or not to [BE]   作:ヤマグティ

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from A [TO] B

 

 

 

 

 [__告:ヨルハ機__Eの自__領域_鎖を完了]

 

 

 

 まだ曖昧な意識と、呆然と青空を見つめていた視線。そこへだんだんと、ポッドの声が聞こえてくる。

 

 グッタリと視線を向けると、ポッドはあの二号の顔元で滞空していた。

 

 混ざり合っていた感覚から、まだイマイチ自分が自分だという確信を持てない。

 

「……勝ったのか、私は……」

 

 [肯定:A2]

 

 ポッドは私の声へ、真っ先にズイと目の前にやってくると、わざわざその名前を口にする。

 

 [報告:ヨルハ機体2Eの自我領域閉鎖を完了した]

 

 それからクルリと振り返ると、また彼女の顔元へと向かう。

 

 ハッキングにより制圧され、仰向けに倒れていた2E。その瞳は、どちらも前髪の影に埋もれて見えない。

 

 だが、微細に開かれた口許。その吐息だけは、……シンとして、固く閉ざされていた。

 

 彼女のポッドは、……何もせず、その胸元に、ただポツリと滞空している。

 

「……ポッド。もう一度、ハッキングを」

 

 [否定:既に戦闘は終了。ヨルハ機体A2に、これ以上ヨルハ機体2Eへ介入する理由は存在しない]

 

 私がこれから何をするつもりなのか、ポッドには到底お見通しらしい。露骨に、遠回しに引き止めてくる。

 

 ……だが。

 

「まだ、終わってない」

 

 これはあくまでも意識を閉じ込めただけ。まだ、彼女は死んでない。

 

「彼女の汚染を、……取り除く」

 

 [報告:ウィルス汚染が深刻で、除去は困難]

 

「……いや、一つだけ方法がある筈だ」

 

 そうだろう? と、ポッドに視線で訴える。

 

 彼女の汚染。除去こそできずとも……。……それを私の方へ、肩代わりさせる事ならできる。

 

 形質が同じ私になら、ウィルスは綺麗に移動させる事ができる筈だ。

 

 混ざりあったあの空間に居たからこそ、……分かる。

 

 [……]

 

 渋るように無言を貫くポッド。だが、自我領域を閉鎖した。彼女はまだ生きてると、わざわざそう言ったのはお前だ。

 

 [ポッド153は、ヨルハ部隊支援随行ユニット]

 

 [ヨルハ機体A2に害を為す行動は、賛同できない]

 

 [……その方法は、推奨されない]

 

 

「意外と……イイ奴だな。お前は」

 

 あのポッドが、まさか縋るような視線の間を置いきたので、思わずキョトンとして、……素直に微笑んでしまう。

 

 ……だけど。

 

「……ポッド」

 

 

「頼む」

 

 それはきっと、9Sの願いでもあるから。

 

 

 [了解]

 

 その言葉と共に、もう一度彼女の額に触れた。

 

 

 

 

 目の前には、再びあの空間が広がってくる。

 

 白く角質な地形。暗く遠い空。

 

 だが今度こそ、そこは彼女の内部。

 

 この何処かにウィルスの源流と、彼女のコアデータがある筈だ。

 

 最奥を目指して、真っ直ぐな道を急ぎ足で進んでいく。

 

 いや、最初は真っ直ぐだった道。進んでいくに連れて、だんだんと入り組んだ物に枝分かれしていった。

 

 入り組んだ先に見える部屋のような広間には、記憶のモニターが見える。

 

 そしてモニターには、彼女が見てきたであろう風景が映っていた。それは戦場の業火や、数多もの敵の姿。あるいは、雲を割いて見えてきた大海原。

 

 あるいは、そびえたった山々。何かそれらしい施設の雰囲気に、遠く背景にみえる自然の景色もある。

 

 美しい自然、様々な生き物の姿。かつて人類が残した遺産たる、見上げるほど壮大な建造物。

 

 どの記憶も必ず、突然視界をそちらへ向けて動かすのは、……そこで咄嗟に呼び止められたからなんだろう。

 

 こういう景色には、いちいち言葉を挟む奴がいるからな。

 

 そんな風にして、まるで今自分がそこに思い浮かべたかのように、次の記憶モニターには、その顔が映り始めた。

 

 他の部屋よりも、何回りも大きな領域。無数のモニターに、彼の表情が映っている。

 

 

 機械生命体の顔をして、何食わぬ顔で語りかけてくる時の記憶。

 

 人型の機械生命体達との死闘の記憶。その果てに、見下ろした先にあった顔。

 

 遊園地、水没した街。森の城、砂漠、工場。そこに待ち受けた敵との、共闘の記録。

 

 ふと、とある花を探しては、そんな各地を巡った思い出。

 

 共に過ごした日々の記憶。一際広いその部屋に、記憶のモニターがまんべんなく浮かんでいる。

 

 

 それはどれもこれも、画面からほのかに淡い光を放って、その映像を映し出していた。

 

 記憶の奥で、輝き放つ光。彼女の、……光のような思い出の数々。

 

 ……だが。

 

 

 彼女の核心(コア)は、……まだ、ここにも見当たらなかった。

 

 だから、つまり。

 

 

 ……この広間には、もっと先に続く場所がある。

 

 いい加減モニターばかりを覗くの止めて、次に続く道を探し始める。

 

 空気感に何処となく混じって、気流に乗って遠い背景に消えていく、小さな赤い粒。

 

 ウィルスが何処からか流れてきている。目を凝らして、粒の流れを辿って進んでいく。

 

 

 そうして、辿る視線の果てに、広間の遠い端っこで、……ポツンと浮かんだモニターを見つけた。

 

 他の記憶のモニターと比べると、やけに隔離されたようにして、端へ追いやられている。

 

 モニターにまで向かい、その映像を覗き込む。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「2Bさんですね? 僕は9Sです。貴方のサポートをするように指令を受けています」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 それは、向かうべき場所を共にした存在と、初めて会った時の言葉だった。

 

 背景は、……廃工場だろうか。その工場になら見覚えがある____

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「僕は9Sです。貴方のサポートをするように、指令を受けてきました」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 また、同じ言葉が聞こえてきた。

 

 ……短い記録の記憶だから、また再生されるまでの時間が早いのだろうか? 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「初めまして、僕は9Sです。貴方のサポートをするように___」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ……。いや。 ……いいや、違う。これはっ。

 

 復唱される言葉の違和感に、ハッとモニターから顔を上げる。

 

 

 そこには、先程までは無かった筈の階段が、暗い奥底へと伸びていた。

 

 

 モニターの裏に隠されていた、下り階段。その階段は細く、……人一人だけが通れるぐらいの幅。

 

 余りにも遠く、長く伸びていて、先には部屋らしい何かがある。だが……、そこは暗く深くて、黒い影が覆い被さっていた。

 

「……これは」

 

 [……]

 

 問うようにポッドの方を見ると、ポッドもまた、此方に問うような挙動を返してきた。

 

 どうにも、ポッドの様子と自分の反応が噛み合わない。

 

 ポッドは何度も、私と階段を見比べている。

 

 ……いや、正確には。私と、私がずっと見つめている虚空の崖だろう。言葉にこそ出さないが、確信じみた疑問を感じている。

 

 一体、そこに何が見えているのか? ……と。

 

 

 ポッドには見えていない。この道は、ポッドには示されていない。

 

 つまり、これは。

 

 

 ……本来は、彼女(二号)だけに示される通路なんだろう。

 

 

 あの少年は何かあると、平気で人の頭に入ってくるから。……だから、自分だけが分かるように細工した。

 

 この道の先に続くのは……、彼女の、真相だから。

 

 彼女の、……深層。

 

 

 階段を一段、また一段と下っていく。

 

 踏み出す度に、初めて会った時の言葉が、また聞こえてくる。

 

 それと共に、左右のあちこちへ、モニターが薄く現れる。

 

 それは幾つもの、初めて会った時の記憶

 

 どれもこれも同じように見える記憶。だが、流される言葉と違い、周囲に映る背景には、いつだって別の物が映っている。

 

 工場。バンカー。草原。

 

 あるいは、海景色。

 

 あるいは、砂漠。

 

 あるいは、あるいは……

 

 

 言葉が繰り返されて、輪唱されて聞こえてくる。

 

 

 初めて会った時の言葉。

 

 

 初めて会った時の言葉。

 

 

 初めて会った時の言葉。

 

 

 初めて会った時の言葉。

 

 初めて会った時の言葉。

 

 初めて会った時の言葉。

 

 初めて会った時の言葉。

 

 初めて会った時の言葉。

 

 初めて会った時の言葉。

 

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 初めて会った時の言葉。

 

 初めて会った時の言葉____

 

 

____初めに……、会った時の、……言葉。

 

 

 幾つもの、初めましての記憶。

 

 それだけが浮かべられた、この通路。

 

 気が付けば、階段のあちこちには……、夥しい数の傷が付いていた。

 

 ウィルスの粒は、そのキズをなぞるように辿って、私と入れ違って階段の先へと登って行っている。

 

 

 延々と遠く先へ続く、ボロボロの道。それでも、やがて終わりはやって来る。……だんだんと、奥の広間が見えてき始めた。

 

 そこにあるのは、膨大な量の記憶モニター。それは溢れ落ちそうな程に溜め込まれていて、……さながら、ドームのようにさえなっていた。

 

 そしてドームを形成するモニター。遠目から見ても分かる違和感に、目を凝らす。

 

 モニターの周りを、細やかな何かが覆っているように見える。

 

 それは糸みたいに細く、記憶同士へ絡まって、……まるで、蜘蛛の巣のようになっている。

 

 蜘蛛の巣。だが、近付いていくにつれて、だんだんとその正体が分かってきた。

 

 

「これは……っ」

 

 ボロボロで、風化したような広間。それを覆う、膨大な量の記憶。

 

 そのモニターフレームの至る所から、鋭利な何かが伸びている。

 

 

 ……あれは、棘だ。

 

 

 モニターの輪郭から、鋭利な棘が、ネジ曲がって生えていた。

 

 まるでがんじがらめの、蜘蛛の巣のようにして、広すぎる筈の空間に棘の檻を入り組ませている。

 

「記憶の、棘……」

 

 棘だらけのモニターが、映像に砂嵐と雑音のフィルターをかけて、壊れたようにチカチカと点滅している。

 

 だが、砂嵐の中に繰り返される点滅。……それはハッキリと、記憶の中身を照らし出してもいた。

 

 音のない、凍った記憶。どれもこれもに、すべからく映る色。……それは赤黒くて、……それは、虚ろな表情。

 

 目に映るモニターの全てに、……9Sの最期が照らし出されている。

 

 ……これが彼女の、……処刑人として生きてきた姿。

 

 

 記憶の棘に視線を向け、伸びていく針先を追っていく。

 

 地面や、遠くに浮かぶ別の領域。……記憶から伸びた棘は、あらゆる場所に伸びて、突き刺さっていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

『さよなら、2B』

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 何処かから、9Sの声が聞こえてくる。音の無かった空間に、あっという間に鳴り響いて、消えていく。

 

 ……棘からだ。入り組んだ棘が微かに震えて、血管が脈打つように言葉を伝わせている。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「2B……最後に、お願いがある……」

 

「僕が……僕とまた出会う事があったら……」

 

 

 

「必ず、殺して欲しいっ……」

 

 

「……約束、だよ……?」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 また、聞こえてくる。

 

 約束。消えゆく9Sが、彼女の中に残していった、……彼の痕跡。

 

 

 ふと目の前に見える、突き出た針先。伸ばし掛けていた指の平を、……引っ込める。

 

 棘。確かにそれは、この場における他の記憶にさえも突き刺さっている。 ……だが、それでも。

 

 それでも、その棘同士は絡み合って、……ボロボロの空間から溢れ落ちないように、互いの記憶を支え合っていた。

 

 通ってきた道筋を振り返る。最初に見た記憶の間は、もう影にさえも見えない程の遠くにある。

 

 こんなにも遠い場所へ封じ込めて置きながら、……こんなにも深い場所に、敷き詰めてまで保管して。

 

 何一つ消そうとせずに、……奥底に、そっと仕舞っておいた。

 

 

 これは彼女の……、誰にも触れられたく無いモノだ。

 

 

 空間内のあちこちに伸びた棘。一本もさえ刺さらないようにと、掻い潜っていく。

 

 広間の先には、また階段があった。今度は遠く上へと伸びていて、何処かに繋がっている。

 

 階段の先にあるその場所からは、目印のように光の支柱が伸びている。

 

 ……この場所に直結した場所。

 

 あそこに、いる。

 

 高く、遠い階段。迷わず一歩を踏み出して、昇っていく。

 

 データの筈の世界に、足音だけが小さく響き渡っている。だんだん広くなっていく階段に比例して、自分の姿がポツンと小さくなっていく。

 

 階段の、最後の一段を上がる。

 

 

 ……いた。

 

 彼女の、2Eの、コアデータ。

 

 閉鎖措置を施された自我は、祭壇のような床に就いて、眠るようにしてシンと空を仰いでいる。

 

 そして、その奥に見えるのは、あの光の柱。遠目で見ていたからではなく、実際に、光そのものの質感をしている。

 

 だが、その光の支柱には、ウィルスの粒子が呼応するように舞っていた。

 

 恐らく、柱はウィルスの源流でこそ無いものの、それに近い物。

 

 ……きっと『塔』のサーバーが、ウィルスを介して接触を試みたんだろう。彼女を光の柱に乗せて、その先にある何かへ送る為に。

 

 ……でも、そこに何の悪意は感じない。ただ本当に、彼女に惹かれてやってきたんだ。

 

 それが分かるほど、光は澄んでいて、……輝かしい。

 

 光の先にあるもの。それが何なのかは分からない。……だが、この澄んだ色には、思わず私も惹かれそうになってしまう。

 

 

 あの先には、何がある? 

 

 ここよりも、素晴らしい所だろうか? 

 

 

 眠った彼女の顔を見下ろす。

 

 それは何処となく、穏やかなようにさえ見える顔。

 

 

 ……もう、9Sは何処にも居ない。

 

 残された者の気持ちを、二号の気持ちを、私は知っている筈だ。

 

 

 彼女から汚染を取り除き、再びこの世界に生を与える事。それが果たして、彼女の望みだろうか? 

 

 その頬を撫でて、胸元に手を乗せる。光の柱へ、見上げた視線で問い掛ける。

 

 

 その先には、9Sが。

 

 

 

 ……皆が、……いるのか? 

 

 

 

 勿論、答えは帰ってこない。

 

 柱から微かに聞こえる物、それは無邪気な、子供達の声。

 

 その声色は、無垢な色をして、とても澄んでいる。

 

 清々しい程に澄んだ、ゼロで透明な意志。

 

 

 ……そうか。と、歓声に顔を落とす。

 

 きっと、居ないんだろう。光が目指すのは、新たな場所。全てをゼロにして、新たな何処かへ送り出すんだ。

 

 

 階段の先を、奥深い闇の方を振り返る。

 

 あの下にある記憶。彼女が封じ込めた記憶。

 

 この記憶があれば、彼女はこの先も苦しみ続ける事になるだろう。

 

 だが、光に乗せれば、彼女は新たな何処かへ送られる。

 

 

 ここにあった記憶の全てを、……無かった事にして。

 

 

 

 ……でも、あの記憶は。

 

 

 

 あの棘だらけの記憶は、その手が最後まで守り抜こうとした物だ。

 

 

 この記憶が失われていく事が、彼女の望みだろうか?

 

 

 

 この世界に、彼女を生かし続けるのか。

 

 それとも、……ここで彼女を終わらせるのか。

 

 

 刻一刻と迫る、汚染の進行。

 

 ほんの一瞬。僅かしかない時間に、頬に触れた手を握りしめる。

 

 

 ……四号も、こんな気持ちだったんだろうか。

 

 

「……私は」

 

 

 ……。

 

 ……彼女の頬。もう一度、そっと撫でて、……微笑んだ。

 

 

「……私が、全部」

 

 指先へウィルスの粒子が集って、体の中に収束していく。

 

 彼女の自我から、私の自我へ汚染が移っていく。

 

 

 

 これで救った気になんてなら無い。これはただの、私の一存だ。

 

 これは私の決断で、これは私のエゴイズム。

 

 姉気取りが、何か余計な事をしたと思っていてくれればいい。

 

 ……だけど、せめて。

 

 

 

 

 その瞳に、君が2Bとして開ける余地を送ってあげられるのなら___

 

 

 

 

 ___気が付けば、意識は『塔』の頂上へと戻っていた。

 

 それと同時に、全身には汚染の痛みが走ってくる。

 

 ……どうやら、上手くいったらしい。と、その痛みに、不快感はない。

 

 

 グッタリと下を向いた視線の先に見えた、彼女の白い刃と、……あの黒い太刀。

 

 ふと顔を上げると、白いポッドがフワリと此方にやってきていた。

 

 理解に悩んでいるようなそのポッドの姿勢に、言葉は無い。だから答えるように、刃をそれぞれ手渡す。

 

「……返しておいてくれ、これは私のじゃないからさ」

 

[……A2、君は]

 

 呆然として、けれど去り際に白いポッドは、此方に振り返って言葉を交わしてくる。

 

「先に行っててくれ」

 

「……私には、まだやることがあるから」

 

 このポッドと話すのは、これが最初で最後だろうか。……だが、彼女の事。後は任せた。

 

 アイツは背を向けたまま、何も言わない。さっさと私の命令を汲んだのか、彼女をフワリと支えている。

 

 さようなら。なんて、余計な一言は言わないつもりらしい。……全く。

 

 ポッド達の背中が、遠く去っていく。……最後にアイツが此方に振り向いて、それから、また背を向ける。

 

 終わりゆく『塔』から、彼女を運び出していく。それで、いい。

 

 

 やりきった疲労感に項垂れると、また、あの柱の前に戻っていた。

 

 輝かしい光と、その先にある空。

 

 

 私を吸い寄せて、その先に送ってくれるつもりだろうか? 

 

 私をゼロにして、この痛みを無かった事にしてくれるのだろうか? 

 

 

 その方舟に乗せて、機械達が何処を目指すのかは知らない。

 

 でも、そこはきっと、素晴らしい所なんだろう。

 

 光の柱へ、手を伸ばす。

 

 

 無邪気な笑い声が聞こえてくる。

 

 何も知らない、無垢な子供たち。

 

 機械生命体達が、未来へ託そうした方舟に入れるデータ。

 

 

 誰に、それを殺す権利があるだろうか。

 

 誰に、未来を壊す権利があるだろうか。

 

 

 ……だけど。

 

 

 

「すまないな……」

 

 

 

 私は最期まで、二号の……。

 

 

 いや、『A2』の意地を通す。

 

 

 これで救われた気になんて、ならない。

 

 これで復讐を果たしたとも、言わない。

 

 

 私もそこに行ければ、良かったんだけど……。

 

 

 

 

 でも、その先に皆はいないから。

 

 

 

 

 

 データの世界と、光の柱。その全てが崩れて、こぼれ落ちていく。

 

 崩れゆく視界は『塔』に戻り、『塔』もまた、全てを失い、壊れていく。

 

 視界が仰向けに向いている。『塔』の頂上からは、空が近い。

 

 霞んでいく視界なのに、雲一つない青空一色が、最期まで綺麗に見えている。

 

 ……なんだ、今日は良い天気だったんだな。

 

「こんなに世界が綺麗だって、気付かなったな……」

 

 

 

「みんな……今、行くよ……」

 

 

 

 ウィルスを取り込んだ真っ赤な瞳で見上げても尚、空はどこまでも碧くて、美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴロリと、何処かに転がり落ちる。

 

「……あれ?」

 

さっきまであったような、蝕んでくる痛みを感じない。

 

 

「……ここは」

 

……どこだろう、ここは。なんだかやけに真っ白すぎて、何も分からない。

 

私は、……何をしていたんだっけ?  

 

 

「オラッ、ボサッとすんな、二号!」

 

 

「わっ」

 

呆然とした仰向けの視界に、ガナリ声の顔が逆さに出てきた。

 

「……十六号?」

 

 

「……ホラ、さっさと行くぞ」

 

そう言ってズルズルと、腕を掴まれて引っ張られていく。

 

「???」

 

何処に?  

 

と、仰向けに見上げてみれば、私を引きずっていく十六号は、プンスコと怒ったような横顔をしていた。

 

 

「十六号、少しは労ってあげて下さい」

 

「お疲れ様でした。大変でしたね、二号」

 

その声に、ふと横を見てみると、二十一号もいた。ニコリと微笑んで、私を見ている。

 

「ですが、アレは無茶をしすぎですよ。二号」

 

 

「そうだぞ、本当に……。……まだ早過ぎんだよッ」

 

 力強く握り締めて、十六号は不満そうに私を引きずっていく。

 

「……ハァ、十六号。二号は貴方みたいな乱暴者じゃないんですから」

 

「暴れ足りないのなら、貴方が代わりに戻ってあげてください」

 

「できるかっ!」

 

 

「ちょ、ちょっと、二人共っ」

 

 引きずっていた手をパッと離して、十六号は二十一号と口喧嘩を始めてしまう。

 

 何の喧嘩か知らないけれど、……あぁ、もう。こういう時には、四号がいてくれないと……。

 

「おーい! 早く早くっ」

 

 喧嘩をする二人の間に、あの先に、手を振った姿が見えた。

 

「あ、四号」

 

 遠い姿。影に沈んでいるけど、ああいう分かりやすい動きは四号だ。

 

「ホラ、早くしないと置いてっちゃうよー、二号」

 

 二十一号が、ヤレヤレと首を振ってあの先に振り返る。

 

 十六号が、フンと鼻を鳴らしてあの先に振り返る。

 

 

 たははー、と。よく見ると、四号があの先で、気まずそうに笑っている。

 

 ……四号?  

 

 

 ホラ、早く。と、二十一号が、ニコリとはにかんで笑っている。 十六号まで、珍しく目尻に涙を浮かべている。

 

 

 …………あぁ、そっか。そういえば、そうだったっけ。

 

 

「……みんな」

 

 

 もう。なんだ、結局引きずっていってくれないんだ。

 

 

「……まってよー」

 

 二人を追い越して、四号のもとに走っていく。

 

 本当に、四号には言いたい事が一杯、一杯あるんだから。

 

 

 

 「本当に大変だったんだからっ! 四号____

 

 

 

 __暗い何処かの奥底で、淡い光が放たれている

 

 

 

 花の光に照らされて、黒の刃は、……今も静かに、眠っている。

 





from A [2] B
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