自警団の半妖少女   作:藤咲晃

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守矢神社の風祝

 幻想郷は近年稀に見る猛暑日が襲っていた。

 私は相変わらず平気だけど、先輩もこの暑さには負けたのか薄着の着物に着替え、多少の暑さを紛らわしていた。

 

「こんなに暑いと見回りも大変ねぇ」

 

「みんな暑そうだもんね」

 

 すれ違う里の人間は誰しもが汗を流し、団扇で仰ぎながら歩く。

 そして耳に聴こえる風鈴の音に私は、

 

「団扇の微風と風鈴の音だけでも私は涼しいって感じるけど」

 

「それは絢音と慧音、霖之助ぐらいよ」

 

「じゃあ今晩は怪談談義でもやる?」

 

「それよりもチルノを捕まえた方がずっと建設的だ」

 

「いやぁ、チルノはもう誰かに捕獲されてるんじゃないかなぁ」

 

「じゃあ魂魄妖夢か幽霊でも捕まえてきてよ」

 

 私に人攫いを頼まないで欲しい。

 そもそもこんなに暑い日に好き好んで人里まで外出するのだろうか?

 

「妖夢さんも捕まえないし、幽霊も捕まえないよ」

 

「絢音のケチ〜」

 

「夜になると多少はマシになるんじゃない?」

 

 私には気温の変化はあまり分からないけどね。

 ただ私は周りに合わせて服装を変えてるに過ぎないのだ。

 

「だといいわね。それでもダメなら絢音を抱いて寝るわ!」

 

「はいはい、好きなようにすればいいわ」

 

 私が適当にあしらうと、広場で暑そうに汗を流しながら木箱の上で演説している人物が視界に映り込んだ。

 あっ、妖怪の山に引っ越してきた守矢神社の巫女さんだ。

 

「ですから信仰心が大切なのです」

 

 途中から聞いたから全然理解できないけど、山の巫女さんが真面目で一生懸命だということは伝わってきた。

 猛暑日の中で行われる演説に静聴していた人集りは、感心した様子で山の巫女さんが用意していた小さな賽銭箱に銭を入れ始める。

 そして人集りが解散した頃、こっちに気付いた山の巫女さんが私と先輩に駆け寄って。

 

「貴女は確か……えっ?」

 

 私が瞬きもせぬ内に先輩は山の巫女さんに手錠をかけていた。

 ちょっと! 何してるの!?

 

「巫女確保ー!!」

 

 あろうことか先輩は山の巫女さんを脇に抱えて走り出すではないか。

 

「先輩!? ああもう! また先輩を止められなかった!」

 

「いやぁ、絢音ちゃんは悪くないよ。ありゃあ小兎姫が何枚も上手すぎるんだ」

 

「いつもの変な行動だ。飽きたら解放するべ」

 

 毎度お馴染みの先輩の行動にすっかり慣れてしまった人々の言葉に私は、肩を大きく落とす他になかった。

 山の巫女さんが祀る神様には祟り神が居る。このままじゃあ先輩が祟られ……あぁ、でもいい薬なのかも?

 ってそんな悠長な事も言ってられないな。

 私はその場を駆け出し、先輩の跡を追った。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 自警団の詰所に戻ると牢屋の中には山の巫女さんと、そんな彼女を見て満足そうな先輩の姿が有るではないか。

 山の巫女さんは如何してこんな事になったのか困惑した様子で、

 

「私を此処から出してください〜。これは不当逮捕ですよ」

 

 先輩に訴えかけるも、肝心の先輩は冷たい水が入ったコップを差し出して。

 

「まあ、一先ずこれを飲んで落ち着きなさい」

 

 もしかして山の巫女さんの熱中症を心配して捕まえた? いや、それな牢屋に入れる必要も無いか。

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 受け取ってゆっくりと水を飲んだ山の巫女さんは、ハッとした表情で首を横に振った。

 

「って違います! 私は何も悪いことなんてしてないですよ!」

 

「あ〜? 巫女だからだが?」

 

「えっ、それだけの理由で?」

 

 先輩が何を言ってるのか理解できない様子の山の巫女さんが、漸く私の方に顔を向けて訴えかけるように、

 

「あなたからも何か言ってください! このままじゃ神奈子様と諏訪子様の祟りが降りますよ!」

 

「先輩にはいい薬になるんじゃないかなぁ。まあ、不当逮捕は自警団としても見過ごせないけどね」

 

「じゃあ早く出してください」

 

「先輩、巫女なら誰でもいいの? あんなに霊夢さんが欲しいって言ってたのに」

 

「いんやぁ、もちろん一番欲しい巫女は霊夢さ。ただそこに巫女が居たらねぇ?」

 

 ねぇ? って同意を求められても何一つ共感ができそうにないんだけど。

 

「私は妥協? おまけみたいなものなのですか?」

 

「違うと思うけど」

 

「むむ、なんだか霊夢さんに負けたみたいで納得がいきませんね」

 

 あれ? 山の巫女さんに変な火が付いた? 

 一先ず私は牢屋を開けて、

 

「先輩は無視していいから、出た方がいいよ」

 

「いえ! 気が変わりました! 此処で私はあなた達の信仰を得る事にします!」

 

 どうしよう。山の巫女さんは私が思ってたのより変な人だ。

 これはどうやってお帰り願おうかしら?

 

「えっと、ご家族の方も心配するよ? それに牢屋に居てもいい事なんて無いよ」

 

「毎日昼と夕方の二食、それもわたしと絢音の手作りだ」

 

 私は隣で余計なことを言う先輩に肘打ちを喰らわせ、黙るように促した。

 それで黙る先輩なら苦労はしないんだけどね。

 

「では私は牢屋の中で神奈子様と諏訪子様の有り難さ説けば良いのですね!」

 

「あ〜? わたしはともかく絢音は根っからの博麗神社の信者だからねえ」

 

「まあ、霊夢さんに信じ深い信者が居たなんて驚きですね」

 

「いや、それほど信じ深いって訳じゃないよ。博麗神社に行ったらお賽銭するぐらいだから」

 

 神社に行ったらお賽銭は普通のこと。

 普通、普通だよね? 

 

「では、今度は是非ともうちの神社に来てくださいよ」

 

「あー、索道を使って?」

 

「えぇ、索道から神社まで素晴らしい山の景色が見られますよ」

 

 それは魅力的な話だとは思う。

 だけど私は高い所が嫌いだ。だから索道なんて物には乗る気になれない。

 例え甘い物で誘われようとも断固拒否する。

 

「高い所が嫌いだから遠慮しておくよ」

 

「えぇ〜!?」

 

 そんな捨てられた子犬のような眼差しをされても困るんだけど!

 

「むむ、これは手強いですね」

 

 だから山の巫女さんの変なやる気は何なの?

 

「先輩、山の巫女さんをどうにか帰して来てよ」

 

「巫女が増えたわぁ〜」

 

 ダメだこりゃ。

 こうなったら山の巫女さんが諦めるまで耐えるしかないのかなぁ。

 

「そういえば、まだあなたの名前を伺ってませんでしたね」

 

「そうだったかな? 私は半人半妖の朧絢音、それで貴女のことは山の巫女さんで良いのかな?」

 

 もちろん名前は知ってるけど、たまにお互い見かけるぐらいで話した事もない間柄だ。

 

「私のことは早苗と呼んでください」

 

「じゃあ早苗さん、お願いだから帰ってくれる?」

 

「え? 私を牢屋に入れたのは小兎姫さんですよね?」

 

「先輩? ああ言ってるけど?」

 

「飽きたら帰すよ」

 

 何故か私は立ち眩みを覚え、深い深い溜息を吐くしかなかったのだ。

 それから数日の間早苗さんは神奈子様が迎えに来るまで牢屋の中で暮らしてたんだよね。

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