自警団の半妖少女   作:藤咲晃

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人里の盗難事件

 冬入りした幻想郷では今年の初雪を迎え、先輩が寒そうに吐息を吐く。

 まだ朝の見回りまでだいぶ時間が有るけど、私はここ最近里で起こってる問題に付いて話を切り出した。

 

「先輩、最近里で盗難事件が相次いでるから今日は捜索と調査を中心に?」

 

「……あ〜、ウチも被害が出たからねぇ」

 

 焚きストーブに手を近付けながら何気なくそんな事を……ん?

 先輩はいまウチっと言ったの? それはつまり自警団に賊が侵入して何かを盗んで行ったってこと?

 

「えっ、何か盗まれたの? というか昨日はずっと起きてたけど誰かが侵入した気配は無かったよ」

 

「そうなんだけどさ、今朝倉を覗いたら年中湿ってる石が無くなってるのよ」

 

 年中湿ってる石といえば以前博麗神社で、成長する石として祀られていた時期がほんの一瞬だけ有った。

 それで先輩が興味を示してあちこち探しに行ったんだよね。

 

「すごく過労して手に入れたあの年中湿ってるだけの石を?」

 

「そうは言うけど、アレが成長すれば龍石。そうじゃなければ中に魚が生きてる代物なのよ」

 

 確かに相当貴重な品物だって事は分かるんだけど、

 

「犯人は金目の物が目当てってことなのかな?」

 

「如何かな? それは改めて聞き込みして分かることよ」

 

 盗人が金目の物以外に何を目的に盗むのか?

 貴重な物、マジックアイテム、妖魔本、その盗人にとって価値ある物?

 それとも何らかの意味が有るとか?

 

「そうだね……湿った石って絶対に物凄く冷たいよね?」

 

「湿ってるからねぇ〜。見付けたら絢音が運んでね!」

 

「うん、それは全然構わないよ」

 

 十分身体を温めた先輩は外套を羽織って、私にマフラーと羽織を手渡した。

 それを受け取って、羽織を羽織ってマフラーを首に巻いて準備万全。

 

「じゃあ今日は調査を重点的に行いわよ!」

 

 犯人の正体は分からないけど、妖怪じゃないといいなぁ。

 私はそんな事を願いながら先輩と一緒に玄関を出た。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 雪が降る中、私と先輩は最初に霧雨店を訪れた。

 

「自警団の者ですが、少し盗難事件に付いてお話を伺ってもいいですか?」

 

 店番を任されていた若い店員に話しかけると、彼は困り顔を浮かべ、

 

「えぇ、良いですよ。旦那様からは自警団に全面的に協力するように仰せ使ってますから」

 

「何を盗まれたのかしら? 金庫? お金? それとも一番高い道具?」

 

 先輩が尋ねると若い店員は苦笑を浮かべ、

 

「確かに被害には遭ったのですが、店の道具では無くて……その旦那様の私物でして」

 

「私物? それはどんな物?」

 

「し、私物に関しては私目も存ては無いんですよ。その、旦那様にとって大変大切な物らしいのですが」

 

 言葉を濁す若い店員に私と先輩はお互いに顔を見合わせた。

 どうにも他人に知られたく無い物が盗まれたらしいことは、この人の様子で理解できる。

 

「じゃあ犯人の影とか足跡は遺されて無い?」

 

「旦那様曰く、何か小さな影を見たと。それと庭の方には小さな足跡が遺されてましたよ」

 

「小さな足跡、小さな影……素早い?」

 

「えぇ、旦那様が気付いた時には既に庭の塀を飛び越えて屋根に飛び移って逃げてしまったようです」

 

 小さくて素早い……一瞬鼠妖怪かと思ったけど屋根を飛び移る俊敏性は違うなぁ。

 じゃあ小柄な人なのかなぁ? うーん、足跡を見ない事には何とも言えないか。

 

「足跡を見せて貰って良いですか?」

 

「えぇ、構いませんよ。あっ、何か道具を買って行きますか? 今は購入した商品をご自宅に届ける宅配サービスも承っておりまして……」

 

「事件が終わったらゆっくり見るよ、丁度土鍋とか欲しいところだったし」

 

「湯豆腐が食べたいわぁ〜」

 

 先輩、聞き込みの時は大人しいっと思ったらそんな事を考えてたの?

 ……でも先輩なら足跡を見ればもう答えに辿り着くんだよね、きっと。

 

「はいはい、帰りに豆腐屋さんに寄るから」

 

 私は適当にあしらって、先輩を連れて若い店員と一緒に中庭まで案内してもらった。

 

 案内された中庭は雪が降り積り、一面が雪に染まっていた。

 

「積もるとは思ってましたが……」

 

「足跡は雪の下。だけど今なら掘り起こしても間に合うね」

 

「えっと、確かあの辺りですね」

 

 そう言って若い店員は池の近くを指差す。

 幸い雪は積もったばかり、気を付けて雪を掘り起こせば足跡を消してしまう事はないだろう。

 私は早速池の近くの雪を掘り起こし始め、

 

「冷たいなぁ……って、先輩?」

 

 ふと先輩の方に顔を向けると、先輩は屋根の引戸を見上げていた。

 犯人はあそこから侵入した? でも屋根の引戸は人が潜れるほど大きくはない。

 同時に私は雪を掘り起こして、顕になった足跡を発見した。

 それは小さく妖気も感じられない足跡だった。

 人間では有り得ない足跡、小人なら有り得るかもしれないけど足跡は四つん這いに移動したような着き方だ。

 

「……これって、四足歩行? いえ、もしかして猿?」

 

 猿以外に考えられる候補は幾つも居るけど、小さくて素早い、しかも屋根を飛び移れる俊敏性を備えた生物はそんなに多くはない。

 

「正解よ絢音、犯人は猿! と言いたいけど、他の場所も同じとは限らないわね」

 

「うん、じゃあ次は……」

 

 私は被害者リストを取り出して、項目に眼を移すとそこには鈴奈庵の名が記載されていた。

 

「鈴奈庵……あそこは一部にとっては宝の山だよね」

 

「決まりね」

 

 私と先輩は若い店員に協力の感謝を伝えてから鈴奈庵に向かった。

 ……霧雨の旦那さんが盗まれた物は判らないし、犯人の目的も不明の状況。だけどこれは単なる盗難事件とは違う気がする。

 

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