、白い太刀の、長い刀身の一撃を返すようにその木陰へ叩き込む。
太刀の衝撃に、木陰の奥で木の葉が舞い散った。……要は、手応えなし。
これでもう何回目だろう? いや、数えるだけ無駄か。
再び獣道を駆けると、次第に岩壁が見えてきた。谷のような隙間の、一本道がある。背後以外に隙は無い。駆け抜けていく。
後方からの足音が、だんだんと遠のいていく。
あわよくば、これで。と、そう願いたかったが……。
やはり、簡単には上手く行きそうになかった。谷を抜けた先は、少し広間になっていたが……。
……前方には崩落と風化をした何かの外壁が、行き止まりのようにして先を阻んでいた。
「……クソ」
誘い込まれていたか。諦めたような苛立ちが、ポツリと漏れる。
通ってきた道を振り返る。相変わらず、誰もやってきそうにない。とっくに見落としたか。
キョロキョロと、四方八方の木陰を見渡す。
静寂と、静音と、静黙。
聞こえてくるのは、木々が風にそよいでいる音。ただそれだけ。
……あの殺気には、音も声もない。
「……ハァ」
広間の中央。スッと、居合抜きの構えを取る。……分かってはいるが、また無茶をやらされると思うとため息が出てきた。
刀身と、ささくれのようにボロきれた全身の布先。そこへ意識を集中させる。
微かでもいい。気配を読み取れ。
……それから数分か、はたまた数秒だったか。
背後に、何かの気配が通る。
太刀筋と共に、背後へ振り返り。
___そのまま勢い余らせ一周して、また前方へ刃を振るった。
甲高く鳴る、盛大な金属音。人影が太刀の重みに弾かれ飛んで、木に叩きつけられた。
「……っ……!!」
人影、あの二号は木を背に持たれかかって、ズルリとへたり込む。
ゆっくりと立ち上がると、布越しに睨み上げてきた。
これで仕留めたとばかりに思ったんだろう。
私が最も意識を集中させているのは背後。そう思ったから、逆をついて一枚上手を取ろうとした訳だ。
さっき背後を通り過ぎたのは、投げられた小枝か何か。つまりは陽動。
それで私を振り向かせて、がら空きの背中を用意させるつもりだった。
酷く単純で、それでいて間抜けなほど引っ掛かりやすいトラップ。
……あぁ、また嫌味みたいにムズ痒くなってくる。
突然、鬱陶しそうに背中を引っ掻き始めた姿。
それを二号は油断と思ったのか、ふと喉元を目掛けて切っ先を振るってきた。慣れたように、軽くヒョイと体を逸らして避ける。
そこへ、更に追い打ちのつもりなのか、何度か連撃も叩き込んでくる。……が、これも太刀で軽くいなしてやる。
あの二号の、流れるような身のこなしから放たれる速撃。
パッと見ると恐ろしい早業だが、コレは意外と、下手に反撃に出なければ太刀でも事足りる。
……と言っても、本当に防御だけに徹するならの話だが。
暫く守勢に徹するが、結局、……コレも諦める。コレだとお互いに進展がない。
あの馬鹿は絶対に攻勢を諦めないだろう。なにせ、私を殺す『命令』が下っている訳だからな。
そうだな、お前は止まれないよな。ひたすら愚直で、疑うって発想が無いから。
……だから、全部が駄目になるまで突き進み続けるんだ。
……あぁ、本当に見ていて腹が立つ。
大体、私の始末に、私と同じ顔を送り付けてくるのも大層悪趣味な限りだ。
私も、少し挑発を入れてやろうか。
「お前、何も疑問に思わないのか?」
「……何?」
「同じ顔と戦わされてるんだぞ? 何も感じないのか?」
「私についてなんて聞かされてる? ただの脱走兵か? それとも、……
「……貴方の事情なんて関係ない」
「私は命令を遂行するだけ。無駄話をする気は無い」
「……そうだろうな」
「……?」
「お前は黙って命令に従う意外に、何も取り柄なんて無いんだから」
「……貴様」
二号モデル。
どれだけ私から性格を変えたのかは知らないが、結局は、元の人格自体は私と同じだ。
訓練段階において、特筆した点の無い二号モデル。平均的で、突出点は無し。
この二号もそうだったのかは知らないが、少なくとも、同じ二号として。
指示待ちの無能。
これを言われるのが、一番効く。
キッとして、二号は真っ向から突っ込んできた。刺殺を狙った真っ直ぐな突撃。
油断したな、と言わしめるように、そこへ太刀を投げつける。
……が、なんと想定されていた。少し上体を逸らす程度で避けられ、懐に潜られてしまう。
投げ飛ばした太刀の転送が間に合いそうにない。飛び上がって逃げようとするが、そこで後ろに引こうとした体勢が、グンッとして止まった。
二号のヒールが、自分のヒールのつま先を強く踏んでいるようだ。
逃さない気か。
……だが、不慣れだな。
この顔を貫こうと、構えられた切っ先。だが、逆に突き刺すよりも早く、その胸ぐらを掴んで、顔面を引き寄せる。
「……ッ!?」
引き寄せた顔面を、スパンと軽快に引っ叩いた。弾かれた二号はべシャリと、勢い良く顔から転げ落ちる。
突き刺すのがワンテンポ遅い。
いい加減、司令部から工夫しろなんて言われたんだろうが、下手くそな小細工だ。コレの手間が逆に仇になっている。こういうのは手早くやらなきゃ意味がない。
「……っ、うッ!?」
ユラリと立ち上がる二号の顔から、ボタリボトリと鼻血が吹き垂れた。二号は手にとって、信じられなさそうに見ている。
あんな軽い音の一撃で、澄ました鼻をへし折られるなんて思ってもみなかったらしい。こういうのは当て所なんだ、感覚で覚えるんだな。
私が太刀を転送し戻したのに気づくと、動揺を振り切って退いていく。
こちらの様子を伺ってきたので、引っ叩いた時に手についた鼻血を、さも汚そうに拭う様を見せつけてやる。
「……っ!!」
だが、それに一歩踏み出そうとする足を二号は留める。その場に留まり、切っ先をいつ振るうべきか見定めるようだ。
……なるほど、お前はまだ堪えるか。
無闇に向かってきた結果だからな。まぁ、多少の学習くらいはするだろう。
あるいは、さすがに挑発に乗るなと教えられているのかも知れない。
……でも、所詮は二号だ。
一瞬、逃げ道を探すフリをして、少し目を逸してやる。
ほら来た。
今度は胸元を突き刺そうとする一撃。
屈んで避けて、そのまま足払いの回し蹴りを入れて、再び地へ仰向けに転がす。
「……うっ……ぐ……」
転んだ胸に、刃を振り下ろそうとする。
「……っ!!」
それを二号は咄嗟に転がり避けて、飛び起きて、また後退する。
「……っ……ハァ……ハァ……」
向かっては、地面に叩き落とされる。
そればかりを繰り返して、少し息が上がってきたようだ。
そろそろ、ムシャクシャしてきた頃だろう。
だから追い打ちを匂わせて、さらにペースを乱してやる。
ちょっとやそっとの、私の手の動き。二号は後方へ、怯えるかのように退いていく。
落ち着いて、相手を見極めるべき。そういう考え方をしたいんだろうな。
でも、私には分かる。確かに、普段は平静を保つことをよく意識してる。
無闇に感情的にならず、よく周りを見ること、それが最善に繋がると信じているから。
特にこの二号には、一段とそう訓練で叩き込まれていることだろう。スマートな殺し方をよく心掛けている動きだ。
あぁ、命令に忠実で偉いな二号は? さぞ使いやすくて、司令部のお気に入りだろう。
無意識の内に、蔑む顔をしていたのだろうか。二号は突然、反撃に乗り出してきた。
また、あの速撃を叩き込んでくる。徹底的に敵を追い詰める為の連撃。
……だが、無駄が無さ過ぎる。堅苦しい動きだ。だから的確にいなしてやる。
確かに反撃に持ち込むには難しい。でも、別にいなす位なら簡単だ。
……決めた。数分くらいでいい。また先程のような耐久戦に持ち込もう。
ヒラリと躱したり、軽く弾いたりして、敢えてこちらからは積極的に攻撃をしないようにする。本当に、ただ避けるだけ。
いや、数分と言えども、それ位あれば片手剣の一撃は何百回も振るわれてくる。
避け続けるというのは面倒だ。常に神経が張るから。
それを、数分。気の遠くなりそうな作業だ。
……、だが。
……いつまでも当てられない攻撃を続ける方は、果たしてそれと違うだろうか?
いいや、そんな訳ない。
そうだろう? 二号。
そう、クスリと笑いが零れそうになった。
少しずつ、二号の動きが荒くなってきている。
もどかしそうにして、手間そうにして。声を圧し殺す呼吸に、乱れが出てきている。
……分からないか、二号?
お前は本当は、結構不器用で大雑把な奴なんだよ。
均一だった殺しの身のこなしに、次々と露になってきた綻び。
剣技ばかりで、がら空きになった腹。ヒールのつま先で、鋭利な蹴りを入れてやる。
怯んで蹲りかけた顔面、その前髪を引っ張り上げて、また雑に殴り落とす。
うつ伏せになった後頭部。立ち上がろうとした所へ、ヒールで更に叩き落してやる。
「終わりか?」
最後に、挑発を入れる。
……二号は、動かない。沈黙して、ただ地面に突っ伏し続けている。
そこにトドメの一撃を……、……入れない事にした。
この二号が動かないのは、啞然としている訳でも、あんなのでくたばった訳でもない。
この状態を振り払うのに、大した力は要らないだろう。
つまり、此方が太刀を突き立てようとする時の、一瞬の慢心の隙を狙っているだけだ。
だから私も、ずっと足蹴にし続けてやる事にする。
「……っ……! ……ッ!!」
だが、こんな惨めな有様に長時間も居られる程、さすがに二号も図太くはない。
「……貴様ァッ!!」
二号は大声と共に飛び起き退くと、大振りに刃を振って構えた。
キレるな。乗るな。と、ずっと自分に言い聞かせていたんだろうが、遂に耐えかねたようだ。ようやく本気で来る気だ。
ほらな、そうやって少しコケにされるとすぐボロが出るんだよ、お前は。
鼻血と泥に塗れた口元を、雑に袖でひと拭いすると、二号はゴーグルの下から強く睨みつけてくる。
隠してるつもりの目隠しの下。どんな目をしてるのか、よく分かるよ。
固く閉ざした口で何を言いたいのか、よく分かるよ。
気に入らないんだろう? この顔で、こんな泥臭い戦い方をされるのが。
……気が合いそうだな、二号。
私も、その顔で澄ました態度をされるのが死ぬほど嫌いなんだよ。
さぁ、殺し合うか。二号?
▷◀
薄暗い森の中、崩落した何かの外壁を背景に、殺し合いが繰り広げられている。
まるでシルエットのように、真っ黒な輪郭の服装。
戦闘の動きに乱れ舞う、白髪の毛先。
休む間もなく、尾を引き続ける刀身の反射光。
二つの人影は、一秒でも長く攻勢の立場を取ろうと、立ち位置の入れ替わりを、繰り返し続ける。
余りにも苛烈で素早い動きに、もはや素人目には、二人の区別はつきそうにない。
……だが、少なくとも一つだけ、違う所。
それは片方一人の、顕になっている瞳。
それが向かい合った、黒衣に隔たれた視線へと……。
……終始、睨み続けていた。
挑発に乗って、激情的になった奴の動きは読みやすい。
薄くなった防御の粗をついてもいい。避け続けて消耗戦に持ち込んでもいい。
これが性能で取り残されていく私が覚えた、旧型なりの小手先の一つ。
……だが、このやり方には、二号相手だと少し面倒な所がある。
それは動きが、だんだん私と似てくる点だ。
その内気づかれるんだ。互いの考え方が、二号同士で似ている事に。
変に斬撃補正を使わずに、勘で切るほうが動きが早くなる事を理解していく。
太刀筋、立ち回り、小細工。見様見真似の猿真似でも、ものの数回で学習される。
二号同士の戦い、つまり、究極的には自分同士の戦いなのだから。
だったらわざわざ煽って、そんな勝負に持ち込む必要なんかあったのか?
その自問に、私は自答を持っている。
……そろそろだな。
フラリ……、と。
足をもたれつかせて、よろけてみせる。
二号は遂に隙を見つけたように、トドメを刺そうと迫ってきた。
……だが、私がよろめいた訳ではない事に、刃を振り上げてから気付く。
フワリとした、一回転。
よろめいたように見えた動きは、目の前で華麗な動きに昇華された。
そう。それは踊るような、舞うような。
……まるで、ダンスの動きで。
何の意図かも分からない、戦いを止めた動き。
「な……!?」
だが、二号は一瞬、トドメの一撃を振り下ろすのを、そこで躊躇ってしまった。
『カウンターか? 捨て身か?』
……そうさ。私はそう考える。そうやって余計な事で迷うから、いつだってそこまでだ。
太刀を振り上げて、同じく振りあげたままの二号の右腕。
刹那の油断を、切り飛ばした。
「えっ______
切り飛ばされた腕が、クルクルと鮮血で弧を描いて舞い上がる。
お前は知らない知恵だ。お前なんかには到底思いつかない発想だ。
ようやく慣れてきた所に、一瞬でも全く知らない動きを挟まれるのは、想像以上に効く。
例えそれが、何の意味もない動きだったとしてもだ。
◆◆◆
「そういう気配が見えたら、ちょっと誤魔化してやればいいんだって」
「誤魔化す?」
「なんか適当にダンスを踊るとかさ」
◆◆◆
そうだよね? 四号。
_____えっ!?」
二号はワンテンポ遅れて、宙に舞う腕に気付く。
攻撃手段の喪失。一瞬の内の理解と、動揺。
その隙をついて、脇腹に切っ先を突き立てて、共に倒れ込む。
体重をかけて、一気に地面へ突き刺して、仰向けに縫い付けてやる。
「……ぐっ!? ……っぁぁぁあ!!」
隙を逃さないってのはこういう事だ。よく覚えとけ。
必死に立ち上がろうとする二号の体、だが、太刀に固定されて動けない。
力いっぱいに、刀身を半分まで地面に突き刺した。もう、刺された側のお前の力じゃ抜けない。
ゆっくりと立ち上がって、仰向けの二号を見下ろす。
勝負は決した。私の勝ちだ。
そう言わんばかりに見下すと、捨て台詞も吐かず、太刀を刺しっぱなしにする。
呆然とした顔横を通り過ぎて、さっさと立ち去ろうとする。
「……っ…………ッ!!」
「まだ、……まだ、負けてないっ……!!」
だが、二号は、そこで私を引き止めるように叫ぶ。
何としてでも、自分の近くに留めて置きたいかのように。
……。
……
「……いいや、お前の負けだ。諦めろ」
もし違う可能性があるなら、……その太刀はまだ手元に置いておきたいから。
「まだ……! まだ、最期に戦えるっ……!!」
……だが、その声色は、覚悟と、どこか悲痛さに満ちた物だった。
……そうか、なら駄目だな。
「せめて……!! 貴様ごとッ___」
「あぁ、自爆したいんだろ」
「じゃあ、ソイツはくれてやる」
二号から飛び退いて、颯爽に距離を取る。
「新しい武器はもう手に入った。だから、ソイツはくれてやるよ」
二号にとって遠く、逆さのシルエットでそう語る私の姿。
その手には、先ほど切り飛ばした腕が握られている。
最新鋭の剣を、握ったままで。
「……え」
「あっ……! ……あぁ……!!」
二号は察したようだ。
これから自分が、無意味に終わる事を。
自爆機能。
あの要領の悪いBモードを、
最初は危なかったさ。もし咄嗟で気づけ無かったら、その時で死んでいただろう。
……お陰様で、この服をズタボロにされた。大切にしてたのに。
だが、……もう同じ手は通用しない。
「_____お前と会うのは、これで四回目だッ」
「……ッ!? ______〜〜〜ッッ……!!」
やっぱり、また何も知らされていなかったらしい。司令部は秘密主義が尊厳や美徳を守るとか思っているんだろう。
何度も何度も、同じ奴らを馬鹿正直に送りつけてきて、相変わらず学習しない。
どうせならハッキリ言ってやればいいのに。お前も使い捨てだって。
「……ッ!! ……こんな……こん、なっ……!」
二号は必死に、残された左手で、刀身を握りしめてまで刀を抜こうとする。
だが、そんな倒れ伏した体勢から、それも片手で引き抜ける訳がない。
「ッ!! っっッ、うう……!!」
それが分かると、グン、グンと、今度は体を転がし起こそうとする。少し斜めに刺さった刃、脇腹を切り裂いてでも立ち上がりたいようだ。
……だが、動くたびに傷口が抉られる。その激痛に、いつまでも耐えれるはずがない。
せき込んで吐き散らした血と、苦痛の声だけが醜く辺りに散る。
「……っうう……!! ……、ぐっ……。エッ……えすっ……!」
「……エス……、S……!!」
「___SSッ!!」
「本部にッ……救難要請をッ!!」
[否定:任務失敗時におけるマニュアルに違反する]
SS。私に向かって突然そう叫んだと思うと、持っている腕についていた端末から、無機質な女の声が聞こえてきた。
「任務失敗……!? ま、待って……! まだ私は……!!」
[否定:既に二号モデルは無力化状態にあると判断]
……成程、コレはSSって言うのか。
サポート機能を持った腕輪か何かだとは予想していた。これと直接、こうやって会話のやり取りをしていたと。
「まだ、まだバンカーに自我データをアップロードして、それで調整し直せば……っ、まだ戦えるからっ……!!」
自我データのアップロード? ……あぁ、そういえば、いつか実戦配備するだなんて、そんな話もあったな。
……無論、映えある
「誰か、ヒーラーモデルを……」
[否定:当二号モデル二名の存在は極秘情報]
[他隊員との接触による情報漏洩は必然であるため、救援を行うことは許可できない]
[また、この状態のまま放置された二号モデルに生存能力は無いと推測]
[以上の理由によって、本任務は失敗と判断せざる負えない]
「だからっ……」
[否定:本任務は失敗]
「……そん、な」
「そんなっ……。 そんなぁ……」
否定、否定と。端末相手にも見捨てられ、二号の声は悲痛に震え始める。
……そうだろうな。
最期の道連れまで見透かされ、このまま一人置いていかれるのは耐え難い仕打ちだ。
特に、この二号にとっては特にだ。
私は知っている。たまたま出くわした他のヨルハ部隊と、命令されてやってきた、この刺客との違い。今しがた、この端末が説明した通りだ。
この二号には、向かえにきてくれる仲間がいない。
いつか私に名乗った名前、……きっと、そういう機体なんだろう。
隠密な命令を、隠密に行動し、隠密に遂行し、……駄目だったのならば、隠密に消えていかなかればならない。
敵に鹵獲される事は、何よりも避けなければならない。それが他人であっても、自分であってもだ。
任務失敗。敗北、無力化。
それが決まれば、この二号は……、自決を免れない。
だから、最期に私を道連れにする事がせめてもの救いだったんだろう。
そうでなければ、ただ無意味に消えていかなかればならないのだから。
……いや、無意味ならまだ良かったか。
敗北、屈辱、無駄死に。
最期にその事実だけが残されて、自分の手を持ってして死ななければならないのだから。
あぁ、悔しいだろうな。悲しいだろうな。……一人で生きて、一人で死んでいくんだ。
……だが。
今更、
だから、悪いが。
一人で死ね。
そう冷たく見放されたような、私の視線にも気付いたのだろうか。
「……っ」
二号の口は、悲痛そうに空虚を噛み潰す。
二号の残された拳は、孤独に震えながら握り締められる。
「……ッ。……ッ!」
この二号は、ここで死んで終わる。
敗北。その事実だけを残して。
「いつも……、いつも……こんなっ……!」
この二号は、孤独に消えていく。
極秘任務。その名実のもとに。
「……ッ!! ……A2っ、……A2ッ!!」
この二号は、誰からも忘れられていく。
やがてまた、新しい二号が作られるんだろう。
……今の二号は、自分自身にさえ、思い出される事も無く。
「A2ゥ……ッ!! 貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
叫び声に呼応した閃光が、二号から放たれる。
背を向ける。その直後、聞こえてきた虚しい爆音と、飛び散ってくる火花。……共に、煙に残骸。
最期に縋った感情で、自分の意志を持ってして、あの二号は消えた。
白い太刀がボロボロになって、折れて帰ってくる。
「…………」
勝ち残った、もう一人の二号。
……A2は、勝利に喜ぶ事はない。
辺りに充満してきた、焼け焦げたニオイ。
その中に、ただ立ち尽くした。
その悲鳴を聞くのも、……これで四回目だ。
▶◀
今日もまた、二号は生き残った。
あの二号を、今日も殺して。
……だが、自爆させたからか、その手には酷く実感がない。
けれど、シンとした空気が続く事が、もう彼女がどこにもいないことを示している。
それを、ようやっと認めると。
「……ウッ……、ぐっ……!!」
遂に耐えかねて、膝から崩れ落ちた。
ジユジユとして、焼け焦げるような音が聞こえてくる。
音の出処は、分かっている。
うっすらと、蒸気が立ち昇っている右腕、火傷も気にせず反射的に抑えてしまう。
その右腕はつったように硬直して、ジワジワと耐えず熱が籠もり続けていた。
……さっきの二号との戦い。
虚勢を張っていたのは、私の方だ。
逃亡してから、もう一年余りが過ぎた。機械生命体を殺し、ヨルハ部隊を殺し、その為に酷使し続けたこの右腕には、確実にガタがきていた。
どうやら放熱機能が壊れたようで、武器を振るい続けると、みるみると温度が上がってしまう。
最初は痺れるような痛みで済むが、だんだんとヒリヒリとしてきて、ジリジリとしていって……。
……最後にはベリベリとした、まるで皮膚を剥がされているような激痛に変わる。
「ぐうぅ……ッッ!!」
あの二号との戦い。脇腹に刃を突き刺した頃には、もうその重症状にまで達していた。
本当はあのままブラックボックスを貫いて、自爆させずに手際良く殺したかったが、……駄目だった。
せめて、この症状を戦闘中に悟られなかったのだけが幸運だろうか。
挑発して気を散漫させていた事もそうだが、所詮は鈍い二号相手だったお陰でもある。
皮肉な辛勝だったが、あの二号には勝った。
今回も、生き延びた。
それだけは、良かった。
……。
……、……いいや。
……良くない。良くなんかないッ。
痛みに堪える視線を、あの黒焦げて折れた太刀の方に向ける。
もうトドメもさせない私、自決は免れないあの二号。
固定して、無力化させれば、あの二号がそこで自爆するのは必然だった。仕方なかった。
だけど……。
あの太刀は……四号の形見だった……。
一人生き延びたあの日、自分が四号の武器を装備していた事に気付いた。
四号が使っていた筈の、あの白い太刀が私の装備枠に入っていた。
突き飛ばされたあの時に渡されたのか、それとも、無意識の内に勝手に瓦礫の中から探していたのか。
だが、たった一人で逃げ続ける日々。碌な手入れが出来ず、確実に脆くなっていた。
「……っっ、ぐぅぅぅ……ッッ!!」
また一つ、思い出を壊してしまった。
だが、そんな感傷さえ邪魔をするように、ベリベリとした痛みが尚も増していく。
こんな症状にまで来たのは初めてだ。もうこの腕も使い物にならないのかも知れない。
痛みに耐えることは、できる。
だが、どれだけ精神は保てても、先に体が限界を超えて、そのものを失えば否が応でも戦えない。
ましてや利き手、次に敵と出くわせば、それは死と同義。
もう、戦えない。ここまでか?
……これで終わり?
……もう、いいかな?
今日も生き延びた、新しい武器も手に入った。
だが、その為に何を失った?
次に失うのは……何だ……?
もう……、いいかな?
もういいかなぁ……? 四号……?
「ハァ……ハァ…………」
「…………フゥゥゥ────ッッ……」
荒い呼吸を抑えて、大きく震えて、息を吐く。
覚悟を決めたように左手を右腕から離し、折れた太刀の拾い上げると、その柄を咥える。
そして、切り落としたあの二号の腕から剣を取り、震える左手で、自分に切っ先を近づけると……________
________その刃渡りを、右腕に当てた。
「フゥ──ーッッ……フゥ──ーッッ……」
違うだろう。二号。
何を失うのが怖いんだ。お前はもうとっくに全部を失って、死んだだろうが。
お前は戦うんだ、そして向かう先に死ね。
それまでは、殺し続けるんだ。
その為に、歩いてきたんだろ?
その為に、生き残ったんだろ?
まだ終わってないだろう、何も。だから死にたくないんだろう?
今だってそうだ。ただ生きる為だけに、あの太刀を捨てたんだろう。
捨ててきただろう、ずっと。過去も! 今も!!
「フゥ──ーッッ……フゥ──ーッッ……!!」
あの二号だって、その為に殺したんだろうがよッッッ!!
「……ううぅ……!!」
グラグラと震える、二号の瞳孔。じわりと、目尻に涙が滲んでくる。
なにかが取り憑いた脅迫観念が、二号に向かって叫んでいる。
いいや。その正体を、二号は本当は知っている。
四号が意図せず遺してしまった、存在なき筈の亡霊。
何一つ、無かった事にさせない。その二号自身が、決して二号が止まる事を許さない。
この腕だってそうだ。取り替えればいいじゃないか、こんな駄目になった腕。
そこにあるだろう。新しい腕が。
「フゥ──ーッッ……フゥ──ーッッ……」
切れよ。早く。
「フゥ──ーッッ……フゥ──ーッッ……!」
切れよ!
「フゥ──ーッッ……! フゥ──ーッッ!!」
切れよ!!
「ううううぅ……っ……!!」
切れよッッッ!!
______押し入れられた刃が、スッと右腕の中へ沈む。
「ん"んんぅぅーーーッッ……!!!」
過敏になった、灼熱の腕。分かっていた筈の痛みに、押し殺せない悲鳴が響き渡る。
せめて舌や、歯茎を噛み砕かない為に咥えた太刀の柄、ミシリパキリと小さく混じって鳴っている。
酷くスルリと入った、鋭利な切り込み。その勢いのまま引き切って、何とか綺麗な平面状に切り落とそうとする。
「んっ……んん…!!」
そこで、ゴリ、とした質感が鳴った。
「……ッ! ……〜〜〜ぅぅぅっ……!!」
利き手じゃない左手。使い慣れない、少し変わった形状の刀身。
……一度で切れず、
「んっ……!! ん"ぅぅぅぅ……!!」
だから、刃を引いて、押して、引いて、押して。
「んぅぅぅ!! んんんんんん……ッッッ!!」
ゴリ。
ゴリ、ゴリ、ゴリ。
「んぅぅぅぅぅ、ううううううぐぅぅぅぅぅぅ!!」
甲高い唸り声と、籠もる熱に沸騰していた真っ赤な体液が、ブシャリ、ゴプリと散って吹き出てくる。
ゴリ、ゴリ、ゴリ。
ブチリ、ブチ、ブチリ。
……やっと、ボトリとした音がした。
「っっ……あぁっ……!! う、……あ……」
噛み潰された太刀の柄を、唾液を汚く引いてべチャリと落とす。
酷く長くて、短かった時間。
ハチ切れたように、切り落とされた腕はストンとそこに転がっていた。まだ指先が痙攣し続けている。
「……うっ……、ぐ……。ハァ……ハァ……」
「……あ、……っ……ッあ、ぅぁぁ……」
残った左手で、必死で手探りにあの二号の腕を探して、拾い上げる。
早く傷口を焼き潰そうと、必死に断面に合うように押し付ける。
型違いの腕。悶えるような熱帯びた音を上げて、腕は傷口に無理矢理張り付いていく。
きっとそれも激痛だった筈なのだが、さっきのに比べれば、と。もう感覚は麻痺していた。
焼き付いた腕。指先が、まだ少しビリビリとして痛む。
だが、その痛みも、やがて噓のように心地よく引いていく。暫くすれば、もう馴染んでいるだろう。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「ハァ……、…………う、あ……?」
息切れた吐息の中、その吐息の違和感に気付いた。
「……あ、あー……? ……あー。あ──ー、……あ──……」
喉元を抑え、それからトントンと指で叩くと、声を何度も、何度も絞り出す。
「……これ、は」
……その声は、あの冷たい声色から変わり果てていた。
惨く唸りすぎたせいで、声帯が変形してしまったのかも知れない。
……いや、あるいは_________
「……」
「……なんだっていい、……なんだって、……いい……」
ユラリ、フラリと二号は立ち上がる。
声よりも、腕の方をグー、パーとして確認する。
そして、手首についている、あの端末の方に手を掛ける。
……SS、とやら。あの二号のように、コレも情報を守る為に自壊したのか、もう機能していない。
だが、どちらにせよ関係ない。外して、握り潰して、捨てる。
これはもう、私の腕だ。
そう言い聞かせるようにして、黒い手袋も外した。
……。
顕になった肌色。同じ二号モデルの腕だからか、酷く心地よく、すぐに馴染んだような気がした。
「……」
……やがて、左腕の手袋も外し始める。
私はまた、あの二号を殺すんだろう。
次に、カチューシャを振り捨てる。
次はもっと、使えそうなパーツを残して殺す。
自爆させず、徹底的に殺す。
バサリと、ボロボロの衣服を脱ぎ捨てていく。
またやってくる筈だ。だから殺す。私にも都合がいい。それだけだ。
下に着ていたレオタードも、穴だらけのソックスも、引きちぎって脱いで、捨てた。
何か理由があって、こんなボロボロになっても着ていた筈だが……、……もういい。
ありのままの全身。肌寒くそよいできた風が、身体中の丸みに吹き当たってくる。
……うん、軽くなった。
これで少しでも、次は楽に動ける。あんなボロ切れになったら、もう邪魔なだけだ。
片手剣を拾い上げると、背へ転送して浮かせる。そしてゆっくりと、一歩、一歩と歩き始める。
ふと、小さな向かい風にか、髪先が揺れた。
……そろそろ切らないとな。
何となく、また伸びてきたように感じる。これも動く時に邪魔になる。
そうして、武器を手に取ろうとして……。
……けれど、やめた。
……いいや、これは伸ばそう。
同じ顔で殺し合うのは、……もう十分だ。
ふと、二号は立ち止まる。
もう聞こえるはずのない、彼女の断末魔。
自分の名を叫ぶ、あの言葉。
『A2』。
……『アタッカー二号』の時もそうだったが、また随分と手間を省かれた略称になってしまったな。
「もう、いいか……」
……それでいい。もう、その名前でいい。
脱ぎ捨てた衣服も、切り落とした腕も、使い潰した形見も、全部ここに置いていく。
A2だ。私は、A2。
「……」
「……だけど、次は……」
……それでも、それでも。
決して振り返りはせずとも。
例え小さくとも、コレだけは願わずにいられなかった。
「次はもう、出遭わずに済むことを……」
「……祈ってるよ……」
微かに震えた、その言葉。
それをどちらの声で言ったのかは、もう思い出せなかった。