or not to [BE]   作:ヤマグティ

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 ?????





 一瞬の閃光と、爆音。


 その中に、黒服の姿が掻き消えた。



 閃光が止むと、もうそこには誰もいない。崩落した地面は、既に瓦礫に埋もれていた。カラカラと小さな瓦礫のカケラだけが降り転がり、煙が立ち込む。

 薄暗い部屋、シンとした静寂だけが、後に残る。



「……ちょ~ど終わった所かなぁ?」

 だが、煙が止んできた辺りで突然、静寂を破って大扉が開いた。

 何者かが、コツコツとヒールを鳴らしながら、ズケズケと部屋に入ってくる。……足を横から前に出すという、なんとも不気味な歩き方で。

「貴方がちゃんと時間通りに来れるとは珍しい」

 爆発に折れず、残っていた最奥の柱。その影からも、誰かがひょっこり出てくる。

「失礼ですね~。その言い方だと、まるで私がいつもは遅刻してるみたいじゃないですか」

「いや、してるでしょう」


 間延びした声と、淡々として、呆れたような声。

 口調にこそ違いがあれど、その二人の姿は、そっくりそのままであった。

 顔立ち。かけているメガネの形。着ている服の構造。持っているケース。黒髪のツインテール。

 まるで鏡が置いてあるかのようにして、二人は向かいあっていた。

「……まぁいいです。どうでしたか? A2は。簡潔かつ具体的に」

 淡々とした方が、間延びした声の方に聞く。

「え~、簡潔かつ具体的にって難しいですねぇ……。あ~~……大筋は今まで通りでしたけど、所々で機転が利くようになってましたね」

「しかも自力であの真実にまで至ってて、彼女かなりナインズ君の記憶の影響を受けてましたね」

「あとポッド153が042よりA2に対して挑発的で笑える」

「そちらは?」

 間延びした方も、返すように質問する。

「こちらも予測通り、2Bの行動、言動は既存のルートの9Sと大体一致していましたね。まぁ、立ち位置が変わっているという時点で大きな変化ですが」

 間延びしていない方は、眼鏡をクイッと上げてそれを淡々と言う。

「そうですか……。……ハァ~ア」

「どうしました? 溜息なんてついて」

「……な~んか思っていたのと違ったなぁ……と。もっとこう、劇的に変わってくれるものかと……」

「ハァ……退屈ですね~……」

 間延びした方の口調は、もう一人へ同意を求めるように言う。

「退屈……? 私はとても楽しいですが……」

 が、淡々とした方は、淡々と否定した。

「確かに大筋は変わっていませんが、立ち位置が変わった事で、背景にある事情や心情には既存のルートと大きく違いが出ていますよ?」

「特に2B。彼女の背景を知っていると尚更楽しいと私は思うのですが……。あ、報告書を一旦纏めてあるので読みます?」

 そう言って、熱弁した方は手に持っていたケースを置いて開くと、溢れんばかりに飛び出てきた紙の束を取り出して、ドサリと渡す。

「ハ、ハァ……」

 楽しい? ……人の荒んでる所を見て楽しいだなんて、怖いなぁこの人……。

 そう思いながらも、間延びした方は適当に相づちを打ち、どっさりとした紙の束を受けとる。

「……あ~、でも、パスカルが助かってた所は良かったかなぁ。A2がかなり頑張ってくれたお陰で」


「あぁ、そうなんですか、それは良かったですね」

「……」

「……えっ!?」

 ずっと淡々としていた顔が、奇声にも近い素っ頓狂な声を上げた。

「ちょ、ちょっと待って下さい!? 私そんな報告受けてませんよ!?」


「あ〜……? 合流した時に報告すればいいですし……」


「いやッ、そういうのは早く言ってくださいよ!? 何ですかソレ、私も見たかったんですけど!?」

 ずっと淡々としていた態度が、珍しく見せた動揺。間延びの方はキョトンと驚く。

「そういう肝心な事はその場で報告して下さいよっ。 あぁ、もうっ。いいです、資料っ、資料下さい!」

 そんな必死そうなリアクション。ブンブンと揺さぶられる間延びは驚き半分、内心で面白がる。

 はいは〜い、と、どっさり抱えた紙束をしまうついでに、ケースを開く。

 そこで、中にあったレーダーらしき装置が、ピコンと一音鳴り響いた。

「あ~……っと。これは……、……A2が塔に着いたみたいですね」


「……うぅ、もうそんな時間ですか……? だとしたら、2Bもそろそろ再起動する時間……」

「……んんんっ、気になるっ。 でも、彼女の方も気になるし……」

「……もう少し情報共有をしたかったですがッ……。…………仕方ありませんね、ここはお預けです……」

 シュンとしてトーンを下げると、それからは、振り切るようにシャキッとし直して、眼鏡をクイと直す。


「……では、塔の最上部にて合流を」

「了解で~す」

 せっせと荷物をまとめ上げ、二人は互いを背にして、鏡のような均一さで逆方向に歩き出す。

 コツコツと鳴る、不気味な歩き方。二つのヒールの音は、微妙にシンクロせず、ズレながら部屋に響いていく。


 ふと、二人は振り返ると、その顔へ敬礼した。






「「あの最果てでまた会いましょう、アコール」」




鏡合わせの二業

 

 

 

 

 ▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 ゴウンゴウンと、ゴンドラが思っていた以上の猛スピードで、塔を登っていく。

 

 一応、ゴンドラにしてはやたらと広いので、振り落とされる心配は無いだろう。

 

 

 だが、もう暫くは乗っているが、頂上まではまだ掛かるのだろうか___

 

 

 ___突然、背後から飛んできた不意打ち。咄嗟に弾き返す。

 

 そうやって振り返った先にあったのは、ドリル状の先端をした連結型。さながら、尻尾のように伸びてきたソレ。

 

 そう、あの漆黒の機械生命体だった。壁をよじ登ってきたのか、ゴンドラにしがみついている。

 

 

「クソッ! なんでまだ動けるんだ!?」

 

 少女達は始末した筈だ。何故襲いかかってくる? 

 

 [推測:敵サーバーの残存データによるもの]

 

「結局全部倒すまで続くって事か!」

 

 敵サーバー。要は、塔に組み込まれているって事なんだろう。カアラ山の時もそうだった。

 

 結局、ネットワークからの統制を失くしただけであって、サーバー自体は独断で戦い続けるって訳だ。ふざけてるな。

 

 漆黒はゴンドラに乗り込んでくると、前足の刃で迫ってくる。

 

「ワタシ……達ハ……ネット……ワーク」

 

「アンド……ロイド」

 

「失う……キズナ……」

 

 攻撃の片手間に、漆黒は何かぶつぶつと喋り出す。

 

 その声は、もうあの不気味な声色ではなく、機械生命体特有の無機質なモノだった。

 

 

「誰カココニ……ボクノ穴ヲ……」

 

「穴ヲ、塞イデ……」

 

 

「あの機械……さっきから何をぐずぐず喋っているんだ?」

 

 [報告:敵の過去記録の流出]

 

「……?」

 

 よく分からないが、要はランダムで今までの記憶を再生しているのか? 

 

 

 ◆◆◆

 

「『ギュッとハッキング』ってなんだ……」

 

 ◆◆◆

 

 

 張り合うな9S。すっこんでろ、邪魔だ。

 

 漆黒の重い一撃一撃が、ジリジリと此方を押していく。漆黒の巨体と私では狭いこのゴンドラ、このまま私を放り落とす気か。

 

 だが、どんどんと馬鹿みたいに突っ込んでくる漆黒。

 

 ……あの単眼、もう一発かましてやるか。

 

「ポッド!」

 

 ゴンドラの端にまで追いやられ、刃の押し合いをしていた所に、手早くポッドを構え……

 

「!!」

 

 が、なんと漆黒はポッドを見るや否や、逆に端にまで後退していった。

 

 更に尻尾を3重に増やし生やすと、あの瞳を覆い隠す。

 

 以前に喰らわせてやったレーザー反撃、見た感じ、瞳に大した傷は見受けられないが、やはり本人的には相当効いたらしい。

 

 なるほど、学習しているらしいな。

 

 ……だが、生憎それは私もだ。 

 

 ポッドを放り離すと、あの3重の尻尾に太刀の切っ先を突きつける。

 

 そしてそのまま蹴り入れて、瞳にまで切っ先を貫通させた。

 

「アアアアアアアアアアッ!?」

 

 漆黒は悔しそうに甲高い悲鳴を上げると、遥か彼方へと放り落ちていく。

 

「ハン、もう少し賢くなってから出直すんだな」

 

 図書館での方がよっぽど苦戦した、統制から放り出された機械なんて所詮この程度だろう。

 

 うるさいのが居なくなった事で、また途端に静かになった。

 

 ふと、周囲の空気にうっすらと雲が満ちてきた。どうやら相当上空にまでやってきたらしい。自然と、視線を外にやる。

 

 そこで、ふわふわと機械共の残骸が吸い上げられているのが見えた。

 

 資源回収ユニットが集めている、宇宙に飛ばす射出体を作るための資材。

 

 射出体……、まあ、砲弾と言った所か。月面を盛大に吹き飛ばす位の砲弾なら、相当なサイズが必要になる。

 

 だから同族の筈さえ資材にする。なるほど、そうやって一部の機械共の尊い犠牲のもとに、アンドロイド滅亡を成しえるって訳か。

 

 奴らも大概、全く持って下らな……。

 

「……?」

 

「……あれ」

 

 ……砲弾? 

 

 ふと考えてみて、気付いた。

 

 

 あの少女。この塔。矛盾している。

 

 塔の目的は、月面人類の滅亡の様をアンドロイドに見せつけ、戦争に勝利する事。

 

 

 だが、機械生命体としての目的は、兵器としてあり続ける為に、戦争を継続する事だ。

 

 

 敵を倒す為に、敵を倒してはいけない。

 

 

 その為に生み出したのが、あの赤い少女達の筈。

 

 そうなると、塔を制作した時点で、……既にネットワークはこの理念に反した事になる。

 

 兵器としての理念を維持し、戦争を続けさせる為に、あの少女は活動していたのではないか? 

 

 自分達には淘汰圧が必要と、そう言っていた筈。

 

 

 ……。

 

 ……あぁ、そうか。淘汰圧か。

 

 

 何も矛盾してない。逆だ。

 

 アンドロイドを滅ぼせば、機械生命体は戦争から抜け出して、種族としての方針転換を余儀なくされる。もう殺戮兵器では居られない。

 

 

 そこで初めて、……機械生命体による、機械生命体への淘汰圧がかかる。

 

 戦争に勝利した先の、新たな道の模索。……そこに殺戮の中でしか生きられないガラクタは、必要ないのだから。

 

 行き過ぎた進化を遂げた機械生命体が、かつてエイリアンを殺したように。

 

 ……行き過ぎた思想に育ったネットワークもまた、機械生命体に淘汰圧を向ける気だったんだ。

 

 兵器の理念から、新世代にふさわしい個体だけが脱却を始める。

 

 だから、つまり……、連中は資材って訳だ。

 

 

 

 新しい未来に、旧世代(私達)は必要ないから。

 

 

 

 

 用済み。

 

 

 たった一言の、……私達の生きてきた全て。

 

 酷く虫唾が走る。散々利用し尽くされて、当然のように打ち捨てられていく。いくら憎んだ敵と言えど、そんな仕打ちは無いだろうがよ。

 

 そうでなければ、何の為に戦ってきた? アンドロイドも、機械生命体も。私も……何の為に殺し合ってきた? 

 

 この戦争……こんな世界……。

 

 殺し合いの中でしか生きられない、私達。

 

 

 生まれてきて、消えていく時でさえ、私達は望まれない物だったのか……? 

 

 

 __思考のその先を阻むように、背後から再びあの足音が聞こえてきた。

 

「……クソっ、出直してくるのが早いんだよ!」

 

 太刀を再び構え、振り向こうとする。

 

 そこで一瞬、視界が外へ釘付けになった。

 

 

 

 

 今、鏡合わせになった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽△

 

 

 

 

 真っ白な飛行ユニットが、真っ白な塔の景色に溶け込んで、ひたすら上を目指していく。

 

 だが、視線は上空からそっちのけにして、塔の外壁の隙間から、執拗に内部の方を覗きこむ。

 

 

 今、鏡合わせになった気がした。

 

 

 そうだ、まだあの二号が生きている。

 

 霞んで、徐々に崩れていくような思考と自我。あの願いを、あの最果てを目指して引きとどめる。

 

 あの空の果てで、今度こそ、私はあの二号を___

 

 そこで思考の先を阻むように、後方から何かが飛行ユニットを追い越してきた。

 

 それはこちらに振り返ってくると、巨大な単眼から赤い閃光を放ってくる。

 

「信じてた信じてたシンジテタ死んじ」

 

 巨大な球状の体に、蜘蛛のような足。純白の色をした、大蜘蛛の機械生命体だった。

 

 あの大蜘蛛のような機械生命体。確か廃工場や、廃墟都市でも出くわした見慣れない型だ。

 

 純白はノズルような3つの射出口から弾幕を放って、此方を撃ち落とそうとしてくる。

 

 

「神にナッタ神になった神になったダレがなった?」

 

「命をウバウ命を、命ヲウバウんだ」

 

 

「……何、さっきからぐずぐずと……、しつこいな……」

 

 あのネットワークの少女たち、今度は不愉快な声と純白の巨体で阻んで、執拗に追撃をかけてくる。

 

 [予測:塔AIの崩壊によるもの]

 

「……崩壊?」

 

 崩壊。ということは、つまり。

 

 ……実体さえ無かったのに?

 

「死んだ? いつの間に?」

 

 

 まさか2Bは、あの時自分が敗残兵にトドメを刺したなど思ってもいない。

 

 ……あんな惨めな有様は、その前に見せられた高慢ちきとはまるで違っていたのだから。

 

 

「……どうでもいい、か」

 

 何故かいきなり死んだらしい少女たちの事なんて、もうどうでも良かった。それよりも、今目の前に居る敵の方を見据える。

 

 純白の大蜘蛛。別に追っ手という訳では無いらしいが、……関係ない。飛行ユニットの引き金を引く。

 

 どの道、機械生命体というだけで、純白もあの先へを阻んでくる敵なのだから。

 

 

「神ニナル! 神になる!」

 

 

 だが、少女たちが死んだ。ネットワークは崩壊。だったら、何故この機械はうるさくて、未だに動いている? 

 

「うるさいな……っ」

 

 [推測:敵サーバーの残存データによるもの]

 

「……は? 何? どういう事?」

 

 [『塔』内部に、ネットワークとは別の機械生命体サーバーがあった可能性]

 

「……ッ。面倒くさい……」

 

 要は、結局この塔を破壊するまで続くって事だ。ふざけてるな。

 

「神に! 神に! ……神ニ!」

 

 呟いてくる言葉を、不愉快な響きを。ユニットの弾幕で打ち消して、純白の体に目立つ穴ぼこを作っていく。

 

「タイセツなモノ失う……」

 

「失った、壊れた」

 

 だが、それでも尚、白いのはブツブツと言葉を続けてくる。

 

 意味もなく喋り続けるだけの、いつも通りの機械生命体。

 

 

「だから、お前たちも……壊す」

 

 

 ……うるさい、うるさいな。

 

 機械が何を言っている? 壊し、殺すことにしか能のない連中が、どうして言葉を交わしてくる? 

 

 もうその言葉に意味なんか無くて、何処にだって届ける相手はいないのに、どうしてうるさく喋り続ける? 

 

 そんな無機質な機械の言葉で、何のつもりで感情も無く憎しみを語るんだ。

 

 壊して、殺して、殺し続けて、散々奪い尽くした貴様らが、どんな資格でその言葉を語るんだ。

 

 お前たちも壊す? 壊すだって? 

 

 一体どれだけ大切なモノを奪われて、失って、壊されてきたと思っている? 

 

 何度も、何度も、何度も壊されて。

 

 何度も殺されて、その度に生まれ変わって、また殺されて。

 

 壊されて、壊されて、壊されて、殺されて、奪われてきて……っ。

 

 それから。

 

 

 

 それから……。

 

 

 

 

 …………私も、奪ってきたんだ。

 

 

 奴らの大切なモノを、この手で奪ってきた。

 

 仲間の為に。ヨルハの為に。彼の為に。そして、……自分の為に。

 

 

 

 美しくなりたかった(愛されたかった)歌姫。

 

 

 王サマ(家族)に尽き従った森の兵士たち。

 

 

 何か(居場所)を目指して突き進み続けた怪獣。

 

 

 祈りや、救いや、子供(生きる意味)を求めた機械たち。

 

 

 知識と憎悪(終わらせる理由)に手を伸ばしたかったアダム。

 

 

 

 そして、この手に兄を奪われた、……イヴ()

 

 

 

 壊して、殺して、奪い尽くして。

 

 終わりのない弔い合戦だった。ひたすら壊して、だから恨まれて壊されて、それが憎いから、また壊した。

 

 壊すためだけに続けられた、無価値な戦争。

 

 壊される為だけに作られた、無意味な兵器。

 

 

 無価値な戦争だった。

 

 無意味な兵器だった。

 

 

 それが私達だった。

 

 

「僕達は、機械生命体」

 

 

 壊して、壊されて、壊しあう。

 

 殺して、殺されて、殺しあう。

 

 

「君達は、アンドロイド」

 

 

 繰り返される生と死の螺旋に、ずっとずっと囚われ続けてきた。

 

 何度も再生を繰り返す、機械の体で。

 

 予めプログラムされて、そう決められた思考で。

 

 

「戦う、運命」

 

 

 命もないのに、殺し合ってきた。

 

 

「僕達は、何故存在するのか」

 

「君達は、何故存在するのか」

 

 

 ジワリと滲んできたような涙が、吹き当たる風に乾いて消えていく。

 

 純白へ向かって、ミサイルの猛攻を放つ。まるで泣き叫ぶかのように、……憎む物全てに向かって、弓を引くように。

 

 

 分かってる。分かってるんだ。

 

 だからこんな戦いにも意味なんか無くて、この戦いは君の為なんかじゃなくて。

 

 私は何も赦されなくて、……何も、ふさわしくない。

 

 ……だけど。

 

 

 終わりたくない。まだ、終わりたくない。

 

 

 だって私を壊そうとするものは、君じゃないから。

 

 私を裁いていいのは君だけだ。私を終わらせていいのは君だけなんだ。だからっ……。

 

 

 この手が引き金を引き続ける。未だに弾丸を放ち続けている。

 

 あの先を目指している。あの果てに突き進んでいく。

 

 

 

 ……だけど、本当はあの先にはっ______

 

 

 

 

 ▲▼▲▼▲

 

 

「……ハァ、ハァ……ッ!!」

 

 ガックリと崩れそうになる体勢を、なんとか太刀で支えて抑え込む。

 

 ゴンドラを檻のように囲う無数の尻尾、そこから放たれてくる弾幕を、今も尚ポッドが撃ち消し続けてくれている。

 

 あの漆黒。学習スピードが尋常じゃない。

 

 何度も、何度も放り落としていく度に、新たな戦い方を覚えていく。

 

 あんな馬鹿みたいな突撃ありきが、こんな短期間で姑息なジリ貧を持ち出すまでに至っている。

 

 太刀を押し込む程の勢いで、地に伏せそうな体勢を無理矢理に保ち続ける。

 

 動け、早く動けよ。まだ止まれない、まだ、止まれないからっ。

 

「っ!! らぁ!!」

 

 走り出して、尻尾をとにかく断ち切って回る。尻尾が無くなれば、ゴンドラの下に張り付いた本体が何処かから乗り出してくる。そういうパターンだ。

 

 尻尾を壊して回りながら、次は何処からあの単眼が顔を出すか考える。

 

 横、後方。さっきは後方で、次は横で、その次はまた、後方だったから。

 

 最後の尻尾を刎ね飛ばすと、エネルギーを最大まで溜めさせて置いたポッドを掴む。

 

 後方、横、後方。左右。この法則性だから、次はッ。

 

「ガァァ!!」

 

 その声が聞こえると共に、後方へ振り向き_____

 

 そのまま一周して、また前方へ向き直す。

 

「だろうなッ!!」

 

 真っ赤な閃光の瞳孔は目の前、そこに居た。

 

「アッ、ガッ!?」

 

 ガラ空きの背中を用意させるつもりだったであろう、鋭利な前足。

 

 どうせ背後に振り向くと思ったんだろ、そのやり口はとっくの昔に経験済みなんだよッ。

 

 動揺した漆黒に遠慮なんかせず、最大出力のレーザーをぶち当てる。

 

「アアアアアアアアア!! ガアアアアアアッッッ!!」

 

 爆炎の尾を引いて、再び遠く落下していく漆黒。

 

 怒るような声は遠のいていって、また小さな黒点になって雲に沈んでいく。

 

「はァ……ッ、……ハァ……!!」

 

 だが、此方もへたれ込み、遂に太刀を支えにしても膝をついてしまう。

 

「ポッド……ッ、レーザーから、リペアに切り替えろ!」

 

「次で、畳み掛ける……ッ!」

 

 [警告:これ以上の過剰な戦闘行為は]

 

「うるさいッ!! とっととやれ!!」

 

 [了解]

 

 レーザー装備からリペア装備に切り替えさせて、少しでも疲労に治療をかける。

 

 あの漆黒、またすぐに戻ってくる筈だ。何度反撃を喰らっても、何度放り落とされても。何度だって戦いに戻ってくる。

 

 どれだけ打ちのめされても、執拗に小賢しく、負けるたびに工夫して帰ってくる。

 

「一体、何のつもりだよ……!!」

 

 あの単眼の、蜘蛛みたいな機械生命体。アレはとっくの昔に成り代わられた、旧式の型だ。

 

 戦場に追いつけなくなって、取り残されていくだけの旧世代。

 

 小賢しい知恵さえ持ち出して、どうして執拗に殺しにくる? 

 

 何が目的だ。とっくに新型に役を下ろされ、ネットワークも崩壊して、戦う理由なんて無い筈の旧型。

 

 あれだけ叩きのめされても尚、何故そんなに必死になって戦いにくる?

 

 月面が吹きとばそうが、アンドロイドを滅ぼせようが、どの道この戦争は終わってしまうのに。

 

 向かう先に帰る場所なんかなくて、行くアテもなくて、……このまま戦い続ければ、無価値な戦場の中に、無意味に死ぬだけだ。

 

「……はぁ、ハァッ……!!」

 

 無意味に、死ぬ。

 

 太刀を握る手。この手に確かに捉えた、仇討ちの感覚を握りしめる。

 

 これで終わったんだ。もう十分だ。今すぐにだって、この場から離脱する事はできる筈。

 

 戦争が終わる。全ての戦いから意味が無くなる。いいや、そもそも初めから何も無かった。

 

 

 このゴンドラ(戦争)から下りるなら、今しかない。

 

 

「……っ!!」

 

 

「……あぁ、ああ!! クソッ!!」

 

 だが、体を起こし、太刀を引き抜き、乗り込んできた漆黒へと突き進んでいく。

 

 軋んだ体を動かして、摩耗した意識を叩き起こして、脱ぎ捨ててしまったこの瞳が抗い続けている。

 

 分かっている。こんな戦いに、意味も価値も無い。……だけど。

 

 

 終わりたくない。そんな結末じゃ終わりたくないよ、四号。

 

 

 あの先に進まなければ。あの果てに行かなかれば。

 

 だって振り返った先に、残されたモノなんて何も無いんだから。

 

 

 進まなきゃ、あの先に行かなきゃ。まだ、あの二号が。

 

 あの空の果てで、今度こそ、私はあの二号を____

 

 

 たった一つその信念で、太刀を振るい、戦い続ける。

 

 

 本当は、分かっている筈なのに。

 

 

 あの先には____

 

 

 

 △▽△▽△

 

 ___あの果てには、求めたモノは無いんだ。

 

 待っているのは、本当の死だけ。私は……、あの最果てで終わる。

 

 帰る場所も無く、行く先も見いだせず、……君に赦される事も無いままに。

 

 

 

 ▲▼▲▼▲

 

 分かってるだろう。とっくに終わった。あれで私達の因縁は全部終わった。

 

 だったら私もまた、この戦争に戦う意味も、殺し合いの中に生きる意味も無くなっている筈だ。

 

 こんな無意味な戦いに、次にまた機械を殺せば、もう復讐者としての引き際を失う。

 

 

 

 

 

 △▽△▽△

 

 それなのに、どうしてまた戦おうとする? 

 

 失われていく記憶と自我を、壊してしまいそうな程に抱き締めて。

 

 

 ▲▼▲▼▲

 

 それなのに、どうしてまだ殺し合おうとする? 

 

 壊れていく体。癒やす事もせずに、ひたすら直して、また壊しに向かう。

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽△

 

 目覚めた視界に君はいなくて、

 

 

 

 ▲▼▲▼▲

 

 眠れば悪夢に苛まれるのに。

 

 

 

 

 

 

 △▽△▽△

 

 あの夢だ。

 

 

 ▲▼▲▼▲

 

 あの悪夢だ。

 

 

 

 

 △▽△▽△

 

 君を裏切って、たった一人で生きている夢。

 

 

 ▲▼▲▼▲

 

 君に助けられて、たった一人で生き残る夢。

 

 

 

 △▽△▽△

 

 あれが望まれないモノだったと言うのなら、どうしてあんなにもお喋りで、あんなにも笑いかけて、あんなにも輝かしく造りあげたんだ。

 

 ▲▼▲▼▲

 

 最初から望んでなくて、最初から捨てるつもりで、最初から要らなかったくせに。

 

 この手に掴めない物を、何故あんなにも暖かく造りあげたんだ。

 

 

 

 

 △▽△▼▲ 

 

 最期に見せたあの表情。溢れて消えていった君の意識。

 

 苦しくて、目を背けたくなるのに、忘れられない。忘れたくない。

 

 

 

 ▲▼△▽△

 

 優しいままに消えていった君の笑顔が、無価値だったなんて認めない。

 

 あぁ、そうか。だから私は、まだ壊しているんだ。

 

 

 

 

 

 ▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 君を赦さなかったこの世界が、許せないから。

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 飛行ユニットから放たれるミサイルの猛攻が、純白の体を吹き飛ばして、轟音を上げる。  

 

「ホシにッ、向かおう……っ」

 

 

 切り上げた太刀が、漆黒の体を切り裂いて、甲高く鳴る。

 

「歌ヲ……歌オう……ッ」

 

 

 

 遥か頂きに昇る塔。双極の色達が、命も持てずに叫んでいる。

 

 全ては、あの最果てを目指して。

 

 

 

 あの先へ、導かれるままに、機械達が向かっていく。

 

 

 弟。兄。親友。ママ。家族。

 

 人類。エイリアン。機械。勝利。

 

 命。願い。祈り。希望。栄光。

 

 空。星。仲間。宝物。光。

 

 

 失われた座標が、まるでそこにあるとでも言うように。

 

 

 

 何もない。分かっている。

 

 希望なんて無かった。分かっていた。

 

 

 

「ああ、光が見える」

 

「光が」

 

 

 

 

「僕達は、空に飛ぶんだ」

 

 

 

 

 

 △▽△▽△

 

 ミサイルの猛攻に押され、爆炎を上げて純白が放り飛ぶ。

 

 遂に到達した塔の頂上。穴だらけと化した純白は、そこへと力なく落下して退避していく。

 

 だから追い撃ちをかけるように、純白へ目掛け、飛行ユニットを脱ぎ捨てる。

 

 彼の見様見真似だったが、上手く直撃したようで、着地した背に爆風がなびいてきた。

 

 純白の装甲は殆ど半壊して、残った箇所にも弾痕が幾つも空いて火花を吹いている。

 

 再起に手こずっている。トドメを刺そうと、刃を構える。

 

「……!?」

 

 そこで突然、奥で壁が突き破られて、漆黒の機械生命体が転がってきた。

 

 

 

 

 ▲▼▲▼▲

 

 

 ゴンドラが壁を目掛けて突っ込んで、漆黒を叩きつけて壊し開けた。

 

 遂に頂上に到達したのか、漆黒は広間となった空間に転がっていく。

 

 飛び上がって、両断しようと太刀を振るうが、反撃に弾かれ退けられる。

 

 だが、既に何回も切り裂かれ尽くした漆黒。装甲の殆どをズタズタにした体は、遂に崩れ込んだ。再起に手こずっている。

 

 トドメを刺そうと、再び太刀を構えて、……あの視線に気付いた。

 

 

 

 

 △▽△▽△

 

 

 漆黒の機械生命体と共に、A2もまた、ここに同着で乗り込んできていた。

 

 構えた切っ先、あちらの方に構える。

 

 彼女も此方に気付いたようだが、何かを考えて、それから口を開こうとする。

 

 

 だが、丁度そのタイミングで、邪魔をするようにあの機械達が割り込んでくる。

 

 

「みんなで……歌を、歌おうよ……ッ!!」

 

「ハレルヤ……!!  ハレルヤ!!」

 

 

 

 

 

 ▲▼▲▼▲

 

 

「だって僕達は……ッ……!! 空へ飛ぶんだから……っ!!」

 

「ハレルヤ……!!  ハレルヤ!!」

 

 

 漆黒と純白。双極の色。

 

 ズタボロになった体が、互いに寄り合って、支え合って、遂に立ち上がる。

 

 

 

 

 △ ▽△▽ △         ▲ ▼▲▼ ▲

 

 

 「「オオオオオオォ!! アアアアアアァ!!」」

 

 

 ▲ ▼▲▼ ▲         △ ▽△▽ △

 

 

 

 

 寄り添った体。双極となった二体。

 

 連結した双眼から、私達を睨むように真紅の閃光を放つ。

 

 

 くすんだ色の瞳。

 

 濁った色の瞳。

 

 

 青い双眼で、睨み返した。

 

 

 双極は鎌のように変形させた足を、ただひたすらに振り上げて、叩き落して、此方を目掛けて薙ぎ払う。

 

 鋭利な尻尾を必死に振り回し、弾幕を闇雲に放ち散らし、もがいて、抵抗する。

 

 だが、穴ぼこだらけの体、裂けてズタボロの体、……そんなモノを繋ぎ合わせた所で、何の足しにもなっていなかった。

 

 穴と傷。体中から火花を散らし続け、どれだけ互いを支え合っても、……双極は力なく、弱々しい。

 

 白い刃が、双極の支え合う足を切って、更に機動力を落としていく。

 

 黒い太刀が、最後の抵抗に生やした双極の鎌も斬り跳ねる。

 

 

 移動手段も、攻撃手段も失い、木偶坊となった双極。

 

「ハァッ!!」

 

 A2が太刀で、双極を再び2つに両断する。

 

「……ポッドッ」

 

 2Bがレーザーで、二体の体を串刺しに貫く。

 

 

 寄り合っていた双極の体。分断され、レーザーを流し込まれ、体中の傷から爆炎が吹き出す。

 

「みん、なで」

 

 膨れ上がり、無惨に吹き飛び、……断末魔さえ、あげる間もなく。

 

 

「星に____」

 

 

 

 双極は砕けて、……塵に消えていった。

 

 

 爆風と共に、辺りに立ち込める煙。太刀で掻き分け、A2は彼女へと向かう。

 

 刃を突き付け、煙の奥で切っ先を輝かせて、2Bはソレを牽制する。

 

 

 双極入り混じった、静かな灰色の闇。だが、やがて次第に、薄くなって消えていく。

 

 

 顕になってくる、向かい合った二人の、二号の顔。

 

 静かに、固く口を閉ざして、見つめ合う。

 

 そこに静音し、何も語らない二人。

 

 

 ……だが、本当は、互いに分かっている。

 

 

 

 

 

 ここで、決着をつける。

 これで、決着をつける。

 

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