A2、本編やり返してみると、本当にその場にたまたま居合わせて一方的に巻き込まれてるだけなの草なので再投稿です。
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思い出すのは、あの白く柔らかな肌。
こんなに筋張った、冷たいものではなく。
思い出すのは、あの歌うように清らかな声。
こんなに低く、轟くものではなく。
思い出すのは、あの艶めく長い髪。
こんなに短く、針金のようなものではなく。
思い出すのは、あの寂しそうな瞳。
私を力尽くで貪ろうとするものではなく。
黒の血盟
◆◆◆
「それじゃあ……それじゃあ指令部は…………!?」
「行って二号! ここは私がっ」
「だめっ!! 四号______________
◆◆◆
「……ハッ……」
酷い悪夢を見た。
また、あの夢だ。
大嫌いで思い出したくもないのに、眠るたびにいつも見る夢。
だから眠るのは嫌いだ。繰り返し、繰り返し、永遠に過去に苛まれ続ける。
どれだけ逃れたくたって、いつも目覚めるのは嫌な瞬間を目に焼き付けた時だ。
仮に途中で目が覚めても、それは敵がやってきたとき。なにも安心なんてできない。
目覚めた上体を、さっさと起こす。早く機械共を殺しに行こう。嫌な記憶を忘れずとも、せめて思い出さない為に。
起きた時のルーチンを始める。最初に周囲の敵性反応をスキャン。
寝起きは無防備だ。タイミングが悪い所で出食わすと危険で面倒になる。
周囲に敵はいない。それを確認して、それから眠る前の最後の記憶を思い出……す……。
……、そうだ。あの後、私は……。
それにあの二号、2Bもどうなった……?
あの地響き、一体何が起きたんだ? ……取り敢えず。まずはここら一帯の状況を確認しよう。それから……。
そうやって、一人で黙々と、また歩き出すまでの準備を始めていく。
そう、一人で黙々と。それがあの日からの、私の日常。
頼れるのは自分だけ。信じているのは自分の力。
……だから、聞き慣れないその声が聞こえてきた事には、酷く意表を突かれた。
[識別番号A2の起動を確認。]
[おはようございます。A2。]
突然どこかから聞こえてきた、無機質な女の声。
機械生命体か? と殺気立って、声の主を探して辺りを見渡す。だが、それらしい姿は無い。
代わりに、黒い箱型の浮遊物が、突然向こうから目の前にやってきた。
「何だ……お前……?」
……さっきまで何処にいた? 上空か?
黒い色の、謎のハコ。表情の読めないノッペリとした面積へ、警戒心をもって様子を伺う。
だが、敵性反応には引っかからなかった。実際に、敵意らしいものも感じない。
……このハコ、何処かで見たことがある気がする。
[私は随行支援ユニット、「ポッド153」]
[ヨルハ機体A2の射撃支援を担当。]
射撃、支援? ……そうだ、射撃。
このハコは森の城で会った時の、2Bや9Sの周囲を飛んでいた奴だ。
小賢しくチマチマと弾幕を飛ばしてきて、コレの為に普段とは違う戦い方を強いられ鬱陶しかった事を覚えている。
「そんな事……頼んでない」
私はあんな鬱陶しいものには頼らないし、頼る必要もない。
大体、何で私についてこようとするんだ。
[肯定:A2からの依頼は受けていない。]
[この行動は前随行支援対象機体9Sからの最終命令として記録されている。]
9S……。この黒い方は9Sの物だったのか。となると、白い方のが2Bの物になる、と。
森の城で戦った時のハコはあっちこっちに飛び回っていた、どちらがどちらの物かなんて気にしていなかったな。
……なるほど。9Sは武器だけじゃなく、持てるだけの物を託してきていたと。
少しでも助けになればなんて、当人なりの善意だったんだろうが……。
……どうであれ、いらない。その感情のない無機質な声には何処か腹も立つ。
「必要ない」
[ヨルハ機体A2にその判断をする権限はない。]
……9Sめ。
あの少年……、いや、あのガキ。面倒くさそうな事をしてくれたな。
こういう機械が口で言っても聞かなそうなのが、見るからに分かる。
鬱陶しい。この場で斬ってやろうか。
……と、一瞬思ったが。結局、これはあくまでもお節介なだけであって、敵ではない。
連れて行く理由もないが、壊す理由もない。
「勝手にしろ……」
面倒くさくなった。害意がないなら、足を引っ張るような事さえしなければいい。
ハコから視線を外すと、また真新しい物が目に止まる。
真っ白で、天にも届くようにそびえ立った巨大な建造物が、まるで大樹のようにうねり生えている。例えるならば、『塔』。
視界の殆どに映るような、あんな分かりやすい建造物なんて以前は無かった筈だ。
「一体、何なんだ、あのデカイのは……」
[不明。]
「……役に立たないハコだな」
お節介ボックスがアテにならなそうな事を再確認すると、先ずは自分の状況を確認しようと周囲を見渡す。
……そこにはある筈の、9Sの遺体が見受けられなかった。その代わりのように、周囲には塔と同じような白色の突起物が生えている。
地響きの原因はあの塔や、それと共にこれらが出てきた時のものだったんだろう。
それの衝撃で遺体はどこかに行ってしまったんだろうか? ……それにしては痕跡が少なすぎる気がするが。
取り敢えず、塔や変な白い突起が鎮座している以外に目立った変化はないようだ。
視線を戻すと、やはりまたその塔が目に映る。
塔。見るからに正体不明の建造物。
顎に手を当てて、塔を睨む。
一体誰があんなものを作った? ……。あのハイテクノロジーさ、これだけの物をアンドロイドが作れるのなら、最新鋭のヨルハ部隊が知らされていないとは思えない。
だが、このハコは不明と答えた。
となれば……、やはり機械生命体か。未知の技術、機械生命体やエイリアンの十八番だ。
どうする? 調べに行くか?
……止めよう。そこに行く明確な目的がない。
大体、あんな私の理解から最も遠そうな物に、特段興味なんて……。
……興味、なんて……。
……? ……なんだ、この思考が疼くような感覚……?
正体不明の塔。それが引っ掛かりのようにして私の思考に留まっている。……まさか、あの塔の事が気になっているのか?
普段なら興味無いの一言で片付く筈の事だ。だが、あの塔だけは異質過ぎて違うのだろうか?
……あぁ、もう。
あのハコも、今日の私さえも、何か面倒くさくなっている。
確実に分かっている事、私の目的。それは一体何だ?
それは機械共を壊す事だ。それ以外に考える必要なんて無い。
自分の思考に引っかかり始めた、よく分からない何かを振りほどくように歩き始める。
橋を渡りながら、その踏み心地を確認する。……この橋が直っている。確か崩落していた筈だ。
これはつまり、……気絶してから随分と経っているということだ。
そう思うと、ふと毛先を弄り始める。手向けのつもりで、結構バッサリと切り落とした髪。まだそこまで伸びているようには感じない。
……二週間ぐらいか? 結構な時間ダウンしていたようだが、その間は機械共に襲われなかったのか?
……このハコのお陰か?
そう思い、なんとなく視線をハコに向けた時。
[要請:ヨルハ機体A2の行動目的の開示。]
ハコは目の前にいて、ノッペリしたはずの面積から視線が合ったと思うや否や、そう聞いてきた。
「なんでいちいちそんなこと……」
[支援する上で必要な情報と判断。]
「教える理由はない」
そう一言言って、話を終わらせる。
さて、これからどこに行こうか?
ここら辺の地域は……そうだ。廃工場。以前、そこに潜入した事があった。
そこの機械共、粗方排除したつもりではいるが、どうせまた配備されているだろう。
また行って見るか? 工場の生産力をぶっ壊せれば、機械共の勢いも多少は変わるかも知れない。
けれど、あの大規模な工場。あの時は結局、変な巨大ノコギリに目を付けられて撤収したんだったけか、対策を練らないと______。
[要請:ヨルハ機体A2の行動目的の開示。]
……。それ、さっきも聞いた覚えがあるぞ。
そして、私もこう答えた筈だ。
「教えないって言っただろう!」
お前は勝手に付いてきている、ただそれだけの部外者だ。そう答えた意図が分からなかったのか? この機械が。
[随行支援ユニットは対象支援機体の行動目的が開示されない場合、要請プロセスが30秒に一度、自動的に実行される事になっている。]
「はぁ!?」
また質問された意図が分かっていなかったのは、私の方だったらしい。
ハコはさも当然の事だと言うのに、といった感じで言葉を続けてくる。
[推奨:速やかな行動目的の開示。]
[不必要に会話を繰り返すのは無駄なエネルギーを消費すると判断。]
「お前が勝手にやっているんだろう!」
融通の効かない機械如き。しつこい質問を振り切ろうと、走り出す。
だが、ハコは私の出せる限りのスピードに均等に付いてきた。随行支援ユニットの言葉に嘘はない。
[30秒経過。]
[要請:ヨルハ機体A2の行動目的の開示。]
「クソッ!」
タイムリミットが過ぎた。諦めて急ブレーキをかけて止まると、ハコへ指差して怒鳴りつける。
「目的は機械生命体をぶっ壊すことだ」
「わかったか!」
[了解。]
わかったらしい。
それを酷くすんなりと言うから、罵った気がしない。
いや、分かったというよりは、支援ユニットとして都合よく解釈したと言うべきか。
[付近の機械生命体のスキャン及び、マーク完了。]
[砂漠地帯に大型の機械生命体を関知。]
[推奨:大型機械生命体の破壊。]
適当に答えただけだったのに、勝手に目的をセットして、勝手に始めやがった。
「私に命令するな」
[否定:これは命令ではない。]
[ヨルハ機体A2の行動目的に対する支援情報である。]
[推奨:情報に不満のある場合、行動目的の更新。]
「う る さ い 黙 れ 」
[否定。]
秒で否定された。
否定、否定って、私の支援機体を名乗る癖に、さっきからずっと私の言う事には否定しか言わない。
[本支援ユニットはヨルハ機体9Sの最終命令によって行動中。]
[ヨルハ機体A2に命令権限は存在しない。]
それもそうだったか。コイツはあくまでも9Sにそう命令されたから、
これは9Sからの指示に従って、9Sの意向を反映してやっている事。私の意向なんざ端からどうでも良くて、関係無いんだ。
「勝手にしろ。邪魔するな」
[了解。]
私もどうでも良くなってきた。
コレがどれだけお喋りでうるさくしてきても、実質的に、結局の所、相も変わらず、……私は一人だという事だ。
そうさ。今までと何も変わってはいない。こんな形式的なだけの機械風情なんか、気にする必要ないんだ。
「あのガキ……、いつもこんなのと一緒にいたのか?」
[肯定。]
不機嫌そうに小さく呟いた言葉にさえ反応してきた。もう喋るなお前、調子狂うから。
[……。]
[……それと。]
[あのガキ、ではない。]
「は?」
[前随行支援対象には、ヨルハ機体9Sという正式的な名称が存在している。]
「別にそれぐらいは分かって……」
[要請:呼称の訂正。]
「はぁ!? あのガキの事をどう呼ぼうが、私の勝手だろう!」
[要請:呼称の訂正。]
「……っ!!」
コイツもう、私が直すまで同じ事しか言わないぞ。三十秒も置かないつもりだ。
[要請:呼称の訂正。]
ほらな。
「……」
なんだか、私も意固地になってきた。
このままマークされた、砂漠地帯に向かうことにする。
[要請:呼称の訂正。]
くそっ……。
何なんだ……何なんだコイツ。私の支援ユニットって名乗った癖に、口を開けば9Sの事ばかり。
こんな機械が私をどう思っていようが、私よりも死んだ9Sを優先していようが、どうでもいい筈なのに、なんでこんなに悔しいんだ。
機械の癖に未練がましい。意地でも直さないからな……。
[要請:呼称の訂正。]
[要請:呼称の訂正。]
[要請:呼称の訂正。]
[要請:呼称の訂正。]
[要請:呼称の訂正。]
[要請:呼称の訂_____]
「わかったよ! 9Sだな!?」
「な! い! ん! え! す!」
「もうっ……黙れお前!!」
[訂正を確認。了解。沈黙する。]
……コイツがずっと付いてくるのかと思うと、憂鬱になってきた。