or not to [BE]   作:ヤマグティ

24 / 41

ちょこちょこある問題を何とか上手いことして進行を保ってきたあの計画。

その破綻の最後のひと押しが、『無理やり叩き起こしたから』なの、本当に笑うし。

………やるせないリアリティがあるので再投稿です。願いをあっけなく打ち砕くな。


君と、約束の場所で
あの二号


 

 

 

 ▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開かれていく視界。工場内らしい、ほんのりとした薄暗い光が差し込んでくる。

 

 

 

「……」

 

 

「……妹、か……」

 

 

 吞気な事を考えるんだな、と。あの悪夢にそんな自嘲が出てきた。

 

 ……いや、アレは人違いだ。

 

 あんな空虚な活力は、2Bとは似ても似つかない。

 

 

 ……。……そう言えば、アイツも結局、ある時を境に来なくなったな。

 

 

「あぁ、起きましたか。A2さん」

 

 珍しく、ポッド以外からの起床の挨拶が聞こえてきた。

 

 声の主を探そうと体を起こすと、パスカルはすぐ隣にいた。私が寝ている間、ずっと側に居てくれたんだろうか。

 

「大丈夫ですか?」

 

 

「あぁ、よく寝たよ」

 

 毎回頭が碌な夢を見ない割には、体の方はキッチリとグッスリ眠りこけてしまう。

 

 ただ、自分に宛てて皮肉を言えるくらいには、久々によく眠れた。敵の心配をしなくていい、という安心感からだろう。

 

「お前たちは、これからどうするんだ?」

 

 

「私達は暫く、ここで籠城します」

 

「……村は、まだ危険かもしれませんので」

 

 

「そうか」

 

 集団暴走の原因が分からない以上、目の届きにくい所まで無闇に動くのは得策じゃない。そういう判断だろう。

 

「もう、行ってしまうのですか?」

 

 起き掛けに歩き出した私を、パスカルは呼び止めてくる。

 

 ついさっきまで巨体相手に奮闘していた体だ。どれくらい休眠を取れていたのかは知らないが、まともに動けるのかどうか心配なんだろう。

 

「平気だよ。世話になった」

 

 生憎、体調の方は満足に寝やがったので、自分でも驚くほど元気だった。目覚めは最悪だったが。

 

「機械共の事を調べに行ってくる」

 

「なにかあったら、また連絡しろ」

 

 敵の機械生命体共、どうも最近、失っていた筈の統率性を取り戻しつつあるように感じる。

 

 それに、パスカル村の暴走のタイミングと重なっているのも妙だ。

 

 機械共の不審な動向。動ける人員である以上は、じっとしてはいられない。

 

「分かりました。ありがとうございます、A2さん」

 

「あぁ」

 

 もう何度目かの礼。それでもまだ足りないと言うように、パスカルは深々とお辞儀をしてくる。

 

「……あ、そういえば……」

 

 そこでふと、肝心な事を思い出した。激動に揉みくちゃにされていて、すっかり忘れていた。

 

「パスカル、これを」

 

 ポッドから、一冊本を取り出させる。

 

「村の住民からの、贈り物だそうだ」

 

 

「……これ、は……」

 

 哲学書。もう、依頼元の住民はいないが、……宛先人は、まだ残っている。

 

「……っ……。ありがとうございます……、ありがとう……ございます……っ」

 

 大切そうに哲学書を抱えて、パスカルは蹲るように、頭を下げる。

 

「……あぁ」

 

 早いとこ、私は行くとしよう。パスカル達には、今は落ち着ける時間が必要だ。

 

 

 

 

 工場地帯を抜けると、自分も色々落ち着いてきたのか、余裕のできた思考を回し始める。

 

 パスカル村の突然の暴走。そして、襲撃にやってきたあの巨体達。

 

 色々と妙が過ぎる。こんなの、誰だって疑問に思う筈だ。

 

「なんで機械生命体が、同じ種族の筈のパスカル達を襲ったんだ?」

 

 [不明、しかし何らかのバグである可能性]

 

「……バグ?」

 

 バグとはどういう事だろう。ウィルス感染では無いと言いたいのか? 

 

 ……いや、その説はあり得るかも知れない。

 

 考えてみれば、パスカル達は機械生命体のネットワークから外れた存在だ。

 

 その上更に、敵を倒すという兵器としての理念からも外れている。

 

 存在そのもの自体が何かの手違いと言えば、それはその通りだ。

 

 パスカル達イレギュラーへの認識は、もともとかなり不安定な状態で、遂に何かが起因になってバグを発生させてしまった。

 

 ……十分に考えられる可能性だ。起因になった何か。これに心当たりがある。

 

 視線を迷いなく、『塔』の方に向ける。

 

 機械達の動向に変化が出たのは、ちょうどアレが出てきた辺りからだった気がする。

 

 アレが大体の元凶。十二分以上にも、あり得る。

 

 塔。未知で危険だから、という理由で今までは行くのを避けていた。

 

 だが、いい機会だ。潰しに行くついでに、調査にも赴こう。

 

 ……そういえば、特に何の抵抗もなく考えるという動作に身を任せている。……まぁ、少しは使える頭になったからいいと考えておこうか。

 

 [推奨:機械生命体の現状について更なる情報収集……] 

 

 

『こんにちは! 「塔」システムサービスです!』

 

 言われなくても。と、ポッドに返事をしようとした声は、まさか『塔』に阻まれる事になった。

 

「なっ!?」

 

 軽快で舌っ足らずな声。それが大音量で周囲に響き渡ってきている。

 

『本日は皆様に耳寄りな情報があります』

 

『いよいよ、塔サブユニットのロック解除があと一つとなりました』

 

『つきましては、日頃のご愛顧に感謝し……』

 

『最後のサブユニットを解除された方には「ラストワン賞」として、豪華な景品をプレゼントさせて頂きます!』

 

『皆様の挑戦をお待ちしています!』

 

 それから塔のアナウンスはシンと止んで、また静かに鎮座している。

 

「一体……」

 

 [東の方角に、機械生命体の大型ユニットの起動を確認]

 

「大型ユニット? 一体……何が起こっているんだ……」

 

 [不明]

 

 塔、大型ユニット、ラストワン賞。突然布告されてきた、塔からの情報量。どれもこれも全然わからない。

 

 だが、何かしら情報の手立てが、わざわざ向こうから渡ってきたのは確かだ。

 

 起動されたという大型ユニット。典型的に罠へと誘われているが、こちらも情報が足りない。

 

 まずは謎の大型ユニットとやらを確かめに行くとしよう。うまい事やって、あわよくば潰してしまえ。

 

 

「その大型ユニットって所にいくぞ」

 

 

 

 

 

 

 何かの廃墟地帯。徘徊機械達を尻目に、大型ユニットを見上げる。

 

 何というか、大型には大型だったが、『塔』と比べると随分と見劣りした。

 

 何の施設なのか、外観から全く想像できない。手っ取り早く内部へと進入していく。

 

 そこで真っ先に目にしたのは、蹲った機械達だった。

 

 いや、蹲っているのではない。これは死んでいる。死体だ。

 

 殺されたと評すには、外観に傷らしいものが見当たらない。そんな酷く綺麗な物だった為、分かりにくかった。

 

 唯一見当たる傷は……、胸元に一刀を入れた物だけ。

 

 ……これはコアを破壊したのだろうか? パスカルは、ここで自我データを形成していると言っていた。

 

 殺し尽くされた機械達の遺骸。どうやら、既に誰かが先行しているらしい。

 

 更に階を進んでいく。すると、綺麗な筈だった機械達の死体が、急に凄惨な物となった。

 

 ……執拗に破壊したのか、必要以上にズタズタになっている。

 

 これだけの数の機械生命体。これらを相手に戦える、そんな高機能のアンドロイドが居るとすれば……。

 

 ……確信に変わった。2Bが、この先にいる。

 

 刀の傷口、それをじっくりと見ると、次の階へ続くエレベーターの方へ振り向く。

 

 このまま進んで、2Bと会うべきだろうか。

 

 正直、あまり気乗りはしない。2Bに対して私はどうするべきなのか。今の所、何も考えを出せていないままここに来てしまった。

 

 あの場所にいた私を、2Bがどう捉えたかによっては、戦闘も避けられないかも知れない。

 

 ここは、一度引こうか。

 

 

 ……一瞬そう考えたが、振り払う。

 

 このままでは何も進まない、と。あの責任感が先行して止まなかった。

 

 せめて、9Sの遺言だけでも伝えにいこう。

 

 肝心なのはコレだ。コレさえ伝えられれば、9Sからの約束はもう殆ど終わったような物。

 

 それに大体、私は予てよりあの二人にとっては部外者だった筈。早い所全て済ませて、さっさとお暇させて貰わなければ。

 

 それで私は、……2Bの事は、たまに影からコッソリ見守ってるくらいでいい。

 

 

 ……だから記憶リストを執拗に見せてくるな9S。私の中で安らかに眠れ、そして二度と目覚めるな。お前の2Bへの執念からは、何か危険な物を感じるんだよ。

 

 

 

 

 屋上へ出ると、やはり2Bはそこにいた。どうやら汚染機体と戦っていたばかりらしい。

 

 汚染機体は既に伏していて、その全容はよく見えなかった。……ただ、何処となく見覚えのある気がするのは何故だろうか?

 

 2Bは私の気配に気づいて振り返ってくると……、ただ、何も言わずに立ち尽くしていた。

 

 私の名を一度呟いたきり、その口元に変化は無い。肝心な瞳も、ゴーグルが遮ってしまっている。

 

 ……だが、最低限として。

 

 

 そのゴーグル越しからでも、睨まれているのが分かった気がした。

 

 

 何の動きもない表情の顔なのに、それは無表情とはまるで違っていた。

 

 だが、そこに一体どんな感情を込めたモノなのかは、まるで分からない。

 

 憎悪とも思ったが……、何かが違うような気がした。

 

 ……早い所、遺言だけ伝えて私は消えよう。その方がお互いの為だ。

 

 ……だが、どうやって伝えればいい? 

 

 困ったな、こんな時に持ち前の引っ込み思案が出てきた。

 

 あの2Bから向けられてくる感情。せめて、9Sを殺した事に対して何も悪意が無かった事は伝えたい。

 

 何かいい案は無いだろうか。9Sの意志が、私の中にもあるという事。どうやったら示せるだろう? 

 

 

 ……そうだ。

 

 確か、9Sは親しい人から『ナインズ』というあだ名で呼ばれていたらしい。

 

 

 親しい人。実際、何度か2Bにもそう呼んで貰おうとしていて、毎回やんわり且つアッサリ断わられていた。

 

 そのやり取り。どうやら彼の中では、名残惜しながらも楽しかった記憶として残っているようだ。

 

 ナインズ。彼の意志は、私達二号の中に今尚生き続けている。それが伝わってくれれば、……きっと。

 

 去り際に、確かに彼女へ語りかける。

 

「9Sは……」

 

 ナインズなんて呼び方、当然慣れていないので、一度普通に呼んでしまう。

 

 

「……ナインズは、君に優しいままで居てほしいと、言っていたよ」

 

 

 ……まぁ、私は9Sと特に親しくなんて無いのだが、この際仕方あるまい。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「お前は2Bを△※したいと思っているんだろう?」

 

 

 ◆◆◆

 

 

 なんなら記憶を保持していても、……というか、実際に覗いてみたからこそ。

 

 ハッキリ言って、あの少年の得体はますます掴めなくなったとさえ感じている。

 

 

 ……2Bからは、何の返答もない。

 

 ただ静かに、……いや、静かすぎる程にして、そこに立ち尽くしている。

 

 ……丁度いい、このまま早く行こう。伝えるべき事は伝えた、私は早い所消えてしまわねば。

 

 あの二人がどんな仲だったのか、これ以上そこへ入り込むつもりも、道理も余地もないのだから。

 

 

 静か過ぎたほどの、私達二号の邂逅。

 

 立ち去る私の、ヒールの音だけがこの耳に聞こえてくる。

 

 

 

 だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背後にあった、音の無い殺気。

 

 

 

 

 

 『奴』の気配がここに居るなんて、信じられなかった。

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 だって、あの二号は。

 

 

 

 

 

 2Bの、筈で____

 

 

 

 

 

 △▽△▽△

 

 

 

「A2……」

 

 予期せず現れた、あの二号の姿。

 

 余りに突然の事に呆気に取られ、ただ立ち尽くしていた。

 

 理由など到底知らないが、彼女も大型ユニットへ訪れてきている。

 

 何でもいい。丁度いい。と、切っ先を構えようする。

 

 背中の刀、柄に手を伸ばそうとして……、そこでピタリと止まる。

 

 「……? ……っ ……ッ!」

 

 早く、殺さなければ。と、そう何度も手を動かそうとする。

 

 だが、何度試しても、その意にも反して、この手は動かない。まるで、突然硬直したかのように。

 

 ……いいや。本当は、分かっている。

 

 こうして今一度目の前にした事でか、この期に及んで、この殺意に何か引っ掛かりのような物を感じ始めていた。

 

 何か納得がつかない。この瞳はあの私を睨んでいる筈なのに、この手が執行を拒んでいる。

 

 

 あの二号の罪は何か、と。

 

 

 思い留まらせてくる正体不明の殺意、すぐに解明するべく、言語化しようとする。

 

 A2、アタッカー二号。

 

 かつてヨルハ部隊を裏切った、旧型の脱走兵。

 

 裏切りのヨルハ。何人もの同胞を手にかけた、仲間殺し。

 

 ……だから、私が殺さなければならない? 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「裏切ったのは、司令部だろう?」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 欺瞞に疲れ果て、諦めたような顔で彼女が語ったその言葉。

 

 

 ◇◇◇

 

 

『その情報は機密事項になっている。教えられない』

 

 

 ◇◇◇

 

 

 A2が何者なのか。9Sの問いに返した司令官の言葉。

 

 

 ……いいや、知らない。彼女の背景なんてどうでもいい、私が知るべき事じゃない。

 

 司令官が何を隠していたのかなんて、どうでもいいんだ。

 

 だって、A2は。あの二号は。

 

 

 ……あの二号、9Sを殺したんだから。

 

 

 これだけの筈だ。彼女を殺すための、罪罰の理由。

 

 私にはA2を殺す理由がある。その筈だ。

 

 9Sを殺した。それだけで十分だ。

 

 

 ……それなのに、どうしてまだ躊躇っている? 

 

 私を引き留めてくるように、あの日の光景が何度も、何度も脳裏にチラついてくる。

 

 それは、汚染されていた9Sの瞳。遠くからでも分かる、あの赤い色。

 

 私の中の何かが、何度もそれを見せてくる。

 

 分かっている筈だ。分かっていた筈だ。彼女より早くあの場所に辿り着けても、その時は、この手で終わらせなければならなかった。

 

 私は、最後に、彼を____。

 

 

 そこで突然、A2は背を向けてこの場を立ち去り始める。

 

「……!」

 

 だが、それを追いかけようとした一歩もまた……、前へ出たきりは、そこから動かなかった。

 

 視線が、立ち去る彼女の背をただ眺め続けている。

 

 正体不明の、A2への憎悪のようなモノ。

 

 不穏な鼓動を鳴らしても尚、引っ掛かり続ける何か。一向に答えを見つけられない。

 

 

 私は、本当にA2を殺したいのか? 

 

 

 正体不明の、不審な殺意。私達には、本当に殺し合う理由があるのか?

 

 そう言って、何かが私を引き留めようと、語りかけてくる。

 

 

 ……知らないままでいるべきだ。この内側だけは、知るべきじゃない。

 

 

 分かっているはずの何かが、やがて警告を鳴らすように鼓動を早めていく。

 

 

 だって、これを理解した瞬間、全部が壊れてしまう。

 

 私が私で居られた意味が、死んでしまう。

 

 

 知るべきじゃない。知りたくない。

 

 

 あの日本当に死んでいたのは、誰だった? 

 

 

 

 ……私が殺したい二号は、誰だ? 

 

 

 

 ふと、突然立ち止まったA2。張り詰めた意識が、逃れるように真っ先にそこに向けられる。

 

 ……だが。

 

 

 

「9Sは……」

 

「……ナインズは、君に優しいままで居てほしいと、言っていたよ」

 

 

 此方に振り向きもせず、そう語られたのは、敵意のない声色。

 

 

 ……ただ静かに語られた筈の、その言葉。

 

 

 ドクンと、心音が一際大きく鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 その一言が、遂に内側に潜んだモノを理解させてしまった。

 

 

 

 

 

 今、彼の事。なんて呼んだ? 

 

 ナインズ、だって? 

 

 アレは聞き間違いだったと信じたいように、何度もさっきの言葉を繰り返して、繰り返して再生する。

 

 ナインズ。

 

 ナインズ。

 

 どれだけ繰り返しても、その発音に狂いはない。

 

 何度も、何度も、当てつけるようにして、言葉は頭の中で繰り返されていく。

 

 ナインズ。

 

 ナイン、ズ。

 

 

 どうして、その呼び方を知っている? 

 

 どうして、その名前で呼んだ? 

 

 

 ゴーグルの下で、静かに瞳孔が開かれていく。

 

 どんどんと早くなる鼓動が、全身に冷たい何かを張り巡らせていく。

 

 

 何故、その名前を口にする? 

 

 何故その顔で、彼の言葉を語る? 

 

 

 優しい貴方のままで居てほしい? 

 

 

 そんな分かった風に彼の言葉を語るな。

 

 二号の顔で、二号の癖に、彼の言葉を騙るな。

 

 

 彼の事なんて、何も知らない癖に。

 

 何も、分かってあげられなかった癖に。

 

 

 その顔で、彼みたいな言葉を話すな。その顔で、彼みたいな姿を見せるな。

 

 あの姿の痕跡を、その姿で見せるな。貴方に、彼の面影を騙る資格は無い。

 

 

 ……だって貴方は、あの二号とは違う。

 

 

 奥底から、歪なモノが渦巻いてくる。

 

 ドロリとして形を留めなかった何かが、鮮明にグロテスクな容姿を露にしていく。

 

 

 ……やめて、やめてよ。

 

 

 あの二号は私だったのに。

 

 

 私の顔で、私以外の口で、ナインズなんて呼ばないで。

 

 その顔も、その言葉も。……私は諦めたのに。

 

 この手に届かないから、手に入れる資格が無いから。全部、全部諦めたのに。

 

 

 だってあの二号は、全て偽りなんだから。

 

 だってあの二号は、騙る言葉も、姿も、全て紛い物なんだから。

 

 

 もう9Sはどこにも居なくて、だからあの二号も、もうどこにも居ない筈なのに。

 

 

 

 

 

 どうして。

 

 

 

 

 

 どうして? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が諦めた姿が、どうしてそこで生きているの? 

 

 

 

 

 

 共に過ごした時間なんて無くて。

 

 語り合ったことも、触れ合った事もなくて。

 

 ただ、カタチが二号なだけなのに。

 

 何も知らない癖に。……知ってる訳ないのにっ。

 

 

 その武器も、その意志も、その言葉も。

 

 ……その姿の面影でさえも。なんであの二号の所にある? 

 

 ……どうして、私には何も無い? 何もふさわしくないから?

 

 

 

 違う、……違う。

 

 

 あの場所にいたのは、私だった筈だ。

 

 

 

 私だった筈なのに。私の筈なのに。

 

 

 私がずっと一緒にいたのに。

 

 

 

 私なのに、私なのに。

 

 

 私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。私なのに。

 

 

 

 私にとって、君は一人しかいないのに。

 

 

 何度も出会ったって。

 

 

 何度も繰り返したって。君は一人だけなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 一人ぼっちの私には、君しかいなかったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君は、そうじゃなかったの? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなの、『約束』と違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと、静かな一歩が前に出る。

 

 スッと、音もなく刃が引き抜かれる。

 

 

 抑えられていた感情が、滲み出て、解き放たれる。

 

 身の内に潜められた、憎悪にも似ていた何か。

 

 

 それは、……『嫉妬』。

 

 

 失くした。奪われた。

 

 9Sを。あの役を。あの場所を。……あの、『約束』を。

 

 

 双脚が、遂にその背後を目掛けて駆け出す。

 

 内に潜めた膨大な感情の叫びも、足音すらも押し殺して。

 

 あの二号の姿で、確実に、殺す。

 

 

 

 

 あの二号が約束を守れなかったから、9Sはここに居ないんだ。

 

 あの二号が殺したから、もう会いに来てくれないんだ。

 

 

 貴方さえあの場にいなければ。

 

 

 

 

 

 私が殺す筈だったのにッ!!

 

 

 

 

 

 

「……え_

 

 

___はぁ!?」

 

 驚嘆と共に、振り返るA2の横顔。その直後、辺り一帯に鳴り響いく、不快なほど甲高い金属音。

 

 その顔を両断すべく振るわれた一撃は、既のところで、あの太刀で防がれていた。

 

「……!?」

 

 けれど、聞こえなかった筈のこの殺意に、A2の顕になっている瞳は分かりやすいほど丸くなっていた。 

 

 そうやって近くに迫った事で、覗き込んでしまったその顔。

 

 ……その顔だ。短くなったその髪も、余計に当てつけのような物を感じさせてくる。

 

 邪魔な太刀ごと両断してしまいたいと、より一層力を込める。だが、どれだけ力を込めても、それと同じだけの力で抵抗される。

 

 

 同じ体だから、同じ二号だから。

 

 同じ、二号のくせに。

 

 

「……どうして……お前が、ここに……」

 

 そんな凍てついた視線などゴーグルに遮られて見えないからか、A2は音もなく迫っていた姿の方へ、疑問に震えた声で問いかけてくる。

 

 

「だってお前は……私が……。君はっ……」

 

 何か言っていたが、小さな声だったせいか、押し合う刃の音に掻き消されてよく聞こえなかった。

 

 せめぎ合う金属音は力の押し合いに捻じ曲がり、更に歪な物になっていく。

 

 やがて歪な音からは、遂に火花も散り始める。込められすぎた力は、体の方にも漏れてきて、全身を振動させ始め_____。

 

 

 ___違う、振動しているのは私の体じゃない。

 

 

 これは、周囲から___。

 

 

 

 突然、地面が崩落の轟音をあげた。

 

 屋上から放り落とされたのか、みるみると視界が小さく、遠ざかっていく。

 

 衝撃と共に、遠のく意識。

 

 

 

 あの顔が、最後まで私を見下していた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。