自警団の半妖少女   作:藤咲晃

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無意識の悟り妖怪

 懐かしい夢を見た。

 昔、私と小鈴と阿求がまだ寺子屋に通い始めた頃の夢だ。

 あの夏の日。私達と一緒に遊んでいた一人のお姉さんが居た。

 でも気が付けばお姉さんは姿を消してて、慧音先生に聞けばそんな子は見掛けなかったと言われたのだ。

 あの時の私達はお姉さんの存在に愕然としたけど、同時にまた遊んで欲しいとも思っていた。

 だけど、いつの間にか私達の記憶からお姉さんの存在が消えていたのだ。

 今でも私達はその人のことを思い出せない。

 ただ、一緒に誰かと遊んだ記憶が有る。それだけの思い出の共有なのだ。

 それは朧気で、儚い気泡のような記憶。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 お腹の辺りが重苦しい。

 また先輩が寝惚けてたのかな? 

 私は仕方ない先輩だなぁなんってお気楽な思考で眼を開くと、

 

「……すやぁ〜」

 

「絢音に巫女服を……」

 

 変な事を口走る先輩と悟り妖怪の古明地こいしさんが私のお腹を枕にして眠っていた。

 

「どういうこと??」

 

 無意識に自警団の寝室に入り込んだのかな?

 私は寝息を立てるこいしさんに視線を向けると、昔一緒に遊んでくれたお姉さんの姿と彼女の姿が重なって見えた。

 

「……もしかしてこいしさんが?」

 

 私が疑問を口にするとこいしさんが寝返りを打って、やがて起き上がるではないか。

 そして目を擦りながら、微睡んだ瞳をこちらに向けて。

 

「……おはようございます?」

 

「うん、おはようだね」

 

 呑気なあいさつを交わしてみる。

 っと、そろそろ支度しないと朝の見回りに遅れてしまう。

 

「先輩! 起きて!」

 

「あ〜?」

 

 先輩はすぐに起き上がり、私とこいしさんを凝視して首を傾げる。

 

「来客を泊めた覚えは無いが?」

 

 先輩の言葉にこいしさんは小さく笑った。

 

「無意識で入り込んじゃったみたい」

 

「絢音が気付かないとなると相当だね」

 

「いや、私は昨晩寝てたから」

 

「なんだ。じゃあ朝御飯でも食べ行く?」

 

「いただきま〜す」

 

 じゃあ早速三人分の朝食を用意しなきゃだ。

 私は手早く寝巻きから仕事着に着替え、朝食の支度を開始するのだった。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 朝食を食べ終え、こいしさんと別れて見回りを開始した私と先輩なんだけど。

 ちらりと背後に視線を移すと、物影からこいしさんがこっちを尾行してるではないか。

 

「うーん、自警団の仕事が気になるのかな?」

 

「さあ? 何にせよ見回りはいつも通りだ」

 

 私と先輩はこいしさんに気付かないフリをして、歩みを再会させる。

 すると程なくして、

 

「ひ、人を襲う妖怪が出たぞ!」

 

「誰か退治屋か自警団を!!」

 

 妖怪が現れたと騒ぐ声の方向に私達は駆け出した。

 現場に向かうと化け猫が牙を剥き出しに威嚇してるではないか。

 私は手錠を片手に先輩に視線を向ける。

 

「先輩!」

 

「任せなさい」

 

 先輩と同時に駆け出し、手錠を化け猫に投げる。

 手錠は化け猫の前脚と後脚を拘束して動きを封じる。

 その間に先輩が霊力で創り出した弾幕で化け猫にトドメを刺す。

 消滅した化け猫に人々から安堵の声が響く。

 人々の安堵の声に混じってこいしさんの歓声も聴こえていた。

 徐々に人々が解散していく中、私と先輩はこいしさんに近寄った。

 

「今日はどうしたの? 私達に何か用があるとか?」

 

「違うよ。朝御飯のお礼を言って無かった事を思い出したの」

 

「それで尾行してたと言うのかい?」

 

「そうだよ。人間の前で堂々とお礼を言っていいものか迷っちゃって」

 

 確かに里の人間を守る自警団が妖怪であるこいしさんからお礼を告げれれば、変な勘違いを起こす人間が不特定多数現れる。

 でもこいしさんは無害なのよねぇ。

 そもそも彼女は以前、人々の道徳が乱れた時に起きた宗教戦争にも参加してたし、人里の人間の中にはこいしさんに賭けてた人も居た。

 

「そっか。じゃあ朝御飯は口に合った?」

 

「あっ、大変美味しかったです。特に味噌汁とだし巻き玉子が」

 

「そう、それは良かったわ」

 

 私が微笑むとこいしさんも笑っていた。

 するとこいしさんは何かを思い出したようなはっとした表情を浮かべ、何かに期待するようなそれでいて恐れている様子で、

 

「覚えてる?」

 

 そんな質問してきた。

 先輩は何が何だか分からない様子で首を傾げていたけど、私はこいしさんの両手を握り締めて、

 

「うん、小さい頃に隠れんぼで遊んで貰ったのを覚えてるよ」

 

「!? 無意識の私を覚えてる人が居るなんて驚いたわ」

 

「実は今朝思い出したんだけどね。多分こいしさんがお腹を枕にしてた影響かな?」

 

「こんな事もあるんだねー。これはお姉ちゃんに土産話ができたわ」

 

「あ〜? 古明地さとりだっけ?」

 

 静観していた先輩が口を挟むとこいしさんが笑みを浮かべる。

 そんな様子を見た先輩は、

 

「悟り妖怪が欲しいわぁ〜」

 

「お姉さん、悟り妖怪が欲しいだなんて変な人だね」

 

「変とは失礼ね。悟り妖怪は事件の調査、犯人捜しに役立つもんよ」

 

「お姉ちゃんは人前が苦手だから無理かも」

 

 こいしさんにそう告げられた先輩は落胆して、思い出したように手を叩く。

 そして目を輝かせながら私の方を見るのだ。

 嫌な予感がするなぁ。

 

「絢音、明日は巫女服を着て仕事しなさい」

 

「嫌だよ」

 

 私が即答すると驚くことに。

 

「「えぇ〜」」

 

 先輩とこいしさんが声を揃えて残念がっていた。

 

「あ、久し振りに地霊殿に帰らないと。絢音と変な人! ばいばい!」

 

 こいしさんは楽しそうに両手を振りながら空を飛んで行ってしまった。

 思いも寄らず小さい頃に遊んでくれたお姉さんの事を思い出すことができたのは、心から喜ばしいことだわ。

 こうして私と先輩は見回りを再開するのだった。

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