自警団の半妖少女   作:藤咲晃

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食い逃げ犯を捕まえろ

 空は軽快な晴れ模様。

 春の陽気に当てられた昼下がり。

 自警団の昼時の見回りを終えた私と小兎姫先輩はお昼ご飯を食べる為に蕎麦屋に立ち寄ったんだ。

 店の中に入ると真っ先に視界に入ったのが山の蕎麦の皿と懸命に蕎麦を啜る坊主頭の少年だった。

 おおっ! 大食いに挑戦中なのかなってそんな感想を浮かべながら先輩と席に着く。

 

「おや、小兎姫さんと絢音ちゃんじゃない。今日は旬の山菜を使った天ぷらも有るよ」

 

「じゃあそれで頼むよ」

 

「私も先輩と同じ物を」

 

 注文を頼むや否や先輩が思い出したように手拍子を鳴らして、

 

「昨日久しぶりに巫女と会ったんだけどさぁ」

 

 何処か嬉しそうに会話を切り出した。

 そういえば私も昨日は霊夢さんと山の巫女さんを見かけたなぁ。

 ……はて? 先輩の言う巫女はどっちなのかな?

 

「巫女って霊夢さんの方?」

 

「そうよ。あぁ、やっぱり巫女が欲しいわぁ」

 

 巫女が欲しいと語る人は、多分人里でこの人ぐらいなんじゃないかなぁ。

 

「何で欲しいの?」

 

 なんとなく質問してみると先輩はきょとんとした表情を浮かべ一拍置いてから、

 

「巫女だから?」

 

 首を傾げてた。

 先輩のことだから特に理由も無いんだろなぁ。

 

「それで霊夢さんと会って何か有ったの?」

 

「滅茶苦茶警戒されてた」

 

 あの霊夢さんが先輩を警戒するなんて。よほど酷い目に遭わされたのかな。

 

「何か心当たりとかは? 喋ったらすっきりしますよ」

 

「あ〜? まるで取調べみたい。でも、あれだ。わたしには思い当たる節が無い」

 

 蕎麦が運ばれて来る中、わたしは無実だと語る先輩。

 うーむ、先輩は性格が破綻してて感性が人とずれてる変な人だからなぁ。

 というか先輩の行動例を挙げればキリが無い。

 結局真相は被害者のみが知るってことね。

 私は運ばれた蕎麦を啜りながらそんな事を思っていると。

 

「あれ!? さっきまで此処で食事してた若者が居ない!」

 

 店員のどよめく声が店内に響いた。

 どうやらそんなに広く無い人里で食い逃げが起きたようね。

 私は蕎麦を食べるのを辞めて席から立ち上がる。 

 すると先程まで蕎麦の大食いをしていた坊主頭の少年が居ないではないか。

 私は勘定を置いてから蕎麦屋の外へ飛び出した。

 人の往来が行われる通りの左右を確認すると、人を跳ね除けて走る坊主頭の少年の姿を視認した。

 

「自警団から逃げられると思うな!」

 

 私は地を蹴り走り出した。

 手錠を片手に坊主頭の少年と徐々に距離を詰める中、私に気付いた彼が路地の細道に走って行く。

 

 あの先は行き止まり。塀も高いから普通の人じゃあ飛び越えられない。

 霊夢さんや空を飛べる人外、私のような半人半妖なら話は別だけど。

 

 これで終わりだと私が細道に入ると坊主頭の少年は塀に阻まれ立ち往生していた。

 私を見るやギョッと目を凝らされる。撒けると思ってたのかな?

 

「観念してお縄に着きなさい」

 

「か、勘弁してよ。おかあが病気で家には食べるもんも無いんだ」

 

 改めて見れば坊主頭の少年の服装は所々破れた着物を何度も縫い直した跡が有る。

 

「お母さんが病気なの。……それで仕方なく」

 

 私は微笑んで彼に歩み寄った。

 坊主頭の少年はぎこちない笑みを浮かべる。

 

「それはそれ、これはこれよ」

 

 そう言って私は坊主頭の少年の両腕を手錠で拘束した。

 

「へっ? み、見逃してくれる流れじゃあ?」

 

「蕎麦屋の店主に事情ぐらいは話しなさいな」

 

「分かったよ。でも薬代も稼がないと」

 

 気前の蕎麦屋の店主ならきっと食べた分を働いて返せと言うでしょうね。

 多分、この少年はその辺りの事情も理解した上で犯行に及んだってところかな?

 蕎麦屋の向かいの食事処は食い逃げに容赦がない人だからね。

 だとしたら私に捕まることも織り込み済みってこと? もしそうなら中々やり手じゃない。

 それに相当無理して食べたのか、お腹が弾けんばかりに膨らんで苦しそうだなぁ。

 

 こうして私は食い逃げ犯を蕎麦屋の店主に突き出し、坊主頭の少年が無事に蕎麦屋で雇われたのを見届けてから立ち去るので有った。

 

 蕎麦屋から自警団の詰所に帰る途中。

 

「今回は捕まえられたな」

 

 先輩が呟いた()()

 実のところ私達は一度連続食い逃げ犯を取り逃している。

 ふわっと霧のように消えるあの犯人はあれからどうなったのかは誰にも分からない。

 ただ唯一分かっている事は、犯人が妖怪だったということだけ。

 

「次また食い逃げ妖怪が現れたら捕まえてやりますよ」

 

「期待してるよ」

 

 先輩は笑みを浮かべてそんな事を……そう言えば私が食い逃げ犯を追っている時、先輩は何をしてたのかな?

 

「先輩? さっき私が食い逃げ犯を追いかけた時は何をしてたの?」

 

「蕎麦屋に来たんだから蕎麦を食べるのが当然でしょ?」

 

 普段人とズレた事を言う先輩が正論を!?

 

「それはそうだけど……手伝うつもりは?」

 

「あ〜絢音なら大丈夫だと思ってね」

 

 それは信頼されてるってことなのかな。それなら嬉しいけど。

 

「ま、まぁあのぐらいなら楽勝ね」

 

「あ〜。話は変わるけどやっぱり巫女が欲しいわぁ」

 

 話が変わり過ぎでは?

 私は霊夢さんに想いを馳せる先輩を尻目に、少しだけほんの少しだけこの人を野放しにして良いのかと迷う。

 主に霊夢さんの身の安全面で。

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