自警団の半妖少女   作:藤咲晃

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冬入り前の人里市場

 秋の紅葉が散り、冬が近付く幻想郷。

 息を吐けば出る白息。

 冬が近付くと妖怪の賢者と名高い八雲紫さんは冬眠に入るらしい。

 なぜ冬眠を必要とするのか、紫さんは一体何処に住んでいるのか。

 それは誰にも判らないこと。

 でも、強大な力か何かを維持するのに睡眠が必要なのかな? いくら妖怪の賢者とは言え意味の無いことはしないと思うし。

 紫さんに付いては幾ら考えても何一つ判らないし、私如きが理解できない領域に居る。

 私がそんな事を考えていると、市場の活気付いた声が耳に届く。

 

「鍋はいらねえが?」

 

「新鮮な沢庵はいかが〜?」

 

「外来人の製作した人形売りは今日までだよ〜」

 

「今年も活気が良いわね。何か変わった物は売り出されてないかしら?」

 

 先輩は市場の様子に視線を向けそんな事を。

 

「此処にはマジックアイテムは無いと思うけど」

 

「そうかしら? あの変な人形とか素敵じゃない」

 

 先輩が指差す方向に視線を向ける。

 ……露店にただ一つ残されたそれは勇猛そうな猫の頭、そして翼に尻尾が蛇と言った不思議な人形が置かれていた。

 

「なにあれ!?」

 

 謎の人形に戦慄してると背後から声をかけれた。

 

「おや、あれは外の世界のキメラという動物じゃな。いやはや外国の生物も幻想郷に伝わっておるとはなぁ」

 

 背後を振り向くと鈴奈庵に現れていた眼鏡の女性が興味深そうに眼鏡を動かしていた。

 そういえばこの人は妖魔本を目的に出入りした臭いのよね。

 現に鈴奈庵から百鬼夜行絵巻が消えてから見掛ける頻度が減ったし、人間に化けた妖怪なのは間違いないかな。

 

「あ〜? なんだ、化け狸の頭領か」

 

 先輩の言葉に眼鏡の女性はギョッと驚いた様子を見せ、すぐさま微笑んだ。

 

「なんじゃ? 人を捕まえて化け狸とは失礼な」

 

「狸と狐の変化を見破れないようじゃあ自警団は務まらない」

 

「……私、見抜けてないよ」

 

「絢音はまだまだ未熟だからね。精進なさい」

 

 普段変な人だけど先輩は本質的なものと言えば良いのかな? とにかく核心に迫る情報を拾い集めるのが上手い。

 その点をしっかりと見習って私の糧にしなきゃいけない。

 私が先輩に尊敬の眼差しを向け、先輩の言葉で彼女の正体を知った。

 化け狸の頭領と言えば二ッ岩マミゾウに置いて他に居ない。

 

「そこまでバレてしまっては仕方ないのう。じゃが、此処では正体を明かさんよ?」

 

「市場は人が多いからねぇ」

 

「それで? キメラってどんな動物なの?」

 

「名前を知ってるぐらいで実物を見たことは無いんじゃ。まぁ、人間が想像して作り出した生物かもしれんがの」

 

「外の世界の人間って変わってるというか、想像力が豊かなのかな」

 

 そうでも無ければ想像で不思議な生物を生み出せないよね。

 

「それでマミゾウさんは買い物に?」

 

「掘り出し物でも無いかと覗きに来ただけじゃ」

 

 マミゾウさんはそう言って懐から財布を取り出した。

 そういえば……お金がただの葉っぱに変わっていたって被害が何軒も寄せられてたなぁ。

 

「マミゾウさん、少し両手を出してくれる?」

 

「うん? こうかのう?」

 

 わぁ、素直な妖怪だなぁ。それとも強大な妖怪の余裕から生まれる油断ってヤツかな。

 私は差出された両手に手錠を掛け、

 

「偽造通貨の容疑で逮捕」

 

「!?」

 

 あっ、驚きのあまりマミゾウさんの眼鏡がずれた。

 

「あ〜、そういうえばそんな被害報告も有ったわ」

 

「お前さんら、ワシを捕まえる気かのう? それはちと甘いのう」

 

 そう言ってマミゾウさんは拘束された手首を器用に使って葉っぱを取り出した。

 そして指に挟んだ葉っぱに息を吹きかけると、手錠がただの葉っぱに変化して拘束から脱出してしまう。

 

「ほれ! 手錠なんざこの通り!」

 

 見事な脱出術に私と先輩は思わず感心してしまい、捕まえる事を諦めていた。

 そもそも今の私が用意できる手錠では、物を変化させることが出来るマミゾウさん相手には相性が最悪だ。

 

「うーん、通じないって分かっただけでも大収穫かな」

 

「ふぉっふぉっふぉ! そう簡単に捕まりはせんって。それにワシはルールを知らん新参者妖怪に幻想郷のルールを教える教育係もやっとるんじゃ」

 

 その話しが本当となると、人里の被害を最小限に抑えるためにはマミゾウさんを逮捕できないかな。

 これは狸に一杯食わされてる感じがするけど、マミゾウさんから特に悪意らしいものを感じない。

 そもそも彼女は外の世界で人間と共存していた妖怪だったわね。

 それなら人間の脅威になるような真似はしないかな。

 というか先輩も逮捕に興味が無いのか、買い物に行っちゃってるしなぁ。

 

「分かったよ、ここはマミゾウさんの評判を信じることにする」

 

「それは賢明な判断じゃ。そっちのお嬢さんも見習って……何処に行ったんじゃ?」

 

「先輩ならあそこ」

 

 私は先輩が向かった店に指差すと、マミゾウさんがそちらに顔を向けた。

 

「キメラの人形を迷いなく……というか妖気を感じる曰く付きの品も買ってるのう」

 

「えっ? 市場にそんな危険な物が?」

 

「人間は拾った物を自分の物にするからのう」

 

 それは妖怪も変わらないんじゃ?

 いや、止めよう。このツッコミは野暮よ。

 

「後で霊夢さんにお祓いを頼まないと」

 

「封印ならワシが施せるぞ」

 

 私は先輩の方に視線を向けると、先輩が満面の笑みを浮かべてこちらに向かって来た。

 

「マミゾウさん、先輩の持ち物はすぐに影響が出る物なの?」

 

「それは無いじゃろう。少し不幸にさせるとかその程度じゃよ」

 

「近くに居る私にも影響有りそうだなぁ。……先輩、後で博麗神社でお祓いしてもらうよ」

 

「これで巫女も手に入って一石二鳥ね!」

 

 やっぱり霊夢さんの身の安全の為に先輩には留守番してもらおう。

 私とマミゾウさんはほくほくな笑顔を向ける先輩に苦笑を浮かべる他に無かった。

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