or not to [BE]   作:ヤマグティ

30 / 41
愛は世界を救わないし、どちらかと言えば滅ぼしたから再投稿です。


歌は聞こえたか

 

 

 

 

 

『ヨルハ機体2B』

『ヨルハ機体2B』

 

 

 

『ようこそ、塔へ!』

『ようこそ、塔へ!』

 

 

 廊下を抜けたその時、突然聞こえてきた、あの声色。

 

 ハッとして顔を上げると、復唱していた通り、そこには少女の姿が二つあった。

 

 それはさながら、亡霊のようなホログラムの体。そして、無彩色なこの場には、おおよそ場違いな、真っ赤な服装をしている。

 

 ……だが、すぐに確信した。この少女たちがあのアナウンス、……『塔』の機械生命体だ。

 

 あの舌足らずな声色は、こんな張り付いたような無表情から放たれていたのか。

 

「貴様らっ……!」

 

 塔の破壊。思い出した。この場所へと訪れた理由。

 

 ようやく姿を現した黒幕共へ、キッと睨みつける。

 

 ヨルハを、司令官を、皆を。……9Sを。その全てを奪ったのが、こんな少女の姿だったと。

 

 あぁ、あの時バンカーで入れ違って見えたのは気の所為では無かったのか。……あの時から、ずっと。

 

 切っ先を向けて、構える。奴らから散々受けてきた仕打ちの数々。どうせ幻影の姿であろうとも、振りかざさずには居られなかった。

 

 だが、構えられた切っ先を見ても、少女たちの表情は変わらない。

 

『ここまで辿り着いた貴様に、耳寄りな情報があります』

 

 むしろ、嘲笑って睨み返してきた少女の声色。少女らしい物からだんだんと、低い男の声に切り替わっていく。

 

 だが、表情だけは一つも変えてない。あんな無表情な顔から、嘲笑が放たれている。

 

 得体の知れなさに、不快な警戒心が募っていく。ここにきて、ようやく本性を現したように感じた。 

 

 「……うっ!?」

 

 直後、頭の中へ一瞬、ノイズがざらついてくる。また何かを強制的に送信された。

 

 食い込ませるように送信されてきたのは、何かのファイル。

 

 警戒まじりに、何のつもりかとファイルへ手を伸ばすと、……その表記を見て、動悸が硬直する。 

 

 

 

 

 

【極秘】ヨルハ部隊廃棄について

 

 

 

 

 

『教えてやろう。ヨルハ機体2B』

 

『見せてやろう。ヨルハ機体2B』

 

 

 

 

 

『貴様の、貴様らヨルハ部隊の真実を』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以下の資料はヨルハ計画の最終工程を記したものである。

※本資料は、機密レベルSSとし、バンカー司令官を含む全てのヨルハ関係者に開示をしてはならない事に注意。

 

【計画 03-01 ヨルハ部隊廃棄について】

 戦闘データが蓄積され、次世代モデルへの転換時期が近づいた段階でヨルハ基地バンカーのバックドアが開放されるようにセット。意図的に機械生命体によって攻撃させることで、バンカーを放棄。その際、本資料を含めたヨルハ計画に関わる全ての情報を破棄し、月面に人類がいるという情報偽装の完成とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが……ヨルハ計画……?」

 

 

 2Bは静かに、けれど、全てに絶望する。

 

 

 自分達は敵由来の兵器で、人道的な捨て駒であったと。

 

 

「じゃあ私は……ずっと……」

 

 あの思い出は、共に過ごした日々は、……全ては最初から壊される前提で、無意味だったと。

 

 

「私は、何の為に……?」

 

 そして、月面人類の偽装。

 

 ……心の内では疑えども、心の底から信じていた座標の喪失。

 

 

「ずっと……、何の為に……」

 

 その淡々とした文面は、……酷く静かに、彼女から存在意義を奪った。 

 

 

「なんの……為に……?」

 

 つまり、守り続けたあの忠誠は、あの日々は、……()()()()は。

 

 

 全てがこんな偽装の為に使い潰される、ほんの粗末な消耗品でしか無かった。

 

 

「…………そんな……」

 

 この戦争に意味はなく。破壊した敵の数に価値はなく。

 

 

 ……この刃に滴り落ちた血の数々も。

 

 

 いずれ壊される為だけに創られて、奪われたもの。

 

 

「そんな……、そんなっ……!」

 

 顕になった彼女の瞳が、暗く震えて、揺らぎ始める。

 

 

「……あっ……、あぁ……」

 

 それは、決して触れてはならない琴線。

 

 それは、決して潰してはならない、彼女の最後の支え。

 

 

 無意味だった。

 

 

 全て、無意味だった。

 

 

「……っ……、ぅ、あぁ……」

 

 

「うああぁあぁぁぁ……っ!!」

 

 

 ガックリと膝を折って、彼女は泣き叫び、その場に崩れ込む。

 

 遂に、耐えてきた心は潰れてしまった。

 

「じゃあ……、じゃあっ、私が皆を殺したの!?」

 

 この手で奪って、奪って、奪って、殺して、殺して、殺して、殺して。

 

 殺して殺して殺して殺して殺して殺シテ殺シテ殺シテ、……殺し続けて、大義の名の下にこの手が守りぬいた真実、『ヨルハ計画』。

 

 何回も、何体も、何人も、この手で奪い続けてきた。

 

 何か少しでもそれに意味があるのだと、心を保つ為に信じてきた。人類の為だと、ヨルハの為だと言い聞かせてきた。

 

 ……でも、それも違った。それさえもが、初めから全て壊される前提だった。

 

 

「そんなっ。あぁ……ごめんなさい……!!」

 

 耐え続けた言葉、抑え続けた涙。全てがボロボロと崩れて、溢れ出てくる。

 

「ごめんなさいっ!! ごめんなさい……!」

 

 誰かへの謝罪、何かへの懺悔が。グチャグチャな慟哭になって叫ばれ続ける。

 

 

「ごめんなさい……っ……ごめんなさい……ナインッ……

 

 ______うっ、あ"ぅ……!?」

 

 蹲って泣き叫び続ける喉元、真っ赤な吐瀉が込み上げて、ゴボリと散り落ちる。

 

 慟哭に痙攣していた腹部が、遂に沈殿していたモノを押し出してしまった。

 

「ハァ……ハァっ……」

 

 塊のようなヌメりを押し出して、ヒュウヒュウとした、拙くて震えた吐息。

 

 潰れた心と、爆発に苛まれ、ウィルスにも蝕まれ続けていた体。

 

 油の濁りを帯びた、赤黒い水面。そこに絶望した瞳が薄く反射されている。

 

「あっ……、……ぁぁっ」

 

「……ッぅぅ……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 もう届かないあの場所。

 

 もう、何処にもいてくれない存在。

 

 ただ謝る言葉だけが、か細く聞こえてくる。……ポツリポツリと、雨粒が水面を揺らし続けた。

 

 

『全てを知っても尚、戦う事を願うか?』

 

 遂に泣き崩れた姿、少女達は冷徹に見下し、引きつった蔑笑の顔を向ける。

 

 少女達は知っていた。こんな文章一つが、抗い続ける彼女をへし折る為の、一番の方法だった事を。

 

 だが、敢えてここまで取っておいた。打った手段を全て突破された時の為の最後の切り札として。

 

 ……そして単純に、ただ弄んでやる為に。

 

 

『全てを知っても尚、抗う事を選ぶか?』

 

 この二号は潰した。あとはあの二号だけ。と、勝利を確信した少女は、煽るように言葉をかける。

 

 2Bは答えない。ずっと、か細く、壊れた機械のように同じ言葉を繰り返し続けている。

 

 少女達はキョトンと顔を見合わせると、少女らしいクスリとした笑みを作る。

 

 そうして、互いに対なるように片目を開くと、その視線でお互いに合図する。

 

 『彼は可哀想だね!』

 

 『彼は可哀想だ!』

 

 彼女が謝り続ける誰か。これも当然、少女達はよく知っていた。

 

 だから敢えて少女の声色に戻すと、次に蹲る彼女の方へ覗き込んで、耳元で囁く。

 

『『ラストワン賞はお楽しみ頂けたでしょうか?』』

 

「…………れ……」

 

「……黙れ、黙れ黙れッッ!!」

 

 甲高い激昂と共に、抜刀が少女達の顔を跳ね跳ばす。

 

 涙にえづいた荒い呼吸のまま、2Bは少女達を睨みつける。柄を握る手が、握り潰してしまいそうな程に震えている。

 

『わぁ、怒ってるね』

 

『うわぁ、怒ってるよ?』

 

 刎ね跳んで、落ちた先で砕ける幻影の顔。だが、残った下半分の唇からは、滑らかに嘲る言葉が続けられてくる。

 

『でも、怒ってるのは彼の方じゃないかなぁ?』

 

『そう、ヨルハ機体2B。貴・方・にっ!』

 

「やめろっ、黙れ黙れ黙れッッ!!」

 

 少女の達の姿が切り刻まれて、掻き消える。

 

『私達は機械生命体のネットワークが生み出した概念人格』

 

『私達を破壊する事は不可能』

 

 だが、少女達の声だけはその場に留まり続ける。更に遠くでは、新たな姿が生成される。

 

 また低い声色に切り替えて、彼女を嘲笑う。

 

『ヨルハ機体2B、貴様の攻撃は無意味だ』

 

『ヨルハ機体2B、貴様の存在は無意味だ』

 

 

「黙れッ……、黙れッ!!」

 

『ヨルハ機体2B、貴様の……、……ん』

 

 少女達はふと何か思いついたように、ニヤリと首を傾ける。

 

 

『いや、それともこう呼ぶべきなのか? 二号?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴様の、本当の名で』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やめて」

 

 彼女の瞳がこれ以上ない絶望に染まったのを、少女達は見逃さない。引きつった笑みで嗤いかける。

 

 

 

 

 

 

『貴様の破壊してきた全ては無意味だ』

 

「やめてっ……」

 

 

 

 

 

『貴様が奪ってきた全ては無意味だ』

 

「やめて……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうだろう? ヨルハ機体、2_____

 

 

 

 

 ___やめてッッ!!」

 

 それ以上、先だけは____。

 

 

 次の瞬間、2Bが手をかざしたのと。

 

 

 ポッドが独断でレーザー照射の判断を下したのは、殆ど同じタイミングだった。

 

 

 轟音と共に熱線が、少女達の姿を掻き消す。

 

 先の扉に直撃した爆音が、少女達の言葉を掻き潰す。

 

 

 相当な威力で放たれたレーザーは、閉ざされた扉を破壊して、穴を開けていた。

 

 

『ハハハハハハハハハハハハ』

『ハハハハハハハハハハハハ』

 

 その必死な姿に、最後に少女達が声だけを残して意地悪く笑う。

 

 それからは望み通りに立ち去ったのか、後は何も言わなかった。

 

 

 ……ただ、静寂だけがあった。

 

 

 ガックリと項垂れる2Bも、呆然と浮くだけのポッド042も。誰も、何も喋らない。

 

 042は何か声を掛けようとしたが、……結局、何も言えなかった。

 

 ……何を言えばいいのかなんて、分からなかった。そんな機能は持ち合わせて無いのだから。

 

 

 

 だから、結果的に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人すすり泣く……、静寂だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……それから、どれくらい経ったのだろうか。無感情にまで真っ白な空間は、時間の流れが分からない。

 

 

 真っ白で、まるで教会のような、……白日の空間。

 

 

 

 

 

 されど、もう祈る願いは無く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……贖う懺悔は、無価値。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい……」

 

 この言葉に、もう意味はなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい……」

 

 この言葉さえ、もう届かなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、なさい……」

 

 全部奪って、全部無くなってしまった。

 

 

 

 

 

 真っ赤な吐瀉物の中に、落とした刀が浸っている。

 

 項垂れた瞳に、刀身に映った顔と目が合う。

 

 

 

 

 裁く側の執行人。

 

 

 散々奪い尽くした罪人。

 

 

 

 

 

 それなのに。

 

 

 

 

 

「どうして……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、(二号)が生きてるんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………。あぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____全部無くなれば良いのに

 

 

 ふと、小さく何かを呟いた口元。

 

 

 

 

 せめて、寄り添おうとしたポッド042。彼女の肩元に向かっていき______

 

 

 ___次の瞬間、その042と入れ違って、2Bは歩き始めていた。

 

 042は振り返る。再び立ち上がった、彼女の背。……ただ呆然と、見つめる。

 

 

 何か根本的な部分が、今この瞬間に入れ違った。

 

 

 2Bは、あの扉の先へ向かおうとしていた。

 

 蝕まれていた体を嘘のようにして、されどゆっくりと、その足で歩き続けている。

 

 分からなかった。その体で何故動けるのかも、……そして、その意思で何の為に進もうとしているのかも。

 

 042にも、……きっと、本人にさえ分からなかった。

 

 

 ……だが、042もまた、歩き続けるその背後へと向かっていく。

 

 

 稼働するのなら、随行する義務がある。

 

 

 単に、そんな基礎プログラムが頭をよぎっただけかも知れない。

 

 

 ……けれど、稼働し続ける最後まで、随行する義務。

 

 …………義務だ。

 

 

 自分には、この結末を見届ける義務がある。

 

 

 もう、042は何も言わなかった。汚染された筈の彼女の体、行動の意味。それらに問うことは無い。

 

 彼女の向かう先へ、尽き従おう。たとえ、どんな最期になろうとも。

 

 

 

 ……今にも消え入りそうな魂を、せめて見守り続ける為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉の先へとくぐり抜けた体に、真っ白な日差しが照りつけてくる。

 

 焼き付く斜光を押し返すように、ゆっくりと、階段を昇り始める。

 

 

 全ては予定調和に滅びて、無くなる筈だった命モドキ。本来は、自分もその内の一人だった。

 

 ここに生きているのはただの誤算で。……ここに戦い続ける事は、何かの手違いでしか無い。

 

 私は、私達は、……望まれない物。

 

 機械生命体のパーツから造られた、……アンドロイドですらないナニカ。

 

 馬鹿馬鹿しくなってくる。これは無意味な行動で、私は無意味な存在。

 

 ……それでも、この足は先へと進み続ける。

 

 分からない。何の為に? あの先に、求めた物は無いのに。

 

 

 遠く、風を切る音が聞こえてきた。

 

 汚染機体の飛行ユニットが、何体も此方に向かってきているらしい。

 

 その姿を見ると、数を数える。殺し方を考える。勝算を探す。

 

 戦う理由を見つけるよりも先に、この手が刃を構える。切っ先から浸っていた血が滑り落ちて、白い刀身を露にしていく。

 

 これから何の為に戦おうとしているのかは分からない。けれど、全てを壊し尽くそうという意志だけはあった。無意識の内に敵を睨みあげている。

 

 どうしてまだ死にたくないのだろう。何故進み続けようとするのだろう。どうせ無意味で、無価値で、……何もふさわしくないのに。

 

 

 ……でも、何かが納得できない。何かが気に入らない。赦されない者の分際で、壊し尽くそうとしてくる全てが許せない。

 

 もう破壊衝動に自我を乗っ取られたのかも知れない。汚染されていた体が、逆に何も感じなくなって、心地よく軽くなってきている。

 

 

 ……もういい、面倒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 抗おう、最期まで。

 

 

 

 

 

 何一つ、忘れたくないから

 

 どうしてそう思ったのかは分からない。

 

 けれど、無意味でも戦うと、……もう決めてしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だって私は、愚かで壊れた機械なんだから。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。