秋の紅葉が散り始めた昼下がり。
私が一人で人里の見回りをていると、
「すみません、こういう者なのですが少しお話しよろしいでしょうか?」
新聞記者の格好をした少女が名刺を差し出して来る。
名刺を差し出されたところで私は彼女を知ってる。
「文さんが私に取材なんて明日は嵐かな?」
軽い冗談を交えると鴉天狗の射命丸文さんはにこりと笑って、
「あやや〜、貴女とは久し振りに言葉を交わすと思ったんですけどね」
そんな事を言っていた。
確かに話すのは久し振りだけど、彼女はよく人里に取材に現れるからねぇ。
それに鈴奈庵で新聞の販売もしてるから人里ではすっかり名物妖怪と成りつつ有る。
「人里でよく見かけるからさ、それで聞きたいことって?」
「先日里で起きた奉納品強奪事件に付いてですよ」
一昨日起きた事件だから文さんがこうして取材に来てもおかしくないか。
「もう顛末は把握してると思うけど……」
「えぇ! 卓越した剣術と怪力を誇り、姿を消せる大妖怪だと聞き及んでいますよ!」
あの三人が一つに纏められた結果が大妖怪扱い?
それにしても文さんが浮かべる笑顔は真意が判らないなぁ。ま、営業スマイルというやつなのだろう。
「あの事件は人間の仕業だよ。それも三人」
「おや、人間の仕業でしたか。なるほど、博麗神社と守矢神社に何かしら恨みが有ったから犯行に及んだと?」
「そう単純ならよかったんだけどねぇ〜。秘密結社が妖怪の仕業だとでっちあげる為の犯行だったのよ」
そう伝えると、一瞬だけ文さんの笑みが消えた。
それはまるで何か妖怪の敵が現れるのではないか? そんな僅かな期待感が一瞬だけ見えたのだ。
「……霊夢さんと早苗さんを焚き付けて妖怪を退治させようとしたのでしょうか?」
「それも目的に含まれてたけど、最大の目的は妖怪と戦争を起こすためよ」
「水面化でそんな事を企てていたんですね!」
「多分、能力に目覚めたから思い付いたことだと思う。あの犯行にはそんなに計画性が無かったからね」
文さんは手帳にペンを走らせながら私に顔を向けて、
「あやや、その口振りでは既に事件は解決されたようですね」
「妖怪にとっては残念な結末かもしれないけど、事件は主犯格と構成員の逮捕で幕を閉じたわ」
「おや、妖怪が人間と戦争を望んでるとでも?」
「うーん。仮に戦争が起きたとしても妖怪は人間に恐怖心を刻み込めればそれでいいから命までは奪わないかもしれない。むしろ人間が助かることで、生かされた事実と圧倒的な力の差に恐怖するでしょうね」
「……なるほど。ですが、あなたは一つ勘違いをしてる」
そう言って文さんは私の顎を指で持ち上げ不敵に笑った。
「戦争が起きなくとも人間が妖怪に恐怖すればそれでいいのです。ましてや人間に誘導されては我々の立つ顔が無いですからね」
「なにより我々天狗は、人間を害すことに何のメリットを感じてません。それは多くの妖怪がそうでしょう」
「つまり、戦争は起こらないと?」」
「えぇ、なので決して人間が優位を取ろうと考えないことですね」
「私は半妖だけど肝に銘じておくわ」
そんな事を言うと、文さんはきょとんした表情を浮かべ、
「あやや、そういえばそうでしたね!」
笑っていた。
そして文さんは何か思い出したような表情を浮かべては、名案を思い付いたと言わんばかりに目を輝かせていた。
何だろう? 嫌な予感がするなぁ。
例えば一日中自警団の活動を取材されるとか。
「次の見出しは『密着! 半妖少女の実態』に決まりですね!」
はい? 私を? というか満月も近いこの時期に??
「私なんて取材しても面白味は無いよ。面白味を求めるなら小兎姫先輩でいいんじゃないかな」
「ふむふむ……では『密着! 自警団の活動記録24時!』に変更ですね!」
「えぇ〜。迷惑ぅ」
「大丈夫ですよ。あなた達の仕事の邪魔にならない範囲で取材させて頂きますから」
そう言って文さんは楽しそうにしてるけど、彼女の目的は何だろうか?
単なる記事のネタとも言い切れないのよね。
「一応聞くけどさ、いつにするつもり?」
「それはもちろん、満月の日がなお都合が良いですね! これまで何度か変化したあなたを取材しようと試みましたが悉く失敗してましたからね」
「そんなことしてたの?」
「満月の晩に誰も変化したあなたを見た人物は居ませんからね!」
「あっ、それなら今年の夏に阿求に姿を見せたよ」
「えっ!? いや、ですが幻想郷縁起には変化したあなたの姿は載せられてませんでしたよ!」
確かに阿求が書いた幻想郷縁起には私が変化した姿は記されてなかったなぁ。
理由を尋ねれば、何故かはぐらかされるだけだったし。
「あー、そこは阿求が気を使ってくれたんじゃないかな?」
「そこも取材するべきですかね」
「……阿求は昨日から体調が良く無いみたいだから」
「あやや、そうですか。最近寒くなってきましたからね」
そう言って文さんは翼を広げて宙を舞った。
「それはそうと! 満月の日に取材に伺いますからね!」
正直に言えば諦めて欲しいけど、文さんが納得できる新聞のネタを生憎と私は持ち合わせていないのだ。
これは大人しく取材を受けて、頃合いを見て逃げよう。
私は文さんから絶対に逃亡すると心に誓って見回りを再開した。