見回りの途中で珍しいものを見つけたっと小兎姫先輩が何処に行ってしまった。
あの人が仕事中に何かを見つけて何処に行くのは今に始まったことじゃない。
というか次は誰を不当に牢屋に入れちゃうのか。そっちの方が気掛かりなのよね。
先輩の奇行に思わずため息を吐くと。
「あれ、絢音ちゃんじゃない」
聴き覚えの有る透き通った声に振り返った。
背後に居たのは誰もが知る楽園の素敵な巫女さん。
「霊夢さん……今日は買い出しに?」
「それも有るけど……」
霊夢さんは何度も周囲を確認しては、安全だと判断したのか胸を撫で下ろしていた。
彼女のそんな行動が不思議でつい小首を傾げてしまう。
「小兎姫は居ないみたいね」
ここまで霊夢さんを警戒させるとは……先輩は一体何をしたんだろう?
「先輩に何されたの?」
「あー昔の事よ」
そう言う霊夢さんの表情はげんなりとしていて疲れを滲ませていた。
やっぱり先輩は何かやらかしたんだ。
「えっと、甘味処でお茶でもどう?」
「見廻中なのに良いのかしら」
「適度な休憩も仕事の内ってね」
さっそく霊夢さんと甘味処でみたらし団子とお茶で一息入れた私は、
「里は相変わらず」
軽い近況報告を伝えた。
「そう、相変わらずなのね」
すると霊夢さんは一瞬だけ表情を険しくさせ、みたらし団子を頬張ると陽気な表情に戻った。
彼女の喜怒哀楽とも言うべきか、表情の変化は見ていて楽しい。
特に最近の霊夢さんは何処かまるくなったというか、優しくなった印象だ。
前はもっとドライで無関心だったけど。度重なる異変で色んな人妖と出会った影響も有るのかな?
私が霊夢さんの変化に関心してると、
「あんたも変わったわね」
そんな事を微笑まれながら言われた。
私は何処か変わったんだろうか?
「昔のあんたは退屈そうで無気力って感じだったけど」
「あ〜、あの時の私は特にやりたい事も無かったからね。でも今は楽しいからさ」
「ふーん。あの小兎姫と働いているって聞いた時は正気を疑ったけどね」
確かに正気を疑うような事だと思う。
数年間求人を出しても誰一人来ないからね。まあ時には妖怪相手に荒事も辞さない組織だから仕方ないかも。
「私向けの仕事が自警団ぐらいなのよ」
「あんたなら退治屋でも十分活躍できると思うけど」
「昼間の私は身体能力が多少高いだけの半人よ、それに空を飛べないから弾幕ごっこもできない」
「飛ばないの間違いじゃない?」
「飛ばないは飛べないと同義よ」
だって高い所恐いしね。
「惜しいわね」
霊夢さんはそう言ってくすくすっと笑っていた。
これでも結構悩んだんだけどなぁ。
年の近い子が楽しげに弾幕ごっこを演じるのを見てると私も楽しくなちゃうし、同時にいつかあの輪に入れたらなんて考えることもしばしばだ。
私はみたらしい団子を頬張り、お茶を飲み干してからその場を立ち上がった。
「そろそろ見回りに戻らないとね」
「あらもう? 時が経つのは速いわね」
「楽しい時間ほどね」
笑う霊夢さんに釣られて私も笑った。
こんなゆったりした日々が続けば良いんだけどなぁ。
私がそんな事を思うと少し離れた場所からこっちに手を振る小兎姫先輩と彼女に連れられた誰が居た。
よく目を凝らすとその誰かは、長い青髪と所々差し押さえの札が貼られた少女だった。
確か幻想郷縁起に書かれていた依代紫苑って名前の貧乏神だったかな?
うん? 貧乏神!?
私が先輩に連れている人物に驚いていると宙を浮いた霊夢さんが、
「私もそろそろ神社に戻らないとね!」
そう言って博麗神社の方向に飛んで行ってしまった。
普段は人里内で飛ばない霊夢さんが飛んだという事は、あの組み合わせは限りになく最悪なのだろう。
現に嬉々として先輩が駆け付けて来た。
「絢音! 珍しいものを捕まえたよ!」
「もう! 帰して来なさい!」
「君はお母さんかな?」
私は先輩を一先ず無視して紫苑さんの解放した。
すると紫苑さんは一目散に逃げ出すではないか。
あーあ、今日も先輩の犠牲者が出ちゃったかぁ。
「先輩はこれ以上犠牲者を出さないでよ」
「犠牲者だなんてとんでもない。彼女は誰からも求められない、必要それない存在なんだよ? そんな彼女に対してコレクター魂が疼いてしまうのよ」
先輩は誰も見向きもしない価値の無いものを好んで集める性格をしてる。
だから人妖問わず、果ては神様まで一先ず牢屋に入れてしまうのだ。
特に先輩に悪意が無いのがなお悪い。
「そろそろ慧音先生の頭突きお願いする?」
「それは勘弁ね。あ〜そうだった、明日絢音は魔法の森に行ってくれないかな?」
何かを思い出したのかそんな事を言ってきた。
「魔法の森に? キノコ狩りでも頼まれたの?」
「珍しいマジックアイテムを買って来て欲しいんだ」
自分で行けと言いたい所だけど、そう言った用事が無ければあまり人里の外に出ないから丁度良いかな。
「分かった。マジックアイテムだけで良いの?」
「それと珍しいキノコもお願いね」
「珍しいキノコかぁ。魔理沙さんに頼んでみようかな」
魔法の森に生えるキノコと言えば魔理沙さんだ。
そう言えば魔理沙さんはマジックアイテムの販売も行ってるんだっけ。
「まあ、それはそれとして仕事に戻りますよ」
「絢音は真面目だね。今日は平和そのものだ」
何も起こりはしないっと笑う先輩に、私はそうだっと良いねっと笑って返した。
それから程なくして人里中が貧乏神が出たぞ! なんて騒ぎが起こったのには背筋が凍ったわ。