or not to [BE]   作:ヤマグティ

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黒の書、声と言い方がアレなだけで、誰よりも計画をちゃんと進めようとしてただけなのホント笑うから再投稿です。


クロちゃん一人で頑張ったのにね。悲しいね。

断末魔が本当に哀叫的で、かわいいね!



上に、上に墜ちる夢

 

 

 ▲▼▲▼▲

 

 

 

 突然の轟音。共に地面が崩落し、あの二号が落ちていく。また、私達を隔ててしまう。

 

 この高さからの落下、無事を確認しに行かなければと思っているのに、……この瞳は彼女が落ちていった先を、ただ眺め続けていた。

 

 あの攻撃を防いだ時の逼迫感が、まだ余韻として残って私を唖然とさせている。

 

 

 その不意討ちに、全く気づけなかった。

 

 あの音も声もない殺気、少しでも遅かったらそのまま死んでいただろう。

 

 滑落していった先を見つめながら、傷一つない首元をさする。……けれど、そこに安堵感は無い。

 

「なんで……だって、あの二号は……」

 

 代わりにあるのは、この不可解な状況への疑問と動揺。

 

 

 あの姿には、あの殺気には。

 

 

 あの二号には、見覚えがあった。

 

 

 もう、出遭う事は無いと思っていた筈の二号。

 

 何故この場に? 何処から現れた? この場にいた二号は、私達二人だけの筈。

 

 

 ……()()()()()は何処に潜んでいた? 

 

 

 2Bと同じゴーグルをつけて、彼女と同じ刀を持って、いつの間に入れ替わった? 

 

 

 いや、あるいは。

 

 

 ……そんな筈、ない。

 

 だとしたら、何の為に? 

 

 

 

 ……そんな、まさか。

 

 

 未だ呆けていたままの背後に突然、また気配が現れる。

 

 落下してきた衝撃音と、あの機械関節の音。

 

 今度はすぐに気づけた。振り返ると、そこにいたのは中型の機械生命体。

 

 しかしそこに腕はなく、代わりに連結型が触手のようにして生えていた。

 

 こちらへ顔を向けるな否や、連結型の一つ一つを散りばめて飛ばしてくる。

 

 複雑怪奇な軌道。だが、然程早くはなかった。

 

 的確に躱して、距離を詰めていく。

 

 そして、遂に中型へ太刀を振りかざそうとして__。

 

 __そこで何かが盾となって現れて、代わりに太刀に弾き飛ばされた。

 

 「二……チャ」

 

 酷く軽快な音と共に弾き飛んだ先で、への字に歪んだ何か。

 

 それは頭にバケツを乗せた、小型の機械生命体だった___。

 

 

 __バケツの、小型……?

 

 

 何故だ、見覚えがある? 

 

 そう思った矢先、懐にいたままの私を、中型が触手で挟み込もうとしてきていた。

 

 飛び上がって後方へ離脱する。中型の方を見ると、奴もまたこちらを執拗に赤い閃光で睨んできていた。

 

 再び中型の懐へ向かおうと重い太刀を構えると、ぞろぞろと、周囲を何かに包囲される。

 

 「二____ン」

 

 「ニイ__ャ_」

 

 何か。これもやはり、バケツの小型達だった。

 

 包囲したつもりらしいが、こんな小型を頭数だけ揃えたところで、大した脅威にはならない。

 

 太刀で薙ぎ払い、突破口を易々と作り上げる。

 

「ヤメロッ!!」

 

 バラバラになって吹き飛んでいくバケツ達。その破片が中型の顔を横切ったとき、中型は激高した声で私に向かって叫んできた。

 

「その子達ニ!!」

 

 

 

「オトウト達に手をダスナッ!!」

 

 

 

 __弟。

 

 バケツ達の既知感に、やっと気づいた。

 

 

 あのバケツは、あの腕なしの中型は。

 

 9Sが廃工場で観察していた奴らじゃないか。

 

 まさか目覚めたのか? あの中型が?

 

 

「__ニイチャン! ニイチャン!」

 

 先ほどから何かを呟いていたバケツ達の声が、急に鮮明になって聞こえてくる。

 

 

 ニイチャン、オトウト。

 

 オトウト。

 

 弟。

 

 

「違うっ、違うっ!!」

 

 アレは機械生命体だ。私に向かって襲いかかってきた。だったら敵だ。

 

「一体お前達が何体のアンドロイドを殺してきたと思ってる……!?」

 

「そうやって命乞いをすれば……許されるとでも思ってるのか!?」

 

 容赦なんてしない。お前達は敵だ、パスカル達とは違う。

 

 何処まで行こうがお前達は機械生命体で、私はA2だ。何も忘れてなんかいない。

 

 あの日の戦いも。あの日失った物の数も。

 

 あの日誓った、復讐心も。

 

 どれだけ成れ果てようが、何も忘れてなんかいないんだ。

 

 

 兄を守ろうと徹するバケツ達を、太刀で振り払っていく。

 

 弟を守ろうとする中型の腕も、叩き落していく。

 

 何が兄だ。何が弟だ。機械のくせに。機械のくせにっ。

 

 遂に太刀の一刀が、中型の胴を切り上げた。

 

 中型はその衝撃に打ち上げられ、仰向けになって落ちていく。

 

 地面に打ち付けられると、連鎖するように連結型の腕が爆裂した。

 

「ギ……ぎ……」

 

 だが、それでもまだ中型本体は生きていた。虫の息の瞳が、チカチカと点滅し続けている。

 

 早く止めを刺そうと、中型に向かう。

 

「ニイチャン!! 兄ちゃン!!」

 

 そこでバケツ達が、私を見向きもせずに追い越して、急いで中型に群がっていく。 

 

 ただオロオロとして、それでもなんとかしようと、ひたすら中型の傷口を撫でている。

 

 何の機材も無く、何の資材もなく。それでどうやって直すつもりなのか。けれど、バケツ達は死に体の兄から決して離れようとはしない。

 

 私に気付いた一人のバケツが、足元にやってきた。

 

 そして、バケツの頭を地面に擦り付け始める。

 

「……ッ……!」

 

 命乞いだ。

 

 決して自分のものではない、兄へのもの。

 

 

 

 白旗をあげている奴らを殺す程。私たちは終わっていない。

 

 

 

「……ッ!!」 

 

 アネモネの言葉が、脳裏によぎってくる。

 

 

「ニイチャン!! ニイチャン!!」

 

 バケツ達の言葉が、耳につんざいてくる。

 

 

 うるさい、うるさいっ。

 

 何が兄だ。

 

 何が弟だ。散々殺し合ってきた癖に。散々奪ってきた癖に。

 

 

 

 

 散々、殺してきた癖に。

 

 

 

 

 

 

 何が、妹だ。

 

 

 

 

 

 

 

 何が、お姉ちゃんだよ。

 

 

 

 

 

 __機械に家族なんか、できないのにッ!!」

 

 

 気が付けば、太刀はバケツを叩き割っていた。

 

「……あッ」

 

 両断された小型の爆発は連鎖していき、中型も、残りの小型も、全てを吹き飛ばす。

 

 啞然としていた私へ、どれかの頭が転がってくる。

 

 丸くて寸分も動かせない筈の、レンズ張りの目。

 

 

 光の無い瞳は、確かに私を睨んでいるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽△

 

 

 [ボディユニットチェック完了]

 

 [メモリーユニットチェック完了]

 

 [メンテナンスモード終了]

 

 [ヨルハ機体2B、起動]

 

「……ッ……うっ……」

 

 再起動をする時の、あの意思が芽生えていく感覚。同時に全身にも感じる、冷たくてざらついた感触。

 

 これは、……砂利。何処かの地面に這いつくばっている。

 

 [おはようございます。2B]

 

「私は……」

 

 体を押し上げて、辺りを見回す。

 

 日当たりが悪いのか、少し暗い立地。後方からは、あの独特なテーマソングが小さく聞こえてきた。

 

 遊園地。そうだ、遊園地。

 

 [敵大型ユニット内部での戦闘時にユニット構造物が崩落]

 

 [落下の衝撃によりダメージを受けたヨルハ機体2Bは緊急サスペンドモードに移行]

 

 [落下地点付近は危険と判断した為、現地点まで搬送]

 

 [現段階において、全ての項目のチェックが完了し再起動された]

 

 最後の回収ユニットに行って、21Oを殺して……。

 

 A2に会って……それから……。……また、落ちた。

 

「……A2は?」

 

 [行方、生死共に不明]

 

 立ち上がって、後方へ振り返る。遠く見えるのは、崩落した回収ユニット。もし生きているのなら、もうこの周囲には居ないだろうか。

 

 ……また邪魔をされた。突然現れた機械生命体か何かに足場を崩されて、また落とされた。

 

 ……まるで、何かに阻まれてるみたいだ。

 

 運命。そんな迷信じみた物にさえ、存在と苛立ちを感じてくる。

 

 何も終わらない。贖われない罪が、下されない罰が、螺旋の先にまで絡みついてくる。

 

「……ッ。……ポッド、現状報告」

 

 一度振り払って、落ち着こうと、別の事を考える。

 

 [塔にアクセスするための認証キーを取得]

 

 [規定数のアクセスキーの入手を確認]

 

 [塔への調査が可能な状態]

 

 「……?」

 

 アクセスキー? 手に入れた覚えがない。

 

 だが、手持ちを確認すると、確かにキーはそこにあった。

 

 コアを破壊した覚えはない。いつの間に手に入れたのだろう? 21Oが持たされていた? 

 

 ……あるいは、気付かない内に向こうから渡されていたのか。

 

 ……そこまで考えて、止めた。

 

 どの道、意図的に回収させられていた事に変わりは無いんだろう。これで確信に変わった。

 

「……わかった」

 

 ポッドにそう返事をして、歩き出す。

 

 視線の先は、あの『塔』。

 

 塔を破壊する。その為だけにキーを集めさせられるこの茶番に付き合ってきた。

 

 罠であろうとも構わない。導かれるままに向かい、そして戦おう。

 

 今度こそ、全てを終わらせる為に。

 

 

 ……もう、時間がない。

 

 

 

 歩き進む内に、近くにまで見えてきた塔。一度2Bは、ゴーグルを上げて空を見上げた。

 

 くすんだ青色の瞳は、快晴の青空を一際明るく映し出す。

 

 

 何処までも高く、この手に届きそうにない青空。

 

 その中に遠く、小さく見える白い影。

 

 ……今にも雲に埋もれてしまいそうな、塔の頂。

 

 

 

 あの空の先には、何がある? 

 

 そこに辿り着けば、……私の祈りは届くだろうか? 

 

 

 

 

 __そんな訳ないのに。

 

 

 誰にも聞こえない言葉が、ポツリと呟かれる。

 

 瞼と共に、ゴーグルを下ろす。再び隠された瞳は、布越しに塔を睨んだ。

 

 

 もう何も願わない。……もう、何も祈らない。

 

 

 抗ってみせる。機械生命体も、塔も。

 

 この世界にも。……あるいは、運命にだって。

 

 早く終わらせる。早く、終わらせるんだ。

 

 

 

 ___つ、________から」

 

 

 ふと、2Bの口許が何かを呟いた。

 

 そう見えたポッドは、彼女の横顔を覗き込む。

 

 そこにあるのは、また無機質な顔。……気のせいだったのだろうか。

 

 ……けれど。固く閉ざされた視界と、口。

 

 その無機質な筈の彼女の表情の中には、確かな決意と、想いがあったように見えた。

 

 やがてポッドもまた、空を見上げる。

 

 遠い空に見える、塔の、……全ての最果て。

 

 ……恐らく、これだけは気のせいではないのだろう。

 

 

 

 終わりが、近い。

 





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