or not to [BE]   作:ヤマグティ

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読み返してみたら失われた世界ver1.00の木の少年、まんま九号やんけって思ったので再投稿です。


磔刑の少年

 

 

 

 なんで、あんな事をしたんだろう。

 

 

 目の前から繰り広げられてくる凶弾と、ミサイルの弾幕。

 

 それらを回避することに集中しなければならないのに、おかしな事に、僕の頭の中は先程の事で一杯だった。

 

 さっき、2Bの飛行ユニットにハッキングを仕掛けた。機能に妨害を掛けて降下させ、この戦線から逃がす為だ。

 

 多分、この辺りならポッドは砂漠へのルートを設定した筈だ。あそこなら、2Bもきっと上手く不時着できただろう。

 

 ……でも、2B。絶対怒ってるだろうな。ついさっきまで通信が続いてきてた。

 

 次に会った時に、なんて言われるだろう? 

 

 絶対誉めてはくれないだろうなぁ……。……だって、2Bは優しいから。

 

 

 [警告:機体ダメージ甚大]

 

 

 ポッドから掛かってきた、横槍の一言。

 

 ……。いいや、目の前の現実を見よう。

 

 穴だらけの翼。変な方向にへし折れた飛行ユニットの腕。装甲のあちこちから飛び散っている火花。

 

 

 また会える保証なんて、どこにも無い。

 

 

 ……こうなるって、分かってた癖に。どうして、ここに一人残ってしまったんだ。

 

 一緒に二人で戦って、ここを突破したかった。そう思ってた筈なのに。

 

 

 ……けれど、あの光景を見てしまった事で、全てが変わってしまった。

 

 ……変な感覚だった。

 

 あの時、2Bが何か話しかけてきた時に……、一瞬、知らない誰かの記憶が頭によぎった。

 

 

 

 それは、2Bが誰かに殺されていた場面だった。

 

 ノイズが多くて誰かまでは分からなかった。けれど、2Bがあの白い刃で、その胸を貫かれていた。

 

 

 

 本当に一瞬見ただけの、僕の物では無い、知る筈もない記憶。

 

 けれどそれは鮮明に、自分の記憶のように流れてきた。

 

 ……いいや、分かっている。多分、ヨルハ部隊の壊滅に動揺して、物事をネガティブに考え過ぎてしまった為の……、……只の妄想だろう。スキャナーモデルの、物事を考えすぎる癖が悪い方に出てしまった。

 

 あんなの、ハッキリ言って愚行だった。このエリアは大規模進行に当たっていた場所。

 

 そもそも逃した先が安全だなんて限らない。不時着が上手くいくなんて保証自体もない。感情に身を任せすぎた行動だった。

 

 ……けれど、あの光景は僕の心を揺さぶるには、あまりにも十分過ぎた。

 

 2Bにだけは、生きていて欲しい。そう思った頃には、もう実行に移していた。

 

 きっと何度あの場に巻き戻っても、僕は同じ判断を下すだろう。

 

 [警告:反応炉温度上昇]

 

 [警告:FFCS , NFCSともに反応なし。]

 

 [報告:攻撃手段を全て喪失。]

 

 ボーっとしたままの自分へ、ポッドが緊急事態だと言わんばかりに、早口で連ねてくる。

 

「くそっ……!」

 

 けれど、それを聞いた所で、もうどうにもできやしない。

 

 あぁ、こんな事になるなら、通信を切らずに2Bに何か言い残しとけば良かった。 

 

 応戦を止めて、逃げる為に、奴らを潜り抜けて飛ぶ。

 

 

『こちら、ヨルハ機体9S。この通信を____』

 

 せめて最後まで、言い遺す為に。

 

 

 

 丁度録音が終わったその時、遣りきったように限界を迎えた飛行ユニットが爆発する。つまり、空から叩き落とされる事となった。

 

「ぐぁあ……ッ!!」

 

 だが、水没都市。せめて地表には落ちたようだった。

 

 それでも、固いコンクリートの地面。戦闘向きの体じゃないから、バキリ、だの。ブチッ、だの。体中から嫌な音がした。

 

 痛む体を、無理矢理にでも力を入れて立ち上がる。上げた視線に、ポッドが武器を持ってくるのが見えた。黒の、……大剣? 

 

 使い慣れてた片手剣の方は、さっき投げ出された時に何処かに行ってしまったんだろうか。

 

 何でもいい。武器が手渡されたという事は、……敵がいるって事だ。

 

 その予想は、やはり的中していた。ここは大規模作戦に当たっていた地域、赤い機械生命体の瞳が、四方八方から僕を睨んでいる。

 

 生きてて良かった。……なんて、悠長な事を考えてる余裕は無いみたいだ。

 

 大剣を振るい、叩きつける。……だが、敵は吹き飛びはしても、すぐに立ち上がってきた。

 

 切りつけた傷が浅い。元々戦闘向きじゃないのに、この瀕死の体だ、ましてや重い大剣。威力が出ない。

 

 2Bはこれを軽々として、流れるような身のこなしで振るっていた。こういう時になればなるほど、羨ましいなと思う。

 

 ハッキングの為に手を構える。得意分野に頼ろう。少しずつでもいい。爆破して倒す。

 

 ……。

 

 ……そう思ったが。

 

 ……ハッキングは、開始されなかった。

 

 

 二度、三度試す。違う起動パターンも、幾つも試す……。それから、それから……。

 

 

 ……諦めて、結論を出す。

 

 さっきの飛行ユニットの爆発。あるいは落下の衝撃かで、ハッキングの機能を司る部分が壊れてしまったんだろう。

 

「……逃げるしか……ない……」

 

 どれだけ電脳戦で無類の強さを誇っても、それが物理的に壊れてしまえば何の意味もない。

 

 ポッドの後方射撃で敵を押し止めて、フラフラと逃げていく。

 

 打ち漏らした弾幕が背中に当たる。焼けるように痛い、けれど、それでも歩き続ける。諦めない。

 

 重症だが、生きていたんだ。

 

 また2Bに会えないかと、歩き続ける。……また会いたい、君に。

 

 こんな瀕死になった僕を見たら、きっと凄い剣幕で怒るだろう。でも、それもいいなと思う。

 

 

 ……だが、その願いにトドメを刺す、無慈悲な一言が耳に入ってきた。

 

 [警告:ウイルス汚染を探知。]

 

 [推奨:早急なワクチン投与。]

 

 ……さっきの弾幕攻撃に混じっていたんだろうか。

 

 ウィルスはかなり進化した型だった。もう汚染の痛みが始まってきている。

 

「……うっ……ぐっ……」

 

 ……けれど、それよりも、さっさと浮かんできた自分の末路へと涙声は漏れていた。

 

 このまま汚染されきって自我を失い、体が壊れるまで彷徨い続けるんだ。

 

 それはつまり、もう2Bには会えない。……いや、会ってはいけないという事。

 

 次に会うときは、もう彼女の敵になっているだろう。その時は、……2Bは僕を殺さなきゃいけない。

 

 ……もう、2Bに会いに行けない。

 

 ……この痛みなんかよりも、その事実だけが、何よりも苦しかった。

 

「他の……アンドロイドに汚染を広げないように……しなきゃ……ポッド……アンドロイドの反応が……少ない地点を……」

 

 だけど、せめて、最期に出来るだけの事をしよう。ヨルハ部隊としても、……2Bの為にも。

 

 [……。]

 

 [………………。]

 

 [……検索。商業施設の廃屋付近が該当。]

 

 ポッドが躊躇っているように聞こえたのは、ウィルスに汚染された聴覚の錯覚だったのだろうか。

 

 [視覚処理システムに異常を検知。]

 

 [警告:ウイルスを除去しなければヨルハ隊員9Sに深刻なダメージ。]

 

 ……心配してくれている? 

 

 でも、無理だ。ワクチンはきっと効かないだろう。ウィルスの自己進化プログラムの方が早い。

 

 ハッキング機能も壊れてしまった。……もう、治せないんだ。

 

『月面人類会議より地上で奮戦している……に告げる』

 

『今日は諸君らに吉報を __ __』

 

 通信機能も途絶えて、消える。

 

 [FFCS回路に異常を検知。]

 

 どんどんと、体中の機能が駄目になっていく。

 

 [システム保護領域に侵入。]

 

 壊れていく実感が、止むことも無く、酷く強くなっていく。

 

 [警告:中枢神経系に異常な発熱を感知。内部爆発の危険性あ_____

 

 ドカンと、やっとの思いで橋を抜けたその時、その言葉を追い越すように聞こえてきたのは、爆音。

 

「ごあぁ……っ…………」

 

 一瞬、視界が落ちてしまう。

 

 何とか視野回路を繋いで、また視界を開ける。

 

 「かっふ……」

 

 ……けれど、その頃には、……もうこの体はガックリと膝をついていた。咳き込む口からは、嫌に黒い色の煙が出ている。

 

 [報告:視界センサーに異常を検知。]

 

 [警告:ブラ……クボック……変質。]

 

 [警告:データバック……ップシス……ム破損。]

 

 [当該…………………………ップに……………………難。]

 

 ポッドが何を言っているのかすら分からない。けれど、データがバックアップできなくなったと言いたいんだろう。

 

 どうであれ、同じだ。もうバンカーは無い。生まれ変わる器がそもそも無いんだ。バックアップなんて、何も意味がない。

 

 

 僕は、……ここで死ぬんだ。二度と生き返ることはない。

 

 

 遂にトドメを刺しに来たのか、複数の靴音が、霞んだ耳に辛うじて聞こえてくる。汚染されたヨルハだ。

 

 動けない、立てない。さっきの内部爆発で、多分全部が駄目になった。

 

 汚染機体は僕を見つけるや否や、剣を振り上げている。

 

 ……抵抗は、しなかった。

 

 

 これでいい。せめて、汚染されきるその前に……。

 

 ……2Bに会う前に、死ねるのなら。

 

 

 

「2……B……」

 

 

 

『がぁ……!!』

 

『ギャッ……!』

 

 そう微かに呼んだ僕の声に応えるように、何者かが汚染機体を斬り伏せる。

 

「……?」

 

 ノイズにまみれた視界。辛うじて、顔だけがうっすらと見える。

 

 

 

「2B……?」

 

 その顔に、思わず2Bと勘違いしてしまった。

 

 

 

 

 そう。その顔は、まさに2B()()()()な顔だったのだから。

 

 だけど、すぐに悟る。……目の前の彼女は2Bじゃない。

 

 

 

 ……A2だ。

 

 

 旧型の、脱走兵。

 

 森の国で会った時に戦った事のある……、……敵だ。

 

 旧型でありながら、とても強く、2Bとの二人がかりでさえ苦戦した相手。

 

 どうして、彼女がここに? 

 

 そうA2を見つめると、彼女もまた、何もせず此方を見つめてきた。A2も、同じ事を考えているのだろうか? 

 

 

 また、自分の敵になるのか? と。

 

 

 だから震える手で……大剣を手に持つ。そして。

 

 それを顔に向けると、ゴーグルを切り外した。

 

「ここまで……なんだろうな……」

 

 自分も汚染機体であると赤い瞳を彼女に示すと、最期の力で大剣を振り上げ、地面に突き刺す。

 

「これは……僕の……、記憶です……」

 

「残された……2Bを、お願い……」

 

 敵だった彼女に頼むなんて変だ。分かっている。

 

 けれど。ここであの人の顔に出会えた事に、何か運命のような物を感じていた。

 

 アタッカーの、……二号。もし最期に、あの人への想いを、誰かへ残す事が赦されると言うのなら。

 

 それは、貴方しかいない。

 

「……」

 

 A2は何も言わず、ただ静かに、大剣を手に取ってくれた。

 

「2Bに……会ったら……、こう、伝えて欲しい……」

 

 最後まで脳裏に浮かび続けるのは、2Bの事。

 

 僕が死ねば、2Bがヨルハ部隊の最後の一人になってしまう。

 

 もし、僕が逆の立場だったら……きっとその喪失と孤独に耐えられず、壊れてしまうだろう。

 

 だけど、2Bには……。

 

 

 

「優しい貴女のままで……いてほしいって……」

 

 

 

 だってあの人は、いつも冷静さを取り繕ってるけど、……本当は不器用で、繊細で、優しい人だから。

 

 全てをやりきった脱力感に、眠気がしてきた。

 

 どうやら、A2が僕を介錯してくれたらしい。大剣が胸元を貫いていた。

 

「あり……が、とう……」

 

 痛くは、ない。汚染で、痛覚が鈍くなってるからだろう。

 

 ゆっくりと……、穏やかに、意識が遠くなっていく……。

 

 

 死が……どんどんと目の前になっていく。

 

 

 

 あの決断に……後悔はない。短い間だったけど……それでも……十分に生きた……。

 

 

 ……2Bと旅した海や……景色を……僕は忘れない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………2B。君は、本当は僕を……ずっと……。

 

 

 

 ……でも……それでも、また……。

 

 

 

 また……、君に逢いたかったな……2B……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_____ナインズッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___遠くから、確かにその名前で僕を呼ぶ、貴方の声がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……2B」

 

 

 

 

「やっと……、そう呼んで……くれた、……ね……  」

 

 

 

 

 

 暗くなっていく視界の中。

 

 

 

 確かにこの瞳は、最期にその姿を見た_____________. . . . . .

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 持て余していたのは、システムで制御されているはずの思考だった。「●●」と呼ばれるそれに、いつだって僕達は振り回されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てを知り尽くしたいという衝動。割り当てられた性能以上の好奇心は、人間が言うところの恋にも愛にも似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、その命令の実行はエラーなんかじゃなかった。大丈夫、僕は解っているから、キミは泣かなくていいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だって、プログラム通りの予定調和を、二人に下された悲しい運命と呼ぶことなんてできないんだから。

 

 黒の誓約




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